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特別講演 データ駆動型社会 ~データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト~

 世界において、データが経済や社会を変革する「データ駆動型社会」が加速しています。今回は、経済産業大臣などを歴任されている衆議院議員の甘利明氏に、新たな社会の到来をどのように捉えればよいのかについて、お話いただきました。

 

 

キャッシュレス社会へ舵を切る
 

デジタル化が進む経済の急先鋒は「電子決済システム」で、日本でも少しずつ浸透しつつあります。10月1日の消費増税に伴い、負担軽減措置としてキャッシュレスやクレジットカード等の電子決済システムを導入した小売店等に5%のポイント還元がなされます。これには、電子決済システムを一刻も早くなじませたいという意図があります。
中国では、偽札が横行して現金への信頼性が減少したことで、あっという間にキャッシュレスシステムが普及しました。一方、日本の紙幣製造技術は確かなもので、その信頼性は世界一と自負しています。先般、20年ぶりに紙幣を刷新し、2024年から新紙幣を流通させるとの発表がありました。これにより日本の紙幣はますます偽造困難なものとなるでしょう。それほど紙幣の信頼度が高いにもかかわらず、なぜ日本にキャッシュレスシステムが必要なのかということですが、現在は、経済に限らず、あらゆることでスピードと正確性を重視する傾向が強まっているのです。
ナイスグループも昨年度、埼玉県入間郡越生町に新たに「関東物流センター」を開設して首都圏の物流網の再編を図っているとお聞きしています。この開設には、時間と手間を省くことで工期を圧倒的に早めるとともに、品質を高めていこうという狙いがあるはずです。経済は常に時間との勝負であり、1年かかる仕事を8カ月に短縮できれば、利益率は大きく向上します。決済の電子化の普及・推進により、経済のスピードを圧倒的に向上させていきたいと考えています。
デジタル化社会で求められる最大のものは「データ化」です。データは、言わば経済動向の足跡で、データの収集が、新たな製品やサービスを産み出すことにつながります。例えば、ナビゲーションシステムをインターネットにつなげると、いつ、誰が、どこにいたのかが全て分かってしまいます。これに決済データを組み合わせていけば、その人の行動特性や嗜好性の予測ができるようになります。こうしたデータを統合していくことで、地域特性の分析や、未来予測さえ可能になります。これにより、必要なものを必要な時に必要なだけ揃え、提供することもできるようになるのです。
その端的な例の一つが、AI(人工知能)スピーカーです。「照明をつけて」「番組を録画して」などと頼めば、多くの用事がこと足りてしまうのはご存知でしょう。トイレットペーパーが足りないと言うだけで、インターネットから注文してくれます。こうしたデジタルプラットフォームの普及を進めているGoogleやAmazonをはじめとした企業は、AIスピーカーの販売を通じたデータの収集に注力しているのです。
何かを調べたい時、ほとんどの方がもはや辞書を引かずに検索エンジンを使います。また、Amazonや楽天といったEコマース(電子商取引)だけで買い物はほぼ完結してしまいます。すでに品揃えは2億におよぶとも言われ、いずれは住宅もEコマースから購入できる時代が来るのではないかとすら思うほどです。
21世紀型のデジタル社会では、こうしたインフラを整備する事業者をプラットフォーマーと呼んでいます。これらのプラットフォーマーの主な目的は、データを収集することで新たな価値を生み出し、次なる展開につなげることにあります。「データ駆動型経済(データ・ドリブン・エコノミー)」「データ駆動型社会(データ・ドリブン・ソサエティー)」とも呼ばれますが、これからの経済は、データを集めて解析し、最適なソリューションをより早く導き出すことが重要になっています。

 

