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SDGs時代の住まい・建築・木材活用シンポジウム  パネルディスカッション SDGs視点での建築・木材活用を考える 2月1~2日 東京ビッグサイト

 2月1~2日に東京ビッグサイトで開催された「住まいの博覧会」では、(一社)木と住まい研究協会とナイス㈱の共催により、シンポジウムが開催されました。2015年9月に国連総会で採択されたSDGs(持続可能な開発目標)の視点から、これからの住まいや建築物について、東京大学名誉教授の村上周三氏による基調講演と、環境や建築に携わる各分野の方々によるパネルディスカッションが行われました。

 

 

SDGs視点でのパラダイムシフト
 

宮代  本日は、SDGsという地球規模の目標に対する建築・木材業界のあり方について、議論を深めていければと思います。まず、生活者目線からSDGsをどうとらえるべきか、星野副代表理事からお願いします。
星野  当法人は、国連大学1階にある地球環境パートナーシッププラザを運営しながら、多種多様な方たちを結ぶ対話の場づくりに取り組んでいます。ご存知の通り、社会には様々な課題があり、かつ、それぞれがお互いに関わり合っています。複雑化した社会課題に対して設けられた様々なゴールに向かって、皆で協力しながら解決するものがSDGsだと考えています。
SDGsの大きな特徴は、単なる変化にとどまらない「トランスフォーミング(変革)」であり、パラダイムシフトをやり遂げるという決意目標であるとも言えます。目標の策定には多くの市民の声が反映され、すべての国をはじめ、企業、市民、科学者等もともに取り組まなければいけないことが前文に明記されています。SDGsは、途上国への支援を目的としたMDGs(ミレニアム開発目標)から発展したものですが、豪雨災害など、日本においても地球温暖化の影響が現れはじめている中、健全な地球環境なしには、社会も経済も成り立っていかないという考えがベースにあります。一方で、負のイメージばかりではなく、経済的な価値の創造や、新たな雇用の創出といったポジティブな側面もあります。国家予算規模を超える売上高を持ち、国境を越えてグローバルに活動する企業群の登場など、世界が様変わりする中、大量生産、大量消費というこれまでの経済構造が行き詰まり、循環型社会の構築が求められ、そこに多くのビジネスチャンスが生まれていることも事実です。環境省は昨年、新たに「地域循環共生圏」という考え方を提唱しましたが、既存のあり方を超え、一人ひとりの意識を変えながら新たな社会を創造していくのが「SDGs時代」であると言えます。
海外のある財団が発表したSDGsの達成度ランキングでは、上位はスウェーデンなどの北欧の国々で、日本はジェンダーの課題などにより昨年の11位から順位を落とし15位でした。ただし、政府は29の自治体をSDGs未来都市に選定するなど様々な取り組みをはじめていますし、各自治体レベルでも民間とパートナーシップを組んだ多様な活動が進められています。
たとえば、市域の約6割が森林を占める神奈川県相模原市では、子どもたちが毎日使う学習机の天板に地域の間伐材を利用することで、地域の森林に興味や関心を持ち、自然を大切にする気持ちを育んでいこうといった取り組みが進められています。地域の方々が豊かな森を守るために活動しており、パートナーシップを組むことで地域の課題の解決が図られていくと考えています。
宮代  一人ひとりに役割があり、パラダイムシフトが求められているということですね。次に、環境配慮型の建築を多く手がけられている小泉教授に建築・木材とSDGsの関連性についてうかがいます。
小泉  建築産業においては、企画・設計・施工・運用段階の各フェーズで、行政や金融機関、メーカー、工務店、オーナーなど多種多様なステークホルダーが存在します。SDGsに取り組むに当たっては、こうしたステークホルダーとの関係を環境・社会・経済のレイヤーで整理しながら、各々が果たすべき役割を明確化していくことが重要だと考えています。
SDGsに関わる建築の実例として、つくば市の(国研)建築研究所において2011年に竣工したLCCM(ライフ・サイクル・カーボン・マイナス)住宅デモンストレーション棟があります。これは、建設から運用、改修、廃棄までを含めた住宅のライフサイクル全体でCO2排出量がマイナスになる建築となっています。
また、「エネマネハウス2017」というプロジェクトがあります。これは、大学と民間企業が連携し、新たな住まい方を提案するZEHを実際に建築し、住宅の環境・エネルギー性能の測定・実証や普及啓発を行うものです。私たちは、アジアの蒸暑地域を対象とした通風・日射遮蔽に配慮したテラスハウス形式の木造住宅を提案しました。ナイスさんにもパワービルド工法などでサポートいただきました。ここで掲げたテーマは、シェアを通じたコミュニティーの創出や、将来的なフレキシビリティーの担保、建設時のCO2の抑制といったもので、まさにSDGsそのものと言えます。また、学生たちが主体となったことも大きなポイントです。持続可能な社会を考える際、私たちが獲得した技術や思想をいかに若い世代に引き継いでいくかも重要です。このプロジェクトでは、学生が環境配慮型の建築について学びながら設計し、その後普及に努めるということが目論まれています。
