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政府・林野庁 2020年度の「森林・林業白書」を閣議決定 持続性を確保した今後の林業の可能性を提示

 政府は6月1日、2020年度の「森林・林業白書」について閣議決定しました。森林・林業白書は、森林・林業基本法に基づき、年1回、政府が作成して国会に提出し、林野庁が公表するものです。今年度は、「森林を活かす持続的な林業経営」と題し、今後の林業経営の可能性を提示するとともに、新型コロナウイルス感染症による影響と対応について特集されています。今回は、この二つの特集についてまとめました。

 

二つの特集を設ける

 森林・林業白書は、第1部となる「2020年度の森林および林業の動向」と、第2部となる「2021年度の森林および林業施策」からなります。第1部の冒頭のトピックスでは、「『公共建築物等における木材の利用の促進に関する法律』施行10年を迎えて」「森林組合の経営基盤強化を目指す森林組合法の改正」「森林環境譲与税を活用した取組状況」など、六つの取り組みが昨年度における特徴的な動きとして紹介されています。

 また、昨年度に引き続き特集が設けられ、今年度は、「森林を活かす持続的な林業経営」「新型コロナウイルス感染症による林業・木材産業への影響と対応」の二つが取り上げられました。

 第1章以降の各章においては、森林の整備・保全、林業と山村(中山間地域)、木材需給・利用と木材産業、国有林野の管理経営、東日本大震災からの復興について、主な動きがまとめられています。

 

特集1 森林を活かす持続的な林業経営

林業経営を取り巻く現在の状況を整理

 日本の森林面積の約4割を占める人工林では、50年生を超える人工林面積が10年前と比べて2.4倍となり、その蓄積量も増加しています。国産材供給量も2002年の1,692万m3を底として増加傾向にあり、2019年には3,099万m3まで上昇、木材自給率は37.8%に上昇しています。一方で、林業に適した場所であっても、主伐後に再造林が行われていないケースがあると指摘しています。そのため、白書では、林業経営体に対して適切な森林整備を進めて、自らの利益を増加させるとともに、森林所有者への利益還元を進める必要性について訴えています。

 

木材の販売強化と生産コスト低減で持続可能な経営を確保

 白書では、林業経営体が事業の持続性を確保していくためには、事業を行う場である森林資源の持続性と、収益性向上や人材確保といった経営の持続性の双方に対応していくことが求められると述べています。

 森林資源を持続的に利用していくためには、再造林を行い、資源を保続させていく必要があります。この点について、50年生のスギ人工林の主伐を行った際の収支を試算しています(図1)。これによれば、丸太の1ha当たりの販売価格を318万円とした上で、伐り出し、運材等のコストを引くと、山元の立木価格が91万円になります。一方で、造林の初期費用は184万円で、補助金を活用しても50年の育材の対価としては十分ではない状況にあります。これを踏まえ、森林資源と経営の持続性の確保には、丸太販売の売上高の向上と、生産・育林のコスト低減について継続して取り組むことで収益を確保し、山元への利益還元と林業従事者の所得水準等の向上の原資とすることが求められるとしました。

 収益性の向上に向けた取り組みについては、販売強化と生産・育林コスト低減に分けて解説しています。このうち、販売強化では、安定供給による売り上げの向上、多様な木材の販売、収入の多様化による経営の安定の三つを挙げています。まず、安定供給による売り上げの向上については、原木の安定供給によって取引価格の安定化を図ることを一つの方向性として示しています。ここでは、複数の経営体が連携して安定供給を実現し、協定販売を行うことで取引価格を安定させるとともに、価格交渉力を高めたケースを示したほか、販売先ごとのニーズに応じた採材や用途別の仕分け等により、丸太の価値の向上が図れると述べています。

 多様な木材の販売については、木材を現しで使うなど、意匠性の高い木造住宅の建築を続けている工務店・大工では、優良材が高値で取引されていることに着目、こうした需要に対して自らが需要先と結び付いて販路を確保することが重要だとしています。そのほか、製材、合板、チップ以外のニッチな木材需要への対応により、高単価で販売できる可能性があると指摘しています。また、収入の多様化による経営の安定については、農業等との兼業による複合経営や、森林のレクリエーション的利用などによる安定収入について提示しています。

 生産・育林コストについては、林業経営体による主体的な取り組みが可能とした上で、生産・流通コストと造林・育林コストに分けて整理しています。生産・流通コストについては、山元の立木価格を押し下げる要因として、伐り出し、運材、流通コストと、労働者一人当たりの生産量の低さなどを挙げ、これを解消していく方策として、高性能林業機械の稼働率の向上などを示しています。また、造林・育林コストについては、地ごしらえ、植栽、下刈りの各工程で、コスト・労働負荷の削減・実証が進展しており、これらを積極的に活用していくべきとしました。

 

新たな林業の収支モデルを提示

 林野庁は昨年11月、素材生産の生産性向上、造林コストの低減等を行った場合に、現状のコスト構造を実際に大きく転換できるのか試算しています(図2)。この試算では、施業地1ha当たりの収支について、近い将来においては、生産性向上の取り組みや2,000本/haの植栽等により、作業員の賃金を1割以上向上させた上で71万円の黒字化が可能で、更に、自動化機械の導入等により黒字幅の拡大が期待できるとしました。この黒字は、経営報酬や投資の原資と併せ、森林所有者への還元の原資にもなり、再造林意欲を高めることが期待されます。

