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ニュース&レポート

国土交通省 改正建設業法が12月で完全施行 元請・下請業者間の公正な取引に向けた施策が順次施行

 国民生活や社会経済を支える極めて重要な役割を担う建設業の持続可能性を高めることを目的とした、「第三次・担い手3法」による建設業法等の改正が1212日に完全施行となります。今回は、同改正法の内容についてまとめました(12月9日時点)。

「第三次・担い手3法」で関連法令を一体改正

 持続可能な建設業の実現と、そのために必要な担い手の確保を目的とした、建設業法・入契法(公共工事の入札及び契約の適正化の促進に関する法律)・品確法(公共工事の品質確保の促進に関する法律)の「担い手3法」の一体改正が、これまで2014年と2019年に実施され、建設工事の適切な施工及び品質確保などに向けた取り組みが進められてきました。しかし、依然として就業者の減少が著しく、担い手確保に向けた対策を強化することが急務となっているほか、昨今の急激な資材価格の高騰を受けて現場技能者の賃金の原資となる労務費等がしわ寄せを受けないよう、適切な価格転嫁が求められています。こうした背景から、2024年6月に新たに「第三次・担い手3法」が成立し、建設業法等については、処遇改善、資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止、働き方改革と生産性の向上を大きな柱として改正されました。施行日は公布から3カ月以内、6カ月以内、1年6カ月以内の3段階に分けられており、1212日で全ての改正内容が施行されます(図1)。

①処遇改善

 労働者の処遇確保を建設業者に努力義務化した上で、国により取り組みの状況が調査・公表されるようになりました。

 加えて、これまで技能者の労務費における相場観が不明確だったために労務費が削られてきたことを踏まえ、国土交通省に設置された中央建設業審議会で「労務費の基準」を作成・勧告できるようになりました。本基準は、個々の技能者の経験・技能に応じた適正賃金が支払われるようにするため、公共・民間工事を問わず、発注者から技能者を雇用する建設業者までの全ての取引段階における建設工事の請負契約において、適正な労務費を確保することを目的としています。2024年9月以降、ワーキンググループで基準の内容や実効性確保策について議論が重ねられ、今年の12月2日、中央建設業審議会によって「労務費に関する基準」の実施について勧告がなされました。今後、12月上旬に具体的な基準値や運用方針等が公表される予定で、基準から著しく低い労務費等で見積もりを依頼した発注者には勧告・公表が、著しく低い労務費等で見積もりを提出した受注者には指導・監督が国土交通大臣により行われることになります。

②資材高騰による労務費へのしわ寄せ防止

 資材価格の高騰や資材不足といったリスクの負担がこれまで受注者に偏ってきたために、価格転嫁が適正に行われず労務費が削減されてきたことを踏まえ、資材高騰に伴う請負代金等の「変更方法」が契約書の法定記載事項として定められました。

 また、労務費へのしわ寄せを防ぐため、資材高騰が生じるおそれがあると認めるときは、請負契約の締結をするまでに受注者から注文者に対して、関連する情報(「おそれ情報」)を必要な情報として通知しなければならないこととしました。この場合、実際に資材高騰が生じたときは、受注者から注文者に対して請負代金の変更協議を申し出ることができ、注文者は当該協議に誠実に応じるよう努めなければならないこととなります。おそれ情報の対象となる事象は、主要な資機材の供給の不足もしくは遅延又は資機材の価格の高騰や、特定の建設工事の種類における労務の供給の不足又は価格の高騰を指します。おそれ情報の通知は見積書の交付時などに行い、メディア記事や公的主体の統計資料といった根拠情報も併せて通知する必要があるほか、発注者が確認したことを記録するため、通知書面やメール等を受発注者双方が保存することが望ましいとされています。

③働き方改革と生産性の向上

 2019年より段階的に施行されている「働き方改革関連法」では、建設業への適用が2024年以降とされていました。適用に備えこれまでの法改正でも働き方改革が進められてきたものの、建設業の働き方は引き続き他産業に比べ厳しい状況となっています。

