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経営方針発表会特別講演収録 デジタル(AI)革命とローカル型企業の明日

誰も予測できなかった社会

平成の30年間において、日本経済は長い停滞期にありました。この中で、私は㈱産業再生機構においてバブル崩壊で発生した大量の不良債権の処理や、経営不振企業の再生等に携わってきました。当時、これらの処理が進めば再び経済は成長モードに戻ると期待していましたが、残念ながら日本経済はその後、デフレ不況に陥り、それまで世界を代表してきた日本の大企業群が苦戦を強いられてきました。
こうした経済情勢の背景の一つには、世界経済の本格的なグローバル化があります。1989年の東西冷戦の終結を契機として、中国は市場経済へと舵を切りました。これは、マーケットの拡大という点では大きなチャンスであり、一方で、強力なライバルの出現を意味していました。世界の市場が拡大したことで、生産の舞台は人件費などが安価な中国やカンボジア、ベトナムなどに移り、日本の中間層を支えていた大量生産型の工業は急速に衰退しました。この中間層こそが日本のコンスタントな消費を支えていたのであり、日本経済が受けたインパクトは計り知れないものがあったのです。
もう一つが、デジタル革命の進展です。平成の時代において、コンピューターやスマートフォンなどのデジタル技術が世界を席巻しました。これらが、暮らしを格段に便利にしながらも、従来の産業構造を破壊していきました。典型的な例がテレビです。4Kテレビには高水準の技術がつぎこまれていますが、わずか数万円で店頭に並びます。つまり、高度な技術が高い付加価値を生み出せていないのです。特に、大量生産が可能な製品においてこの傾向は顕著です。そのため、低価格かつ良質な製品を大量生産して輸出するという日本の製造業のビジネスモデルにとって、非常に厳しい状況となっています。これが今後、自動車をはじめとした幅広い領域に広がっていくとも予想されています。
更に、グローバル化とデジタル革命が厄介な点は、誰もが予想できない未来を引き起こしかねないということです。例えば、IBMはコンピューターが小型化して一人1台の時代が到来すると、パーソナルコンピューティングの概念を提唱し、PC事業を立ち上げました。この時、OSやマイクロプロセッサは外部のベンチャー企業から調達しました。それが、Microsoftであり、Intelです。その後、IBMはこの2社によって追い落とされ、PC事業から撤退してしまいます。いくらビル・ゲイツ氏でも、このような未来を当初は想像していなかったはずです。同様なことは今後も起こり得ます。外部のベンチャー企業に外注している大手企業が、そのベンチャー企業によって窮地に追い込まれるという可能性が多分にあるのです。
1990年代、私は携帯電話の企業において事業の立ち上げに参画しました。当時、「スマートフォン」という言葉は既にあり、いずれ携帯電話でデータ通信を行う時代が到来すると社員全員が予測していました。実は、この分野においても日本が先行していたのです。しかし、結果として現在、これらを牛耳っているのは、Google、Apple、Facebook、AmazonのGAFAです。当時は、GoogleやFacebookはまだ存在すらしておらず、AppleはMicrosoftにより苦境に立たされていました。このように、グローバルな世界で活動している企業群はこの30年間、常に予測できない不連続な「破壊的なイノベーション」にさらされてきました。これが更に広がるのではないかと、誰もが戦々恐々としているのです。
このGAFAを例に挙げ、日本も同じ道を歩むべきといった声を耳にします。これは半分正解で、半分は間違いです。これまで、時価総額が大きな企業は、大量の良質な雇用を生むことで社会に貢献してきました。しかし、AppleやGoogleはソフトウェアの会社であり、国内の雇用創出にほとんど貢献していません。また、株主の大半は創業者をはじめとした経営幹部であり、繁栄の果実が広くアメリカ国民に行き渡っているわけではないのです。従って、平均値として豊かさは増しているものの、実際には格差の拡大を助長しているのであり、このことがアメリカ社会に様々な問題をもたらしています。これが、トランプ大統領が誕生した背景にあります。日本経済が現在対峙している問題は、この大きなビジネス環境の変化に対応できなかったことによって生じています。しかし、例えこの波に乗れていたとしても、実現できるのは、一部だけが豊かになる成長モデルだということです。これこそが、グローバル化とデジタル革命による経済成長の構造的な特徴であり、欠陥だと言えます。

 

