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特別講演 プラチナ社会へのイノベーション ~近代林業×木造都市を核に~

 日本社会は今、環境問題、高齢化、活力ある地域づくりなど、解決すべき様々な課題を抱えています。プラチナ構想ネットワークでは、こうした問題を他に先駆けて課題を解決することで、新たな需要、新たな経済活動を創造しようと活動しています。今回は、プラチナ構想ネットワークの会長を務める小宮山宏氏に、日本社会の将来像と、その中核となる近代林業のあるべき姿についてお話ししていただきました。

 

日本が目指すべき「プラチナ社会」
 

今話題のSDGsとは、2030年までに国際社会が達成すべき持続可能な開発目標です。産業革命を契機として世界人口は爆発的に増加し、多くの人が長寿になり、生活水準も向上しました。しかし、一方で急成長から取り残された人々もいます。そこで、全ての人の生活と人権を守り、引き上げるとともに、地球環境保護も推進しようというのが、SDGsの根底にあるものです。
しかし、これには高齢社会や、都市の過密化による地域の過疎化といった社会問題、最近表面化してきた豊かさの弊害として目標を見失う若者の増加といった諸課題の解決に向けた視点が欠けています。これらの問題は、決して日本に限ったものではありません。現在の社会において、人々が求めているものは自己実現です。若者に限らず、高齢者もまた、社会の中で自己の役割を確認して生きていきたいという思いは同じです。SDGsは2030年に改定される予定ですが、その際には社会の軸を組み込むことを提案していかなければなりません。
私が会長を務めるプラチナ構想ネットワークでは、こうした諸課題を解決する社会像として、「プラチナ社会」を提唱しています。「プラチナ社会」とは、「地球が持続し、豊かで人々の自己実現を可能にする社会」のことです。①エコロジー、②資源の心配がない、③誰でも参加できる、④雇用がある、⑤自由な選択ができるの5つを必要条件としています。これらの周囲にビジネスを生み出して成長を図ろうというのが、「プラチナ社会」のあり方です。そして、その重要な核として、近代林業と木造都市を位置付けています。私たちは、近代林業を復活させることで、5兆円規模の産業と、地域に50万人の雇用を生み出すことができると考え、活動しています。
静岡県三島市を流れる源兵衛川では、高度成長期に大企業が工業用水をくみ上げたことで水量が減り、そこに生活排水が垂れ流されたことで、自然豊かな風景が失われてしまいました。しかし、その後の住民などの努力により、現在はホタルが群舞するまでに回復しました。これにより観光客は4倍に増え、シャッター街も消えました。エコロジーがエコノミーにつながり、自然共生と経済再生を同時に成し遂げたのです。そのほか、最近では東京の河川も清浄化され、鮎が戻ってきたといった話も聞かれるようになるなど、こうした取り組みは各地で進んでいます。
ところが、国土の3分の2を占める山林が取り残されています。森林国である日本が木材の約7割を輸入に頼っているというのは、サステナビリティの観点で大きな問題です。これを解決する方策は一つです。「伐って、使って、植えて、育てる」という循環を構築し、近代林業を実現させていくしかありません。
現在、日本が直面している最大の問題は少子化です。厚生労働省によれば2017年の合計特殊出生率は1.43しかありません。一方で、最も出生率が低い東京圏には仕事を求めて人が集まり、人口増が続いています。しかし、地方に魅力がなくなったわけではなく、仕事さえあれば戻りたいという人は大勢いるのです。ですから、地域における仕事の創出が根源的な課題であり、その方策の一つが森林・林業を起点とする社会なのです。
これから目指すべき自然共生社会では、IT化により新たな一次産業をつくり出していきます。「耕作が放棄された土地を再生し、農地にする」という取り組みと林業も同様で、環境産業を活性化させるエコツーリズムもその一つです。かつての屈強な若者が従事するものという一次産業のイメージを払拭し、女性やシニアが活躍できるシーンをつくり出すのです。「プラチナ社会」では、ビジネスを創出しながら、多くの人の自己実現の欲求が叶えられるようになります。

 

