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特別寄稿 健康で快適な暮らしを断熱リフォームで ~快適リフォーム読本のご紹介~

 住宅ストックの温熱環境を改善することで、快適な住まい環境の実現が求められる中、東京大学大学院の前真之准教授の監修による『健康で快適な暮らしのためのリフォーム読本』が発行されました。今回は、前准教授にこのリフォーム読本の狙いと活用方法について伺いました。

 

 

住宅トップランナー制度と小規模事業者
 

 現在、地球温暖化対策が大きな課題となっています。このまま地球温暖化が進行すると、2100年には平均気温が2000年比で最大4.8℃上昇するとされています。いまだに他人ごとのように考える人がいますが、今年生まれた子供が2100年に80歳になると考えると、決してはるか未来の話ではないことが分かります。
この対策の一環として、政府は住宅における一次エネルギー消費量の削減を推進しており、2021年には省エネ基準への適合について建築士から建築主への説明が義務化されます。また、注文住宅であれば年間300棟以上、賃貸住宅であれば年間1,000戸以上を供給している大手事業者に対して、「住宅トップランナー制度」が拡充され、注文住宅では一次エネルギー消費量を25%削減、賃貸住宅では10%削減することが義務化されます。大手事業者が対象となるため、もしかすると小規模な工務店には関係ないと考えられるかもしれません。しかし、お施主様が大手事業者からトップランナー基準について説明を受けることで、工務店へ注文することを不安に感じる可能性もあります。国土交通省はこうした事態を憂慮し、意欲があれば事業規模に関わらずトップランナーを宣言できるようにするとしています。いずれにしろ、必要にして十分な住宅性能を実現できる事業者だけが、今後、家づくりを続ける資格を持つ時代が来るということです。
ただし、トップランナー基準も決して全てを満たしているわけではありません。断熱等性能等級4は日本の冬の寒さを防ぐのに十分な性能を確保しているとは言えないからです。住宅内の寒さへの対策は健康維持の観点からも喫緊の課題であるにも関わらず、新築ですら断熱・気密性能が不足しているというのが日本の現在の住宅ストックの姿です。

 

新築は更なる高断熱を目指す
 

 住宅内の寒さが身体にもたらす影響について周知が進み、「ヒートショック」はいまや社会の常識となりました。これからの日本の住宅にとって大切なことは、暑さや寒さに体が振り回されることのないよう断熱・気密性能を高めることであり、光熱費を抑えるために省エネ・創エネ設備を導入していくことです。更に重要なことは、所得の高い人だけが高性能かつ快適な家で暮らすのではなく、日本の誰もが、光熱費を節約し、快適で健康に暮らせるようにすることです。これが、ひいては地球全体でのCO2排出量の削減につながると考えています。
以前、新築住宅向けに、『心地よい住まいの暖房計画』という冊子を発行しました。この製作に当たって、住宅を新築する際に重視する項目について聞いたところ、冬の暖かさが3番目、夏の涼しさが8番目、省エネ性能が11番目でした。しかし、建てる時に温熱環境についてこれほどこだわっているにも関わらず、居住後の満足度は6割程度しかありませんでした。これを踏まえると、新築住宅ですら温熱環境が心許ない状況だということが分かります。
断熱等性能等級4で建てられた住宅の室内において、エアコンをしっかりと効かせた上で赤外線カメラを使って撮影しました。すると、温風が当たるところは20℃以上になりますが、壁の温度は15~16℃でした。しっかりと暖房しても、断熱・気密性能が足りないため、壁の内側の温度が低い、言い換えれば放射温度が低いのです。そして、リビングの暖気は家中に行き届かず、廊下やトイレは10℃以下と温度差が非常に大きくなりました。また、リビングに続くキッチンでは、キッチンカウンターが壁となり足元は10℃以下となりました。
同じことをZEHクラスの断熱性能の住宅で行うと、壁の内側の温度は20~21℃と暖かさを保っていますが、廊下やトイレに対しては10℃程度の温度差が生じます。このような状況ではヒートショックを解決することはできません。今後、新築であれば更なる高断熱を目指し、「HEAT20」のG1・G2の水準を確保することが求められるようになると考えています。

 

