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ニュース&レポート

特別寄稿 リフォーム産業新聞 編集長 金子 裕介 氏 が語る 2040年を見据えた工務店の勝ち残り戦略

 インフレによる価格高騰の影響等で新築市場が厳しさを増す中、多くの工務店やビルダーが、事業の「第二の柱」としてリフォームへの参入や強化を模索しています。今回は「2040年を見据えた工務店の勝ち残り戦略」と題し、業界の現状や2040年に向けた生存戦略について、リフォーム産業新聞 編集長の金子裕介氏にお話を伺いました。

「夢のマイホーム」の入手が困難に

 現在、日本の住宅産業の柱である新築マーケットは、非常に厳しい状況に直面しています。最新の2025年のデータでは、注文住宅や分譲住宅の着工戸数は、前年比で7%減少しました。この背景には、インフレによる急激な価格上昇があります。国土交通省の資料によれば、注文住宅の建築金額はこのわずか5年間で1.48倍と急速に上昇しています。また、戸建て分譲住宅についても、同様に1.2倍に上昇するなど、かつてのように「夢のマイホーム」を手に入れることが、金銭的に困難な時代になってきているのが実情です。こうした価格高騰に加え、法改正などの影響もあり、新築マーケットが円滑に回らなくなりつつあるというのが現状です。

 このような状況下で、現場での取材を通じて聞こえてくるのは、「新築に次ぐ次の柱としてリフォームを育てたい」という声です。実際に、東北で年間200棟の注文住宅を手掛ける有名な工務店でも、現在はリフォームに注力しているという事例もあります。

 この工務店では、築22年の中古住宅を買い取り、性能向上リフォームの価値を伝えるためのモデルハウスとして活用しています。断熱材の敷き詰め方や耐震補強の構造を、壁の仕上げ材を貼らずにスケルトン状態で視覚的に理解できるように工夫されています。新築で実績のある会社がここまでリフォームに力を入れる理由は、地域の深刻な高齢化にあります。若い世代の新築需要が減退する一方で、シニア層には「金銭的なハードルから建て替えは難しいが、快適に住みたい」「今の家を長持ちさせたい」というニーズがあるからです。最近は、住設機器をメーカー別に比較できる大規模なリフォームショールームもオープンさせており、新築市場が厳しさを増す中でリフォームにおける活動を着実に増やしています。

リフォーム市場は安定マーケット

 では、リフォーム市場の規模はどの程度なのでしょうか。総務省の家計調査などのデータを基に私どもが推計したところ、2024年の最新データでは約6.7兆円という数字になりました。過去10年以上6~7兆円を推移しており、非常に安定した市場規模を維持してきたことが分かります。住宅には壊れない部位はありません。築年数が経過すれば必ず劣化し、交換需要が発生します。そのため、景気や社会情勢の変化に影響を受けにくいという特徴があります。一方で、市場が思ったほど伸びていないという側面があるのも事実です。

 リフォーム産業新聞社が毎年約500600社のリフォーム会社を対象に行っているアンケート調査からは、平均単価と工事件数の興味深い変化が見て取れます。大きな変動があったのは、2020年のコロナ感染拡大の前後です。1件当たりの平均単価が2019年は87万円だったのに対し、感染拡大直後、経済の先行き不透明感から大型のリノベーションを控える動きが強まり、2020年には64万円まで大きく下がりました。しかし、その一方で「巣ごもり需要」によって住まいの不満を解消しようとする小規模なリフォーム工事が急速に増え、工事件数自体は大幅に増加しました。直近の動向としては、建材の値上がりによる価格転嫁も進み、平均単価は76万円まで回復しているほか、工事件数も高い水準を維持しています(図1,2)。リフォームという言葉が指す範囲は非常に広く、水回りから内装、外装まで多種多様な商品を細かく扱うビジネスであるため、「単価が小さすぎて儲からない」という見方をされることも珍しくありません。しかし、リフォームの本質は別のところにあります。

