1. TOP
  2. ナイスビジネスレポート
  3. 2019年 新春経済対談 2019年以降の内外経済の展望と経営戦略

2019年 新春経済対談 2019年以降の内外経済の展望と経営戦略

 2019年の幕が明けました。昨年は自然災害が多発するも、内需は底堅く推移し、景気拡大への期待感が高まる中での年明けとなりました。5月には元号が改められ、新たな時代の到来が予見される中、今回は新春経済対談として㈱浜銀総合研究所の大久保千行会長をお迎えし、平成という時代を振り返るとともに、2019年以降の内外経済の展望と経営戦略についてうかがいました。

 

 

2018年を振り返って
 

平田  新年おめでとうございます。昨年の日本は、大阪府北部地震と北海道胆振東部地震といった大きな地震に加え、西日本豪雨、台風などの自然災害が各地で相次ぎました。7~9月期にはマイナス成長を記録したものの、総じて企業収益や雇用所得環境は改善しています。昨年を振り返っていかがでしょうか。
大久保  2018年の日本経済は、7~9月期に年率△2.5%とマイナス成長を記録したものの、10月以降の景気は回復軌道に戻りつつあります。全体的に、ファンダメンタルは良好と見ており、戦後最長の景気拡大を記録すると予想しています。マイナス成長の主因は、自然災害が集中して発生したことと、トランプ政権発の貿易摩擦の問題や、欧州の不安定な政治情勢、中国経済の減速を背景に外需が弱い動きになったことも影響したと見ています。
この夏の自然災害は、製造業や建設業の生産活動の遅延など、幅広い経済活動に悪影響をおよぼしました。北海道では、現在の電力体制となって初めて「ブラックアウト」が発生しました。一連の自然災害により生鮮野菜も品薄となって高騰し、消費心理の悪化などを引き起こしました。また、関西国際空港や新千歳空港が一次閉鎖されたことで、インバウンド消費や輸出も減少し、昨年9月の訪日外客数が5年8カ月ぶりに前年同月を下回りました。
そのような中、内需と設備投資は底堅く推移しています。7~9月期の法人企業統計によると、企業の経常利益は前年比+2.2%増と自然災害や原油高の影響により増益幅は縮小したものの、9四半期連続で増益しています。設備投資は東京オリンピック・パラリンピック競技大会(以下、東京オリ・パラ)関係の建設投資や、訪日外国人観光客の急増に対応したホテル建設に加え、RPA(※1)などの人手不足対策や業務合理化を目的とした投資、老朽化した設備の更新や補修等が活発化しており、全体を支えています。
平田  肌感覚として景気良化の恩恵があまり感じられないとの声も聞かれます。
大久保  業種によって多少の違いがあり、中小企業の実感としては乏しいという状況にあります。小売・飲食業などは厳しく、製造業が総じて好調という状況です。当社の景況予測では、リーマンショック前の水準まで回復しており、マクロ的には景気回復が続いていることは間違いありません。設備投資は地方都市でも進んでおり、ホテル建設などが盛んで、宿泊価格等も上昇しています。また、全産業共通で人手不足感が強まっており、従来、人手に頼っていた作業を代替するような設備などへ、計画的な投資が進んでいる状況にあると見ています。
住宅投資に関しては、2015年1月の相続税の改正を契機とした節税対策のアパート経営需要が一服し始めており、貸家に関してはやや弱含みの動きとなっており、持家や分譲住宅に関しては、ほぼ横ばい圏内の動きとなっています。
平田  一方で海外に目を向けると、昨年は米中の貿易摩擦がクローズアップされました。新たな冷戦の幕開けとも言われ、予断を許さない状況にありますね。
大久保  米中間の貿易摩擦はまさに「貿易戦争」の様相を呈し始めています。G20ブエノスアイレスサミットにて行われた、トランプ大統領と習近平国家主席による米中首脳会談の結果、アメリカが今月に予定していた2,000億ドル相当の中国製品に対する関税率を10%から25%に引き上げる措置は、90日間猶予されることになりました。アメリカの対中強硬姿勢は、与野党関係なくアメリカの国民感情として支持されているとの声も聞かれ、2020年の再選を目指すトランプ大統領としては、中途半端な妥協はしない可能性があります。今後、知的財産権保護や技術移転の強要などの問題が協議される予定ですが、90日の猶予期間内に、「休戦」が「停戦」に至るか否かはいまだ不透明な状況です。

※1 RPA(Robotics Process Automation)ロボットによる業務自動化

 

