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インタビュー  都内最大級の木造保育園が上棟  保育園の木造化・木質化を推進

現在、東京都荒川区において、木造3階建て、延べ床面積1,600㎡超という、都内最大級の木造保育園が建設されています。ナイスグループも本物件に、施工面で協力しています。今回は、本物件を設計した㈱I-PLAN(アイプラン)の井口智明代表取締役に保育園の設計におけるポイントを伺いました。

 

累計500園超の保育園を設計

――㈱I-PLAN(アイプラン)様の事業について教えて下さい。
井口  当社は、2006年に設立された一級建築士事務所です。現在では、設計事業と不動産事業、コンサルティング事業などを核として、様々な事業を展開しています。設計事業では特に、保育園の設計を得意としており、これまでに累計で約500園、年間30~40園の実績があります。以前は、既存ビルの1フロアを保育園にリノベーションするケースを多く手掛けていましたが、そうした好条件の空きテナントが減少し、最近では、新築ビルの1~2階などを保育園とするケースや、一棟型の保育園を一から設計するケースも増えてきました。こうした一棟型の保育園の設計については、今年だけで20園、累計で100園以上に携わっています。
更に、自社グループで保育園の経営も行っており、現在は18の保育園を運営しています。保育園を直営することで、お施主様、事業主様だけでなく、保育士の声についても吸い上げることができています。日頃から園児たちの行動や安全を見守る保育士の生の声を次の設計に反映させることで、常にブラッシュアップを図っています。不動産事業としては、保育園の開設につながる土地情報の収集や開発も手掛けているほか、当社が保有する保育園に関連する総合的なノウハウを生かし、園の運営全般に関するコンサルティング事業も行っています。これが当社の大きな強みの一つであり、これにより設計についても相談件数が一気に増えました。

――保育園の設計におけるこだわりをお聞かせ下さい。
井口  設計に当たっては、何よりも園児の安全を最優先させることと、実現可能な計画をお施主様にご提案することを常に心がけています。園児の安全に対するこだわりは保育園として当然のことです。例えば、フローリングや腰壁に衝撃吸収性が高い柔らかな無垢の木材を提案するなど、当社のきめ細やかな設計はお客様から高い評価をいただいています。
実現可能な計画という点については、保育園の建築は開園予定の4月1日に完成していることが絶対条件です。ですから、工期はもちろん、コスト管理についても徹底的にこだわり、これらを踏まえたデザインを提案するようにしています。
例えば、保育園の事業主様の中には、良い建物を追求するあまりに、費用を度外視するような方もいらっしゃいます。しかし、魅力的な建物がお客様を呼び寄せる商業施設等と異なり、定員がある保育園はどんなに素晴らしい建物でも収入の上限が決まっています。同一地域、同一定員の保育園であれば、収入はほぼ変わりません。支出についても、人件費や借地料等が大きく変わらないため、収支バランスはどの園でもほぼ似通ったものになります。この収支バランスを崩すほど建物に予算をかけると、そもそも建築ができないこともあり得ますし、その後の修理、維持費用が捻出できないということにもなりかねません。ですから、事業主様のご要望に対しては、当社で算出した収支バランスの範囲内で無理なく実現可能なプランでご提案するようにしています。事業計画や収支構造を見据えた提案ができるのも、当社ならではと言えます。

 

木造提案が決め手

――貴社が設計を手掛けられた、現在、荒川区で建設中の保育園は、延べ床面積1,600㎡超と、木造の耐火構造の保育園としては都内最大級です(図1)。施工は㈱シェルター様で、ナイスグループも協力させていただいています。本物件は、どのような経緯で受注されたのですか。
井口  当初、設計を担当していたのは当社ではありませんでした。計画スタートから5年が経過し、建築コストが上昇して概算見積もりが倍近くまで上がってしまったそうです。そこで、当初予算で実現可能な提案ができる設計事務所を集めてプロポーザルをすることになり、保育園について実績がある当社にも声をかけていただきました。
当社に決まった最も大きな要因は、当社だけが木造での提案だったということです。他社は鉄骨造や鉄筋コンクリート造でした。建設地は、荒川区からの30年の定期借地です。川沿いの住宅密集地で軟弱地盤、国道からも少し離れ、接道条件も悪いという難しい立地でした。そこに、これほどの規模の保育園を建てられるのかという不安を事業主様は感じておられるようでした。加えて、プロポーザルに至る要因となっていた、建築コストの上昇という不安要素もありました。そうした中、当社の木造提案がこれらの不安を払拭できたのが決め手となりました。
例えば、鉄筋コンクリート造の計画では少し離れた国道に停めたポンプ車からパイプをつないでコンクリートを打つという計画でした。これから保育園を運営していくに当たって、近隣住民の方々にはできるだけご迷惑をかけたくないという思いが事業主様にあり、その点もプラスに働きました。近隣への配慮という点では、杭打ちの問題もあります。鉄骨造や鉄筋コンクリート造では杭の重量が増し、打設時の振動や音がクレームにつながることがよくあります。更に、川沿いの軟弱地盤において地下部分の費用を落とすにも木造は有効だったのです。
また、建築コストについては、鉄骨造と鉄筋コンクリート造の工事価格の上昇は続いていました。建築着工はこのプロポーザルから更に2年後の予定で、着工時点の工事価格を正確に予想するのはほぼ不可能、鉄骨・鉄筋の納期もはっきりとしない状況でした。当時、当社は都内で1,000㎡規模の2つの木造保育園に携わっており、その経験から工事価格はほぼ予想がつきました。また、木造はプレカット対応ですから、工場で半年待ちといったこともなく納期も安定しています。建築コストも工期も自信を持って提案できたことが大きかったと思います。
更に、保育園の建設に当たっては、解体コストも重要なポイントとなります。実は、保育園は自治体の定期借地で運営するケースが非常に多く、その場合、更地にして返す契約になっていることがほとんどです。解体コスト、そして解体そのものの容易さという点でも、木造に勝るものはありません。この建設地では、今回の保育園を建築する前に鉄筋コンクリート造の公立の保育園が解体されました。公立だったため、敷地に隣接している国有地の川の土手に重機を入れることができました。しかし、現在その土手では堤防を整備中で、これが完成すれば大型重機は使えなくなります。つまり、木造以外では解体することが非常に困難だということです。

