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建築物への木材活用シンポジウム トークセッション サステナブルな木造建築の新たな潮流に向けて

 6月23~24日にポートメッセなごやで開催された「木と住まいの大博覧会」では、(一社)木と住まい研究協会主催によるシンポジウム「建築物への木材活用シンポジウム」が開催されました。脱炭素社会への移行に向け、様々な取り組みが活発になる中で、これからの木造建築物はどうあるべきかについて、設計、生産、流通、発注者、技術研究など各分野を代表する方々により、活発な意見交換が行われました。

 

木造建築物を支える、 それぞれの現場から
 
遠藤 脱炭素社会への取り組みが活発化し、木造、木質化への関心が高まる中で、皆様の取り組みをご紹介ください。
稲山 2010年に公共建築物等木材利用促進法が施行されたものの、昨年度の木造化率は10%程度に過ぎません。木造化については様々なハードルの存在が語られますが、品質管理された一般流通材を使うことによってほとんど解決します。
建築コストや、JAS材が手に入りにくいという問題は、一般流通材の活用とプレカットによる在来工法で対応できます。低層系の中・大規模木造建築物も、3階建て以下であれば、在来工法で建てることによってコストを下げることができます。防耐火の問題については、1,000㎡以下を防火壁で区画すれば問題ありません。構造計算も耐力壁方式で、構造計算ソフトを使うことで比較的簡単に対応できます。
2015年3月に改訂版「木造校舎の構造設計標準(JIS A 3301)」がつくられました。この中に標準仕様として取り込まれている在来軸組工法、「JIS A 3301」のトラスと高耐力壁を使えば、ある程度のスパンを確保した大きな空間もつくれます。私が理事を務める(一社)中大規模木造プレカット技術協会のホームページから標準図が無料でダウンロードできます。(公社)日本建築士会連合会と合同講習会も開催していますので、ぜひご参加下さい。
ある程度大きな空間も、一般流通材の組み合わせによって可能となる事例として、今年完成した宮崎県小林市の新庁舎議会棟があります。地元産の木材をふんだんに使った木造3階建て庁舎です。また、A材利用の一例として、長野県にある㈱北沢建築の本社工場棟があります。使われているのは、すべて一般流通した長野県産のA材になります。そのほか、「シザーストラスアーチ」という手法を使うと、短い6m以下の材料だけで、16mスパンの空間をつくることや、クレーンを使わずにビス留めだけでつくることも可能です。設計者の方には、ぜひ工夫して取り組んでいただきたいと思います。
倉地 当社では、岐阜県のヒノキ、スギを中心に年間1万6,000m³の原木から約7,000m³のJAS製材品を製材しています。小径木から大径木まで、住宅1棟分の材を全て供給できる体制を整え、丸太を余すことなくすべて利用することにこだわっています。
岐阜県では、山に作業道をつけ、伐採した原木を林道まで搬出していますが、大きな重機で無理な作業をすることによる土砂崩壊が増えています。林道では、少しでも材価が高くなるよう、ハーベスタやチェーンソーで丸太をカットしていくのですが、近年はバイオマスとして使った方が山に収入が残るといった、悲しい声さえ聞こえてきます。
乾燥工程では重油の高騰により、製材から出た木くずや樹皮(バーク)を利用するバイオマス乾燥を利用しています。燃料高や運転手の不足は非常に深刻で、しかもこうしたコストは製品単価にはなかなか反映されません。職人の高齢化も大きな問題です。機械化が進んでも、刃の切れ味が製材品の良し悪しを左右することに変わりはなく、職人の技術に支えられています。
続くカンナ仕上げの際に行われるのが、JASの機械等級を決める重要なグレーディング検査です。木材の持つ強度や水分などの測定性能を印字するわけですが、その後、改めて1本ずつ目視で確認します。これらは無垢のエンジニアウッドとして販売しています。かつては、大工が熟練の感覚で「この木は強いよ」と伝えていましたが、現在は強度を目に見える形で示す時代となりました。しかし、最終的に私たちつくり手が関わっていることに、何ら変わりはありません。これからも丁寧に検査がなされたJAS製材品を増産し、皆さんの安全・安心な家づくりに協力していきたいと考えています。
平田 ナイスグループは全国に木材市場と物流拠点を持ち、ジャストインタイムで商品を納材できる流通の仕組みを構築しています。国産材の安定供給にも取り組んでおり、各地域の木材の特長を生かし、適材適所な提案をしています。このたび私どもは、47都道府県の森林認証材とJAS構造材のプロデュースを可能としました。これにより、新国立競技場整備事業において軒庇木ルーバー工事の材料供給と工事を受注しています。設計から調達、加工、施工まで全てを一気通貫に請け負う「木造ゼネコン®」としても取り組んでおり、一例として、昨年度は豊田市で市産材を用いた市営住宅の建設について、企画から建設、その後の管理まで携わっています。