さらに、既存の街をいかにサステナブルなものとしていくのか、街づくりという観点でのサステナビリティも建築分野における大きなテーマです。その事例として、横浜市とUR都市再生機構が協働で郊外住宅地の活性化を実施したプロジェクト「ルネッサンスin洋光台」を挙げています。ここでは、健康、防災、交流といったテーマのもと、街の可能性や課題を地域の方々と共有しながら、サステナブルなコミュニティー形成が図られています。
SDGsを考えるに当たっては、建築の専門家だけでなく、それ以外の方々をどうやって巻き込んでいくかが重要です。建築物の省エネ・断熱性能をいかに高めるかといった設計レベルでの議論ももちろん大切ですが、建設時のエネルギーをいかに削減するのかを建設関係者にも考えていただく必要がありますし、居住者や街の人々にも、そういった意識を持って使ったり利用していただく必要があります。私たち建築の専門家には、こういった考え方を幅広い方々に理解していただき、広めていくことが求められると考えています。
宮代  次に木材の専門家である有馬名誉教授から、SDGsにおける木材が果たすべき役割についてうかがいます。
有馬  資源循環型社会の構築には、「小さな循環」と「大きな循環」を意識する必要があります。オイルショックが起きた1973年ごろ、省資源・省エネルギーという考え方が生まれ、最近では、低炭素社会、脱炭素社会という語が使われるようになりました。これらは、基本的にエネルギー消費量、すなわちCO2排出量を削減しようという動きです。
大半の資源は、地球上に存在する資源を消費するものであり、リサイクルとは資源が失われていく速度を緩める「小さな循環」であると言えます。これに対し、木材は太陽エネルギーで育つ自然素材であり、CO2を吸収して成長し、炭素を貯蔵しながら資源をつくり出すというほかにはない存在です。つまり、資源そのものをつくり出す「大きな循環」を担っているという点が、そのほかの資材と決定的に異なります。SDGsを考えるときに、この2つの循環を持つ木材が果たす役割は大きいと考えています。木材のカスケード利用が言われるようになりました。「カスケード」とは、連なる小さな滝を意味する言葉で、木材は製材することで、丸太に、板に、柱にもなり、おがくずにもなります。更に、おがくずは畜産に利用されたり、バイオマスとしてエネルギーの創出にも使われます。ここで重要なことは、カスケード利用を促進するためには「連携」が必須だということです。
木材以外の資源は、化石燃料にしても有限であり、これまで「消費のための消費」がなされてきました。しかし、木材は消費でもあると同時に、それを生み出す林業の駆動力になり得る「生産を生む消費」であるという点が異なっています。木材を使うことが、他の資源の削減にもつながることから、木でできることは木でやるべきだろうというのが、私たちが現在置かれている状況だと言えます。
現在、日本の森林資源は有史以来最も充実している状況にあります。しかし一方で、資源の高齢化が進み、若い層が少ない状況にあります。大径化した材を活用し、新たな植林を行うため、「生産を生む消費」を進めていかなければなりません。
宮代  平田会長には企業の立場からSDGsへの取り組みをおうかがいします。
平田  ナイスグループは、耐震、健康、環境貢献に、木材利用の拡大を重要テーマに掲げており、これは、SDGsのゴールと密接に関連する事業と考えています。当社では、1995年の阪神・淡路大震災を機に、住まいの構造改革キャンペーンを開始し、住まいの耐震博覧会等を通じて、住宅のレジリエンス性能の向上に取り組んできました。現在、住宅については2020年までに耐震化率を95%、2025年までには耐震性を有しない住宅をおおむね解消することが国を挙げて目指されており、当社グループもその目標の達成に向けて引き続き貢献していきます。
健康の観点から見ると、住まいにおけるヒートショックへの対策が必須です。しかし、国土交通省によれば住宅ストックにおける無断熱住宅の割合はいまだ35%もあるとされています。2020年の一般住宅への省エネ基準の適合義務化は見送られましたが、こうした状況を解消することは重要であり高断熱住宅の普及に注力していかなければなりません。また、こうした高断熱住宅がエネルギー消費量の削減などの点で環境に果たす役割も大きくなっています。当社は2012年にLCCM住宅を建設しました。コストなど解決すべき課題はあるものの、環境に貢献するとともに、住まう方の健康にもやさしい住宅を木造で供給していきたいと考えています。
また、木材利用の拡大には、木造率が低い5階以下の低層非住宅建築物の木造化が重要だと考えています。そこで、当社グループは、企画、設計、調達、施工までをワンストップで行える木造ゼネコン®として、非住宅建築物の木造・木質化を積極的に進めています。更に、全国47都道府県から森林認証された木材を調達する仕組みを構築し、林野庁が後援する「ウッドデザイン賞2018」で林野庁長官賞をいただきました。持続可能な社会の実現を考えると、こうした合法木材が今後の主流となっていくことは疑いありません。47都道府県の森林認証材は新国立競技場整備事業でも活用されていますので、完成を楽しみにしてください。

