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「山の日」特別寄稿 木材の安定供給へ サプライチェーンマネージメントにおける流通の役割

 8月8日(例年は8月11日)は、制定以来5回目となる山の日です。今回は、山の日特別企画として、林野庁にて木材産業課長、中部森林管理局長などを歴任し、現在はノースジャパン素材流通協同組合で理事長を務める鈴木信哉氏に、木材のサプライチェーンの現状と課題についてご寄稿いただきました。

川上・川中・川下をつなぐSCMの戦後の歴史

 現在、木材専門業界紙だけではなく、一般紙、テレビ等のメディアにおいても「ウッドショック」の見出しが数多く見られます。このことは、輸入材に頼っている分野において木材安定供給が崩れて混乱が生じ、川下の住宅・建築業界に大きなショックを与えていることを意味しています。この原因と「サプライチェーンマネージメント(以下、SCM)」に向けた方策について考えてみたいと思います。

 戦後、外国産材の輸入が再開される以前は、当然、川上・川中・川下とも国産材を扱う国内企業で構成されており、SCMは完璧でした(図1①)。しかし、戦後復興から経済成長の移行期において、急増した国内需要を満たすだけの国産材供給ができず、外国産材の輸入が開始されました。その頃は、国内の森林蓄積が十分ではなかったことから、外国産材の輸入丸太の優越時代とも言え、川上が海外に変わった時代となりました(図1②)。この時は、山奥の製材工場にも米材・北洋材丸太が運ばれていました。

 一方、国産材は柱角林業と言われ、真壁工法の化粧柱や和室用の長押、鴨居、天井板、床の間用材等、一部の高級化粧材に絞られた供給ではありましたが、この分野に絞ると川上・川中・川下のSCMは成立し続ける状況でした。十分な収入が得られていたため、国内のSCMにおいて、問題が生じることが少なかったのです。

 時代が進み、外国産材製品の輸入優先時代に入ります(図1③)。ここにおいて、川上・川中ともに海外の時代となると、川上と川中はブッツリと関係が途切れることとなってしまいました。併せて、真壁和室から大壁洋室の時代となり、高級化粧材の用途が激減し、国内の川中である木材加工業の衰退が進むこととなりました。

 最低の木材自給率を記録しましたが、戦後に植栽された人工林の成熟化もあり、安定した供給ができるよう機も熟し、ここから川上・川中は巻き返しを図ることとなります。川上への高性能林業機械等の導入による伐採搬出コストの低減、川中への高生産性機械を備えた大型製材・集成材工場の新設、合板工場の国産材利用への大幅シフトなど、川上・川中の国内回帰が進みました。地球温暖化防止対策として、「伐って、使って、植える」という循環利用による二酸化炭素吸収に加えて、住宅建築物の木造・木質化を図る川下の木材ストックによる炭素固定の動きも加速しました。また、製材合板の国産材利用率も50%を超える水準となっていましたが、残り半分の川上・川中が海外にあり、国内の川上・川中・川下のSCMは中途半端で、まだ確立されていなかったと言えます(図1④)。

ここで起きたのが「ウッドショック」

 そのような中で生じたのが現下の「ウッドショック」です。ベイマツ、レッドウッドの梁・桁材を中心として、ホワイトウッドの集成管柱、2×4用のSPF等によるディメンションランバー(構造用製材)のほか、南洋材合板を使ってきた外国産材の依存度が高い複合床板基材、薄物合板、型枠合板等が大きく影響を受けることとなりました。ここで、これらの代替需要を取り込むために、川中である国産材の製材所に対して、この分野の製品の代替品が発注され、製材所は川上に対して増産要請を試みましたが、川上は急激な増産が難しく、どうしても必要な製品の価格が急騰することとなりました。これは、川上・川中・川下のSCMが完全に確立されていない中で起きた現象だと言えます。

 しかし、川下の「困り方」には差があると感じています。従前から国産材需要を求めていた川下に対して供給していた川中は、引き続き安定供給を続けています。とりわけ、昨年の新型コロナウイルスショックにより需要が減少した時にも、注文依頼を続けてくれた川下に対しては、恩返しの意味もあるのでしょう。木材の安定した需要・供給は一時的なものではなく、継続した取引の上にあるもので、これは川上と川中の関係も同一であると考えています。

 現在、一番影響を受けているのは、外国産材の大量供給に頼っていた川下です。需給が均衡安定している場合、電話1本で契約が成立し、不良在庫を抱えることもなく、ジャストインタイムで納品されるというトヨタ方式に慣れすぎていたのです。突然、付き合いがなかった川中の製材所に電話で発注し、訪問して依頼したところで、簡単には納入承諾とはなりません。積み重ねが重要なのです。新型コロナウイルスショックで半導体が不足し、自動車製造工場の操業停止が見られましたが、木材も同様で、一社頼みの方式ではうまくいきません。複数の供給元と供給先を持つアメーバ方式の流通が必要なのです(図2)。

 また、火災・事故などの人災、豪雨・地震等の自然災害もあり、危険回避ができる保険的な流通網も必要となります。今回の「ウッドショック」は、この保険に未加入のSCM方式が原因の一つであると言っても過言ではありません。ご承知の通り、保険は、病気やけががない時には無駄なコストとなりますが、いざという時に価値が生じるものです。多少コスト高になったとしても、一定のシェアを確保することで、ショックに耐えられるのです。これは、改めての教訓だと考えています。