 

木造は難しくない

――本案件では貴社の木造経験が生かされ、また木造そのものの特長が最大限発揮されたとのことですが、一方で、設計事務所様の中には、木造の経験が少なく、木造を手掛けるのに二の足を踏むところもあるようです。
井口  その点は心配いらないと思います。というのは、細かい納まりなどについては今回施工を担当したシェルターさんのような独自の工法を有しているメーカー様にご協力いただき、当社が設計した空間をつくれるかどうかを一緒になって検討いただいているからです。木造の経験が少ない設計士は、どう進めればよいか分からないかもしれませんが、こうしたノウハウを持っているところにご協力をいただき、提案していただけばほぼ解決します。こうして木造の経験を積み重ね、知識を増やしていけばよいのです。設計事務所の中には、最初から木造という選択肢を除外しているところが多いように思います。まずは、苦手意識や抵抗感を持つことなく、選択肢の中に木造を入れるところから始めるべきだと思います。
また、今回は住宅密集地の中での建築ということで、大型トラックが搬入に使えませんでした。そのため、いかに物流を組み立てるかがポイントの一つとなりました。この点については、ナイスさんの力が大変大きかったと伺っています。ナイスさんが物流ルートを入念にシミュレーションし、ラストワンマイルを担っていただいたことで、建築することができました。このように、各社が持つ機能を十二分に活用し、連携していくことが重要だと思います。

 

 

木造への民間ニーズは更に高まる

――公共建築物の木造化・木質化が推進されていますが、行政やお施主様の意識は以前と比べて変わってきていますか。
井口  行政サイドには「できれば木造で」という意識が確実にあります。また、民間においても、木造提案を受け入れやすい土壌が既にできているように感じます。とりわけ、保育園では子供に良い、環境に良いという点が重視され、事業サイドから木造化・木質化の要望が非常に増えています。こうした声にはしっかりとお応えしていきたいと思います。

――内装木質化についても、積極的に推進されていますね。
井口  内装木質化に取り組んだきっかけは腰壁からでした。当初は腰壁シートを採用していましたが、園児達が破ってしまうため、数年も経つとぼろぼろになっていました。こうなると、0~2歳児が破れたシートをちぎって口に入れるといった恐れがあります。そこで、天然素材で耐久性があり、衝撃吸収性にも優れて安全だということで、壁や床に木材を使い始めました。
材種についても試行錯誤しましたが、ヒノキやアカマツなどの柔らかな国産針葉樹の無垢材が保育園には最適だというのが私の結論です。更に、より効果的に木質化するために、自社で木曽ヒノキを使った不燃木材を開発しました。今回の保育園でも採用されました。ただし、0~2歳児の保育室の床は、嘔吐物を薬剤で消毒する機会が多いため、たとえ要望をいただいても無垢フローリングは使わないようにしています。
ビル内の保育園など、鉄骨造や鉄筋コンクリート造の建物内を木質化するのに、この不燃木材は非常に役立ち、内装制限があるところでもふんだんに木を使うことができます。鉄筋コンクリート造の銭湯をリノベーションした「美奈見ここわ保育園」などが好例です(図2)。

 

――最後に、今後の保育園の建築需要についてお聞かせ下さい。
井口  政府は2020年度末での待機児童ゼロを目指していますが、実現に向けて都市部ではまだ保育園が不足している状況です。少なくともあと数年にわたり保育園は拡充されていくと思います。その先は、公立保育園の民営化が進められ、それに伴い老朽化した施設の建て替え需要が相当数あります。これらの園においては、間違いなく木造化・木質化が検討されていくと思います。
一方で、地方においては、子供の減少による収支の問題から、公立のままでの建て替えになると思っています。地方の子供は減少していくとされていますが、極論を言えば、一人でも子供がいる以上、必ず保育園は整備されます。保育園をなくすというのは、「その地域に子供がいることを諦めます」「若い世帯、子育て世帯は受け入れません」と、地方自治体が公言しているようなものだからです。ですから一定の需要は引き続き期待できると思っています。
当社では、保育園の設計をはじめ、開業支援などのコンサルティングなどに豊富な実績があります。ぜひお気軽にご相談いただければと思います。

――本日はありがとうございました。 
 

㈱I-PLAN
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