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政府 新たな「森林・林業基本計画」を閣議決定 脱炭素化へ国産材供給量2030年に35%増目指す

 政府は6月15日、新たな「森林・林業基本計画」について閣議決定しました。新たな基本計画では、森林・林業・木材産業による「グリーン成長」が基本方針として掲げられました。今回は、新たに策定された具体的な施策や目標を中心にまとめました。

 

「グリーン成長」を掲げて豊かな社会経済の実現へ

 「森林・林業基本計画」は、森林・林業基本法に基づき、国内の森林・林業施策の基本的な方針等を定めるものであり、森林・林業をめぐる情勢の変化等を踏まえ、おおむね5年ごとに変更がなされます。

 新たな基本計画においては、森林を適正に管理して、林業・木材産業の持続性を高めながら成長発展させることで、2050年カーボンニュートラルも見据えた豊かな社会経済の実現が目指されており、森林・林業・木材産業による「グリーン成長」が基本的な方針として掲げられています。その上で、森林および林業をめぐる情勢変化等を踏まえた対応として、林業適地における適正な伐採と再造林の確保といった「森林資源の適正な管理・利用」、成長が早いエリートツリーなどのイノベーションにより伐採から再造林・保育に至る収支をプラスに転換する「『新しい林業』に向けた取り組みの展開」、大規模建築物におけるJAS乾燥材等の低コスト供給といった「木材産業の国際+地場競争力の強化」、都市や非住宅分野等での新たな木材需要の獲得を目指す「都市等における『第2の森林』づくり」、山村地域における農林複合など、地域資源の活用を図る「新たな山村価値の創造」の五つを挙げています。

 

持続的な経営で林業サイクルの収支をプラス転換

 本基本計画の中で、政府が総合的かつ計画的に講ずべき施策として、「森林の有する多面的機能の発揮に関する施策」「林業の持続的かつ健全な発展に関する施策」「林産物の供給及び利用の確保に関する施策」の三つに分けて、それぞれ具体的な取り組みを示しています。

 「森林の有する多面的機能の発揮に関する施策」のうち、カーボンニュートラルの実現に貢献するためには、適切な間伐等の実施、保安林指定による天然生林等の適切な管理・保全に引き続き取り組むほか、中長期的な森林吸収量の確保・強化を図るべく、エリートツリー等の再造林を促進するとしています。また、製造時のエネルギー消費が比較的少ない木材の利用、木質バイオマスエネルギー利用などを通じて、二酸化炭素の排出削減に貢献していくことなどが述べられています。

 「林業の持続的かつ健全な発展に関する施策」では、ドローンを活用した苗木運搬等による造林コストの低減や、エリートツリーの活用による収穫期間の短縮、林業作業の省力化・軽労化など、「新しい林業」を展開するための施策が示されました。また、担い手となる林業経営体の育成、新規就業者などの人材の育成・確保、林業従事者の労働環境の改善などを挙げています。

 

 

都市等における新たな木材需要の獲得

 「林産物の供給及び利用の確保に関する施策」においては、原木の安定供給、木材産業の競争力強化、新たな木材需要の獲得を通じて、国産材利用の裾野を拡大していく方針です(図1)。具体的には、地域の核となる林業経営体等が取りまとめの役割を担い、製材・合板工場等に対する価格交渉力を高め、原木を安定的に供給する体制への転換を図るとしています。大規模工場における「国際競争力」の強化に向けては、製品を低コストかつ安定的に供給するべく、引き続き加工流通施設の高効率化を図ります。また、中小製材工場等においては、高単価の地域材製品の生産や、細かなニーズに対応した柔軟な製品供給等を通じて、「地場競争力」の強化を図ると述べています。

 また、住宅分野以外における新規の木材需要を獲得していくことが重要で、特に都市等における非住宅分野、リフォームなどの需要を積極的に取り込んでいくことが有効であると指摘しています。そのため、民間非住宅分野等の需要の獲得に向けた取り組みを進めていく方針です。一般流通材を活用した低コストでの建築事例の普及や、耐火部材やCLT等の開発・普及、それらの部材を使用した建築実証などにより、多様な設計施工のノウハウを蓄積するとしています。リフォーム需要等については、デザイン性や機能性に優れた内装材等の開発、木塀など外構部への防腐木材など高耐久製品の活用等を図ると述べています。

供給量等の目標を定めて国産材の拡大へ

 本基本計画では、国内における林産物の供給および利用量について新たに2030年の目標を定めています。このうち、望ましい森林の整備・保全が行われた場合の木材供給量の目標として、2019年実績比で約35%増となる4,200万㎥が設定されました(図2)。利用量の目標については、今後の需要動向を見通した上で、諸課題が解決された場合に実現可能な水準として、2030年の建築用材等の利用量目標を2,600万㎥とし、総需要量に占める国産材の割合を6割強まで増やすとしています。

 国は、これらの施策の推進や目標達成に向けて、関係府省との連携を強化するとともに、地方公共団体や民間の事業者等とも協力して、木材利用の促進を図る方針です。

 

 

林野庁「森林・林業基本計画」

https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/plan/