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特別講演 意志あるところに道はできる

大切なのは「戦意」でありそして思いを伝える「熱さ」であると語るTOTO株式会社の喜多村円社長は、世界にTOTOのファンを増やすという強い意志の下、力強く歩みを進められています。今回は、仕事に対する姿勢や経営理念の伝え方などについて語っていただきました。

 

 

世界中にTOTOファンを増やしていく!

 TOTO株式会社(以下、TOTO)では現在、昨年度より中期経営計画「TOTO WILL2022」を推進しており、2022年度の売上高7,200億円、営業利益800億円の達成を目指しています。本計画においては、売上高の30%を海外事業で占めるというビジョンを掲げています。そのため、策定に当たっては、グローバル事業推進本部を組成し、各国経済の将来性をはじめ、年収ごとの家庭の暮らしぶりや水回り事情などを綿密に調査し、各国の数字を積み上げました。その結果、目先の数字に踊らされることなく、各国の業績伸長への思いを信じていこうと、名称を「WILL=意志」としました。
昨年度は米中の貿易摩擦などもあり、業績が計画を下回り、厳しい意見も頂戴しました。しかし、この中期経営計画は、各部署が考え抜いた末に出した数字の集合体であり、必ず達成できると信じています。「山頂が見えない山ではなく、自ら決めたルートで目の前の山に登っているのだから、全員で追い求めていこう。例え、達成が2025年になっても構わない」と社員に語りかけています。
TOTOのウォシュレットは、おかげさまで海外でもご好評をいただき、アメリカでは月間約1万台、中国では月間5~6万台を販売しています。販売の拡大に伴い様々なクレームも発生しますが、丁寧に解決するためアフターサービス網の構築を急ぎ進めています。「TOTOの製品は10年、20年と永くご愛用いただくものだから、販売して終わりではなくアフターサービスこそが重要であり、それがブランドになる」と先輩から受け継いできました。こうしたTOTOの精神を世界に根付かせるため、一言で伝えられる言葉は何かと悩んだ末に生み出したのが、「世界中にTOTOファンを増やしていく!」というメッセージです。また、「日本を世界のショールームに」という標語も、私が編み出しました。日本の事業基盤がしっかりとあるからこそ、海外に進出できるということを端的に表現したつもりです。
社員に対して伝えたいことがあまりにもあるため、いつも悩み、考えて、考えて、考え抜いています。こうしたキャッチフレーズを通じ、私は社員の足並みを同じ方向に揃えるというよりも、目の向き方を揃えていきたいと思っています。そのために社長は常に考え抜かなければならないというのが、私の経験です。

 

理念は上が熱く語るもの

 戦略、戦術は手段と結果に筋道が立った物語になりますが、「戦意」はそうではありません。多くの経営者が「選択と集中」「人材育成」を必ず一度は口にするように、実は各社の戦略、戦術にはそれほどの違いはないのです。違いが表れるのは、それをやり通せたかどうかの差であると考えています。成功した会社に共通しているのは「熱さ」であり、「もっと良い会社にしたい」という社員一人ひとりの強い思いです。戦略、戦術は失敗しても再構築すれば良いのですが、戦意のなさで起きた失敗は取り返しがつきません。戦略、戦術が原因なのか、社員の戦意不足によるものかの判断がつかず、正しく次の手を打てないからです。言い換えれば、社員が戦意に溢れていれば、原因は戦略、戦術に絞り込めます。この戦意を育てるのは容易ではなく、そのためにどうすればよいのかを私は常に考えています。
それでは、どのような戦意を持つ社員に育てていけばよいのでしょうか。ここで大切となるのが経営理念です。TOTOの初代社長、大倉和親が社員に対して残した言葉があります。

 