平成の終わり・新たな時代の幕開け
 

平田  今年は、5月に新たな元号に改められ、1989年から30年にわたった「平成」が終わりを迎えます。バブル経済の崩壊や、リーマンショックといった経済危機や、東日本大震災をはじめとした大規模な自然災害が多発するなど様々なことが起きました。平成という時代を振り返っていかがでしょうか。
大久保  戦後の高度成長および70~80年代にかけての安定成長は、基本的に右肩上がりの時代でした。ところが、以下に見るように、90年代以降の平成時代は内外の環境が大きく構造変化していきました。第1の大きな構造変化として、「人口増加社会」から「人口減少社会」への転換が挙げられます。少子高齢化が進み、日本の人口は2008年をピークに減少し始めています。この結果、それまでの豊富な若年人口を基盤、もしくは前提とした日本型の雇用慣行や、若者の都市圏への流入に伴う世帯数増と、それに伴う旺盛な消費需要といった人口増加期の状況が一変しました。また、単純な量的拡大を追い求めるのではなく、質的な豊かさを重視することにより、真の豊かさを実現しようとする傾向が強まっています。
大きな構造変化の2つ目として、急速なグローバル化の進行が挙げられます。1989年の冷戦終結を契機に、旧社会主義陣営諸国が市場経済に参入し、IT革命(ICT革命)の進展により、モノ・マネー・情報が国境を越えて交流し、世界各国の相互依存が深化する時代を迎えました。過去の右肩上がりの時代には、日本の企業は技術を磨き上げながら大量生産を続けることで、世界に冠たる技術立国となりました。職人芸的な積み上げた強さがあり、持続的な製品の改善を競争力の源泉としてきました。これに対し、現在はGAFAM(※2)に代表されるような、情報通信技術を活用し、既往概念を破壊するようなイノベーションを実現した海外企業が世界を席巻し、優位性を持つ時代へと変化を遂げています。
3つ目として、IT革命により情報が氾濫し、情報に左右されるようになったことで、人々の生活や価値観の多様化が進み、家族や世帯のあり方や、国民の意識が変化しました。具体的には、これまで標準的な世帯と言えた「夫婦と子供の世帯」の割合が低下し、未婚化や晩婚化、長寿化の進行により、「単身世帯」や「子供のいない世帯」が増加しました。雇用形態が多様化する中で、夫が仕事、妻が家事と育児を担うという家族のあり方も変化し、共働き世帯の増加により、子供を持たないDINKS(※3)といった言葉も生まれました。
こうした市場の変化は住宅市場にも現れています。近年、首都圏の高級マンション市場では、購買力の高い共働きの夫婦が主力の買い手となっています。世帯年収が夫婦合わせて1,000万円を超えるような「パワーカップル」と呼ばれる世帯では、夫と妻が別々にローンを借り、住宅ローン控除も受け、無理のない返済負担で高額物件を購入しているようです。従来の住宅すごろくにも変化が生じています。近年の世代別の持ち家世帯率の変動状況を見ると、40~50歳代の持ち家率が低下しています。これは、子供がいる世帯であっても、賃貸住宅に住み続けるケースが増加していることを示しています。単身者世帯が増加する中で、賃貸住宅に関してもニーズの多様化が進み、キッチンなどの家の一部を共有し、人との接点が多いシェアハウスに魅力を感じるという方も増えているようです。
平田  ナイスグループでは昨年末に、住まいの新たなコンセプトとして「DIWKSPARFAIT(デュークスパフェ)」を発表しています。DINKSに対し、お子様のいる共働きの世帯を新たに「DIWKS(※4)」として定義し、それにフランス語でパーフェクトを意味する「PARFAIT」を組み合わせました。住宅の購入を考えているお客様から直接お話をうかがったり、社内の共働きの女性社員たちからの意見を集約する過程で分かったことは、「DIWKS」は住まいの中でゆったりとした時間を求めてはいないということです。そこで、「夫の家事負担を増やさずに、妻の負担を軽減する家」をコンセプトに、あわただしい暮らしの中で毎日をいかに効率よく過ごせるかということを突き詰め、動線効率に優れた住まい方を提案しました。これを女性に人気のファッション雑誌「VERY」に昨年末に掲載し、新春から展開していきます。
大久保  興味深いですね。若い世代は幼少時から私たちより多くの情報を得て、研ぎ澄まされているところがあり、私たちの世代とは見ている世界が違うと感じることがあります。住宅業界は人口減少や将来的な世帯数の減少といったマクロ的な減少の動きにとらわれ将来を悲観するのではなく、こうした家族や世帯のあり方の変化に伴うニーズにきめ細かく対応し、潜在的なニーズから新たな住生活のあり方を提案することが求められていると思います。
最後に、4つ目として、環境問題に対する国民の意識の変化が挙げられます。高度成長期には、環境問題とは公害問題のことで、もっぱら企業が対処すべき課題であり、当事者意識を持った個人などいませんでした。現在、様々な環境問題は、産業界だけの問題にとどまらないという考え方が広く共有されつつあります。多くの人たちが、乗用車の排気ガスや家庭が出すごみなどが環境に影響を及ぼすことを認識するようになりました。
総じてみると、「平成」という時代はたった30年ですが、「Society5.0(※5)」に代表されるような、次世代社会に向けた初期の段階、いわば「揺籃(ようらん)期」だったのではないかと思っています。
平田  社会的・産業的に構造が変化し、それに伴う価値観の多様化が進んだ、ターニングポイントとなる時代だったと言うことですね。災害の多発から、国土強靭化・レジリエンスという言葉が生まれ、住宅業界にとっても大きな切り返しが起きました。将来のあり方を変える種がたくさん蒔かれ、芽が出始めた時代と言えるかもしれません。こうした未来の芽が、これからどう花開いていくのかを考えるとわくわくします。