累計600万円の需要獲得が見込める「リピーター育成」

 リフォームビジネスを評価する上で重要な指標は、1件の工事単価だけではありません。アットホーム㈱の「2023年『一戸建て修繕』の実態調査」によれば、戸建て住宅を購入して30年以上住んでいる方が、1回のリフォームにかける金額は部位ごとに25万円から100万円程度です。最も高額な外壁塗装でも100万円前後にとどまるため、数千万円規模の新築住宅と比較すると、一案件当たりの事業規模が小さく感じられるのは当然のことかもしれません。

 しかし、30年間の累計で要した金額に目を向けると、構図が変わります。外壁、屋根、水回りといった各部位の修理・交換を合計すると、1世帯当たり累計で約600万円のリフォーム需要が発生しているという調査結果もあります(図3)。個々の案件は小規模であっても、住宅の様々な部位は経年とともに順次修繕期を迎えるため、継続的にフォローし、多様なニーズに応え続けることができれば、安定的な売上を積み上げることができるのです。これが、リフォームビジネスの肝となる「リピーター育成」の重要性です。

 このビジネスモデルへの転換によって、既に大きな成果を上げている有力ビルダーも存在します。リフォームだけで年間100億円以上の売上を上げている関東の大手ビルダーA社では、自社で新築を建てたOB顧客を徹底的にフォローし、関係を維持し続けることに徹しています。

 具体的には、年に数回の「感謝祭」というイベントでOB顧客と接点を持ちながらリフォーム相談を受け、受注につなげています。更に最近では、独自の「会員アプリ」を活用し、スマートフォンを通じて最新のセール情報や定期点検の案内を届けるといった、デジタルのつながりも強化しています。従来のハガキによるやり取りをデジタルに置き換えることで、業務の効率化と、継続的なリピート注文を生み出す仕組みの両立を図っているのです(図4)。

「中古リノベ」参入が次の収益柱になる理由

 新築住宅の価格高騰を背景に、住宅市場では「中古住宅」の流通が急速に拡大しています。国土交通省の「既存住宅販売量指数」を見ても、中古住宅の販売量は右肩上がりで推移しており、2025年も非常に高い水準を示しています。ここで注目したいのは、「中古住宅が動けば必ずリフォームが発生する」という点です。

 この需要を捉えて躍進している事業者の中には、「中古住宅リノベ専門店」を展開している例も見られます。そこでは物件探し(仲介)からリフォームの設計・施工までをワンストップで提供する体制が整えられています。窓口を一本化することで、お客様は不動産会社とリフォーム会社を別々に探す手間が省け、住宅ローンにリフォーム費用を組み込めるというメリットを享受できます。

 このモデルがヒットした最大の理由は、新築より1割から3割も安く理想のマイホームを持てる「経済性」です。それに加え、中古住宅は駅近などの好立地を選びやすく、それでいて注文住宅のように自由に改装できるという「立地の自由度」と「カスタマイズ性」を兼ね備えています。ある工務店では、2020年のコロナ禍という厳しい時期にこの事業をスタートし、直近では年間20億円の売上を上げています。平均のリフォーム単価は600万~1,000万円と高く、全面改修が中心です。新築事業のみでは獲得できなかった「手頃な価格で自分らしい住まいを求める層」を、中古リノベという手法で見事に捉えている事例です。

異業種参入とDX化でリフォーム業界の勢力図は変貌

 現在、リフォーム市場には約9万5,000社の元請け業者が存在すると推計されています。その内訳は、リフォーム専門店、工務店、ハウスメーカーなどが全体の約75%を占めていますが、近年はこの勢力図が大きく変わりつつあります。

 売上ランキングの上位は、依然として大手のハウスメーカーが名を連ねています。膨大な新築オーナーの基盤を活用し、定期点検をきっかけに外壁塗装や水回り改修を提案し、同時に保証期間を延長していくという強固なビジネスモデルを持っています。しかし最近では、家電量販店やホームセンターといった「小売業」が台頭し、大手ハウスメーカーが占める上位シェアの一角において、存在感を示し始めています。