飽和から見える日本の未来
 

「プラチナ社会」のキーワードの一つは、資源の自給自足です。日本はこれまで、資源の多くを輸入に頼り、それを加工し再輸出するという加工貿易を主産業としてきました。しかし、加工貿易は先進国が工業力を独占していた20世紀のビジネスモデルです。世界の9割が工業力を持った現在では、この分野における日本の優位性は失われました。それに代わる新たなビジネスモデルが、資源の自給自足です。2050年には、木材と水は100%、エネルギー資源、鉱物資源、食料は70%の自給自足を達成したいと考えています。これが少子化、地域創生といった課題の解決につながります。
例えば、2016年のデータでは自動車や建築に必要な鉄は日本国内に約13.5億トンあります。これは一人当たり約10トンに相当し、統計上、飽和状態にあるとされます。世界全体でも2050年には飽和状態になると予測されます。日本にある自動車の総数や、建築物の床面積は、既に横ばいになっています。自動車が12年で廃車になると考えると、現在の国内の自動車の総数6,000万台の12分の1、つまり廃車となった500万台が毎年の新車販売台数と考えられます。これが日本の内需です。そして、廃車はリサイクルされ、もう一度新しい鉄として生まれ変わります。これが飽和状態にあるということです。現在、都市にある鉄だけで社会が循環し、新たな鉄鉱石が必要なくなるのです。2050年に世界中で資源が飽和状態になると、産業も含めた文明は激変します。
また、日本のエネルギー消費量は、オイルショックが起きた1973年から毎年1.6%ずつ減少しています。これも飽和によるものです。建築物を建て替えれば、エネルギー消費量は減少します。総床面積の推移は一定でも、快適性は向上しながらエネルギー消費量は減るという構造に変わっているのです。1973年からGDPは2.5倍に増えましたが、産業界も省エネに注力しており、エネルギー消費量はわずか22%しか増加していません。また、今後も構造的に減少し続けるでしょう。
今後のエネルギーの主役は、間違いなく再生可能エネルギーです。アメリカのシンクタンクによれば、最も低コストなのが風力発電と太陽光発電で、世界平均で4円/kWhです。「再エネは安い」というのが既に世界の常識であり、昨年、世界で新設された発電所の約7割が再生可能エネルギーによるものです。日本も早く舵を切らなければなりません。日本は、GDPの約10%に当たる50兆円を石油や天然ガスなどのエネルギー資源の輸入に充てていましたが、これが内需に変わります。50兆円規模のビジネスを地域に生み出せれば、日本は間違いなく再生します。

 

「自立」を産業化する
 

「プラチナ社会」の実現に向けた新たな産業も続々と誕生しています。現在は、「健康」に大きなビジネスチャンスが訪れています。医療・介護費用として消費税率を引き上げるというのは理解できます。しかし、まずは健康の自立を産業化する方がはるかにポジティブです。医療はこれまで、感染症の治療を主としてきました。しかし、最近は腰痛や偏頭痛、心疾患、うつ、アレルギー、依存症、認知症といった様々な症状を訴える人が増えています。こうした症状に対処するためのビッグデータが求められています。
弘前大学は、健康について世界一信頼できるビッグデータを持っています。15年間にわたり、毎年1,000人以上から2,000項目のデータを収集し続けています。東京大学や京都大学、名古屋大学などが協力して分析を進めており、例えば、3年後に糖尿病が発病する確率などが出せるようになってきています。このデータを求め、弘前大学には多くの企業から寄付が集まり、健康住宅や予防医療、飲食、更にはエンターテインメントまで、膨大な産業が生まれてきています。
そして、最も注目されているのが身体の動きなどを補助する「自立」の産業化です。脳波は一種の電磁パルスです。これをキャッチして動くロボットスーツや、食事支援ロボットなどが活躍し始めています。人間は、脳が生きている限り自立することができます。介護費用を心配するより、自立を産業化する方が、やはりポジティブです。こうした技術が活用されていけば、高齢者も長く社会に参加できるようになります。東京の㈱前川製作所は定年制がなく、最高齢の社員は93歳でした。同社は、目の前の目標を達成するのに精一杯で余裕がない若い社員を、シニアが知恵で「助太刀(すけだち)」することで、次々と新製品を開発しています。シニアの存在が不可欠であるという考えが前提になっているのです。
高齢者が活動する場所をつくっていくことも重要です。例えば、小学校でプログラミングや英語が必修になりましたが、教える人が足りません。そこで、大学生のインターンをシニアが支援する形で、「プラチナ未来スクール」というプログラムを開催しています。性別・国籍・年齢を超えた場をつくり上げることが理想です。
私が大学を卒業するころは、都会に仕事を求めるか、親と故郷に残るかの二択でした。しかし、今は距離的な問題はITでほとんど解決できます。あるベンチャー企業の経営者は、仕事も生活も楽しむために都心を離れた地方にオフィスを構えています。どうしても必要な時だけ都心まで足を運び、それ以外はウェブ会議で済ませます。そのほか、徳島県では空き家を活用して60ものサテライトオフィスを誘致しています。
社会において自己実現の源となるのは、自由と多様性です。現在は実態に社会が追い付いていないのです。もっと自由に考えていかなければなりません。

 