※2 GAFAM  アメリカのIT分野の5大企業(Google、Apple、Facebook、Amazon、Microsoft)
※3 DINKS(Double Income No Kids)意図的に子供をつくらない共働きの夫婦
※4 DIWKS(Double Income with Kids)夫婦ともに働きながら子育てをする世帯
※5 Society5.0 狩猟・農耕・工業・情報社会に続く、新たな社会像。仮想空間と現実空間を高度に融合させたシステムにより、経済発展と社会的課題の解決を両立させた社会

 

2019年以降の経済情勢の展望
 

平田  平成時代の先にある2019年以降の日本はどう読み解けばよいでしょうか。
大久保  2019年には現天皇陛下の退位と皇太子殿下の即位・改元、消費税率の引き上げという大きなイベントが予定されています。皇室関連の一連の行事は、奉祝ムードにつながる可能性があり、消費をはじめとした経済活動にポジティブな影響を与えると見ています。
消費税率の引き上げに関しては、業界によって駆け込みとその反動の動きには濃淡があると思われるものの、政府が手厚い対策を検討・実施する方向であることを勘案すると、景気への影響は軽微にとどまると見られます。ただし、検討中の対策には、キャッシュレス決済時のポイント還元のように決済事業者や小売業等の対応に依存するものが含まれています。中小企業を中心に、税率引き上げに対する体制整備は総じて遅延しているようであり、税率引き上げ後の混乱の発生には警戒が必要だと思います。住宅投資に関しては、駆け込み需要の出足が鈍い印象があります。政府・与党は住宅ローン減税の期間や規模の拡充により、税率引き上げ後の価格上昇を減殺する施策を検討しているようです。こうした措置により、今回に関しては駆け込みと反動減の規模がかなり小さくなるのではないかと見ています。
平田  これまで、東京オリ・パラ後の景気の後退、いわゆる「2020年の崖」があるのでは、との見方がありました。しかし、昨年11月には2025年の大阪での国際博覧会(以下、大阪万博)の開催が決定したほか、IR(統合型リゾート)整備推進法が成立し、今後国内3カ所で大規模なIR推進施設の建設が進められます。悲観論を払拭できたと見てよいのでしょうか。
大久保  東京オリ・パラ後の反動減は恐らくないと思っています。東京オリ・パラや大阪万博といった一大イベントを契機として、行政からはこれまでできなかった街づくりや、道路・インフラ整備を計画的に改修していこうという気運が出始めています。これが安定的な成長につながっていくのではないかと思っています。
大事なことは、こうしたイベントを契機に首都圏地域の活性化を図ることや、関西経済の地盤沈下に歯止めをかけることでしょう。永続的な前向きの力強い流れをつくるよう、政府や自治体、関連企業、金融機関が知恵を出し合うことが重要だと思います。
平田  そのほか、懸念要因として金融業界でキャッシュが過剰気味であることが指摘されています。
大久保  マイナス金利政策が、今の日本経済を底支えしていることは疑いありません。これにより、企業は低利で資金を調達でき、中小企業の助けとなっています。一方で、10~20年の中長期的には、財政の悪化が懸念されます。現在は、国に代わって日本銀行が金融ファイナンスを実施しているようなもので、その影響が更に増幅している状況にあります。マイナス金利を永続的に持続させるということはあり得ません。いずれどこかで解消し、その時に景気にどう影響が出るかということです。金融機関にとっては厳しい状況が続くこととなりますが、日本銀行はその影響を見極めながら金融緩和政策を慎重に続けていくと見ています。世界的にも金融緩和の状況であり、これがギリシャやイタリアといった国が持ちこたえられている大きな要因です。また、新興国への投資の活発化にもつながっています。
平田  人手不足問題も深刻さを増していますね。住宅業界でいえば、1985年に81万人だった大工数は、2015年には半分以下の35万人にまで減少し、このまま推移すれば、新設住宅着工数の減少以上に、大工数が減少し、着工が追い付かなくなるとの予測も出されていす。
大久保  アメリカでアマゾンが無人店舗を導入して話題になりました。日本でも多くのスーパーが人手不足に対応するためにセミセルフレジを導入しているほか、コンビニなどが無人店舗の実証実験を開始しています。銀行業界でも、RPAの導入が一大ブームとなっています。このように、どの業種でも高齢化の進行と人手不足は大きな問題となっています。住宅建設の担い手である大工も例外ではありません。
政府は外国人労働者の受け入れ拡大のため、2019年4月から新在留資格を創設する準備を進めていますが、こうした政策は建設業全体としてみると歓迎すべきものだと思われますが、大工不足に悩む住宅産業への恩恵は限定的であると思われます。大工不足問題を解決するためには、建設現場のあり方を抜本的に見直し、飛躍的に生産性を高める必要があります。熟練した大工の技術に依存しない建材の開発や工程数の削減、建築物の一部を工場で組み立てる建築工法の改善などが、住宅・建築業界に求められてくると思います。
平田  当社の金物接合によるオリジナル工法「パワービルド工法」は、高い熟練度がなくても均一かつ精度の高い構造体を短工期でつくることができる優れた工法です。こうした技術の普及にも引き続き努めていきます。

