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特別インタビュー 「温故創新-事業継承を受けた私が挑むカルチャー改革」 タカラスタンダード株式会社 代表取締役社長 小森 大 氏
タカラスタンダード㈱は独自の「高品位ホーロー」を強みに、4期連続で過去最高売上高を更新するなど快進撃を続けています。2024年に初の生え抜き社長に就任した小森大氏に、持続的成長の原動力である事業戦略と、カルチャーの改革に向けた展望を伺いました。

唯一無二のホーロー技術が紡ぐ113年の歴史
―創業時から現在まで、御社はどのような変遷を辿ってこられたのですか。
小森 当社の歴史は1912年、今から113年前に遡ります。創業時は日本エナメル㈱という社名で、ホーロー製の鍋や釜を作るメーカーとしてスタートしました。戦後は安価な輸入品の流入により市場を奪われ、二度の倒産危機にも直面しましたが、1956年にタカラベルモント㈱の傘下に入り、理髪店や歯科医院向けの椅子の部材を作る部品メーカーとして命脈を保っていました。水や薬品にさらされる椅子の肘掛けなどは、鉄のままだと錆びてしまうことから、当社のホーロー技術が生かされていたのです。しかし、子会社の部品メーカーとして事業を展開するだけでは、十分な利益を確保することが難しい状況でした。そこで、水回り業界へと参入し、自社独自の製品としてホーローキッチンを開発したのです。その後、上場を果たし、現在は独立した総合水回りメーカーとしての道を歩んでいます。
―ホーローシステムキッチンの製造における技術力は、御社のブランドを象徴する強みです。
小森 現在、ホーロー製のシステムキッチンを製造しているのは、世界でも当社だけです。2023年には、世界初のホーロー3Dインクジェット印刷技術を用いたシステムキッチンを発売しました。IR活動においても、この独自技術がもたらす唯一無二の価値を、グローバルな競争優位性として強く発信しています。
「変革への再挑戦」を掲げる3カ年計画
―直近では4期連続で過去最高売上高を更新するなど、業績が好調に推移していらっしゃいます。
小森 1989年には167万戸あった新設住宅着工戸数は、現在では半分以下に減少しています。市場がダウントレンドにある一方で、当社の売上高は1989年の875億円から成長を続け、2024年度には2,433億円と4期連続で過去最高を更新しました。2025年度は売上高2,510億円、営業利益178億円という目標を掲げています。そして2026年度には、営業利益率8.0%という意欲的な目標を掲げ、会社を挙げて挑戦を続けています。これまでは消費税率の引き上げといった外部要因が追い風となった局面がありましたが、現在はそれらに依存せず、自力で収益を創出していくことに注力しています。
―その力強い歩みを支えているのが、「変革への再挑戦」をテーマに掲げた「中期経営計画2026」ですね。
小森 当社はかねてより変革を掲げてきたものの、完遂には至らなかったという反省があります。特に前中期経営計画期間の3年間は、コロナ禍における供給責任を最優先した結果、社内の抜本的な体質改善が後回しとなった側面が否めません。そのため、社長としてのバトンを受け取った際、退路を断って変革をやり遂げるという思いを込め、あえて「変革への再挑戦」というテーマを掲げた「中期経営計画2026」を策定しました。
本計画では、国内既存事業、グローバル事業、新規事業の三つを柱として、計画期間となる3年間を「変・動・進」というステップに分けて変革に取り組む方針を示しました(図1)。1年目の「変」は、国内市場のダウントレンドなどによる社内のネガティブな雰囲気を一新し、まずは変革のマインドを植え付ける期間として位置付けました。続く2年目の「動」では、「総論賛成・各論反対」で停滞しがちな現場の壁を打ち破り、一貫した姿勢で組織を動かすことに注力しています。そして迎える3年目の「進」で一気にブレイクスルーを狙うという戦略です。このうち、今年度に当たる「動」の期間は、変革の成否を分ける最も大事なステップだと考えており、現在総力を挙げて取り組んでいます。