  これは、現在、当社の社是となっています。「愛業至誠」は、「奉仕の精神でお客様の生活文化の向上に貢献し、一致協力して社会の発展に貢献する」という決意を表す言葉です。私は、この社是を、「自分の仕事に誇りを持って遂行すれば、正しい道に進むだろう。ただしこの3つを守りなさい」と説いていると解釈しています。
TOTOには、社員に対して理念を教育するプログラムはありません。理念というのは、上に立つ人間が熱く語り、行動で示すものだと考えているからです。その意味で私は、経営者には何よりもまず誠実であることが求められると考えています。社員は、上に立つ者の背中の汗を見てついてきます。一度口にしたことをちゃんと実践しているか、理念に沿った判断をしているかを社員は常に見ているのです。この社是が、TOTOのDNAとして脈々と受け継がれていくように、経営していかなければなりません。
経営企画部長時代に、京セラ㈱の伊藤謙介社長(当時)が主宰する会に参加しました。他にはそうそうたる有名企業の役員が顔を揃えており、伊藤社長は冒頭で、「経営理念を大事にされていると私が感じた会社をお呼びしました。一緒に経営理念をどうやって社員に伝えていくべきかを議論してほしい」と挨拶されました。宴席の場でも、テーマに関すること以外を話題にすることは厳禁で、リーダーの育成方法など、常に仕事の話題で熱く語り合いました。この会において、私は一番の若手で、諸先輩方が熱く語る姿がとにかく印象的でした。全員に共通していたのは、「世の中にあってよかったと思われる会社にしたい」「もっと良い会社にして次の世代につなぎたい」といった熱い思いでした。こうありたいという思いがそれぞれの会社の理念に息付いており、理念こそ一生懸命に語るべきことだと感じたのです。

 

スーパーマン=リーダーではない

 花王㈱の常磐文克元会長に、「リーダーシップとは何か」と尋ねたことがあります。常磐元会長からは、「スーパーマンが必ず良いリーダーになれるわけではない」とのアドバイスをいただきました。「リーダーというのは、気持ちの集団をつくるのに長けた存在であり、集団のパフォーマンスのために、時には黒子になれる人物だ」と仰るのです。そして、「そういう人物は、得てしてスーパーマンに近い存在だが、個人の能力が高いことと、組織を強くできる能力は別だということを理解しておいた方が良い」と話されました。誰が見ても本人の手柄なのに、部下がよくやってくれましたと言い切る社員が必ずいます。部門のパフォーマンスしか頭になく、部下を育てるという気持ちが自然と湧き出ています。リーダーとはそういう人物なのです。
TOTOには、部長職以上が対象の勉強会があります。ありふれたテーマを決めて課題解決を話し合い、私の前で発表してもらいます。参加する社員は、部門のスーパーマンですが、この会では徹底的にやり込められます。実は、失敗をしてもらうことに重きを置いた勉強会なのです。そんな簡単に画期的な案など出せません。もしそんな案があるならば、既に実行されているはずです。思いだけでは上手くいきませんし、論理的な矛盾も彼らの案の中にはあります。そういった様々な指摘を受けながら経営陣の考えを知り、経営の厳しさや自身の甘さを感じ取ってもらいたいのです。私も相当厳しいことを言います。しかし、それは足らざるを知り、高い所を目指すために、もっともっと勉強しなければならないことを自覚してほしいからなのです。
常々、経営理念こそ経営陣が実践しなければ役に立たないものだと考えています。夢を抱いて入社した新入社員ほど、下積みの仕事が続くと混乱します。そんな時に先輩が仕事や部門の夢を語れば、新入社員は初めて良い会社に入ったと思えるでしょう。自分はこうありたい、こんな部門にしたいという思いがなければ、仕事は殺伐としたものになります。トップは夢を語らなければならないのです。

 