 

海外経済の見通し
 

平田  海外の動きについてはいかがでしょうか。
大久保  2019年のアメリカ、欧州、中国の経済動向は、2018年に比べて拡大ベースが幾分低下するものの、いずれの地域も堅調な景気拡大が続くと見込んでいます。アメリカと欧州に関しては、雇用所得環境の改善が続く中で、個人消費を中心とした内需の増加が続くと思われます。ただし、アメリカに関しては減税効果が一巡すること、欧州に関しては輸出が近年に比べやや弱い動きとなることが想定されるため、成長率は若干低下すると見ています。中国に関しては、地方政府や一部企業の過剰債務問題への対応が続けられる一方、景気の下振れを未然に防止するための減税や投資支出など景気刺激策の効果が見込まれ、6%台の成長率を維持すると思います。ただし、以下の海外発のリスク要因には警戒が必要です。
1つ目は、先に述べましたが、米中間の「貿易戦争」の行方です。米中間の隔たりは大きく、追加関税が猶予される90日間の期限内に抜本的な解決に至れるかは依然不透明です。
2つ目は、イギリスのEU離脱交渉「Brexit」の行方です。国論が二分される状況が続くなかで、イギリス政府は現行の離脱協定案の修正をEUに要請していますが、2019年3月29日の期限が目前に迫っています。時間切れによる「合意なき離脱」という事態におちいった場合、イギリスは景気後退を余儀なくされ、その影響は欧州経済全体にもおよびかねません。
あまり報道されていませんが、実は、中国は欧州各国へかなりの資金を投資しています。Brexitの失敗が欧州経済に大きな影響を与え、国債の暴落といった事態が生じると、中国は一気に苦境に立たされます。2010年の欧州債務危機の際も、中国マーケットへの影響がクローズアップされていましたが、その構造は今も変化がありません。そうした状況を見越してか、アメリカはこの問題で沈黙を貫いています。アメリカ自身も少なからず影響を受けることは疑いありませんが、中国に与える影響が更に大きいことを知っているからです。今後、この問題が中国への交渉材料の一つとなる可能性もあります。
3つ目は、年末に突然発生したアメリカ発の株安です。10月に史上最高値を記録したNYダウは、12月に入り急落し、この影響で日経平均株価も大きく値を下げました。米中貿易摩擦や政府機関の一時閉鎖などの悪材料に対し、市場は過剰反応しているように思われますが、株価の底入れに時間がかかると実体経済にも悪影響が出てくるため、今後の推移を注視する必要があります。

 