 林業経営については、森林経営管理法の制定、多様な事業連携を可能とする森林組合法改正など、それぞれの戦略に応じた経営を展開するための制度的枠組みの整備が進展しています。今後、これらの枠組みも十分に活用しながら、それぞれの林業経営が創意と工夫を発揮して、森林や経営の持続性を高めながら成長発展していくことが期待されており、林野庁は、このような前向きな挑戦を後押ししていくと述べています。

 

特集2 新型コロナウイルス感染症による林業・木材産業への影響と対応

木材輸出額は20年で最高額に

 新型コロナウイルス感染症は、世界の社会・経済に大きな影響を与えています。世界経済においては、当初、中国が経済活動を停止したことで、コンテナの一時的な港湾への停留などが生じました。その後、中国が他国に先駆けていち早く経済活動を再開、各国からの輸出が急回復し、夏以降は、欧米における「巣ごもり需要」の拡大等により欧米向けの貨物が急増した結果、欧米にコンテナが滞留、アジア圏ではコンテナ不足に陥りました。2021年に入ってもこうしたコンテナの偏在が続き、それに伴う海上運賃の上昇が、各国からの輸出に影響を与えています。

 木材については、東南アジア等で一時的に原木や製品の減産が広がる一方、アメリカでは自宅待機要請に伴って住宅需要が増加、2020年5月以降に木材需要が回復し、7月以降には木材価格が急激に上昇し続けました。これに伴い、欧州から米国への木材輸出が増加しました。

 日本においても、2020年の新設住宅着工戸数が前年比1割減の82万戸に減少し、うち木造住宅が47万戸となるなど、様々な影響が出ました(図3)。また、木材輸入額については、国内の木材需要の減退などにより対前年比で19%減少し9,430億円となる一方、輸出額については2020年4月以降に中国向け丸太輸出額の急回復などにより、前年度比3%増の357億円となり、過去20年で最も高くなりました(図4)。

 製材・合板製造業については、2020年4月時点で製材工場の4割、合板工場の6割において減産が実施されましたが、製材品、合板出荷量および製材・合板工場における素材入荷量は、7、8月を底に徐々に回復傾向にあります。また、素材生産については、2020年2月頃から中国向けの丸太輸出が減少し、九州を中心に港や貯木場で丸太が滞留したことにより、素材価格の低下などが生じました。4月以降は、国内の木材需要の減少に伴う製材・合板工場の減産による原木入荷制限のために素材生産が縮小、林業経営体は一時的に森林整備へ労働の軸足を移す動きなどが見られました。スギ中丸太価格は、こうした需要減に伴い6月には前年同月比で1割程度下落しましたが、その後の令和2年7月豪雨や、素材の生産調整による原木不足、秋以降に日本向けの北米材や欧州材の供給量が縮小されたことなどの影響を受けて、年末にかけて上昇傾向となりました。

資金繰り支援や需要喚起策などを実施

 こうした中、林野庁では、2020年度の補正予算等において、資金繰り支援や需給調整、需要喚起など、林業者・木材産業事業者の業務継続と影響緩和に向けた措置を実施しました。また、需給情報連絡協議会を開催し、川上から川下までの関係者による現状認識・情報の共有を行うとともに、各種支援策の周知が図られています。

 このうち、需要喚起策としては、過剰木材在庫利用緊急対策を実施しました。中国への丸太輸出が停滞し、国内で加工できる工場が限られている大径原木について、付加価値の高い製品に加工して輸出するための木材加工施設の整備や、公共施設等における木材利用を支援しました(図5)。そのほか、輸出力の維持強化に向けた海外販路の開拓や、2021年1月には非住宅の外構での木材利用に対して追加の措置を実施しています。

 一方で、新しい生活様式等の取り組みの広がりによって、林業・木材産業において、変化に対応した事業展開を模索する動きが出ています。例えば、オフィス用として、木材を活用した飛沫対策の仕切り板などの製品開発が進んだほか、家庭ではリモートワークを行うためのリフォームやDIYが進んだと分析しています(図6)。

 そのほか、リモート会議による販売促進や、ウェブ入札システム等のオンライン利用といった動きが進展する可能性が出てきたことなどにも注目しています。

 

先行きが不透明な中、引き続き必要な対応を実施

 全国森林組合連合会が、昨年11月に林業経営体を対象に行った調査によれば、2020年1月以降、売り上げが減少したとする林業経営体は7割に上るものの、持続化給付金などの各種支援策の活用等により98%が解雇等を行っていないこと、また、木材産業関連事業者においても、雇い止めや倒産はごく一部にとどまっていると、林野庁は現状を分析しています。

 その上で、新型コロナウイルス感染症の流行は収束しておらず、この影響による新設住宅着工戸数の落ち込みは、2年程度続くとの予測がなされているほか、アメリカの住宅需要の増加や、コンテナ不足の影響等もある中で、世界の木材需給や流通の先行きが不透明になっていると指摘しています。そのため、民間事業者は、そうした動向を見ながら生産を行う必要があり、林野庁も引き続き各地域の状況を注視し、都道府県とも連携しながら、地域の状況に応じて必要な対応を実施するとしています。

 

森林・林業白書

https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/