集めたデータで駆動する社会
 

住宅業界では今後、AIスピーカーと連動した家の設計が求められていくでしょう。現在は住宅を建てるほうが主で、AIスピーカーはテレビ、エアコン、冷蔵庫などと同じ、家電の一つという位置付けです。しかし、今後は住宅を供給する側にこそ、AIスピーカーとの親和性が求められるようになっていくのではと考えています。
「できるだけ電気を使わずに室温を22℃に保って」とAIスピーカーに頼めば、AIは天気情報を確認しながら総合的に判断し、窓を自動で開閉したり、必要であればエアコンを稼働させるなどして、常に最適な調整を行うようになるでしょう。ローコストで質の高い生活がAIによって実現すれば、結果的に、人々が求めるのはAIと親和性が高い住宅ということになります。将来的に、生活インフラの中心はAIスピーカーとなり、住宅メーカーはAIスピーカーの機能に合わせて住宅のコンセプトを整えるといったこともあり得ます。そうなれば、住宅メーカーとプラットフォーマーの立場が逆転する日がもしかしたら来るのかもしれません。
現在、自動車産業で進められている自動運転分野では、既にトヨタグループはある意味でGoogleのモビリティー部門を担っているとも言えます。今後、自動運転が主流になっていくのであれば、どのようにGoogleと親和性を保つのかを考えなければならないのです。このように、各産業においてプラットフォーマーがメーカーを傘下に収め、社会を変革させつつあります。データを集めて分析し、新たなソリューションを生み出し、サービスを展開する競争が起きているのです。
こうした新たな社会において問題となるのが、集めたデータにどのくらい秘匿性があるのか、あるいは、集めたデータを活用する権利がどこに帰属するのかということです。
現在、アメリカの医療会社と日本の医薬品製造会社が協力しゲノム解析を進めています。「がん」の疑いがある患者が、専門の会社にゲノム解析を依頼すると、解析により導き出された最適な治療を受けることができるようになってきています。ここでデータの所有権の問題が立ちはだかります。つまり、解析したデータは誰のものなのかということです。普通に考えれば患者のものです。企業側からすれば、医療の進歩といった公的な側面ももちろんありますが、収益向上のためにデータを収集しているという側面も当然あります。保険が適用されるならば、国民の税金を投入してデータを集めるのはおかしいのではないかと、疑問を呈する人が出てきても不思議ではありません。そこで、例えば、公的医療機関も企業が解析したデータを活用できるようなルールを構築していく必要があります。つまり、企業が収益を上げるためのデータではなく、公的機関がデータを集めて管理し、国民全体の利益となる研究ができるような仕組みをつくらなければなりません。「データ駆動型社会」とは、全ての分野がデータを集めて解析することによって動いていく経済社会だということです。

 

「5G」が牽引するデジタル社会
 

一般に使われているスマートフォンは「4G」で、これから「5G」に変わっていきます。「G」はGenerationの頭文字で、つまり第5世代を意味します。「5G」と「4G」とでは、データ通信のスピードと容量に大きな隔たりがあり、「5G」が一度に送信できるデータ量は「4G」の100倍にも上るとされています。現在、短い動画ならば簡単にインターネット上に投稿できるようになりました。「5G」になれば、高画質な長編映画をわずか十数秒でダウンロードできるようにもなります。
また、データをやり取りするタイムラグが1,000分の1秒に向上します。これは、自動運転技術の普及にとって大変重要です。自動運転技術は、車載システムのハンドリングと同時に、車に搭載されたAI同士の会話により成り立っています。つまり、対向車線から近付いて来る車のAIとデータをやりとりし、車間距離や速度などを調整するのです。時速100キロメートルで車がすれ違う際、タイムラグが生じていれば大事故につながりかねないのです。
大量の情報を瞬時に送ることができ、しかもタイムラグがほとんど生じない「5G」の通信技術は、今後圧倒的に有利な立場を勝ち取るでしょう。「5G」により支えられた社会は、「4G」の社会より経済的にも格段に強く、「5G」がもたらすビジネスに参画できるか否かで、国家や企業の競争力は大きく変わります。
この「5G」の技術で先頭を走っているのが、中国の華為技術(ファーウェイ)です。昨年来、アメリカが同社の製品を規制しているというニュースは既にご存知のことと思います。一瞬で大量のデータを送信できることから、政府・企業のあらゆるデータを中国政府に差し出すことになりかねないと、アメリカは安全保障上の問題を警戒しているのです。この背景には、一昨年に中国で施行された国家情報法があります。同法において、中国人および中国企業は、国から要請があれば国内外にかかわらず政府に情報を提供することを義務付けられています。これでは、中国企業と、機微な技術・データを共有することを警戒するのも当然と言えます。
そこで、アメリカは情報に関するサプライチェーンを同盟国内で完結することを目指しています。「中国デカップリング(切り離し)」とも呼ばれていますが、アメリカを中心とする経済圏と中国とを分断しようとしているのです。また、アメリカ、イギリス、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの5カ国の諜報機関により「ファイブアイズ」と呼ばれる情報共有の枠組みを構築していますが、そこに日本、ドイツ、フランスが呼びかけを受けています。EUは、アメリカ、中国双方とバランスよく関わりたいはずですが、現状は思惑通りには進んでいません。