「プラチナ社会」での近代林業
 

「プラチナ社会」の実現に向けて、近代林業と木造都市は重要な核となります。近代林業の鍵は、大規模化であり、機械化、情報化です。これにより林業を効率化し、1工場当たり年間で100万m³の丸太を処理する能力を確保していかなければなりません。現在、その規模に達している製材工場は全国に1カ所しかありません。林業の周りには様々な周辺産業が生まれつつありますが、主要生産物はやはり木材であるべきです。原木が1m³当たり10,000円で100億円、構造材や集成材、CLT(直交集成板)といった製材品で約300億円、発電と熱供給でおよそ100億円が稼げるようになれば、1工場当たり500億円です。この規模の工場を国内に100カ所つくれば、合計5兆円、50万人の雇用が生まれる計算です。プラチナ構想ネットワークでは、まずは10年後に50万m³、250億円を実現していきたいと考えています。
これには自治体の参加が不可欠です。福島県の会津地方では、13の商工会議所と市町村が連携し、会津森林活用機構㈱を立ち上げ、私が相談役会長を務めています。そのほか、山形県最上町のように、中長期計画を立て森林整備に注力している地域もあります。1市町村の取り組みでは限界があり、周辺の自治体と手を携えなければ、この目標を達成することはできません。こうした動きを全国に広めていくことが重要です。
また、基本的に間伐ではなく皆伐し、植林していくことが生産性の向上につながると考えています。林業再生に向けての課題は、補助金に頼らない、生産性の高い自立産業化です。林業においても機械は進化を遂げ、システム化が進んではいます。今後は、導入した新しい機械の稼働率を平均で80%程度にまで向上させていかなければなりません。
一方で、需要拡大に向けた動きもあります。新たな部材や構法が開発され、ギネスに認定された世界最大の木造コンサートホール「シェルターなんようホール」(山形県南陽市)、JR秋田駅の「ノーザンステーションゲート秋田プロジェクト」(秋田県秋田市)などが建設され、国内最大規模の木造庁舎となる山口県長門市庁舎や、超高層木造建築の計画なども出てきています。木造建築によるCO²固定効果は非常に大きなものです。毎年着工される5階建て以下の建築物の85%を国産材で木造化すれば、現在の国内ストックで50年間分、毎年およそ1億m³の需要を賄うことが可能です。これを実現できれば、日本のCO²排出量の7%を毎年持続的に固定できるのです。
近代林業を進めるに当たっては、川上から川下までの全体のシステムを合理化させていくことが重要です。まずは、個別にではなく全体を動かしながら一歩一歩進め、10年後に大きく変化したと言える状況にしていきたいと考えています。環境や教育といった周辺産業の活性化も図りながら、自然共生社会を実現し、若者や女性、シニアといった多様な主体の参加を促し、自己実現の場としていきたいと考えています。

 

「超大学」で近代林業×木造都市を
 

最後にお伝えしたいのが大学の活用です。現在、種子島の再生のために19の大学から研究者や学生が集結しています。地元の高校生なども巻き込みながら、新規バイオディーゼル製造システムの実証や、バイオマス化成品の製造、自然エネルギー導入の支援をはじめ、森林の保全や観光情報の体系化、学校教育など、様々な課題に取り組んでいます。シンポジウムを開催すると島中から多くの人が参加し、今では「プラチナ社会を知っていますか?」と聞くと、6割の人が「よく知っている」と答えるまでになりました。
社会実装を図るためのキープレイヤーは学生です。学生たちが、地域で資源を循環するという「論理(Theory)」を持って参加し、様々な科学的な「論拠(Data)」を示すとともに、地域の将来への危機感、関心、期待といった「情理(Narrative)」が加わることで社会は動くのです。学生と市民が参加して他の地域と連携し、データサイエンスが「助太刀」するのです。私は、これを「超大学」と呼んでいます。種子島だけではなく、多くの地域で成功しつつあります。企業や大学だけでは実現できない革新的なイノベーションを実現するCOI(センター・オブ・イノベーション)プログラムはその一例です。
プラチナ構想ネットワークでは、「プラチナ社会」のモデルを示すことを目的に、2013年より「プラチナ大賞」を開催しています。今年で第7回を迎え、7月19日まで応募を受け付けています。前回までに多くの取り組みが寄せられ、森林資源のフル活用に向け、川上、川中、川下とそれぞれの役者が揃ってきました。
産官学に加え、民間、金融、個人と、あらゆるステークホルダーも思いを同じくしていることを感じています。法律や制度の整備も進み始め、今がまさにタイミングです。木材の自給自足ができれば、産業規模は現在の約3.3倍になります。あらゆるリソースを活用し、観光まで含めた森林資源をフル活用していきましょう。
日本を変えるには、知識を総動員し、学生がエンジンになり、市民が参加して進めることが不可欠です。将来を見据えて超権益的発想でものを考え、近代林業と木造都市を実現し、「プラチナ社会」を構築していきましょう。