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シリーズ 木材需要の拡大に応える『現場の力』⑤ けせんプレカット事業協同組合 木の本質を追求し脱炭素社会を実現

 岩手県南部で活動されているけせんプレカット事業協同組合様は、製材から建て方まで一貫して対応する体制を構築するとともに、将来を見据えてCLTや水素の活用、セルロースナノファイバーへの材料の供給など、環境課題を見据えた多角的な事業を推進しています。今回は、同組合の代表理事を務める泉田十太郎氏にお話を伺いました。

山から建て方までの一貫した体制を構築

――けせんプレカット事業協同組合様の経営理念・事業内容についてお聞かせ下さい。

泉田 当組合は、「全職員の物心両面の幸福を追求すると同時に環境へ貢献し社会に役立つことを創造する」を経営理念として1993年に設立されました。現在は、80社を超える林業関係者、建設業者、工務店で構成しています。川上から川下まで一貫した流通体制により、資材調達から加工、建て方に至る全ての工程が一つになる、独自の「けせん式・林業循環型システム」を構築し、高品質で低価格な製品を提供しています。

 本社・住田工場では、2×4プレカットや同工法用のスタッド(間柱)の製造、パネル加工、集成材加工などを、高田工場では在来工法と金具工法のプレカットを主として行っています。プレカットについては、大手賃貸住宅会社やハウスメーカーからの受注をメインとしており、昨年度の2×4プレカットの加工実績は年間約4万坪、在来工法・金具工法は年間約7万6千坪と、東北エリアでも有数の規模となっています。スタッドをはじめとした製材品の生産能力は年間約5,000㎥あり、地域と連携して国産材製品の供給を強化しています。

 また、関連会社として、建て方を行う㈲けせんホームのほか、中国大連に气仙木业(大连)有限公司があります。同社は、経済産業省のビジネスマッチングを活用して2013年に設立したもので、CAD入力業務や化粧材の製造、更に、当組合から輸出した木材の端材などから間柱の製造を行っています。

 

国産スギのスタッドにフィンガージョイントを初採用

――ツーバイ材は幅広く取り扱われていますね。

泉田 当組合では、ツーバイ材について全てのサイズでの供給が可能で、2×6、2×8などは国産スギで対応しています。丸太をスタッドの長さで製材するのではなく、従来通り3,000㎜でカットしてフィンガージョイントでつないでいるため、3,000㎜超のスタッドは基本的にフィンガージョイントでの対応となります(図1)。ツーバイ材は長さが8、10、12フィートの偶数飛びで、在来工法で求められる需要とは合致しないため、幅広く事業を展開するためにはフィンガージョイントの設備は必須だと考えています。また、導入することで歩留まりが上がるというメリットもあります。

 スタッドについては、かつては3,000㎜で採寸されたものでラミナをつくり、2,336㎜にカットするのが一般的で、残りは使われておらず、かなりの無駄が生じていました。これを改善したいと、当組合が全国で初めて、国産スギのスタッドについて、フィンガージョイントを採用しました。この使用が認められるまでには大変な苦労がありましたが、昨年末に亡くなられた東京大学名誉教授の安藤直人先生が、ツーバイ工法のパネル強度は枠材ではなく面材としての合板の強度に影響されると、ある講演会で話されているのを聞き、勇気をいただきました。在来工法をベースに考えると、どうしても柱と梁に強度が影響されると考えてしまいがちですが、ツーバイ工法では面としての強度が重要であるということです。横方向でフィンガージョイント材を使うことに抵抗があるという人もいますが、強度的には問題なく、最近では、輸入材の高騰に伴ってSPFが値上がりしていることもあり、国産スギの需要も増えてきました。

――大径木の活用にも取り組まれていますね。

泉田 大径木の活用については、末口で500㎜、元口で700㎜程度まで挽ける製材機の導入を計画しています。これで板材を挽き、フィンガージョイントでツーバイ材として活用できるようにしていく考えです。当組合ではもともと、ツーバイ材は小径木から製材するだけでなく、広い板を挽いて、それを割り返すという手法を取ってきました。こうすると、ヤング係数が小さい心材を避け、強度に優れた辺材のみを使うことができ、長さや幅をある程度自由に調整することもできます。更に、モルダー加工をしてから割るため、一本ずつ加工機を通す必要がなく、作業効率も上がります。心材については、羽柄材などの非構造材として活用しています。

