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新春経済講演会【基調講演】  (1月25日・グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール)  世界の潮流と日本の進路 一般財団法人 日本総合研究所 会長 寺島 実郎 氏 

 
 
 
景況感は株価に支配される
 

経営とは時代認識だと考えています。自分が今生きている時代を的確に認識できなければ、経営は成功しません。新年が明け、あらゆるメディアが今年の展望を掲載していますが、私はロンドン・エコノミスト誌に注目しています。私たちはアメリカを通して世界を見がちですが、その意味で同誌による欧州目線が示唆的です。同誌は、2019年について「経済の変調とリスクの顕在化」という視点を示し、以下をリスクとして挙げています。

 

 
 

IMFが1月21日に発表した「IMF世界経済見通し」によれば、2017~2018年はマイナス成長エリアがなく、世界同時好況の中にあります。また、2000年以降に目覚ましい発展を遂げてきたBRICs※1が、2015~2016年は2つに割れました。マイナス成長となったブラジルとロシア、そして持ちこたえたインドと中国という構図です。特にインドは、2015年に中国の成長率を追い抜き、これからはインドの時代だとエコノミストたちに言わせました。一時減速が見られましたが、今回の発表では再び堅調な様相を見せています。中国が6.9%という、意外なほど高い成長力で踏みとどまったのが2017年です。習近平国家首席の就任後、民間主導をほのめかしたこともありましたが、再び橋梁や港湾施設といったインフラ投資である政府固定資本形成への依存に戻りつつあります。これは、国家主席の任期期限を撤廃したことで、自身が余人を持って代えがたい指導者であることを、実績で示す必要にかられたということです。しかし、今年の見通しでは6.2%となりました。世界全体でも、3.7%から3.5%に引き下げました。これは、世界経済が減速気味であることを示すシンボリックな数字として受け止められ、経済の「変調」と表現されています。しかし、実質GDP成長率3%台というのは、過去を振り返っても異様なほど高い数字です。それにもかかわらず減速感が漂っている要因は、株価にあります。つまり、現在の世界経済は、株価の乱高下によって景況感が揺さぶられる状況になっていることを、しっかりと認識しなければなりません。
アメリカで2017年1月にトランプ政権がスタートしてから、1年間でNYダウが24%も跳ね上がりました。世界の実質成長率が3%台、アメリカが2%台であるにもかかわらず、株価だけがこれほどまで跳ね上がるのは、常識的には考えられません。これには、いわゆる「ウォールストリートの懲りない人々」が、トランプ大統領は1兆ドル規模のインフラ投資や企業減税に積極的だとして、一斉にもり立てはじめたことが背景にあります。これが株価にダイレクトに反映され、更にこれにけん引されて日本株も上昇しました。しかし、それにも限界が訪れ、2018年には乱高下の様相を見せたのです。
株価に景況感が支配されることは、非常に重要なポイントです。実体経済以上に株価が跳ね上がることで、楽観が楽観を呼び、一方で下がりはじめると、実体経済が3%台で推移しているにもかかわらず、悲観が悲観を誘発するメカニズムに陥ってしまっているのです。
昨年の1月ごろ、ニューヨークの株価が下落しました。これを米国の長期金利の推移と照らし合わせると、その原因は明白です。金利が3%に跳ね上がったことによるものです。金融は、相対的に金利が高いところで運用すれば選択肢が増えるため、新興国からアメリカに資金が環流したのです。ここで「新興国リスク」が顕在化してきたということです。
2008年のリーマンショック後、FRBは金融危機を回避するために金利を下げ、ゼロ金利政策を進め、続いて市場に資金を出回らせるために量的緩和を実施しました。しかし、実体経済が上向いてきた2014年秋に、これらの政策を終了させて段階的な利上げに踏み切っています。昨年も4回にわたり、日本でいう公定歩合の引き上げを実施しました。ここで重要なことは、金融政策の正常化です。景気が拡大し、堅調なうちに金融政策の正常化を図らなければ、リセッション(景気後退局面)に陥った際、金融政策による景気刺激策を取れません。その意味で、FRBは政権の圧力に屈せず奮闘していると見ています。
一方、「ジャパンリスク」がささやかれるようになりました。周知の通り、日本では3年間におよぶマイナス金利政策と、異次元の量的緩和という前例がない金融政策が進められています。これは、リセッション時に金融政策で刺激を与えて回復を図ることができないことを意味します。10月の消費増税を控え、万が一の事態が起きれば、財政出動しか取れる手段がないというところまで、日本は追い込まれているということです。IMFは、2019年の日本経済の見通しを1.1%とし、前回から0.2ポイント引き上げました。これは、消費増税に関わる財政出動的インセンティブを評価したものですが、逆説的には、消費税率の引き上げにより景気が減速することに対する警告にも近い数字と見ることもできます。