SCMの確立に向けた提言

 以上を踏まえて、今後のSCMの確立に向けて考察してみたいと思います。まず、物流におけるストック確保についてですが、いざという時のストックを誰が確保するかが重要となります。川上では、スギ、ヒノキ、カラマツ、アカマツ、広葉樹について、樹種別・品質別の立木確保が必要となります。ただし、川上に丸太をストックする場合、虫害などの品質劣化が生じやすくなります。川上と川中をつなぐ原木市場に大量のストックを置くことは、土場面積からして無理でしょう。そうなると、川中でのストックとなりますが、外国産材丸太の工場から転換した港湾にある工場は、水中貯木ができていたため、陸上に広いストックヤードを持っていません。また、最近の大型工場はストックヤードが狭く、ストックに対応するには、これを拡充する必要があります。そうなると、川中と川下をつなぐ製品流通業者が、製品について一定のストックヤードを確保し、緩衝機能の役割を果たさなければならないのです。在庫を持たないことは、資金回転のためにはベストとなりますが、SCMの役割の一翼を担うには、どうしても一定の在庫確保が必要となります。このことは、川中と川下をつなぐ役割を果たす川中流通業者の存在意義の一つだと言えます。

 二つ目は、情報流の復活です。川中・川上が海外に移って以来、国内の川中・川下に情報が不足していたことは明確です。現在の課題は、川下の住宅建築業界が不足しているものの情報を川中に伝え、川中は、注文がなく在庫を抱えているものや、多少欠点があって売れずに困っているものを、川下にどのように伝えるかということです。そのためには、常に情報の交換をしておく必要があります。助けてくれた人に恩返しをする日本人の義理堅さは、時代が変わっても続くと信じています。電子機器の分野では、無人工場と同様に、常時社員が要らなくなると思います。しかし、電子社会が進んでも、恐らく木材流通はそうはならないでしょう。加えて、川中から川上に対しても同様の情報流が確立されれば、必要なもの、需要のあるものを選択して供給するSCMが確立することが期待されます。戦後、一度切れてしまった川上・川中・川下のSCMを再構築するのは、まさに今なのです。

 

川中業界への投資と産学官の連携

 現在、明らかに川中業界に不足しているのは、KD乾燥機と様々な樹種・径級が全て使える加工設備です。山に育つ木は均一ではなく、様々な形状をしています。自社完結型、地域完結型のいずれにおいても、せっかく育った木を余すことなく使えるように地域全体を産地化することが必要となります。

 そして、産学官の連携が求められます。外国産材優先の製品を国産材製品に変更するには、構造用製材、集成材、LVL、合板、防腐木材等、ありとあらゆるJASの樹種区分において、代替需要・ニーズを把握した研究を進め、その成果を業界へフィードバックし、官は既存の枠組みを早期に見直していかなければなりません。今回のウッドショックは、その答えを再構築する最大のチャンスでもあります。

 SCMにいち早く取り組むことは、川上・川中・川下が、誰と連絡を取ればよいのか分からない状況を脱却させ、仮に知っていたとしても「バチバチ」やり合うのではなく、お互いに「笑い話」ができるようにすることで、企業価値を創造することにつながるのです。

 

もう一つの視点

①川下の範囲の拡充

 これまで述べた通り、住宅需要に依存してきた川中の木材加工業ですが、公共建築物等木材利用促進法が施行されて10年が経過し、非住宅分野にも木材の供給範囲が拡大※しつつあります。幼稚園、小学校などの学校施設、福祉施設等はもとより、災害時等に緊急の避難場所として使われるコンビニについても、木造化・木質化による居心地の良さが求められています。ということは、工務店と住宅メーカー以外の、ゼネコンや設計事務所も川下に加わってくることになります。一口にゼネコンといっても、元は寺社仏閣などの木造建築を手掛けていた企業が多くあり、○○工務店、○○組を名称に残しているところもあります。あるいは、木造が得意な設計事務所は、○○木造設計の名称を名乗っているかもしれません。

 今回、脱炭素社会の実現を目指し、同法の対象を民間建築へも拡大※したことからしても、川下の範囲を拡大する必要があります(図3)。また、鉄やアルミ、プラスチック業界と同様に、二次加工、三次加工事業者を、木材業界の川下として位置付ける絶好のチャンスでもあります。例えば、海外に移ってしまった家具業界、北米産をはじめとしたシトカスプルースに依存していた建具業界、国産広葉樹にこだわる漆器業界、脱プラスチックを図る木箱・折詰業界、木のストローやスプーン等の日用品業界等、多種多様な業界が存在します。柱角林業から本格的に脱却して、二次加工、三次加工の業界が川下に加わり、「木の文化の国 日本」の復活にまい進することが望まれます。

※ 「脱炭素社会の実現に資する等のための建築物等における木材の利用の促進に関する法律」が10月1日に施行予定

② 河口のニーズをフィードバックする 「令和の時代」

 次は、河口問題です。川上・川中・川下は、川の流れの位置を示すワードですが、山からの水は、河口がないと海へは流れません。流れなければ、途中で溢れ返って洪水となってしまいます。森林・林業・木材業界の河口とは、「消費者」「発注者」です。「こんな製品がほしい」という消費者・発注者のニーズを誰が把握して、川下・川中・川上に届け、流れをつくるかということです。河口に一番近いのは川下です。様々な木材製品を置いているホームセンターが分かりやすいでしょう。しかし、ホームセンターは本当に川下なのでしょうか。ニーズを把握して川中に届ける役目はまだ発展途上だと言えます。大変難しい課題ではありますが、河口のニーズを川中に伝える役目が、川中と川下をつなぐ製品流通業者にもあるのではないかと思っています。

 課題は色々と多くありますが、一度切れてしまった山から海への水の流れをスムーズにすることが、今の時代の要請だと言えます。河口ニーズを踏まえた、川上・川中・川下の連携づくりの行動をしていくことが「令和の時代」なのです。