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政府 2019年度「森林・林業白書」を閣議決定 森林・林業・木材産業が果たすSDGsへの貢献

6月16日、政府は2019年度の「森林・林業白書」を閣議決定し、これを受けて林野庁が公表しました。今回は、同白書のうち、冒頭で特集された「持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する森林・林業・木材産業」についてまとめました。

 

特集でSDGsとの関係性を整理

 森林・林業白書は、森林・林業基本法に基づき、政府が毎年作成して国会に提出するもので、第1部「森林及び林業の動向」と第2部「森林及び林業施策」で構成されています。

 今回、第1部の冒頭において、通常章とは別に、「持続可能な開発目標(SDGs)に貢献する森林・林業・木材産業」をテーマに特集しています。ここでは、4節にわたって、SDGsと森林・林業・木材産業の関係性と今後の課題等について整理がなされています。

 また、年度ごとの動きを紹介するトピックスでは、「森林経営管理制度、森林環境譲与税のスタート及び国有林野管理経営法の改正」「東京オリンピック・パラリンピック競技会場等における木材利用」などが紹介されています。

 

林業・木材産業が要の役割

 特集の第1節では、日本の森林について、蓄積量が年々増加し、広く活用できる状況下にあることを背景に、様々な角度からSDGsに貢献できる可能性を示唆しています。その上で、木材などの森林資源の利用により生み出される便益が、森林の整備・保全への還元という大きな循環につながることの重要性を示すとともに、SDGsで重視されている環境・経済・社会の諸課題への統合的な取り組みになると指摘しています。また、この循環には森林が健全に維持されることが前提であり、林業・木材産業が要の役割を担っているとしています。

 ここでは、森林・林業・木材産業について、具体的なSDGsの目標と関連付けて整理がなされています(図1)。まず、様々な生物を育む森林そのものが目標15に関連しており、持続可能な経営下にある森林は、水を育み(目標6)、豊かな海をつくり(目標14)、二酸化炭素を貯蔵して気候変動を緩和し(目標13)、山地災害の防止(目標11)にも貢献するとしています。

 また、木材の生産・利用は、持続可能な生産・消費形態の確保(目標12)に直結するとともに、建築等に利用する場合には、炭素の貯蔵という観点に加え、製造・加工に要するエネルギーが少ない(目標7、13)点を特長として挙げています。更に、施業の低コスト化などの技術革新はイノベーション(目標9)の一部を担うほか、木材の生産・加工・流通の現場においては、従業員の定着のための適切な労働環境の整備(目標8)や、女性参画の促進(目標5)が重要であると述べています。その上で、林業・木材産業関係者を中心に、企業、個人、行政等がパートナーシップを築き(目標17)、森林の持続可能性の確保に取り組むことの必要性を示しました。

 

 

木造化・木質化の事例を紹介

 第2節では、多様化する森林との関わり方の事例について、SDGsとの関係性を示しながら、森林の整備、森林資源の利用、森林空間の利用に分類して紹介しています。

 このうち、森林資源の利用に関わる取り組みとして、低層非住宅建築物や中高層建築物における木造化・木質化、木製家具の導入といった事例が挙げられています。これらにおいては木材を一つの建築材料としてだけでなく、様々な観点から利用が進められている事例が多くあると述べています(目標7、8、12、13)。

 具体的に、商業施設や医療・福祉施設において、木材が持つ温かみや親しみやすさから、内外装を含め、目に見えるところに木材を利用している事例や、健康経営や働き方改革の流れを受け、木製家具を導入した企業の事例を紹介しています。また、木材の利用が森林の整備・保全および地域活性化につながる点を重視し、新規出店の際は木造建築への切り替えや外装での木材利用を進めることを表明した外食チェーンの事例などが挙げられています。更に、木造の非住宅建築物等は、地域の工務店が活躍できる場として関心が高まっているとし、地域の事業者が連携して木材利用に取り組んだ事例などが示されました。このほか、ほかの資材と比べてコスト縮減や工期短縮を実現できるとの観点から、木造化・木質化に取り組んだ事例などが紹介されています。

 

SDGs達成の動きを後押しするために

 特集の結びとなる第4節では、SDGsの達成に向けた動きを後押ししていくため、森林関係者が連携を重ね、それぞれの役割を果たしていくことの必要性が述べられています。このうち、森林・木材の利用に関しては、森林整備や木材生産を担う林業・木材産業関係者の行動が不可欠であり、SDGsの観点から経営を見直すことが、林業・木材産業の持続性につながると指摘しています。

 具体的に、持続可能な森林経営においては、計画的な間伐等の森林整備のほか、山元への利益還元に向けた施業の低コスト化や、川中・川下と連携した取り組みの重要性を訴えています。また、合法性や持続可能性に配慮した木材の調達においては、クリーンウッド法に基づく合法性の確認や、合法伐採木材や森林認証材等の適切な供給体制の構築などを求めています。このほか、林業従事者の安全確保や、女性従事者の定着率の向上が期待されています。

 

2019年度 森林・林業白書

https://www.rinya.maff.go.jp/j/kikaku/hakusyo/r1hakusyo/index.html