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特別講演 最近の政治経済情勢について

混迷を極める世界情勢や、日本の消費増税後の経済、人口減少はどのように捉えればよいのでしょうか。元財務官僚で、歴代内閣を支えたブレーンの一人でもある経済学者の高橋洋一氏による9月11日の講演を収録しました。

 

 

内閣改造から憲法改正へ
 

政治経済の動向を予測するに当たり、私はまず半年から1年先の政治日程を検証することにしています。現在で考えると、内閣改造が行われ、今後、秋の臨時国会が開催され、消費増税後の景気対策等について議論がなされるでしょう。そして、来年1月の通常国会において、来年度の予算審議が始まります。予算成立後は、順調にいけば内閣を改造した意図にも深く関連する、憲法改正に向けた動きが活発化するでしょう。
実は、日本ほど憲法改正の手続きを厳格化している国はそうありません。憲法改正の発議には、衆議院・参議院の各議院においてそれぞれ総議員の3分の2以上の賛成が必要となり、更に国民投票において過半数の賛成を得る必要があります。この厳しい要件もあり、第二次世界大戦後に憲法を改正していない先進国は恐らく日本だけです。安倍晋三内閣は、これからそこに挑戦していこうとしています。
現在の情勢下で、衆議院において3分の2以上の賛成を得ることは決して難しいことではありませんが、参議院ではそうではありません。今年7月の参議院議員総選挙前、参議院は憲法改正に積極的な自民党・公明党・維新の党の3党で3分の2以上の議席を有していたにも関わらず、議論が深まらず発議には至りませんでした。現在の議席数は、発議に必要な3分の2に対して4議席足りていないのが現状です。しかし、無所属の議員と協力すれば不可能なことではありません。今回の内閣改造はそのためであり、来年の通常国会では間違いなく憲法改正の発議が具体的な争点となっていくでしょう。
今回の内閣改造では、菅義偉内閣官房長官、麻生太郎内閣副総理は留任となりましたが、13人が新入閣となりました。「お友達内閣」と揶揄(やゆ)する報道もありましたが、この内閣の目標は憲法改正であり、安倍総理と政策が一致する人物を集めることは、ある意味で当然の成り行きです。また、今回の人事により、自民党の次の総裁候補についてもはっきりと浮かび上がってきたと見ています。それは、菅官房長官と岸田文雄自民党政調会長です。政治家に求められることは、まず選挙に強いことですから、今夏の総選挙の結果だけを見れば菅官房長官が有利と言えます。しかし、安倍総理は岸田氏を政調会長という重要ポストに就かせることで、両名が競い合えるようしました。現在、この2人が横一線の状態にあると私は見ています。
また、石破茂氏の石破派は、残念ながら次期総裁選に立候補するには議員数が足りていません。この切り崩しに貢献したのが、外務大臣に抜擢された茂木敏充氏です。私は、2代先の総裁候補として頭角を現してきたのが、この茂木外務大臣をはじめ、厚生労働大臣に返り咲いた加藤勝信氏、外務大臣から防衛大臣に就いた河野太郎氏と考えています。河野防衛大臣は近頃、外交関係において存在感を示しました。加藤厚生労働大臣は、旧大蔵省出身で私とも同世代ですが、当時から非常に優秀で、安倍総理が重用するのもよく分かります。

 

 

米中貿易戦争とトランプの策
 

米中の貿易戦争について、どちらが正しいかということを議論しても意味がありません。アメリカは、自ら戦争を仕掛けた時は、自国が有利になるように状況をつくり出します。一旦敵に回せば、非常に苦しい相手です。その点、北朝鮮の金正恩総書記は賢く立ち回っているようにも見受けられます。習近平国家主席ほど突っ張らずに、うまくトランプ大統領の懐に入りました。
安倍総理は、トランプ大統領との良好な関係を他国に先駆けて築き上げました。大統領選後、勝利したトランプ氏と最初に会談した先進国の首脳は、安倍総理です。他の国は、まだ任期中だったオバマ前大統領に配慮し、接触していませんでしたが、安倍総理は、先手必勝とばかりにすぐにコンタクトを取ったのです。こうした行動力は、ビジネスでも見習うべき点です。また、アメリカではゴルフの際にキャディーをつけず、2人きりで多くの時間を過ごすため、ラウンドする相手を選びます。安倍総理はこれまで、トランプ大統領と5ラウンドをともにしており、2人だけで累計約15時間を過ごしました。トランプ大統領と2人だけでこれほど話した首脳はほかにはいません。
米中貿易戦争について、概して米中が互いに容赦なく関税のかけ合いをしているなどと言われています。しかし、これはそんなに単純な構図ではありません。トランプ大統領は非常にしたたかで、賢く関税をかけています。つまり、中国からしか輸入できず、代替品がない製品については関税を軽くし、中国以外からも輸入できる製品については関税を重くしているのです。つまり、本来であれば、関税分が消費者価格に転嫁されるのですが、中国製品の価格だけが上がっても、消費者は代替品を購入すればこと足りるため、結果として中国企業が関税分を負担して価格を維持せざるを得ません。ですから、アメリカ国民は米中の貿易戦争の影響をそれほど受けてはいないのです。
一方で、中国はアメリカの農産物に関税をかけているため、中国国内においてアメリカ産農産物の価格が上昇しています。この点については、アメリカの農家たちのフラストレーションがたまっています。しかし、これに関してトランプ大統領には秘策があると私は見ています。中国企業が被った関税により、アメリカは関税収入が上がっています。恐らく、そこから得た資金を来年の大統領選前に国民に対して還元しようとするはずです。そうすれば、アメリカ国民は喜び、農家も補助金が入って一息つけ、一石二鳥です。トランプ大統領に立ち向かう民主党も、知的所有権や軍事技術の盗用問題に関するトランプ大統領の対中姿勢は評価していますから、議会対策にもつながっています。