属人化の脱却とスピード決断を実現する組織改革
―国内既存事業では、営業組織の大胆な再編を進めていらっしゃいます。そこにはどのような狙いがあるのですか。
小森 国内既存事業においては、キッチン・浴室・洗面化粧台の全てで圧倒的なシェア№1を目指しています。2024年度には、これら3部門の合計売上で業界№1を達成しており、今後もこの3部門に注力し、更なるシェア拡大を目指す方針です。その達成に向けてまず着手したのが、エリアマネジメントの導入を見据えた組織改革です。これまではリフォーム市場向けに全国32カ所の母店を展開し、商圏を細かく分けた上で支社長や支店長に権限を委譲する体制によって、成長を遂げてきました。しかしその反面、組織の細分化が進みすぎたことで、業務の属人化が進んでしまうという弊害も生じていたことから、母店を段階的に集約しています。昨年1月に21母店へ、今年1月には更に11母店へと統合しました。これは、人事部と営業部門の双方の視点から協議しつつ、私自身が1年かけて全エリアを回って市場を直視し、あるべき姿を判断した結果です。この組織改革の狙いは、個人の力に依存する営業から脱却し、「組織営業」を行えるようになることです。業務の標準化・効率化を推進するとともに、若手やベテランらがタッグを組み、それぞれが強みを生かして戦える体制を整えています。
―本社組織も同時に見直しているのでしょうか。
小森 本社組織については、多岐にわたる業務に対してスピーディーな意思決定ができるよう、従来の4本部制から8本部制へと細分化しました。例えば、「生産物流本部」を「生産本部」と「物流本部」に分けることで、それぞれが抱える課題に集中して取り組めるようにしました。しかし、この効果を最大限発揮させるためには、私がトップとして全方位にしっかりと関わり、即座に決断を下す必要があります。そのため、週の半分は本社に常駐し、朝から晩まで30分刻みのスケジュールで各本部と協議を重ね、その場で即断即決を繰り返しています。このスタイルを徹底することで、様々な案件の進捗を加速させています。
固定観念を捨て、「マーケットイン」の発想へ
―製品開発やマーケティングの面ではどのような変革を進めていらっしゃいますか。
小森 当社はこれまで、新築の一戸建住宅やマンションなどにおけるBtoB、あるいはBtoBtoCの領域で、取引先様のニーズに徹底して応えることでシェアを拡大してきました。一方、エンドユーザーの志向を的確にとらえる必要があるリフォーム分野で更なる拡販を図るには、製品開発における考え方を変える必要がありました。当社には長年、「ホーローが最上級の仕様であり、木質系はそれに次ぐもの」という固定観念があり、接客や展示もその序列に従っていました。しかし、お客様が求めているのは、スペックの優劣ではなく自分の暮らしに合うかどうかという点にあります。私はこうした旧来の考えを否定し、お客様の好みや価値観で選んでいただくスタイルへと転換を促しました。このマインドの切り替えには1年を要しましたが、現在は製品開発から接客に至るまで、「マーケットイン」の発想が浸透しています。
―福岡での新工場建設など、積極的な設備投資も進めていらっしゃいます。今後どのような製品づくりを目指していかれるのでしょうか。
小森 現在、福岡工場に約400億円を投じて新棟を建設しています。2028年に稼働予定の新工場棟では、インクジェット技術による高精細なホーロー浴室パネルの生産能力を1.5倍に引き上げ、システムバス市場におけるシェア拡大を図ります。更に、愛知県知多市にも約12万㎡の用地を新たに取得しました。ここでは、作り手の理論だけでなく、取引先様にとって「売りやすく、運びやすく、工事しやすい」製品を設計・開発することを検討しています。施工時間の短縮やビスを使用しない構造など、マーケットインの発想で、業界の課題を解決する製品の展開を目指しています。
「全世界ホーロー化計画」と新規事業への挑戦
―グローバル事業の加速も方針として掲げていらっしゃいます。
