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公共建築物等木材利用促進法施行から10年 木造化の動きが民間で活発化

国が率先して公共建築物等における木材の利用を促進するという公共建築物等木材利用促進法の施行から10年が経過しました。今回は、同法の施行以降、広がりを見せる建築物の木造化の動きについてまとめました。

 

市町村の9割超が木造化に取り組む

 国内の森林資源が充実する中、公共建築物等木材利用促進法は、木材の利用の確保を通じて林業の持続的かつ健全な発展を図り、森林の適正な整備および木材の自給率の向上に寄与するため、2010年10月に施行されました。同法は、木造率が低く、潜在的な需要が期待できる公共建築物に重点を置いて、木材利用を促進することを目的としています。

 同法は、「公共建築物における木材の利用の促進に関する基本方針」を策定して、国が率先して木材の利用を進める方向性を明確化するとともに、地方公共団体や民間事業者等に対しても、これに即した取り組みの促進を求めています。同方針に基づき、国が整備する低層の公共建築物については、原則として全て木造化を図るとともに、高層・低層に関わらず内装等の木質化を促進することが定められました。現在、地方公共団体については、全ての都道府県と市町村の92%が同法に基づく方針を策定しており、低層の公共建築物をはじめ、積極的な木造化が図られています。

 

木造の規制緩和が進む

 同法の施行を契機に、建築物への木材利用に向けた建築基準の合理化が進められており、2014年と2018年の2度にわたって建築基準法が改正されました。2014年の改正では、建築物に求められる防火性能が見直され、3階建ての学校等については、一定の延焼防止措置を講ずることにより1時間準耐火構造にできるようになりました。また、延べ面積3,000㎡を超える建築物については、3,000㎡以内ごとに耐火性の高い壁等で区画すれば、耐火構造等以外の建築物とすることが可能になりました。

 2018年の改正では、耐火構造等とする木造建築物の規模について、高さ13m超・軒高9m超から、高さ16m超・階数4以上へと見直されました。また、耐火構造等とすべき場合でも、延焼範囲を限定する防火の壁等の設置といった消火の措置の円滑化により、主要構造部について、木材を現しで用いることが可能になりました。更に、防火地域等において、耐火建築物に加え、外壁や窓の性能を高めること等により、内部の柱や梁等に木材を現しで使用することが可能となりました。

 

新たな建材・部材が開発

 新たな木質部材等の製品・技術の開発も進み、中高層や非住宅で木材を積極的に利用できる環境が整えられつつあります。特に、CLTや木質耐火部材に関する製品・技術について、実際の建築物への利用が始まっています。

 CLTについては、2013年にJAS規格の制定、2016年4月に建築基準法に基づく告示の公布・施行がなされました。これにより、CLTの一般利用がスタートし、2019年度には国内の累計建築実績が400件を突破しています。木質耐火部材については、3時間耐火の認定を受けた部材等が開発され、15階建て以上の高層ビルを木造で建築することが可能になりました。

 そのほか、(一社)木造住宅産業協会において、軸組工法による中・大規模建築物の試設計などが行われており、構造の考え方や架構法の提案、様々な仕様の耐力壁の開発が進められるなど、新たな技術開発が広がりを見せています。

 

公共建築物の木造化率は26.5%

 こうした中、林野庁によると、2018年度に国等が着工した木造の建築物は2,340件に上り、木造率(床面積ベース)は13.1%となりました。このうち、積極的に木造化を促進することとされている3階建て以下の低層建築物の木造化率は26.5%で、2010年の17.9%から8.6ポイント上昇しました(図1)。都道府県別では、山形県が52.1%と5割を超え、岐阜県が48.5%、茨城県が48.4%、宮崎県が46.3%で続いています。一方、都市部では低位となるなど、ばらつきがある状況となっています。

 また、建築物全体について、国土交通省の「建築着工統計調査2019年」から林野庁が作成したデータによれば、建築着工床面積の現状を用途別・階層別に見ると、1~3階建ての低層住宅の木造率は8割に上る一方で、4階建て以上の中高層建築および非住宅建築の木造率は低くなっています。非住宅については、1階建てで20.5%、2階建てで16.8%、更に3階建てにおいては2.8%にとどまるなど、需要拡大の余地がまだ多く残されています。

脱炭素社会の実現に向けて機運高まる

 気候変動、自然災害といった課題が、経済成長や社会問題にも波及する中、木材利用の拡大がSDGsの達成などに貢献するとの視点から、木材・建築業界にとどまらず、経済界など、業界の垣根を超えて広く連携が進められ、木材需要の更なる拡大の契機となりつつあります。

 2016年には、農林中央金庫が事務局となり、「ウッドソリューション・ネットワーク」が設立されました。同ネットワークには、林業生産者団体や、木の加工・流通に従事する製材会社、商社、ゼネコン、ハウスメーカー等、木に関わる約30の関連企業・団体が参加しています。木材利用拡大を促進するべく、産・学・金連携のプラットフォームにより、各種課題の解決に向けた取り組みが進められています。

 また、2019年11月には、(公社)経済同友会が中心となって、国産材の利用拡大を目指すネットワーク組織「木材利用推進全国会議」が発足しました。植林・伐採から木材加工、設計、施工まで、国産材の活用に至る全てのステークホルダーが連携することで、「木」を起点として、経済合理性と持続可能性を両立する豊かな地域社会の実現が目指されています。

 更に、2019年5月には、川上から川下までの団体・企業が参加して、「森林(もり)を活かす都市(まち)の木造化推進協議会」が設立されました。同年4月に発足した同推進議員連盟と連携し、法律・制度の見直しを含めた、都市の木造・木質化の実現に向けた活発な取り組みが進められています。今年10月に行われた5回目の総会では、公共建築物等木材利用促進法の対象を民間の建築物にも広げるべきとの方針が示され、今後、来年1月の通常国会に向けて具体的な作業が進められる予定です。

 今年10月には、菅義偉内閣総理大臣により、2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロとする「脱炭素社会」の実現を目指す旨の宣言が出されました。この目標の達成に向けて今後、民間における木造化の機運が更なる高まりを見せていくことが考えられます。