※1 BRICs…Brazil(ブラジル)、Russia(ロシア)、India(インド)、China(中国)の総称

 
 
日本経済はなぜ苦闘しているのか
 

昨年1月以来、「Digital Dictatorship(デジタル専制)」という言葉が登場しました。これこそが、日本経済が苦闘している根本的な原因です。私たちが、インターネットなどの通信技術が発達した「デジタル・エコノミー時代」を生きているというのは周知の事実ですが、その本質を考えてみます。
現在、西海岸ビジネスモデルとも呼ばれる、アメリカを代表するIT5社「GAFA+M※2」が世界を席巻しています。これらビッグ5の株式時価総額の合計は、2018年11月末時点で3.7兆ドル(約419兆円)にも達し、たった5社で日本のGDPに迫る勢いです。一方、東京証券取引所一部上場企業でトップのトヨタ自動車㈱の株式時価総額は約22兆円です。モノづくり国家日本を代表する企業として、多くの経営者が見上げるような存在と感じている同社ですら、AppleやAmazonの4分の1程度の株式時価総額しかないという現実にがく然とします。
株式時価総額は、企業経営を評価する指標として最も大切な指標ではありません。しかし、企業は株式時価総額を超えたリスクを負えず、この額を超えたプロジェクトは行えません。その点を踏まえ、過去の株式時価総額上位10社の推移を1980年から10年刻みに振り返ると、1980年はトヨタ自動車工業㈱(1.32兆円)、松下電器産業㈱(1.21兆円)、日産自動車㈱(1.13兆円)、新日本製鐵㈱(0.94兆円)など日本の工業生産力モデルに冠たる企業が名を連ね、1990年のバブルのピークには、後に合併して㈱みずほ銀行となる㈱日本興業銀行(7.8兆円)、㈱富士銀行(7.1兆円)、㈱第一勧業銀行(6.1兆円)がトップ10入りしています。㈱みずほフィナンシャルグループが、現在トップ10にも顔を出さないということが金融機関の苦闘を物語っています。2000年には、㈱セブン・イレブン・ジャパン(5.4兆円)が、昨年には㈱ファーストリテイリング(6.3兆円)が8位にランクインしました。そして、日本にそそり立つ存在であった新日鐵住金㈱の時価総額は2兆円で、「GAFA+M」一社の50分の1程度しか市場から評価されていません。現在、市場が企業価値を評価する時代となりましたが、驚くべき局面にあるということに気がつかなければなりません。
「カエル跳びの経済」という言葉があります。これは、日本のように固定電話が普及している国より、固定電話もないような国で爆発的に携帯電話が普及するというパラドックスを意味します。キャッシュレス・エコノミーが当たり前となった中国から来た留学生が、日本の印象を聞かれ、「紙幣をまだ使っているなんて、20世紀に逆戻りしたようだ」と述べたそうです。また、「夢に金がつく時代」とも言われます。西海岸ビジネスモデルは、FT(ファイナンシャル・テクノロジー)がITの分野に資金を注入して肥大化させた側面もあり、ITとFTの結婚とも称されます。10年前には聞いたこともなかったような中国のIT企業のTencentとAlibabaの2社が、ビッグ5のビジネスモデルを持ち帰り、あっという間に株式時価総額0.8兆ドル(約90兆円)に迫るほど急成長しています。かつて、世界を牛耳った「7 Sisters」と言えば石油メジャーを指しましたが、現在はこの米中のIT企業7社が「New 7 Sisters」と称されています。
この7社が、他社を寄せ付けない圧倒的な技術力を持つのであれば、現在の情勢にも納得がいきます。しかし、いつでもどこでも誰でもアクセスできるネットワーク情報技術を意味する言葉「ユビキタス」に象徴されるように、ITは平準化技術です。この7社は、戦略企画力で世界中の要素をアセンブリングし、「データリズム」を握っているのです。革新的な技術を持った中小のベンチャー企業を意欲的に買収して更に肥大化し、一方、ベンチャー企業側も出口戦略として7社を利用し、相当な額で売却することで次の資金を得るという構図です。つまり、今の時代は、データを支配するものがすべてを支配する時代になったということです。
モノづくり国家日本というだけでは付加価値を生まず、現在は「データリズム」の時代となりました。企業の大小も業態も関係なく、「データリズム」に対する「感度」が事業経営の全てを決するようになったのです。