リアルにおけるデジタル革命

デジタルテクノロジーはこれまで、音楽やSNSなど、「カジュアル」なエンターテインメントを中心に、「バーチャル」な世界で実用性を発揮してきました。それが今では、質量があり、熱量がある「リアル」の時代を迎えています。具体的には、自動車や医療をはじめ、建設現場などの「リアル」への導入が図られています。これにより、更に幅広い産業群がデジタル革命の波をかぶることになるため、日本経済の行く末を懸念する声もあります。しかし、この段階の大きなイノベーションの波を企業や社会がうまく取り込むことができれば、世界から日本が周回遅れにされた問題と、先行したために世界が抱えている問題の双方を、同時に解決できるチャンスがあるのではないかと期待しています。
デジタル革命は現在、「リアル」かつ「シリアス」な領域に踏み込み始めました。例えば、自動運転技術です。当初、2018年頃にはカリフォルニア中を無人の車が走り回ると言われていましたが、現実はそうなっていません。全ての人が、論理的に通行しているのであれば、技術的には既に可能なのかもしれません。しかし、リアルな世界には、車道に飛び出す歩行者がいて、交通違反をする人もいます。このような不規則な行動に対して、AIはまだ対応しきれていません。バーチャルであれば、多少の不具合は発生してから修正すれば済みますが、人の命がかかるリアルではそれでは取り返しがつきません。リアルは、常にシリアスだということです。天才プログラマーの予定通りにリアルは動きません。人手不足の問題を抱える建設業界においても、急ぎ導入を進めたいところではありますが、法整備をはじめとした環境整備については慎重に検討する必要があります。
また、リアルでは実際にモノが動いて消耗していくため、ハードウェアの性能が非常に重要となります。ここで、真面目にこつこつとつくり込むということに価値が出るのです。そして、このような連続的な改良・改善は日本企業が最も得意とするところです。AI研究の第一人者であるギル・プラット氏は、アメリカ国防高等研究計画局(DARPA)においてプログラムマネージャーとして活躍後、Googleではなく自動運転を研究・開発するトヨタグループの研究所のCEOに就任しました。また、パナソニックグループがシリコンバレーに設立したパナソニックβに、Googleから松岡陽子氏がチームごと移籍してきました。彼女は、スマートホームデバイスである「Google Nest」を開発した、ロボット工学の世界では有名な研究者の一人です。4人の子供を育てながら働く彼女にとって、住設機器や家電の機能性の向上が不可欠だと考えての決断でした。彼らは、ソフトウェアだけでは物事を解決することができないと判断したのです。
現在、世界的に風景は変わりつつあります。ハードウェアの性能向上に取り組んできた日本が、一周回って見直され始めているのです。これから、ソフトウェアとハードウェア、アナログとデジタルを融合させることで、新たな価値を創造していく時代が訪れます。しかし、そこでは従来とは一線を画した発想や工夫、あるいは全く別分野の人材が関わっていかないと、新しい価値など生み出していくことはできないと考えています。

 

