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特別寄稿「木材・住宅市況を読む」⑤ 脱炭素時代に知っておくべき「新・森林林業基本計画」のポイント 株式会社農林中金総合研究所 主任研究員 安藤 範親 氏

 森林・林業・環境経済を研究テーマとする㈱農林中金総合研究所の安藤範親氏による特別寄稿シリーズ「木材・住宅市況を読む」第5回です。今回は、6月に閣議決定された新たな森林・林業基本計画について、工務店や設計事務所をはじめ、木を使う建築側にとってどのような意味を持つのかという観点で読み解いていただきました。

 2026年6月5日、新たな森林・林業基本計画が閣議決定されました。今回の計画では、「百年つづく『森の国・木の街』へ」を掲げ、国産材の幅広い需要を生み出して森林の再生につなげる「正の連鎖」と、災害や林野火災、クマ被害などに対応する多様で健全な森林づくりを二つの柱としています。

 特に注目されるポイントは、第一表に示すように林業経営体の生産性(主伐)(7㎥/人日→10/人日)や製材・合板工場等の生産性向上(600/人年→800/人年)など、33項目の具体的な成果指標(KPI)を設定し、施策の進捗を検証する姿勢を明確にした点です。

 木材供給量の目標においては、2024年実績の3,500万㎥から2030年に4,000万㎥(前計画の4,200万㎥から修正)と実勢に即した見直しが行われました。一方、建築用材等の国産材利用量は1,800万㎥から2,300万㎥へ引き上げ、木造住宅においては国産材率を5割から6割を目指す方針が示されました。つまり、建築分野での国産材利用の促進が、一層鮮明になりました。では、この計画は工務店や設計事務所など、実際に木を使う建築側にとって何が重要になるのでしょうか。

1. 木材の環境価値を数字で示せるか

 第一のポイントは、木材利用の効果を具体的な数値で説明することです。計画では、改正SHK制度や建築物のライフサイクルカーボン(LCCO2)評価を活用し、国産材の炭素貯蔵効果や、他の建築資材と比べた製造時の排出削減効果(代替効果)を見える化する方針が示されています。また、国土交通省において、2028年度を目途に建築物LCAの実施・表示を促す制度創設に向けた検討が進められていることも、この流れを加速させるでしょう。

 今後さらに、企業や自治体が自らの脱炭素の取組みとして木造化・木質化を選ぶ場面が増えれば、「木は環境に良い」という説明だけでは不十分になります。どこの産地の木材をどれだけ使用し、建物にどれだけの炭素を貯蔵したのかを示せることが、提案力や受注力につながります。

 これからは、事業者が産地、樹種、木材使用量、合法性などの情報を、施主へ提供できる体制が求められるようになります。見積書や竣工図書に、木材利用実績や炭素貯蔵量を加えた資料を納品する対応が標準になっていくと考えられます。

2. 住宅の外へ広がる需要を捉える

 第二のポイントは、木材需要の伸びしろが新築住宅の外へ移ることです。人口減少により住宅需要の縮小が見込まれるなか、計画では、事務所、店舗、福祉施設などの非住宅建築物、中高層建築物、リフォーム、内装木質化への利用拡大を重視しています。そのため、JAS構造材、大径材に対応した製材設備、内装材の供給、加工・流通施設のストック機能などを強化するとしています。特に低層の非住宅建築物等については、一般流通材を利用した小規模事務所や店舗の標準設計等を開発・普及することが掲げられています。

 また、自治体や企業による建築物木材利用促進協定の締結拡大も掲げられています。協定を通じて木材利用の方針や具体的な取組みが明確になれば、地域の工務店にとって、非住宅建築物の木造化や内装木質化の案件を獲得する機会につながります。

3. 木材価格を森林の再生と結び付ける

 第三のポイントは、木材価格の考え方です。計画では、川上から川下までが生産・加工・流通のコストや、再造林、森林管理に関する情報を共有し、合理的な価格形成につなげることが示されています。これは、建築側が伐採後の再造林や持続的な森林管理をどう支えるかについて問いかけています。木材価格は、伐採や運搬、製材、乾燥、強度選別の費用だけでなく、伐採後の再造林や森林管理を続けるための費用を賄う原資でもあります。建築側にとっては、木材をその都度最も安い価格で調達先から仕入れるのではなく、年間の使用量や納期を共有し、安定した取引関係をつくることが重要になります。

 施主に対しても、国産材の価格を単なる材料費としてではなく、品質や性能の確保、地域の雇用、加工・流通基盤の維持、森林の再生を支える費用として示すことが必要です。木材の価値を建築側が適切に説明し、その対価を林業や再造林へ還元することが、多様で健全な森林づくりの第一歩になります。

4. 森林と施主をつなぐ架け橋として

 新たな森林・林業基本計画は、建築側に直接新たな義務を課すものではありません。しかし、計画が掲げる「正の連鎖」を実現するには、建築側が木材の環境価値を測り、施主へ説明し、その価値に見合う対価を木材価格として負担することが欠かせません。

 これから求められるのは、単に「国産材を使った建物」ではなく、なぜその木材を使い、森林や地域にどのような効果をもたらすのかを説明できる建物です。木材調達、設計、施工、環境価値の見える化を一体的に提案できる事業者が、森林と施主をつなぎ、脱炭素時代に選ばれる存在になっていくでしょう。

           

株式会社農林中金総合研究所

農林中央金庫100%出資のシンクタンクとして、農林水産業と食と地域に特化したリサーチ、アドバイザリー、コンサルティングを展開。多岐にわたる領域をカバーし、多様なステークホルダーに価値を提供している。

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