 こうした状況を踏まえ、長時間労働を是正し、週休2日を確保していくため、受注者の発意による著しく短い工期による請負契約の締結(工期ダンピング)が禁止されました。また、「しわ寄せ防止」に示した請負代金の変更協議と同様に、資材の入手困難などが生じるおそれがあると認めるときは、受注者から注文者に対して関連する情報を請負契約の締結までに通知しなければならないこととされました。この場合、実際に資材の入手困難などが生じたときは、受注者から注文者に対して工期の変更に関する協議を申し出ることができ、注文者は当該協議に誠実に応じるよう努めなければなりません。

 また、近年の工事現場におけるデジタル技術の活用により施工管理業務の効率化が進められていることを受け、ICTの活用を条件に、監理技術者等の専任規制を合理化することとしました。

※1 (出典)国土交通省「適正な工期設定等による働き方改革の推進に関する調査」(令和4年度)
※2 公共発注者は、協議に応ずる義務

「建設業法令遵守ガイドライン」で違反のおそれがある行為事例を紹介

 国土交通省では、元請負人と下請負人の関係に関してどのような行為が建設業法に違反するかを具体的に示した「建設業法令遵守ガイドライン」を公表しており、不知による法令違反行為を防ぎ、元請負人と下請負人との対等な関係の構築及び公正かつ透明な取引の実現が目指されています。ここでは、同ガイドラインの内容を抜粋してご紹介します。

見積もり条件の提示等について 【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
・元請負人が不明確な工事内容の提示等、曖昧な見積もり条件により下請負人に見積もりを行わせた場合
・元請負人が、「出来るだけ早く」等曖昧な見積期間を設定したり、見積期間を設定せずに、下請負人に見積もりを行わせた場合
・元請負人が下請負人から工事内容等の見積もり条件に関する質問を受けた際、元請負人が、未回答あるいは曖昧な回答をした場合

【建設業法上違反となる行為事例】
・元請負人が予定価格が700万円の下請契約を締結する際、見積期間を3日として下請負人に見積もりを行わせた場合
・元請負人が地下埋設物による土壌汚染があることを知りながら、下請負人にその情報提供を行わず、そのまま見積もりを行わせ、契約した場合

見積もり条件の明確化や見積もり提出期限の確保が必要

 見積もり条件の提示に当たっては、元請負人が下請負人に対し、具体的内容を提示しない場合や、工期等に影響を及ぼす地盤沈下などの事象が発生するおそれがあることを知りつつ、その情報を提供しないまま契約した場合は、建設業法違反になるおそれがあります。工事内容、工事着手及び工事完成の時期、支払い時期及び方法等を見積もり条件に反映させることが求められることから、見積もり条件について十分に協議する期間を取り、施工条件や業務分担を明確にすることが推奨されます。

 また、下請負人が見積もりを行うために必要な一定の期間を元請負人が設けなかった場合も、建設業法違反となります。見積期間は工事1件の予定金額に応じて定められており、予定価格が500万円に満たない工事については1日以上、500万円以上5,000万円に満たない工事については10日以上、5,000万円以上の工事については15日以上となっています。なお、上記の見積期間は下請負人が見積もりを行うための最短期間であり、元請負人は工事内容に応じて十分な見積期間を設けることが望ましいとされています。

不当に低い請負代金について 【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
・元請負人が、自らの予算額のみを基準として、下請負人との協議を行うことなく、下請負人による見積額を大幅に下回る額で下請契約を締結した場合
・元請負人が、契約を締結しない場合には今後の取引において不利な取扱いをする可能性がある旨を示唆して、下請負人との従来の取引価格を大幅に下回る額で、下請契約を締結した場合
・元請負人が、下請代金の増額に応じることなく、下請負人に対し追加工事を施工させた場合
・元請負人が、契約後に、取り決めた代金を一方的に減額した場合
・元請負人が、下請負人と合意することなく、端数処理と称して、一方的に減額して下請契約を締結した場合
・下請負人の見積書に法定福利費が明示され又は含まれているにもかかわらず、元請負人がこれを尊重せず、法定福利費を一方的に削除したり、実質的に法定福利費を賄うことができない金額で下請契約を締結した場合