「森は海の恋人」とも言われるように、山の恵みは川を経て海に注がれます。こうした考えから、有馬孝禮先生にご指導いただき、行政区域を越えて上流の素材生産地と下流の消費地とをつなぐ「流域思考」を提唱し、現在、木曽川と淀川で流域協議会を立ち上げて活動しています。
日本の山林は、戦後に植林された人工林が伐採期を迎えています。木材利用を更に進め、再度、植林を進める必要があります。そのためには、A材利用の促進が肝要であり、当社ではJAS構造材の取り扱いを拡大しています。近い将来、JAS構造材やクリーンウッドが、主流となることは間違いありません。率先して皆さんと取り組んでいきたいと思います。
中村 地域の7割が森林である豊田市は、矢作川流域を中心に環境保全の意識が高く、木材供給者としての一面を持っています。8月より、誘致した中規模製材工場が稼働し、年間5万m³の供給が始まります。2012年の「木材利用の促進に関する基本方針」は、当時の森林課長の英断により、材料費の高騰で反対が多かった地域材ではなく、原則、国産材の使用という形で策定することができました。これが市の木造化を進める上での礎となっています。
市内にある木造建築のうち、「寿恵野こども園」は、大壁形式で1㎡当たりの木材使用量が市内の公共建築物では最大です。一般流通材を使いましたが、最終的にコストは鉄骨造に比べ1割ほど高くなりました。耐力壁が多く、室内の明るさの点で鉄骨造より見劣りする点が少し気になります。また、市長からは外から木が見えないのは残念だとの感想がありました。
最近では官民連携(PPP方式)で、ナイスさんの設計により「市営樹木住宅」を建築しました。2階建て住宅について、いわゆる住宅局の仕様ではなく、住宅性能評価で要求水準をまとめ、共用部の管理もお願いしました。景観配慮があり、地域から評判も良いようです。当市が要求した軽量床衝撃音対策等級への対応を、ナイスさんはメゾネット方式の住戸で解決されています。また、市産材を梁や柱に用い、居室の一面が木質化されています。コストは従来の中高層住宅に比べ8割程度。更に、地域住民と市営住宅住民との連携のご提案もあり、今後のコミュニティー形成の面でも大いに期待しています。
いざ木造で建ててみると、予想以上にコスト高となったケースもありました。そこで、今年度オープンする「藤岡支所・交流館」では2階建ての鉄筋コンクリート造の混構造とし、木造の象徴となる樹形柱をオウシュウアカマツ集成材としました。コストは1㎡当たりの単価で40万円前半となりました。このように適材適所で木造化を図っています。
有馬 木材資源を活用する意義とは何でしょうか。そのベースにあるのは、常にエネルギー・資源問題です。地球温暖化、低炭素、そして最近では脱炭素という言葉も使われるようになりました。近い将来、化石燃料は枯渇し、孫の代になると車はガソリンで走らなくなる可能性があります。そうした将来に備えて求められるのが高炭素貯蔵、持続可能性、そして再生可能なエネルギーであり、森林、木材、そして都市にどれだけの炭素をストックできるかです。木造建築の意義はまさにそこにあります。
森林・木材利用を進める基本概念は3つあります。「炭素貯蔵効果」「省エネルギー効果」「代替エネルギー効果」です。つまり、炭素を貯蔵するために丈夫で長持ちする家をつくる。壊したらもう一度リサイクルする。化石燃料を使わず、木でできることは木で行う。木質材料は、最終的には燃やしてエネルギーとして使えますので、廃棄物という概念はないはずです。
皆さんにぜひ覚えていただきたいことは、木材の重量のおよそ半分が炭素だということです。つまり、炭素を貯蔵していくことこそ、我々、木材関係者の役割なのです。また、そうした木材を利用することによって、資源を循環させていこうというのが、公共建築物等木材利用促進法の目的でもあります。別の見方をすれば、少々高くても地域材を使うということには、地域の経済に寄与しているという側面もあります。
いずれにしても地域の活性化、地方創生の原点は木材にあり、我々の使命は、森林を更新しつつ、永続的に次の世代に送ることです。木材は昔から利用されていますが、実は、まだまだ木造の可能性の限界には至っていないというのが現在の状況ではないかと思います。
宮澤 皆様の先進的な取り組みを伺い、本当に心強く感じています。木を使わないことに対し様々な理由が言われていますが、要は、やる気の問題だと思います。大切なことは、どうすれば使えるのかに目を向け、公開されている情報を生かしながら前向きに進めていくことだと思っています。
 