 

「フリーフロー」と「トラスト」の両立へ
 

データを巡り、自由民主主義と法の支配に関してせめぎ合いが起きています。法は当然遵守されるもので、日本では憲法のもとに政府が存在します。しかし、中国の憲法序章には「国家は中国共産党の指導を仰ぐ」とあり、実質的に共産党が国家の上に位置付けられています。中国における、党が支配する「データ駆動型社会」はあまりに危険だと自由主義陣営は考えています。本来、「データ駆動型社会」とは、人々の幸せを追求する社会であり、国家統治や市民を監視する仕組みであってはなりません。
現在、データに関する国際ルールが求められています。昨秋、日本における個人情報保護委員会に類する各国の機関が集まり、国際会議が開催されました。この会議において、「データ駆動型社会」はこのままでは50%の確率で「ディストピア」に至る可能性があるとの懸念が示されました。「ディストピア」とは、政府に管理された抑圧的な社会を意味します。しかし、私たちは、政府が統治のためにデータを使うのではなく、国民の幸せのために使用する「ユートピア」へと向かわなければならないのです。
データは、安全のために規制をかけ過ぎると、今度は移動の自由が失われてしまいます。一方で、自由な移動を許すと、今度は個人情報がないがしろにされてしまうというジレンマがあります。しかし、データが自由に流通する「フリーフロー」であることが経済成長には重要であり、「フリーフロー」であればあるほど効果的です。日本やEUでは、個人情報などの機密性の高いデータの取り扱いについてデータ・ガバナンスがしっかりとしており、違反すればペナルティーが科されます。その分、経済の変革スピードが遅くなるというデメリットが生じています。ですから、匿名化や暗号化などにより情報を慎重な保護の状態におき、「信頼性(トラスト)」を担保しながら、医療や産業、交通などの有益かつ非個人的で匿名のデータについては、自由に行き来できる「フリーフロー」を確立しようとしています。つまり、「フリーフロー」と「トラスト」が両立する仕組みの構築を目指しているのです。
今年1月のダボス会議において、安倍総理が世界に向けて提唱したのが「DFFT(データ・フリー・フロー・ウィズ・トラスト)」です。この新たな枠組みを、6月28日に大阪で開かれるG20で議論します。例えG20の場で完全な結論に至ることができなくても、ここで方向性を示していくことこそが重要です。中国についても排除が目的ではなく、この枠組みの中で個人情報を保護してデータを活用することを呼びかけていきます。
デジタル革命、データ革命は、変革のスピードがこれまでにないほど速く、ほんの1年足らずの間で見えている景色が全く違ってしまいます。世界的には国レベルで温度差がありますが、しっかりとした国際ルールの構築に向けて、日米欧が連携していくことが何より重要です。