 大手の家電量販店の中には、リフォーム売上がハウスメーカーに匹敵する規模になっている会社もあります。彼らの強みは、普段通い慣れている大型店舗に最新の住設機器を並べ、工事費込みの明快な価格を表示する「気軽さ」にあります。メーカーのショールームや専門のリフォーム店に行くよりもハードルが低く、家電を買う感覚でトイレやコンロの交換を依頼できるため、平均単価25万円程度の小規模な工事において非常に強力な競争優位性を持っています。また、ホームセンターも窓改修などの単品工事に強く、売上を伸ばしています。

 更に注視すべきは、DXによって従来のビジネスモデルを覆す「ネット販売事業者」の台頭です。東京のとある会社は、リフォームのECサイトを14種類も運営し、営業所も営業マンもショールームも持たずに年商148億円を上げています。利用者はサイト上で商品を選び、自宅の画像をスマートフォンで送るだけで、リモートによる現場調査と見積もり金額の提示を受けることができます。その後、工事当日に職人と商品が現地に手配されるという、非対面によるデジタル完結型のサービスです。従来の「家にお伺いして調査し、持ち帰ってプランを作る」というアナログな工程をすべて排除し、安さと早さで高い評価を得ています。地域工務店がリフォームを強化する際、商圏内の他社だけでなく、こうしたデジタル上のライバルも強力な競合になっていることを認識する必要性が高まっています。

既存住宅の8割以上に断熱改修需要

 将来を見据えた際、避けて通れないのが「性能向上」というテーマです。現在、日本にある約5,400万戸の住宅ストックのうち、現行の断熱基準を満たしている建物はわずか18%にとどまります。つまり、国内の住宅ストックのうち8割以上は断熱性が不十分な状態にあり、膨大な断熱改修需要が存在すると言えます(図5)。

 断熱改修による効果は、単なる快適性の向上だけではありません。高齢化社会におけるヒートショックなどの家庭内事故死は、交通事故死を大きく上回る深刻な課題となっています。こうした健康リスクに対し、「命を守る一部屋断熱」というユニークな提案で注目を集める企業があります。それは、リビングや寝室といった一日の大半を過ごす空間だけを重点的に改修することで、家全体を改修した場合よりもコストを抑えながら居住者の健康を守るという考え方です。北海道に位置する築80年の住宅において行った実験では、起床時の室温が3から15℃まで劇的に上昇し、血圧低下や脳卒中のリスク低減効果が実証されました。お客様の予算の範囲内で最大限の健康価値を提供する、こうしたアイデアに基づいた提案こそが、地域工務店ならではの強みとなります。

今すぐ始める3つのアクション - OB・中古・断熱

 ㈱野村総合研究所のニュースリリースによると、2040年度の新設住宅着工戸数は、持ち家や分譲住宅を合わせても年間14万~15万戸程度まで減少すると予測されています。新築市場が縮小していく中で、持続的な成長を実現させるために必要なアクションプランは、次の3点であると考えています。

 第一に、既存のOB顧客との関係性を徹底的に深化させることです。生涯にわたるリフォーム需要を全て自社で受ける覚悟でフォロー体制を構築することが重要です。第二に、中古住宅を選択する顧客層へのアプローチを強化するために、仲介や買取再販といった「不動産業」の領域へも視野を広げることです。そして第三に、膨大な需要がある「断熱・性能向上」リフォームに取り組み、健康と安全という付加価値で差別化を図ることです。特に、買取再販市場は現在1.3兆円規模まで成長しており、右肩上がりで推移しています。新築事業に特化した従来のビジネスモデルが転換期を迎える中で、中古住宅を有効活用して市場に流通させていく動きは、今後ますます加速していくと考えられます。

 このような動きが加速していくことで、リフォーム市場は2030年に6.9兆円、更にその先へと緩やかに拡大を続けると推計します。この成長市場にはまだ多くのチャンスが存在しています。そこで求められるのは、市場の構造変化を正しく捉え、確かな情報に基づいて経営判断を下すことだと考えています。

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