 

SDGsに向かうそれぞれの連携
 

宮代  小泉教授は住宅、非住宅双方の専門家ですが、建築家としてそれぞれどのようにSDGsへ貢献すべきだとお考えですか。
小泉  SDGsは、建築家にとって学ぶべきことが多い概念です。私たちは、これまで建築物が周辺環境におよぼす影響について、深く考えることを怠ってきました。しかし今、そこが問われる時代となったと感じています。省エネ基準の義務化が議論されていますが、「省エネ」という言葉で一括りにしてしまうと、環境への配慮という点で大きな見落としが生じてしまうのではないでしょうか。もっと、幅広くとらえるべきではないかと考えています。
また、最近の公共建築では、ワークショップという形でステークホルダーの意見に耳を傾けながら建物をつくることが求められます。住宅であろうと非住宅であろうと、関係者と連携しなければ環境への十分な効果は期待できません。環境に配慮することの重要性、可能性、課題を、多種多様なステークホルダーの方々と共有しながら進めていくことが、これからの大きなテーマになるのではないかと考えています。
宮代  先ほど一人ひとりの意識改革が必要だとうかがいましたが、具体的にどのように行動していけばよいのでしょうか。
星野  消費者が生活の中で木材を多く使うように心がけることが大切だと言えます。同時に企業や行政に対し、声を届けていくことも必要です。求めることで、仕組みや商品は変わっていきます。また、「ESD(Education for Sustainable Development)」という言葉が示すように学ぶ機会をつくることも重要です。
地域にある資源やチャンスを見直すことで、地域の方々と一緒に、木材や住まいについて皆で共有し、未来像を形づくる対話の場とすることも考えられます。その際、SDGsは自治体・企業・NPOをつなぐ「共通言語」として、または全体像を俯瞰する材料として活用できます。更に、それに基づいて行動することで、世界やほかの地域と共通する課題でつながっているという実感が持てるようになります。
ビジネスにSDGsの視点を加えることで、新たな価値の創出にもつながります。健康、防災といった別の課題に取り組むことで、これまでにないお客様との接点が増えるかもしれません。視野を広げるという意味でも、SDGsは新たな価値として活用できると考えています。
宮代  先ほど連携の大切さを説かれましたが、SDGsの観点でどのようにパートナーシップをとらえればよいのでしょうか。
有馬  一般的に、資源循環型社会は、ごみの抑制(Reduce)・再利用(Reuse)・再生利用(Recycle)で「3R」と言われます。これに、小さな循環=熱回収(Recover)、大きな循環=再生産(Renew)を加えて、「5R」にいかに近づけるかが重要だと考えています。
そのためには、生産地と消費地の連携が基本であり、都市部で木材を使うことが森林の再生につながるという考え方を持つということです。木材関連産業は炭素ストック産業であり、更に木材はエネルギー資源でもあります。木材のカスケード利用を促進していくことが重要ですが、様々な仕組み・制度があり、制約も多いことから、木材の流れを重視した制度が求められています。こうした連携の仕組みづくりこそ、SDGsが求めていることだろうと考えています。技術革新がなされ、多くの建築物で木材が利用できるようになりました。ステークホルダーが増えると連携も簡単にはいきませんが、持てる資源を生かし、いかに次の世代へつなげるのかということを意識していく必要があります。