パッケージによるトータルな提案を
 

 現在の日本の住宅ストックのうち、断熱等性能等級4の住宅ですら1割程度しかなく、残りは断熱性能が全く足りていません。床・窓・屋根の断熱が弱いのですが、特に窓が足りていません。窓の下から侵入した冷気がストーブによって燃やされて排気ガスとして上り、窓の隙間から漏れていくため、いくら暖房しても室内が暖まらないのです。また、エアコンが暖かい風を吹かせても、家具などに邪魔されて足元は寒くなり、風が当たる顔だけが熱くて乾燥してしまいます。断熱性能が不足した住宅で暖房をいくら強めたところで、ある意味で「不快のデパート」になるだけということです。
あるリフォーム後の住宅において、温熱環境を調査した際、エアコン、ガスファンヒーター、電気カーペットで暖房しているにも関わらず、床回りはまるで水が溜まっているかのように冷え切っていました。床裏を調べてみると、床下断熱はなされていましたが、気流止めがされていませんでした。そのため、冷たく湿った空気がそのまま室内に入ってしまっていたのです。
ここで、日本の住宅はそういうものだから仕方がないと住宅に携わる皆さんが思ってはいけません。健康リスクを考え、必ず解決すると決心して下さい。寒い、不快、暖房費が高いといった様々な不満を解消するためには、やはり性能向上リフォームが必要です。お施主様は、断熱材や設備といったパーツがほしいのではなく、健康で快適に光熱費を抑えた暮らし方を求めています。そのために、お施主様が満足できるパッケージをトータルで組み合わせて提案する時代になってきているのではないでしょうか。

 

室内環境は「作用温度」で考える
 

 今後、日本においても18℃以上の室温を確保することが求められるようになっていきます。この時、大切なのは空気温度ではなく「作用温度」です。作用温度とは、室温と床・壁・天井等の表面温度の平均で表す指標のことです。快適な室内環境は、放射熱の伝達や壁面温度なども加味して考えていく必要があります。断熱・気密が弱い日本の家は、この作用温度が低くなりがちですから、しっかりと断熱することで壁の内側の温度を上げていく必要があります。
リフォームの場合、新築以上に暖房方式との組み合わせを考慮する必要があります。断熱等性能等級4を実現する断熱材を使っているにも関わらず、気密性能が低いために暖かい空気が漏れて、いつまでも足元が寒いということは少なくありません。一つの考え方として、確実に暖かいと感じてもらうための手段として床暖房が有効です。床の表面から温めることで室内がむらなく暖まり、かつエアコンのような気流が発生しないため乾燥感が和らぐというのは、大きなポイントです。また、浴室暖房も有効です。床暖房と浴室暖房は確実に暖かさを実感できるという点で、お施主様にとってかなり満足度が高い組み合わせの一つだと言えます。
以前に私たちが実施したウェブアンケートでは、リフォーム時に断熱改修を行った人は2割にとどまっており、しかも大規模リフォームの場合がほとんどです。リフォームの動機は、外装、内装、水回り、耐震などが大半を占めています。昨年10月、(一社)住宅リフォーム推進協議会が主催した「住宅の長寿命化リフォームシンポジウム」において事業者にヒアリングしたところ、ほとんどのお施主様は自宅の断熱性能が足りていないことを知らないそうです。つまり、お施主様側から断熱リフォームのリクエストが出るとは考えにくいということです。
お施主様が、寒さ対策を「仕方がないこと」としてあきらめてしまうことが最も問題ですが、リフォーム業者も設備等の分かりやすい項目に提案が偏る傾向があることも問題です。また、断熱改修の提案が採用されても、リフォームの効果を実感してもらえないと後々クレームにつながりかねないというのも、積極的なお勧めができていない要因の一つだと考えています。

 

「ついでに断熱」のすすめ
 

 そもそも、リフォームを行っているのは、住宅のプロである工務店だけではありません。事業拡大に伴ってリフォーム事業を開始する事業者もおり、得意とする分野もそれぞれ異なっています。そこで、外装や内装、水回り等のリフォーム時に断熱の提案を組み合わせる「ついでに断熱リフォーム」をお勧めしています。耐震補強工事の際に、せっかく壁を開けるならばと断熱改修を提案したり、浴室のリフォームを検討している人にユニットバスの入れ替えと合わせて内窓の設置を提案すれば、ヒートショック対策にもなり、受け入れやすくなります。あるいは、エアコンの買い替え時に、「内窓を設置すると効果が高まりますよ」といった提案をするなど、断熱リフォームをメインとするのではなく、別箇所のリフォームのついでに断熱リフォームを提案するのがコツだと考えています。
断熱リフォームを提案する際には、お施主様に冊子等を渡して読んでいただくのが効果的です。この時、お施主様は事業者からの情報をうのみにせず、必ずウェブなどでチェックするため、良質なコンテンツを用意しておくことも大切です。環境省が発行している「断熱・省エネリフォーム」は入り口としては十分な内容ですが、残念ながら具体性は乏しくなっています。そこで、このパンフレットに続く位置付けとして、私が監修して『健康で快適な暮らしのためのリフォーム読本(以下、リフォーム読本)』を作成しました。ここでは、断熱リフォームに当たって様々な選択肢があることを分かりやすく伝えることを心がけています。