 
業界として連携しながら果たすべき役割
 
遠藤 続いて、それぞれのお立場から、推進すべき取り組みや果たすべき役割について伺います。
稲山 これからは住宅だけでなく、一般的なビルや倉庫、事務所までを含めて木造化、木質化していくことを心がけるべきではないかと思います。そのためには、施主の方に木の良さを理解していただくことが非常に重要です。
例えば、内部だけ木を現しにすれば、耐久性の面でも問題はありません。防耐火の点でも技術革新が進んでおり、燃え代設計や準耐火構造であれば、倒壊する前に避難する時間を確保することが可能です。規制緩和も進んでおり、これまでは軒高9mを超えると耐火構造にしなければならなかったのですが、今後は法改正によって高さ16mまで準耐火構造も可能となります。
倉地 住宅については、かなりの量の木材を現しに利用しても、ZEHの基準をクリアすることは可能です。非住宅については、トラスの形成を助けるのものとして、岐阜県木材協同組合連合会が開発した「柱いらずハリーさん」があります。JAS構造材の120角や150角のヒノキでつくることができる平行弦トラスです。最大12mの大スパンを実現することができます。同じく岐阜県木連が開発した「火バリ」は、30㎜厚の無垢の板を使用し、準耐火仕様の外壁板として国土交通大臣認定を取っています。このように性能表示された木材を利用することで、街の中にもっと多くの木が使われていくと考えています。
平田 パリ協定を契機として価値観の変化が加速し、「低炭素社会」から更に進み、世界は「脱炭素社会」へと突入しつつあります。サステナブルな社会の構築へ向けて、再生可能な資源である木材の利用は一層拡大していくと考えています。当社では、大径材をフルに活用するために、表層圧密テクノロジー「Gywood®」を発表しました。これは、木材の表層を圧密することで表層部は硬くなり、傷に弱く柔らかい針葉樹の大径木も、広葉樹と同様に床材や家具、内装材として積極的に使えるようにしたものです。また、国産の針葉樹のチップを原料とする木質繊維断熱材「ウッドファイバー」の普及にも力を入れています。ヨーロッパでは断熱材として自然素材を使うことが一般的です。こうした取り組みを通じて、日本の木材産業の活性化に貢献していければと考えています。
中村 工業製品に慣れた私どもにとって、木材は産地、等級(見た目)、材料の供給状況によって価格が変動する点が分かりにくいと感じています。また、東海地方には木造設計者が少ないため、職員が細かい所まで確認しなければならず、設計者もその対応で精一杯という状況です。同様に、木造ビルダーも少ないという現状があります。
今年度着工予定の「高嶺こども園」や「一次救急診療所」に、子ども発達センターを併設した建物については平屋建て、外壁耐火とし、製材の梁を見せる形としています。ぜひ、もっと公共建築を含む中規模建築物について、木材を活用できる範囲を広げる研究をお願いしたいと思います。
宮澤 木材の価格の問題は大きいと思います。林野庁としても、森林組合さん、素材生産業者さんと一緒に、どうすれば低コストにできるのかを模索しています。
一方、使う側としては、主伐の時代になってきたこともあり、いかに木材をうまく使うかが重要です。そのために、まずは「見える化」を進めるため、2017年度の補正予算、2018年度の当初予算から「JAS構造材利用拡大事業」を開始しています。この事業は、JAS構造材を積極的に活用することを宣言する「JAS構造材活用拡大宣言」と、同宣言を行った事業者が実際にJAS構造材を使用して建築した場合に、調達費の一部を支援する「JAS構造材個別実証支援事業」からなっています。「お試し」として、JAS製材品が集成材や鉄骨と違いがないことを実感していただく必要があると思っています。本事業の活用によりイニシャルコストが高い点も解消されますので、ぜひ、産業界全体で工夫して取り組んでいただきたいと思います。