宮代  SDGsの実践に向けた連携について、企業の立場からお願いします。
平田  戦後に国土緑化が推進されたことで植林が進み、日本の森林蓄積量は半世紀で約2.6倍に増加しました。しかし、先ほど有馬先生もお話しされたように、森林の少子高齢化が進んでいます。木は、成長期にCO2を多く吸収して炭素を固定化しますが、成熟に伴い吸収量が減少します。そのため、地球温暖化防止に貢献させるためには、伐って、使って、植えて、育てることで、森林資源の若返りを図ることが重要となっています。
成長しきった大径木の活用のために、当社では針葉樹の表層のみを圧密して素材としての硬さや強度を向上させた「Gywood®(ギュッド)」や、飫肥杉の赤身のみを使うことで耐腐朽・耐蟻性能に優れた大径木高耐久赤身材「ObiRED™」、針葉樹のチップによる木質繊維断熱材「ウッドファイバー」といった新素材を開発しています。また、当社では、工務店様がZEHをはじめとした高性能住宅に簡単に取り組めるように、豊富なサポートメニューも提供しています。業界の皆様と互いに補完しながら連携して、SDGsの達成に貢献していければと考えています。

 

木材を通じてできること
 

宮代  最後に、SDGs視点での建築木材活用を考える観点から、メッセージをお願いします。
小泉  建築とは、人間の活動の器であり、生活全般を扱います。その意味で建築が果たすべき役割は多く、影響力もあります。だからこそ、SDGs時代では、木材のように小さな循環から大きな循環につなげていくことをそれぞれが意識しながら進めていくことが大切だと考えています。
星野  木の癒やし効果は、理屈なく素晴らしいものがあります。森林を毎日訪れることは叶いませんが、まるで森の中にいるような木の住まいで暮らすことはできます。暮らしの中で木に関わることの豊かさを子どもたちに伝えていけるように、皆さんとともに進めていきたいと考えています。
有馬  SDGsの達成に向けて重要なことは連携です。異業種、同世代はもちろん、次の世代のための連携が大切です。また、難しい課題への対応には、高い目的意識を持ったクライアントとともに、関係者それぞれの専門性を生かしつつもお互いに耳を傾ける謙虚さを持って臨まねばなりません。「Thinking globally」「Acting locally」の姿勢で、地球規模で考えながら、行動は地域で行っていく自律が重要だと考えています。
平田  当社は、昨年末より働く女性をサポートする新たな住まいのコンセプトとして「デュークスパフェ」を展開しています。木材の利活用を大きな柱としながら、女性が活躍できる環境づくりなどにも取り組みます。また、川上・川下を含め業界内の連携をより一層深め、皆さんと一体となって取り組んでいきます。
宮代  本日はありがとうございました。

「木造ゼネコン®」、「Gywood®(ギュッド)」はすてきナイスグループ㈱の登録商標です。