※2 GAFA+M…Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoftの5大IT企業の総称

 

リニアは「ギャップ」に注目する
 

総務省が全国全世帯に実施している家計調査報告によれば、2018年の家計消費支出は2000年と比べて大きく落ち込んでいます。それを分野別にすると以下の通りです。

 

これを見ると、日本全体で貧困化が進んでいると言わざるを得ません。そのような中、支出増となった項目をより細かく分析すると、上位3つは通信費、諸雑費、自動車等関係費となります。通信費はスマートフォンの普及によるものです。諸雑費については、私は「雑費貧乏の理論」と呼んでいますが、一定の豊かさを実現した後のバックファイアーとしての貧困化が進んでいます。大それた買い物は渋るが、たとえば、ハロウィーンの衣装などちょっとしたものにはお金が出ていくのです。自動車等関係費は意外かもしれません。ショッピングモールが地方都市の商圏を握った結果、徒歩圏のマーケットが衰退し、買い物に軽自動車が必需品となったのです。最も減少したのがこづかい・交際費で、更に、仕送り金や教養娯楽用品費、書籍費が軒並み減っています。つまり、21世紀に入り、日本人は学ばなくなり、学べなくなったということです。これを背景として急速に内向化し、「日本はすごい」といった自画自賛型のムードが蔓延しているのが現在の日本の姿です。
そのような苦境にある中、2027年に東京・名古屋間で中央リニア新幹線が開業します。これを中心とした「スーパー・メガリージョン構想」において特に注目すべき点は、東京・名古屋間が40分になるということ以上に、「中間駅インパクト」です。神奈川県相模原市、山梨県甲府市、長野県飯田市、岐阜県中津川市と、通過する各県に駅が一つずつ設けられます。移動と交流を支えるインフラが劇的に変化するに当たり、住環境の分野で徹底的にリサーチしなければいけないことは「ギャップ」です。中間駅ごとに、住環境コストをはじめ、ライフコストに大きな「ギャップ」があります。東京を100とすれば、名古屋は70~80、相模原は50程度、そのほかの中間駅は更に下がります。これを踏まえて、中間駅を拠点にしようと考える外国人が今後増加するでしょう。住環境など、すべてのライフコストに「ギャップ」がある中で、どのようなライフスタイルを組み立てるべきかを視界に入れなければなりません。

 

活性化のカギ「ジェロントロジー」
 

昨年、「ジェロントロジー宣言~『知の再武装』で100歳人生を生き抜く」を執筆しました。「ジェロントロジー」は、一般的には老年学と訳されますが、高齢化社会工学と訳すべきだと考えています。高齢社会の到来は、65歳以上人口を非生産年齢人口と決めつけ、社会的コストの負担増加という文脈でのみ語られてきました。しかし、80歳の7割は健常者です。発想を転換し、高齢者が参画するプラットフォームをつくり、社会を支える側に置けるかどうかが日本の活性化の一つのカギであり、それがジェロントロジーなのです。2018年11月1日現在、80歳以上人口は1,100万人に達し、100歳以上人口も7万人を超えました。65歳人口に至っては3,500万人を超えています。更に、日本の総人口は遅くとも2053年には1億人を割り、65歳以上人口が3,800万人という、異次元の高齢化を迎えます。こうした時代に、いかに安定的な社会システムを稼動させるかが課題です。
日本は戦後、大都市圏に人口を集中させ、産業力に依存する国づくりを行ってきました。それを支えたのは、首都圏をベルトのように取り巻く国道16号線沿いの団地群です。世帯構造が急速に単身化する中、ある意味で国道16号線沿いに単身高齢者が閉じ込められています。この都市郊外型の高齢社会にどう立ち向かうかが最も大切なテーマであり、高齢者を孤立させず、社会に参画する主体にしていかなければなりません。また、別の見方をすれば、大都市圏へ産業を集中させたことで、食料自給率ゼロのゾーンをつくってしまったとも言えます。そこで、移動と交流によって食と農の分野で高齢者を活躍させ、社会の安定を図ることが重要になっていくだろうと見ています。
日本は高齢社会となりますが、決して衰亡するわけではありません。しかし、ものすごく知恵を絞る必要があります。日本のジェロントロジーへの挑戦は、まもなく高齢社会を迎える東アジアの国々にとっても注目すべき問題です。この中で、住まいについてどのようなシナリオを描くかが、今後、住宅業界が積極的に向かい合うべきテーマだと考えています。