「助けて」と言える一生懸命さ

 私にとって良い会社とは、「子供を入社させたいと思える会社」です。ある時、中国の現地社員の女性が、息子から「お母さん、あのTOTOに勤めてるの?」と笑顔で言われたそうです。彼女は、TOTOが中国で認められるように頑張ってきただけにうれしかったと、私に話してくれました。この時は、私も一緒に涙しました。先達たちが品質の大切さをしっかりと伝え、良い製品をつくってきたことが中国国内で評価され、こうしたエピソードに結び付いているのです。そういう意味で、海外で高品質な製品をつくれるようになったことは、大きな自信となっています。
TOTOでは年2回、衛生陶器の技能を競う「衛陶技能選手権」を開催しています。日本を含む世界9カ国から厳しい予選を勝ち抜いた技術者が参加し、成型と施釉(せゆう)(コーティング)について、それぞれ順位を競います。数年前、ベトナムが遂に日本を破り優勝しました。最近は拮抗しており、ベトナム、中国、インドネシアと日本の四つ巴の様相です。ある日、そのベトナムのメンバーから、ベトナム工場に勤務していた日本人OBを集めてほしいと相談を受けました。日本の出向者のおかげでここまで成長できたので、食事会で感謝を伝えたいと言うのです。当時は、鬼のように怖くて嫌いだったが、彼らが熱心に教えてくれたからこそ、今の自分達がいると思えるようになったと言われました。
また、2017年のベトナム第3工場稼働の際には、彼らはこの工場を自分たちに任せてほしいと声を上げ、その結果、過去一番の早さで垂直立ち上げを成し遂げました。既存の工場から50㎞も離れた地に新設した工場だったため、当初はどうやって従業員に移ってもらおうかと頭を悩ませていました。しかし、日本からの出向者たちが、ベトナムの発展の為に良い製品をつくっていくんだと絶えず声をかけてきたおかげで、現地の社員は皆熱い思いをもってついてきてくれました。
2014年にインドに工場を建設した際も、「TOTO・フロム・ジャパン」ではなく、「TOTO・インディア」ですと言い切りました。インドの地に根を生やし、100年、200年続く工場としていきますから頑張ってほしいと社員たちを励ましました。インド市場向けのトルネード洗浄の便器を開発したのは2015年のことです。トイレが一家に1台あることを目指すため、節水で消音、なおかつ一度できちんと流れるトイレをつくりました。これを開発したのは、入社10年目の女性社員で、社内のビジネスマスターズ賞で第2位を受賞しました。インドのお客様のためにと一生懸命やり遂げた彼女は、何度もくじけそうになりましたが、私はたまたまこのプロジェクトのリーダーだっただけで、先輩や後輩が助けてくれたと言いました。
一生懸命には2通りあります。まず一つが、善意の一生懸命です。自分でハードルを決め、できることを精一杯やり切ったと自分で納得します。もう一つが、覚悟を持った一生懸命です。この時、ハードルの基準となるのは自分ではありません。必ずやり遂げるために、誰の手でも借り、周りに助けてほしいと声を上げられます。優秀な社員に共通していることは、「助けて」と言えることです。目的が明確ですから、頭も下げられるし、協力を仰ぐための知恵も出てくるのです。部門の壁や、上司の壁といったことを口にする人がいますが、仕事ができる人は壁と言う言葉を絶対に使いません。こうした強い志を持った人間をどうやって育てていくのかが、人材育成の大きなテーマと言えます。

 

働き方改革の本質

 TOTOの働き方改革のベースには、上司が本気で取り組まないことを部下は気にもとめないという考え方があります。優秀な部課長ほど仕事をつくりますから、仕事の棚卸しをさせています。必要のない仕事などありませんが、役割を終えた仕事、置き換えられる仕事はあるはずです。毎年、こうした仕事の棚卸しを積極的に実施しているかなど、意識調査を実施しています。皆が本気で働きやすい職場にしようしているかは、これで分かります。
数年前から在宅勤務制度を取り入れました。この意識調査によれば、実はフルで在宅勤務をしたい社員はおらず、ほとんどが育児や介護の理由で週に1~2日を希望していました。ただし、周りに迷惑をかけるため声を上げにくいというのが本音でした。そこで、今日は帰ってもいいよと言える職場、皆で支え合える会社にしていこうとしています。制度は変えれば良いのです。ただし、特例ではなく、オープンにして皆に使われる仕組みに変えていくことが大切です。
部門長には、残業の削減や、有給休暇の取得目標は自身の裁量で決めて良い代わりに、率先して働きやすい環境をつくってほしいと伝えています。真剣に考えなければ部下は応えてくれません。「残業を減らしなさい」と命じるのではなく、上司がどれだけ働きやすい職場にしようとしているかが大切なのです。

 