――貴組合の独自の手法ですね。

泉田 私は40歳代半ばでこの業界に入ったため、固定観念に縛られず柔軟な発想ができたのかもしれません。大径木は本来、品質が良く、合板やラミナとして使うのはもったいないと思っています。辺材部分をカットすると美しい板ができます。こうした板材は付加価値を持たせて販売し、心材の芯に近い部分は一般建築材、芯の部分は羽柄材、下地材として活用するなど、無駄なく使っています。この板材を用いた内装材については、ナイスさんに「木美人(きびじん)」と名付けていただきました。そのほか、家具材、化粧材としての活用も進めています。以前、中国の展示会では黒光りするような高級材が人気でしたが、最近では若者を中心にスギの赤身材なども人気が高く、時代とともに好みも変わってきています。また、スリットを入れて化粧材としての利用を提案しています(図2)。スリットを入れたことで、吸音性能が高まり、丸く曲げられるようにもなります。ドイツでは、こういった板材をベッドのスプリング代わりに入れたりするとのことで、様々な用途での活用を考えていきたいと思っています。

 

CLT工場を開設予定

――大規模な建築物の木造化も積極的に推進されています。

泉田 公共建築物などの木造化を進めており、最近では2,000坪を超える大型の特別養護老人ホームを、フルプレカット、フルパネル化して建設しました。施工の合理化が図れ、現場作業を軽減できるフルパネル化は、職人不足への対応という点でも有効です。また、昨年6月には、県内でCLTによる建築にも携わりました。これは、大手賃貸住宅会社のCLTを用いた賃貸住宅の第一号物件として、2×4工法をCLT工法にアレンジして建築したものです。2階建て1棟4戸、延べ床面積は200㎡超となっています。CLTは岩手県産のスギを調達し、西日本の工場で加工したのち、当組合でプレカットしました。この建物は、当組合の社員寮として使用しています。

 CLTについては、現在、この大手賃貸住宅会社とともに工場を建設する計画を進めており、当組合はその工場の運営を担当する予定です。この工場では、主に4~5階建ての中層の木造マンション用のCLTを製造する予定です。このプランでは、1~2階の下層は主に岩手県産のアカマツとカラマツ、上層はスギを使用します。下層は上層よりも強度が必要なため、壁厚を揃えるために樹種を変える予定です。この工場では、1シフトは同社への対応、2シフトは外販用として稼働させ、製品ベースで年間2万㎥の製造を目指す予定です。また、この工場では端材処理のためにもバイオマス発電の設置は必須と考えており、併せて検討を進めています。

 

次のキーワードは「セルロース」と「水素」

――今後の展望などについてお聞かせ下さい。

泉田 未来は、セルロースナノファイバー(CNF)が用いられた自動車や、水素を燃料としてCO2を排出せずに走行できる燃料電池自動車等に注目しています。CNFは、鋼鉄の約5倍強く、重さは約5分の1という次世代の素材です。昨年、菅義偉首相により「2050年カーボンニュートラル」が宣言されました。このCNFと水素にいかに取り組んでいくかが、将来的な鍵となるのではないかと考えています。

 木は、セルロースとリグニン、ヘミセルロースを主成分としています。このうち、セルロースは木材の繊維を構成しているもので、これをナノレベルまで砕いたのがCNFの原料であり、当組合では試験的な供給をしました。この原料は、バイオマス用のペレットを製造している際に宙に舞っている細かい粉そのもので、製材事業者が製造するに当たって決して難しい技術が必要なわけではありません。これを成形してCNFとする技術が今後発展していくことが望まれます。

 また、原子力や化石燃料ではなく、水素社会の時代が来ることを望んでいます。水から水素を取り出しても酸素が出るだけであり、その水素を燃料として使用しても純粋な水ができるだけです。そして、森林と水というのは、言うまでもなく関係が深いものです。こうした観点から、当組合の工場では2018年から、倉庫の屋根に太陽光発電を設置し、この電力で敷地内の湧き水を電気分解して水素燃料を製造、これを使用してトヨタ燃料電池フォークリフトを動かす仕組みを試験的に導入しています(図3)。このフォークリフトは、排気ガスも出ず、音も静かで、環境に配慮したものとなっています。

 導入コストは決して低くはありませんが、イノベーションを起こそうという時にコストだけに目を向けるべきではないと考えています。例えば、燃料電池は以前、触媒に高価な白金が使われていましたが、代替素材として炭素由来である「カーボンアロイ」が開発され、コストが下がりました。今後、こうしたイノベーションが様々な分野で起きていきます。ですから、環境問題を見据えながら複合的に取り組んでいく必要があると考えています。

 新設住宅着工戸数は、将来的に減少していくものの、決してゼロになるわけではありません。非住宅の木造化・木質化についても今よりももっと一般化し、需要が増えていくでしょう。当組合としても、まずはそこにきちんと取り組んでいかなければなりません。そして、その副産物として、木の本質に関わる部分がビジネスになってくると考えています。日本には資源がないとよく言われますが、太陽、水、木材等があります。林業・木材産業が輝く時代が必ず訪れると信じています。

――本日はお忙しい中ありがとうございます。今後ともお力添えをお願いいたします。