 

 

深刻さを増す日韓問題
 

現在、日韓関係は大変な状況に陥っています。当初は輸出規制の見直しであり、日本政府としては韓国政府が対応しやすい要求をしていたと思います。外国為替及び外国貿易法(外為法)に基づく輸出貿易管理令の改正は、安全保障の側面もありますが、その改正理由を読めば担当者レベルで韓国が対応すれば解決する問題でした。ところが韓国は、歴史問題に対する日本による経済報復だと推測した上で、全く違う問題にしてしまいました。輸出貿易管理令の改正理由に記載されていない歴史問題を言っても意味がなく、韓国は改正理由だけに絞って対応すればよかったのです。
また、韓国は一方的に軍事情報に関する包括的保全協定(GSOMIA)を破棄したことで、米韓関係の悪化まで招いてしまいました。韓国では、在韓米軍の撤退を求める声や、米韓軍事同盟の不要論といった過激な意見も出てきていますが、そもそもトランプ大統領は公約として在韓米軍の撤退を挙げていましたから、そうした声に乗る可能性もあります。ただし、現在でも終戦に至っていない朝鮮戦争における国連軍の総司令部はソウルにあり、後方司令部は日本の横田基地にあります。朝鮮半島から在韓米軍とともに国連軍が撤退し、日本に総指令部が移れば、現在の軍事境界線「38度線」が対馬海峡にまで後退する可能性もあります。
こうした日米韓の情勢に、ロシアと中国が熱い視線を送っています。これは、安全保障政策における大きな転換点ともなり得ます。万が一、韓国が北朝鮮にのみ込まれるような形で南北統一が進むのであれば、安全保障上重大なリスクとなりかねません。

 

 

