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ナイスビジネスレポート編集部 消費増税後の住宅需要の動向

 消費税率が2014年4月以来、5年半ぶりに引き上げられ、10月1日より10%となりました。前回の増税時には大幅な駆け込み需要とその反動減が発生し、景気後退へとつながったという反省から、政府は増税後の需要変動を平準化しリスクを低減するために様々な対策を打ち出しています。今回は、現在の日本経済の現況を踏まえながら、住宅需要の先行きについてまとめました。

 

「消費増税対策に万全を期す」
 

政府は9月19日、消費増税前としては最後となる「月例経済報告」を公表しました。月例経済報告は、内閣府が景気動向指数に基づき取りまとめるもので、閣議を経て毎月公表される政府の公式な景気判断です。個人消費や民間設備投資、住宅建設をはじめ経済全般の総括的な動向のほか、先行きの見通しやリスク要因などについて述べられています。
本報告おいて、政府は景気について7月以来の判断を据え置き、「景気は、輸出を中心に弱さが続いているものの、緩やかに回復している」とし、消費増税を前に景気が回復基調にあることを確認しました(図1)。その上で、消費増税が経済の回復基調に影響を及ぼさないように経済財政運営に万全を期すと明記しました。
現在の日本経済における消費・投資等の需要動向は、個人消費については持ち直している、実質総雇用者所得は緩やかに増加していると判断しています。また、消費者マインドは弱含んでいるとしました。家計調査等の需要側統計と、鉱工業出荷指数等の供給側統計を合成した消費総合指数は、7月は前月比で0.1%増加しました。新車販売台数および家電販売は持ち直し、旅行はおおむね横ばい、外食は緩やかに増加していていることを確認しました。その上で、先行きについては、雇用・所得環境が改善する中で、持ち直しが続くことが期待されるとしています。
また、設備投資については、「機械投資に弱さもみられるが、緩やかな増加傾向にある」と判断しました。先行きについては、高水準の企業収益や成長分野への対応等を背景に、緩やかに増加していくことが期待されるとし、個人消費と同様に前月までの判断を継続しました。

 

 

住宅建設は前回増税直前よりも緩和か
 
 一方で、住宅建設については、「このところ弱含んでいる」とし、8月の「おおむね横ばいとなっている」から1年9カ月ぶりに修正しました。これは、持ち家の一時的な受注増による着工の増加分がなくなったことや、貸家の着工の緩やかな減少などを受けて、7月の新設住宅着工戸数が季節調整済年率換算値で前月比1.3%の減少となったことなどを考慮したことによるものです。先行きについては、当面、弱含みで推移していくと見込まれています。
ただし、前回の消費増税直前となる2014年3月に公表した「月例経済報告」では、住宅の先行きについて「弱めの動き」と判断したことを踏まえると、先行きに対する表現はポジティブにとらえることもできそうです。
日本経済における今後のリスク要因としては、米中問題をはじめとした通商問題を巡る緊張の増大が世界経済に与える影響や、緩やかな減少傾向にある中国経済の先行き、政策に関する不確実性、金融資本市場の変動の影響等に加え、今回は原油価格の上昇を新たに挙げています。
 
 内閣府 月例経済報告
 
 
増税負担以上の刺激策を実施
 

財務省は、今回の消費税率の引き上げに伴う家計負担の増加額は5.7兆円程度と試算、昨年度に実施したたばこ税や所得税の見直しなどによる0.6兆円程度の負担増を加えると、合計で6.3兆円程度の負担増があるとしています。これが、飲食料品などに対する軽減税率制度により1.1兆円程度が軽減され、実質的には5.2兆円程度の影響があると見込んでいます。
これに対する対策として、幼児教育・高等教育の無償化や、介護保険料の軽減、年金生活者支援給付金の支給といった社会保障の充実による支援措置を実施していきます。これにより3.2兆円程度の受益増を生み出し、経済への影響を2兆円程度に抑えるという方針です。更に、これらに加えて、時限的な措置として2.3兆円規模の経済対策が実施されます。具体的には、臨時・特別の予算措置として、キャッシュレス決済によるポイント還元や、子育て世帯へのプレミアム商品券の販売、すまい給付金や次世代住宅ポイント制度などの住宅取得支援策、国土強靭化を目指した公共事業が実施されるほか、税制上の支援として住宅ローン減税の拡充や自動車に対する取得・保有に関する税負担の軽減等といった対策がなされます。
経済対策については、2020年度にかけての期間限定の措置ではあるものの、これらの措置により家計負担を圧迫すると試算された5.2兆円よりも大きい、合計で5.5兆円規模の対策が実施され、中長期の経済の底上げにつながる効果としても期待されています。
㈱大和総研が実施した幼児教育の無償化に伴う家計負担額の変化に関する試算※1によれば、3~5歳児を持つ世代にほぼ相当する49歳以下の2人以上世帯では、税負担よりも恩恵の方が大きくなり、中でも、「29歳以下」「30~39歳」において顕著としています。これらの世帯では、住居や交通・通信の消費ウェートが相対的に大きく、こうした分野における消費が増税後も相対的に堅調となる可能性についても指摘されています。

 