「労務費に関する基準」で必要原価の相場観を参照

 建設業法における「不当に低い請負代金の禁止」とは、注文者が自己の取引上の地位を不当に利用して、その注文した建設工事を施工するために「通常必要と認められる原価」に満たない金額を請負代金の額とする請負契約の締結を禁止することを指します。適正な契約金額の設定に向けては、施工責任範囲、工事の難易度、施工条件等を反映した合理的な請負代金について協議を行うことが大切となります。また、建設業者が義務的に負担しなければならない法定福利費や労働災害防止対策に要する経費などが見積書において内訳明示され、それらの経費を尊重した請負代金であることを確認の上契約することが求められます。

 なお、中央建設業審議会は12月2日、「労務費に関する基準」の実施について勧告を行いました。本基準は、「通常必要と認められる原価」の相場観として機能するもので、契約当事者間での価格交渉時に参照することができます。1212日の改正建設業法の施行日より、本基準を下回る著しく低い労務費等での見積もりの依頼・提出等は行政の指導・監督の対象となります。

工期について 【建設業法上違反となるおそれがある行為事例】
・元請負人が、「工期に関する基準」の内容を考慮することなく、複数の下請負人から提示された工期の見積もりのうち、最も期間が短いものを一方的に工期として決定し、通常よりもかなり短い期間を工期とする下請契約を締結した場合
・下請負人が、元請負人から提示された工事内容を適切に施工するため、「工期に関する基準」の内容を踏まえ、猛暑日などの不稼働日や建設工事に従事する者の休日等を考慮して、適切な工期の見積もりを行ったにもかかわらず、元請負人がその内容を尊重せず、それよりもかなり短い期間を工期とする下請契約を締結した場合
・工事全体の一時中止、前工程の遅れ、元請負人が工事数量の追加を指示したなど、下請負人の責めに帰さない理由により、当初の下請契約において定めた工期を変更する際、当該変更後の下請工事を施工するために、通常よりもかなり短い期間を工期とする下請契約を締結した場合

「工期に関する基準」に基づいた工期設定を

 建設業法における「通常必要と認められる期間に比して著しく短い期間」とは、単に定量的に短い期間を指すのではなく、建設工事において適正な工期確保のための基準として作成された「工期に関する基準」等に対して不適正に短く設定された期間を指します。本基準では、自然要因や休日・法定外労働時間、契約方式、関係者との調整、行政への申請、工期変更等の工期全般にわたって考慮すべき事項のほか、準備から施工、後片付けの工程別、住宅・不動産分野をはじめとする民間発注工事の分野別の考慮事項も整理されており、この内容に基づいた適切な工期設定が求められます。

 また、働き方改革関連法による改正後の労働基準法により、2024年4月から時間外労働の上限規制が建設業にも適用されました。元請負人と下請負人は、双方合意の上で設定した工期がそれ以降の下請契約に係る工期設定の前提となり、そのしわ寄せは必ずその下請負人やサプライチェーン全体に及ぶこととなることを十分に認識した上で、時間外労働規制に抵触することがない適正な工期の見積もり依頼・提出が必要です。

国土交通省 「2025年12月施行分」説明会を全国で開催

 国土交通省では、1212日に全面施行となる改正建設業法に関する全国説明会を開催します。今回は特に、「労務費に関する基準」に関する具体的な制度を中心に、建設業者・発注者それぞれに取り組みが求められる内容について解説されます。札幌から那覇まで全国10の主要都市で開催されるほか、オンライン配信も実施されます。定員はリアル開催が50100名、オンラインが950名で、同省から委託を受けたPwCコンサルティング合同会社のサイトより、参加申し込みを受付しています。

国土交通省 改正建設業法「令和7年12月施行分」説明会を開催します
https://www.mlit.go.jp/report/press/tochi_fudousan_kensetsugyo14_hh_000001_00328.html

国土交通省 建設業法・入契法改正(令和6年法律第49号)について
https://www.mlit.go.jp/tochi_fudousan_kensetsugyo/const/tochi_fudousan_kensetsugyo_const_tk1_000001_00033.html