 

「あったかリフォーム」四つの断熱プラン
 

 お施主様は、リフォームに当たって、いくら費用がかかるのかという「費用の不安」、工期がどの程度かかり仮住まいは必要なのかといった「工事中の不安」、更に、使い勝手や暖かさがどう変わり、暖房費がどの程度下がるのかといった「仕上がりの不安」といった不安を抱いています。リフォーム読本では、これらの不安を解消するために、「プラン1」から「プラン4」までの四つの断熱リフォームプランを提案しています(図1)。これらのプランでは、窓や床、天井、そして壁の断熱リフォームについて、「熱のロス」や「工事のしやすさ」という観点で整理しています。


住宅の部位の中で、熱のロスが最も生じているのは窓であり、換気・漏気、壁と続きます。そのため、窓の断熱を強化することが最も手軽に効果を出せます。壁については、断熱改修のためだけに壁に穴を開けるのは大変ですから、内外装や耐震補強のついでに実施するのが現実的です。また、床下は熱のロスも大きく、床下にもぐれば施工できるため、お勧めの一つです。リフォーム読本では、無断熱の2階建ての一戸建住宅について、断熱リフォームをした後の室内の温熱環境や暖房費の変化をプランごとに比較できるように工夫しています。また、工法についても、住まいながらできる「簡単居ながら工法」と、床や壁をはがして行う「本格工法」の2種類で提案しています。
「プラン1」は、寝室を2階から1階に移すなど、生活範囲を1階にまとめる前提で、1階の窓だけを断熱強化するというものです。窓リフォームの効果は大きく、暖房費を年間で1.7万円程度節約できるなど、窓の断熱強化は断熱リフォームの定石だと言えます。この時、もともとの窓はそのままに内窓を付けて二重窓にする方法と、窓を外して枠だけを残し、その上に新たな枠カバーと断熱窓を取り付けるカバー工法の2種類があります。
「プラン2」は、「プラン1」に床下断熱と床暖房を追加したものです。断熱窓に加えて床断熱も行うと床暖房が本領を発揮し、これで寒いと感じる人はまずいません。こちらでは、年間暖房費を2.5万円程度下げられる試算です。
一方で、家全体をしっかりと使いたいという人に向けたプランが、「プラン3」です。このプランでは、2階の窓と天井の断熱強化も行います。天井の断熱は、冬季の暖かさの向上はもとより、夏季には屋根からの日射熱を遮断することで快適さが増します。この「プラン3」までは、工法の選択によっては住まいながら実施することができます。
「プラン4」は、壁断熱を含め住宅全体を断熱リフォームするものです。内外装をリフォームする際に壁に穴を開けるのであれば、こちらを実施するべきです。気密もしっかりと行えば、新築に負けない住環境を実現することができます。ここまで実施すると、年間暖房費は当初の半分以下にまで抑えることができます。
ここでは、4通りのリフォームプランを示していますが、正解は一つではありません。お施主様の納得がいくコストで、確実に暖かさを実感できるようにするためには、様々な組み合わせが考えられます。これらのプランにとどまることなく、自信を持ってお勧めできる仕様を選び、お施主様に提案して下さい。ここで大切なことは、情報をきちんと示すことです。1,000万円以上かけた大規模なリフォームを実施しながら、断熱リフォームを行わなかった例は決して少なくありません。そうしたお施主様から、「あの時、提案してくれれば実施したのに」といった声を聞くと、大変残念に感じます。
お施主様のニーズをくみ取り、皆さんが得意とするところを丁寧に伝えて下さい。断熱・気密リフォームは効果が薄いと言う人がいますが、効果が出るようにきちんと施工しないと意味がないということです。床下の気流止めをはじめとした詰めを怠らず、換気装置の設置や、結露防止を考えながら、トータルで良い家をつくっていくことが肝心です。工事に追加する形で断熱リフォームが提案できれば、売上高も上がりますし、お施主様の満足度も間違いなく向上していきます。このリフォーム読本を活用して、お施主様のためになる断熱リフォームの機会を広げていただくことを願っています。