理念で意志を束ねる

 新入社員には、他責と自己満足からは何も生まれないと伝えています。上司が分かってくれないなど、できない理由はいくらでも考えられますが、やれる理由はたった一つ、やるという意識だけです。やる気のある人は必ずやります。上司に伝わらないのは、伝える自分の側に100%責任があると自責で捉えない限り、そこには壁があるということでしかありません。しかし、壁など本当はないのです。それは、自分の勝手な言い訳に過ぎません。ナンバーワンになる人は、できない理由からなくしていきます。できないと言う人をいかに動かすかをポジティブに考えるのです。そういった姿勢にも気付かせなければなりません。
何事も意志があれば思いは伝わり、道ができます。意志がない仕事は面白くありませんし、良いものなど生み出せません。社員との対話集会でよく寄せられる質問の一つに、「部下がなかなか育たない」というものがあります。これには、「部門のパフォーマンスを上げたいのか、それとも部下を育てたいのか」と質問を返しています。上司が本当に自分を鍛えたいと思っているのかどうか、部下は間違いなく分かります。更に、「どうして育てたいか部下に話しましたか」と尋ねます。やはり思いを伝えることは大切です。部下全員を同じように育てるのは難しいですし、部下に任せると自分でやるより2倍、3倍も余計に時間がかかります。その覚悟はあるのかと確認しています。
社長として、自分には何が足りないのだろうかと不安に感じることもあります。トップが絶対に避けなければならないことは、知ったかぶりです。知らないことを知らないと正直に言えることは、強さだと思います。また、私は常に熱いと自負していますが、熱く語ることはトップの仕事だと思っています。社員がこうあってほしい、こんな会社にしたいという思いを、社員には理解してもらわなければなりません。これは、いくら語っても語り過ぎることはないと思っています。だからこそ、自分の発言に間違いがないのか、変なこだわりはないかと、謙虚に自問自答するようにしています。
先代から受け継いだ100年の歴史がある会社を、もっと良い会社にして次代に継承させたいと考えています。今あるものに一つでも足して渡すことが喜びであり、だからこそ厳しい事も言います。変化の中で生き延び、勝ち残っていくためには、努力し続けなければならないのです。部下も後輩も育てる必要がありますが、まず努力すべきは自分です。私たちは、次の世代がもっと会社を良くするためのベースを築く所にいるのです。
まずは、「かくありたい」、つまりどんな意志を持つべきか、持ってほしいかを明確にすることが経営者の責任です。意志があるところに、道ができます。それぞれの意志の大きさを束ねるのが理念だと、私は信じています。

 

AI時代の夢ある住まいづくり

 AI(人工知能)やIoTが今後、世の中の仕組みを大きく変えていきます。実際、製造現場ではAIによる生産の革新が激しく行われています。AIが人の能力を超えるシンギュラリティーが注目され、いずれAIがAIをつくる時代が到来するとも言われていますが、人間もそこまで愚かではないとも思っています。
これまで一番進歩がないのが人間の身体です。人間は相変わらず口から物を食べ、お尻から排泄(はいせつ)をします。AIからすれば、人間ほど無駄な存在はありません。なぜ水や光熱費を使って入浴するのか。食事も、必要な栄養素を錠剤等で摂取すればよいのではと考えるかもしれません。しかし、果たしてそれは幸せでしょうか。人間は、こういった無駄を、「ゆとり」や「やすらぎ」と感じているのではないでしょうか。「たっぷりとしたお湯に浸かって疲れを癒やしたい」など、水回りの世界には、そんな独特の価値観があります。住まいについても、家に帰り着いた時のあのほっとする気持ちは、AIは理解できないでしょう。
暮らしの形は本当に様々で、効率だけでは測れません。そこで、こうした一人ひとり違う価値観をどのように実現していくかが、住宅事業者の腕の見せ所だと思っています。それぞれの夢を一つひとつ丁寧に積み上げていくということです。こうした価値観を失いたくありませんし、メーカーとして自分たちもほしくなるようなバラエティーに富んだ商品を開発し、住まいづくりのお手伝いをしていきたいと考えています。それこそが私たちの誇りに思える仕事になるでしょう。その上で、本気で社員を育て、良い会社になるよう努力しながら、皆さんとともに仕事をしていきたいと思っておりますので、今後ともよろしくお願いします。