来年度にかけて内需は底堅く
 

日本銀行は、7月末に公表した「経済・物価情勢の展望」において、2021年度までの日本経済の先行きの展望として、海外経済の減速の影響を受けるものの、景気の拡大基調が続くとの見方を示しました。国内需要については、消費増税の影響を受けつつも、きわめて緩和的な金融環境や政府支出による下支えなどを背景に、企業・家計の両部門において所得から支出への前向きの循環メカニズムが持続するもとで、増加基調をたどると見込んでいます。
こうしたもとで、日本経済は、平均してみれば、0%台後半程度の潜在成長率並みの成長を続けると見込み、2019年度の実質GDPの大勢見通しを+0.6~+0.9%(中央値+0.7%)、2020年度を+0.8~+1.0%(中央値+0.9%)と公表しました(図2)。
民間シンクタンクでは、2020年度までの日本経済の予測として「輸出低迷と内需鈍化から、当面弱い伸びが続く見通し」(みずほ総合研究所㈱※2)、「内需にけん引される形で、緩やかな景気回復が持続」(㈱日本総合研究所※3)、「外需が悪化する中で内需が下支え」(㈱大和総研※4)といった見通しを示しています。2019年度は+0.6~+0.8%と日本銀行の公表数値に近い数字と予測する一方で、2020年度については、+0.2~+0.7%と予測値に幅を見せています。これは、米中貿易摩擦の激化や長期化に伴う世界経済の鈍化および円高の進行や、来年夏に開催される東京オリンピック・パラリンピック競技大会に伴う国内における需要の拡大と反動などについて、評価が分かれたことによるものです。
総じてみると、消費増税の反動は小幅にとどまって内需は底堅く推移するとの見方を示しつつ、世界経済の悪化に伴う輸出の悪化により、消費者マインドの低下や将来不安の広がりなどを懸念する論調となっています。

 

 

 

住宅の駆け込み需要は限定的
 
 日本銀行の「経済・物価情勢の展望」では、重要なテーマの一つとして「消費増税前の家計支出の動向」と題し、消費増税前の駆け込み需要の状況についても分析し、まとめられています。個人消費の動向を包括的に捉える消費活動指数(旅行収支調整済)において、個人消費については前回の消費増税時と同程度のペースでの増加が読み取れるものの、この動きには5月の大型連休に伴うサービス消費の押し上げ効果等の寄与もあり、駆け込み需要の影響だけとは言い難いとしています。次に、駆け込み需要の影響を受けやすい耐久財を見てみると、一部に駆け込みとみられる需要の増加も観察されるものの、総じてみれば前回と比較して盛り上がりは限定的との見方を示しました。なお、民間シンクタンクの識者の中には、増税後に実施されるキャッシュレス決済における5%のポイント還元を目的に買い控えが起きているのではないかとの声もあり、10月以降に消費が上向く可能性について指摘する意見も出てきています。
また、「消費増税前の家計支出の動向」において、住宅については、先行指標である新設住宅着工戸数において総戸数としては、前回と比較して消費増税前の盛り上がりはほとんど観察されないとしました。ただし、内訳をみると、持ち家と分譲一戸建住宅については、前回と比べれば抑制的とはいえ増加傾向にあると分析しています(図3・4)。これは、引き渡しが消費増税後であっても8%の税率が適用される2019年3月までの駆け込み契約が着工段階に移っていたためと考えられます。一方で、貸家は前回には大幅に増加しましたが、節税・資産運用目的の需要が減退してきていることに加え、金融機関の融資スタンスの慎重化などにより、減少しています。
これらを踏まえ、耐久財全般と同様に、住宅についても持ち家・分譲一戸建住宅の着工といった一部の家計支出では駆け込み需要が発生していたものの、その規模は前回と比べて小さいと述べています。
住宅ローン減税の控除期間の延長や住まい給付金の拡充、次世代住宅ポイント制度などの手厚い住宅取得支援策もあり、反動減についても限定的と言えそうです。 
 

 

 

 

今後の住宅需要の動向

 

先行きの住宅投資について、日本銀行は消費増税に伴う下押し局面が予想されるものの、雇用・所得環境の改善や低水準の住宅ローン金利、消費増税後の各種支援策が下支えとなり、振れを平均すれば、横ばい圏内の動きが続くと予測しています。民間シンクタンクは、2019年度については-3.2%~+0.6、2020年度については-6.1~-0.8%と見通しには幅がありますが、少子高齢化に伴う住宅需要の減少といった構造的な減少傾向はあるものの、2020年度にかけて持ち直しを見せていくとの予測が多くなっています(図5)。

住宅の買い時感については、各種取得支援策に加え、(独)住宅金融支援機構によるフラット35の9月の最低金利は1.110%※5と、依然として過去最低水準にあります。日本銀行は9月19日の金融政策決定会合で現行の金融緩和策の維持を決定しています。10月末に予定されている次回の会合において経済・物価動向を改めて点検していくとしており、追加緩和について引き続き検討することが示唆されています。物件価格は高止まり傾向にありますが、住宅ローン金利は引き続き現在の水準で推移する見通しであり、買い時感は引き続き維持されると言えそうです。

 

※1 出展:㈱大和総研「徹底検証:消費増税の対策の影響分析」(2019年9月18日発表)
※2 出展:みずほ総合研究所㈱「2019・2020年度内外経済見通し」(2019年9月9日発表)
※3 出展:㈱日本総合研究所「2019~2020年度改訂見通し」(2019年9月9日発表)
※4 出展:㈱大和総研「第202回日本経済予測(改訂版)」(2019年9月9日発表)
※5 (独)住宅金融支援機構における返済期間21年以上35年以下、融資率90%以下、機構団信加入の場合