小森 赤字が続いていたグローバル事業の立て直しにも本腰を入れています。価格設定の見直しや代理店の整理に加え、多様な人材の登用を加速させました。例えば、インド市場の新規開拓をウズベキスタン出身の社員に託すなど、適材適所に人材を配置しています。
また、それぞれの国の文化に合わせて最適化した製品提案についても模索中です。完成品としてのキッチンやシステムバスにこだわらず、ホーローパネルを素材として供給したり、浴槽を除いたシャワーブースとして売り出したりと、柔軟な製品展開も検討しています。世界中にホーローの価値を届ける「全世界ホーロー化計画」の実現に向け、着実に取り組んでいます。
―新規事業への挑戦についてもお聞かせください。
小森 113年の歴史を持つ当社が今挑んでいるのが、技術の多角化による「第2の創業」です。大学との共同研究により、ホーローの微粒子を歯科用の義歯に配合する技術や、月の砂からホーローを生成する宇宙プロジェクトなど、新たな研究が動き出しています。
昨年、これらの新規事業を加速させるための組織として、「ビジネスデベロップメント本部」を立ち上げました。きっかけは、機関投資家の方から「タカラスタンダードには新規事業を担える人材はいるのか」と指摘されたことです。そのわずか1カ月後に、新組織の立ち上げに至りました。投資家との対話は、自身の考えやマインドをアップデートする重要な機会であることを再認識しています。
会長・社員との対話を通じたカルチャー改革
―こうした変革を進める中で、経営の指針として大切にしている考え方を教えてください。
小森 私が社長に就任し、経営の舵取りを担うに当たって最も大切にしている信念が、「温故創新」という言葉です。一般的には「温故知新」と言いますが、あえて「知る」ではなく「創る」という字を用いています。そこには、単に過去を振り返るだけでなく、自分たちの歴史をしっかりと紐解き、培ってきた強みを武器に「新しきを創造していこう」という強い思いを込めています。単に新しいことを追い求めるのではなく、私たちのアイデンティティを改めて再確認し、この「温故創新」の精神をもって変革を進めています。
そのため、前社長である渡辺岳夫会長との対話も極めて重要視しています。新しい取り組みは、時に過去の否定と受け取られたり、変化への抵抗を生んだりすることもあります。そのため、私は構想段階から全てを会長に相談し、共有するようにしています。
―社内のカルチャーを変えていくために、具体的にどのようなことに取り組んでいらっしゃいますか。
小森 当社には「真面目」で「有事の団結力が強い」という素晴らしい文化がある一方で、「縦割り意識」や「変化への抵抗感」といった課題もありました。これを打破するために、私は自ら全国のショールームや営業拠点を回り、現場社員と直接対話を重ねる「タウンミーティング」を精力的に実施しています。現場では、社員に「本当に困っていることはないか」と、あえて3回問い直すようにしています。3回目にしてようやく本音が出てくるからです。現場の最前線にいる社員の声を拾い上げ、彼らが働きやすい環境を作ることこそが私の使命だと考えています。
また、本社では月に一度、社員と直接お酒を汲み交わす「社内BAR」を開催し、役職の垣根を超えた対話を促しています(図2)。トップ自ら現場の社員に近づき、交流の輪を広げるとともに、笑顔で楽しく働く姿を見せることが、社内のカルチャーを変えるきっかけになると信じています。

―最後に、小森社長が描く理想の会社像を教えてください。
小森 私の目標は、全社員が「自分の子供をこの会社に入れたい」と心から思える会社にすることです。現状ではまだ、胸を張ってそう言い切れる社員は多くないかもしれません。厳しく、それでいて人には熱く、優しくもある。新入社員たちが、40年後に「この会社を選んでよかった」と誇れる。そんな会社に生まれ変わらせたいと考えています。未来を担う若い世代が存分に力を発揮し、ともに未来を語り合える企業へと変貌を遂げる決意を持って、これからも全力を尽くしてまいります。
―本日はありがとうございました。