有馬 ダイナミックに時代が動く中で、大切なことは各分野の専門性を生かした連携だと思っています。その際、空間的に、あるいは同世代でつながることはもちろんですが、次世代への連携を常に頭において進めていく必要があります。その際には、相手の立場に対し、謙虚な姿勢でなければいけないと思います。
先ごろ経済同友会に向けたアンケート調査で一番ショックだったことは、「木造は前例がなく不安である」「面倒だ」という回答があることでした。これに対して、どう対応していくべきでしょうか。各々専門の立場から高いモチベーションを持つクライアントを説得していただきたいと思っています。
稲山 木を見せて使わなければ、その良さは一般の方にアピールできません。先述の宮崎県小林市の新庁舎のように、工夫次第で上手に木を見せることができます。天井裏にスプリンクラーが入っているので、内装制限もクリアしています。第一に、設計者が防耐火の法規をどう解くかをクリアすることが大切です。できるだけ上手に木を見せて使った公共建築物や中・大規模木造建築に取り組んでいただきたいと思います。
倉地 木材は農産物です。管理はあくまでもJAS規格でありJIS規格ではありません。また、農薬を散布して木を育ててきたわけではないので、虫に食われたり、傷のある木材もたくさんあります。これらをクレームとして処理することなく、強度の証明された木材製品を、山元が木を植えて育てていける単価で使っていくことは大きな課題だと思っています。世界的に見ても非常に貴重な人工林が日本にはたくさんあります。これらが大胆に、かつ繊細に使われることを願っています。
中村 豊田市はものづくりのまちです。工業製品ではない木材を使用することは、ものづくりの原点に立ち返るものだと感じています。私どもはまだまだ皆さんの協力を得て、木造化について知見を増やしている段階です。今後も質の高い公共建築物を建てて、市民の皆さんに使っていただきたいと考えています。その上で、30年後に更に評価される建物を目指して、木造化の取り組みを進めていきたいと思います。
宮澤 今から30年ほど前、先代の三遊亭圓楽師匠より、「日本の資源は人材と木材と2つしかない。それをつなぐ崇高な使命があるのだから頑張りなさい」とのお言葉をいただきました。以来、人材はもう一つの資源である木材にケチをつけてはいけない。日本の人材は木材を使えるように働かなければいけないと思っています。日本の資源である木材に対し、前向きに取り組んでいただけたら、ありがたいと思います。
平田 世界的に見て脱炭素社会に向けた潮流があり、これからは木材の時代です。多くの課題がありますが、木と木造の魅力を少しでもお伝えできるよう、「木と住まいの大博覧会」の開催を通じて連携を図り、「木造ゼネコン®」として取り組んでいきます。
有馬 地方創生、木材、林業の成長産業化とよく言われますが、口で言うほどやさしくはないと思っています。しかし、木材、木造建築が地方創生に適切な材料であるということだけは、はっきりしています。実現に向けてお互いが連携することは、資金、技術、そして、人についても波及効果を生みます。そして、互いの専門性を謙虚に生かすことが成長産業化の根源になります。ぜひとも皆様のお力を発揮していただきたいと思っています。
遠藤 サステナブルな社会に向けて、木造建築物の新たな潮流を確固たるものにしていければと思います。本日はありがとうございました。  

「木造ゼネコン®」「Gywood®」はすてきナイスグループ㈱の登録商標です。