 

データを制する者が全てを制す
 

こうした「データ駆動型社会」の推進において、残念ながら日本は出遅れていると言わざるを得ません。日本は世界に冠たる「ものづくり国家」と言われてきました。しかし、こうした考え方自体が既に時代遅れではないか、このままでは下請けになり下がってしまうのではないかと懸念する人がいます。これは、半分は正解で、半分は誤りです。現在、大学をはじめとした研究機関では、データやソフトウェアの領域からAIの研究が進められています。その研究成果をAIにフィードバックする際には、研究者自ら行うのではなく、ものづくりの視点から行った方が親和性は高いと言われています。
世の中の価値は変遷を遂げてきました。高度成長期は、ものづくりや、ものそのものに価値の源泉がありました。続いて源泉となったのが、ソフトウェアです。パソコンは単なる箱に過ぎず、それを動かすオペレーティングシステムやアプリケーションに価値があるとの議論がなされました。そして、その次に訪れたのが、ネットワークサービスに価値を見出す時代です。例えば、クラウドサービスには、自分の家の物置きにしまうのと、専門の大きな倉庫会社に預けるくらい、容量や利便性などで差が生じます。そして今、価値の源泉はデータに移っています。しかし、データは解析しなければごみの山に過ぎません。その解析を行うのがAIです。
このAIが人間と同じ存在になるのではと心配する人がいます。一方で、感情や向上心は、神から与えられた人間だけの特性でAIには芽生えないと言う人もいます。AIは今や、ディープラーニングと呼ばれる「類推」する能力を持つようにもなりました。これは、地球の歴史になぞらえると、生物が知覚を持ってからいきなり大きな進化を遂げた「カンブリア紀」に似ていると言われています。AIが目を持ち、知識を吸収し、推測することができるようになれば、コンピューターの世界の「カンブリア爆発」が起きるのかもしれません。もしそうであるならば、AIが「人」になるのも時間の問題なのかもしれません。古代生物には道徳も向上心もありませんでしたが、現在の人類にまで進化を遂げてきました。今後、人が築いてきた哲学や道徳、文学、芸術をAIに学ばせていく必要があるのかもしれません。
昨年、サウジアラビアのムハンマド皇太子とソフトバンクグループ㈱の孫正義代表取締役会長兼社長が会談し、孫氏は皇太子から5兆円出資の約束を取り付けました。その際のキーワードもデータです。孫氏は、「20世紀は石油を制する者が世界を制しましたが、21世紀は『データ』を制する者が世界を制します。だから出資しませんか」と働きかけたと聞いています。今後は、データを制する者が全てを制する世の中になっていきます。ナイスグループが取り組んでいる物流革命においても、家を1棟建築するに当たり、どのような建築資材、室内機器が必要なのかについてデータを整理し、1カ所に集積して現場に配送するというデータ処理が必ずあります。これからは、物流も「データ駆動型」に変化していくのです。
先ごろ、トランプ大統領の最初の首席補佐官であったラインス・プリーバス氏が来日しました。その際に意気投合した話題は、アメリカの対中貿易摩擦は、表面上はいずれ決着するが、競争力の源泉に関わるデジタル覇権や知財の問題では、10年、20年単位の長い冷戦になるというものです。これは、私が最近ことあるごとに主張していることです。アメリカはこの問題に対し大変ナーバスで、アメリカ合衆国国家経済会議(NEC)を中心として警戒を強めています。現在は、経済と外交、そしてインテリジェンス(諜報)が相まって動く時代になっています。相手国の戦略的な動きに対抗し得る情報網とそれに対処できる仕組みを構築することが、世界のすう勢になってきたということです。
そうした時代の中、日本も足をすくわれないように気を付けなければなりません。皆さん一人ひとりが、常に情報に対する意識管理を行い、「データ駆動型社会」への備えをしっかりしていただきたいと思います。