環境意識の高まりにより変化する企業像
 

平田  SDGs(※6)やESG投資という言葉が徐々に日本にも浸透してきました。企業も気候変動への対応が求められ、欧米では化石燃料から脱却せず脱炭素社会の構築に寄与しない企業の融資を引き上げるといったことも生じているともいいます。こうした中で今後求められる企業像や、企業経営のポイントについてメッセージをいただければと思います。
大久保  国際会議の場では、1980年代後半から環境と開発の両立を図る「持続的な開発」が議論されるようになりました。その後、1997年に京都議定書が採択され、先進国に対し、温室効果ガスの削減目標が導入されています。こうした一連の流れの下、2015年の国連サミットで採択された国際社会の共通目標がSDGsです。これは、2030年までの持続的な世界の実現に向け国際社会の共通目標を定めたもので、17の分野について国際目標が示され、各分野について更に細かなターゲットや指標が示されています。
このSDGsは多くの分野を包括した非常に広範なものです。その中で、「持続可能な成長」を達成する上で企業にとって重要なポイントは、短期的に付加価値を提供するだけでなく、中長期的な視点に立って、より良い環境をもたらす製品・サービスの開発や、従業員にとって働き甲斐がある職務環境の創造、販売後も製造者・サービスの提供者としての責任を果たすことだと考えています。目先の利益ばかりを追求するのではなく、お取引先や地域社会、従業員等の利害関係者相互の利益の増進を図り、共栄を実現しようとする考え方は実は日本には古くからあり、SDGsはこうした考え方を現代化し、将来の具体的目標として指し示したものに近いとも言えるかもしれません。
また、金融の分野では売上高や利益額といった財務情報だけでなく、環境(E)や社会(S)、ガバナンス(G)といった非財務情報を重視する投資が拡大する傾向が見られ、ESG投資と呼ばれています。ESG投資の対象は、エネルギー効率や環境対策に配慮し、不正防止などのガバナンスもしっかりとしている企業ということになります。政府は、2016年からSDGsを推進する組織をつくり活動しています。中小企業の認知度はまだ高いとはいえませんが、公的年金がESGに基づく運用を強化し始める動きもあり、今後、SDGsやESG投資に対する認知度は高まっていくと予想されます。
SDGsやESG投資の浸透を踏まえると、今後の企業の経営課題としては、以下の3点が考えられます。第1に、自社の経営理念に照らして、企業と社会の関係やガバナンスに問題がないか、今一度、点検する必要があります。ここ数年、わが国では製造業や建設関連の企業による品質不正が次々と発覚し、信頼を失墜させる事態が多発しています。社会的責任に対する認識不足や、計数目標を優先し不正行為を許容するなど、問題点がないか今一度チェックする必要があるでしょう。
第2に、持続的な成長を実現させるための技術開発の加速です。住宅建設の分野では、耐震性能や省エネ性能などの分野で一定の基準が定められています。基準を遵守することに満足するのではなく、現在の常識をひっくり返すようなブレイクスルーを実現する技術開発にも取り組んでいただくことを期待しています。
第3に、非財務情報の対外アピールの強化です。投融資の分野では、バランスシートや損益計算書には出てこない非財務情報を重視する流れにあります。当然、多くの企業は、数値化しにくい自社の強みとなる情報を、金融機関に説明していると思います。今後は、消費者やサプライヤーなどの様々なステークホルダーが、取引相手を選ぶ際に従来よりも非財務情報を参考にする傾向が強まっていくと予想されます。
住宅業界としては、国民の環境意識の高まりに対して積極的に対応し、地球環境に優しい循環型社会の重要な担い手となることが求められていると言えます。合わせて、脱炭素社会のニーズに合致した木材のよさや、蓄熱機能や調湿機能を有した住宅のメリットをよりよく知ってもらうための広報活動を強化し、環境に対する意識の高い需要者にアピールしていくことも重要だと思われます。
平田  木材は二酸化炭素を吸収して成長し、長期にわたって炭素を固定化する、持続可能な唯一の資材です。木材産業に携わる弊社グループでは、新たな時代にわくわくしながら、パートナーである販売店様、工務店様、メーカー様と一体となって、資源循環型社会の構築に寄与する産業であることをこれまで以上に発信するとともに、安全で安心、そして環境に貢献する住まいづくりに取り組むことで、SDGsに貢献していきたいと思います。
本年も「お客様の素適な住まいづくりを心を込めて応援する企業を目指します」という企業理念のもと、皆様のお役に立てるよう役職員が衆知を集め、一丸となって邁進する所存です。引き続き、ご指導のほどよろしくお願いいたします。本日は誠にありがとうございました。

※6 SDGs(Sustainable Development Goals)2016年から2030年までで達成すべき環境や開発に関する17の目標