指標に置くべきは労働生産性

これからの時代において主役となるのは、地域に密着した仕事を行う中堅・中小企業だと思っています。グローバリゼーション、デジタル革命とは、経済の中心が巨大なグローバル企業に移っていくことだと錯覚しがちですが、先進国においては逆の現象が生じています。大量生産型の製造業は発展途上国へとシフトし、先進国においては地域に密着し、フェイス・トゥ・フェイスで行うような、住宅や交通、飲食、医療・介護といった産業が基幹産業になりつつあります。つまり、経済全体のバランスが、「ローカル経済圏」の企業にシフトしつつあるのです。そして、地域密着型のこれらの産業を支えているのは、中堅・中小企業です。日本経済再生のために、大企業が工場を国内に新設して正社員を雇用すべきといった声もありますが、産業構造的にこれはもはや不可能です。このことを真正面から見つめた上で、日本や世界が抱えている問題への答えを探すことが生産的だと私は考えています。
こうした状況において、経営者として最も大切にすべき指標は「付加価値労働生産性」です。付加価値労働生産性とは、粗利益を働いている人数や労働時間で割ったものです。これをいかに高められるかが、経営において最も重要なKPI(重要経営指標)となります。私は、2007年に㈱経営共創基盤(IGPI)を設立し、多くの企業の再建に携わってきました。その中で、東北地方などにおいてバス会社の再建を手掛けています。東北地方は、東北新幹線等の完成によって人口が東京に流出し、1990年代から若年層を中心に猛烈な勢いで人口減少が進みました。
まず、福島県で路線バス事業を行う福島交通㈱から着手し、現在では岩手県や栃木県、茨城県などでバス事業の再建を行っています。当初は、経営状態の改善に向けて、路線の縮小やリストラ等も視野に入れていましたが、最も深刻な問題が運転手の不足であることが分かりました。運転手不足による供給不足が、経営不振の原因だったのです。地方においては、車は一人1台を所有していることが当然であり、バスユーザーは車を運転しない高齢者と学生です。しかし、高齢者が爆発的に増加しているのに対し、運転手の供給源である生産年齢人口が減少しています。市場は拡大しているにも関わらず、供給が足りなくなっていたのです。
当時、同様なことが全国で起こると主張しましたが、誰も信じませんでした。失業率が上昇する中、働き手が不足するとは考えにくかったのです。しかし、2012年に団塊の世代の大量退職が起こり、これが顕在化しました。人の手が必要となる労働集約型産業である医療関連や、交通・運輸関連、建設関連などにおいて特に顕著になっています。その場にいなければ成立しないこれらの産業は、今後ほぼ恒久的に人手不足が続くということです。
こうした時代を勝ち抜くためには、何よりも人を雇える経営環境を維持することです。例えば、バス会社の売上高は運転手の数で決まりますが、運転手の増員には待遇の改善が不可欠です。待遇を上げ、かつ会社を存続させていくためには、「付加価値労働生産性」を上げていく必要があるのです。労働生産性に分配率をかけたものが賃金ですから、分配率が一定レベルなら労働生産性の向上が必須です。逆に、労働生産性を上げずに分配率を上げると、設備投資が減少し、設備が老朽化することで更に生産性が下がってしまいます。従って、競争力の向上においても、この付加価値労働生産性が源泉になるということです。
おかげさまで、岩手県の岩手県北バスグループは、5,000人を雇用する日本で有数な高収益のバス会社へと成長しました。これは、地味に真面目にコツコツと取り組んだ成果です。同社で徹底的に行ったのは、「分ける化」と「見える化」です。路線ごと、運転手ごと、営業所ごとに生産性や収益性を把握し、その向上を常に追い求めて工夫を重ねてきました。この過程で、デジタルテクノロジーが役立ちます。例えば、ICカードを導入すれば、路線ごとの収支が簡単に出せます。更に、いつ、誰が、どのバスに、どこからどこまで乗ったのか、あるいは、停留所ごとの乗車率といった、ビッグデータが集まります。これによって、例えば誰も乗車しない停留所のために遠回りするルートを設定していたといった無駄があぶり出されるのです。何を改善したいのかを考え、そのために役立つデジタルテクノロジーだけを取り入れることが重要です。
オープンイノベーションが進み、優秀なプログラムを比較的安価で導入することができるようになりました。現在導入を進めているのが、ダイナミックルーティングです。過疎が進む山間部において、定時運行は効率が悪いため、お客様のスマートフォンと連携して自在に運行ルートを変えられるというサービスです。こうしたシステムを自社で開発する必要はありません。こういったことをやりたいと発信すれば、世界中から提案が集まってきます。彼らは実証データがほしいのです。コンペ形式にすれば、想定以上に安価で導入することができます。現在は、地域に根を張っているということが価値を持つ時代なのです。
営業所や整備士、運転手が必要なバス事業に、Uberは決して手を出さないでしょう。UberもGoogleもクラウド上にいて、決して地上にまで降りてはきません。しかし、真に社会に必要な価値を提供しているのは、地上に根を張る中堅・中小企業なのです。旅館やホテルも、今や世界中で予約できるようになりました。評判が良ければお客様は訪れます。ネットはネットで、リアルはリアルでと分業が進む中で、地域に密着して、きらりと良い仕事をする企業が生き延びやすい時代になってきました。そういった企業が、デジタル革命、グローバリゼーションの果実を手に入れるチャンスが広がってきているのです。

 

ローカルから21世紀の中産階級をつくる

かつては大手製造業がもてはやされ、サービス業や観光業は最低賃金産業とされていました。しかし、様々なテクノロジーによって供給効率と労働生産性を向上させ、働く人の待遇や働き方を改善できれば、生活も豊かになっていきます。ここに、21世紀の中産階級をつくっていかなければならないと考えています。ローカル型企業は、外国企業と競合しません。地域でしっかりと事業を運営できれば、雇用が安定し社員は相応の暮らしができます。こうしたアプローチが、現代において経済や社会を健全に発展させていく上で重要だと考えています。より多くの良質な人材をひきつけることができれば、社会にとっても、個々の企業の競争力強化という意味においても、WIN-WINのモデルになります。そして、住宅業界においても同じ問題意識を共有し、ぜひ実現していただきたいと思います。
皆さんは、既に多くの経営努力をされていることでしょう。しかし、経営には常に創意工夫の余地があります。周囲の環境変化により、それまでの強みが逆に足かせとなることもあり得ます。そこに、デジタルテクノロジーを組み込むことで改善・改良する余地が生まれるのです。以前は、テクノロジーの導入には多額の費用と専門的な知識を持つ人材が必要でした。しかし、デジタル革命の恩恵として、最先端の技術を、簡単に、そして安価に導入できる時代になりました。ですから、それを経営に生かせるかは、経営者の手腕にかかっているということです。
デジタルテクノロジーを駆使することで、結果として企業業績が向上し、従業員が充実した人生を送れるようになることが、日本経済の持続的な再生において肝要だと思っています。日本において働き手の8割以上が中堅・中小企業で働いています。いまや、地域密着のローカル型企業が日本のGDPの7割以上を生み出しているのであり、皆さんが日本経済再生の担い手だと確信しています。ぜひ、新しい流れを上手につかみ、仕事をしっかりと見つめて、「分ける化」「見える化」をコツコツと続け、ともに日本の社会と経済の持続性を高めていただけることを願っています。