マイナス金利時代と国債
 

経済を見通す指標の一つに「イールドカーブ(利回り曲線)」があります(図1)。金利というのは、ご存知の通り1年、5年、10年といった年限ごとに異なりますが、これは横軸を年限、縦軸を金利として、期間と利回りの関係を表したものです。2015~2019年の5年間にわたり、8月末時点での国債の金利におけるイールドカーブを比較すると、今年は8年まで右肩下がりとなっています。本来であれば、期間が長くなるに連れて利回りが上昇するため、通常は昨年までのようにイールドカーブは右肩上がりとなります。しかし、金融政策などにより、短期金利が長期金利を上回ると、こうした「逆イールドカーブ」と呼ばれる曲線を描きます。しかも、金利はマイナスです。現在、世界ではヨーロッパと日本がこの状況にあります。
この図を読み解くと分かることは、単純に言えば7年後の1年金利は現在の水準より下がっているということです。そして、これほどの低金利でありながら逆イールドカーブになるということは、日本経済の見通しが今後8年程度は良くないと言っているのに等しいのです。
先行き不安になるかもしれませんが、裏を返せば資金調達には最高の環境にあります。私が大蔵省で国債を担当していた時は、毎日のようにこうしたカーブを確認しながら、どの時点で国債を発行するのが最も割安になるかを考えていました。私が現在の担当であれば、8年で100兆円を借ります。金利は-0.4%程度ですから、1年間で約4,000億円、8年間で3.2兆円も利息が入る計算になります。
これを突き詰めていけば、住宅ローン金利をマイナスにして借りる人に還元するようにすることも理論上では可能です。実際に、スイスやデンマークでは、住宅ローンを借りると利息を受け取れるようにしたことがあります。(独)住宅金融支援機構は、実質的には政府の子会社であり、自ら債権の発行ができます。恐らく、調達金利が0%程度の債権になるでしょう。国が同機構の代わりに資金を調達すれば、理論上は20年程度をマイナス金利にすることすら可能です。現在の住宅ローン金利は、10年固定金利で0.7%程度です。政府が本気で実行しさえすれば、-0.3%程度の金利で調達できるため、現在の住宅ローン金利の水準でも個人的には高すぎるのではないかと思っています。10年国債を購入して原資とすれば、手数料や人件費を上乗せしてもそれほど高い金利にはなりません。
海外の事例もありますが、住宅ローンのマイナス金利政策も良いと思っています。金利がこれだけ低い中、そこから得られる利益を政府に収めるのか、あるいは住宅取得者に還元するのか、それだけのことです。このように考えていくと、景気対策も簡単です。
国債発行額が約1千兆円と言われると途方もない数字と感じますが、そのうち日本銀行が500兆円弱を保有しています。日本銀行は政府の連結子会社と見なせますから、連結バランスシートで考えれば、1千兆円はネット500兆円で問題ありません。このように考えていくと、日本の借金は決して大変なわけではないという結論に至ります。とりわけ、今はマイナス金利ですから国債は増やしても構いません。金融資産で国債金利はまかなえますから、国債を増やすことは、実は大騒ぎするようなことではないのです。
国債がマイナス金利になる理由の一つは、国債の品不足です。国債発行額の約1千兆円のうち、500兆円程度は日本銀行が持っており、マーケットに出ているのは一部だけです。つまり、国債が品不足で価格が高くなりすぎるためマイナス金利になっている、というのが現在の状況です。国債の人気が上がれば金利が下がるわけですが、品不足でプレミアがついている状況がマイナス金利をもたらしているのです。
こうした状況で国債を発行するのは、政府としては正しい方策と言えます。これが臨時国会で議論されれば、イールドカーブのゆがみや、マイナス金利が解消されていく可能性はあります。しかし、それでもベースとなる金利の上昇はそれほどではないので、住宅ローン金利が上がることは考えづらいと思っています。

 


人口減少は怖くない
 

厚生労働省は8月、公的年金財政の健全性をチェックする財制検証を公表しました。これにより、年金問題が世間を騒がせています。よく勘違いされているのですが、年金は福祉ではありません。福祉だと運営の指針がなく、簡単に破綻してしまうことから、いずれの国も社会保障は保険で行います。死亡保険は亡くなると保険金が支払われますが、年金は長生きすると受け取れる保険なのです。もし誰かが想定よりも早くに亡くなると、その分が長生きしている人に回ります。年金の総受給額が多いか少ないかは、長生きするかどうかにかかっているのです。
年金は、図2の簡単な数式で成り立ちます。

 

 

保険というのは、単純化すれば偶然の現象を利用したものです。年金は、保険料率をそのままに、所得代替率を上げるだけで簡単に破綻します。言い換えれば、この数式に沿って進めている限り破綻しません。これは非常に単純な算数なのです。
年金の運営で重要なことは、出生率です。厚生労働省は、1990年代には出生率がいずれ上がるだろうと予測してきましたが、今はこの予測を修正しています(図3)。実は、2002年の推計は私が小泉純一郎内閣の時に担当したもので、この推計はほぼ当たっていると自負しています。現在の年金制度は、この2002年の推計を元にしています。年金の見通しが5年前の2014年より悪化したという報道を見受けますが、人口推計が間違っていませんから、5年前とほぼ一緒だということです。
人口減についても、推計通りに減っている以上は深刻に考える必要はありません。例えば、住宅もその推計値に見合った戸数を建てればよいのです。少子化による空き部屋や空き家の増加についても予想されていたことで、民泊のような新たなビジネスも生まれてきています。予測通りに事象が進んでいる限り、人口減少について私は楽観的に捉えています。30~40年にわたって続くと大きな変化がありますが、その時までに制度を立て直せばいいのであり、それは決して難しいことではありません。予測可能なことであれば、必ず対応策は採れるのです。また、人口減少による問題点の一つには、地方自治体の運営があります。これは合併で対応していかざるを得ないでしょう。
『人口論』の著者であるトマス・ロバート・マルサスによれば、人口の増加と食糧生産の増加との関係にはアンバランスさがあるなど、人口増にも多くの問題があります。しかし、人口減は、一人当たりの機械装備率が高くなり機械化することで補えるというのが、経済学における一般的な解です。ですから、人口減少はそれほど大きな問題ではないということを、最後にお伝えしておきたいと思います。