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建築物への木材活用シンポジウム トークセッション サステナブルな木造建築の新たな潮流に向けて

 2月16~18日に東京ビッグサイトで開催された「木と住まいの大博覧会」では、初日となる2月16日に(一社)木と住まい研究協会主催による「建築物への木材活用」と題したシンポジウムが開催されました。ここでは、シンポジウムの中で、素材生産、設計、施工、流通、学術といったあらゆる立場の方々によって行われたトークセッションの内容をお届けします。

 

それぞれの分野から考える、 これからの建築物
 

遠藤 今、国内外において脱炭素社会への移行と持続可能な社会づくりに向けた取り組みが活発になっています。こうした中、まずは持続可能な社会に向けたこれからの建築物のあり方について、それぞれの立場から見解をお聞かせ下さい。
井口 2016年11月に発効されたパリ協定は、今世紀後半に温室効果ガスの排出量と吸収量の均衡を図るという目標を掲げています。木材は鉄骨や鉄筋と比べ、製造時のCO2排出量が50分の1程度と極めて少なく、また建築部材として使われている間は炭素を貯蔵し続けるので、今後、鉄骨や鉄筋から、木材のようなエコな材料へのシフトが求められるのは間違いないでしょう。
戦後、都市部や公共建築物を中心に木造建築が規制されてきましたが、最近では技術的知見も蓄積され、規制緩和の動きが見られます。また、2010年に施行された公共建築物等木材利用促進法をきっかけとして、公共建築物の木造率は少しずつ増加し、2015年度における低層公共建築物の木造率は26%となっています。
これまであまり木材が使われてこなかった中・大規模建築物の木造化が進まないのは、認知度が低い、設計・施工ができる人が少ない、コストが高い、設計自由度が低いといった課題が考えられます。林野庁では、これらの課題に対処するため、公共建築物で率先的に木造化を図るとともに、人材育成や技術開発などの取り組みを支援していきたいと考えています。
稲山 在来工法の延長で、経済的かつ魅力的な中・大模木造建築物をいかにつくるかが重要です。コスト面や国産JAS製材の調達については、品質管理された一般流通材とプレカットによる在来工法をベースにつくることで解決できます。また、防耐火の法規制についても、1,000㎡以下に防火区画をして、在来工法ベースの一般木造でつくることを考えていけばよいのです。
構造計算については、耐力壁形式を用いた在来工法であれば、これまでの許容応力度計算ソフトで対応可能です。2015年に改訂された「木造校舎の構造設計標準(JIS A 3301)」で標準化された高耐力壁の仕様や、一般流通材とプレカット加工によるトラスの詳細を中・大規模木造建築に活用できれば、安く簡単に構造計画ができます。私が代表理事を務める(一社)中大規模木造プレカット技術協会のホームページの「設計支援」から無料で標準図がダウンロードできます。確認申請の際、この木造軸組接合部標準図と特記使用書を添付すれば、詳細図を描く必要がありません。在来工法ベースでの標準化については講習会も全国各地で開催しています。
一般流通材とプレカットを用いた中・大規模建築の実施例としては、キングポストトラス構造を用いた北海道の松前中学校、スパン15mの平行弦トラスを使った群馬県のデイサービスセンター、一般流通材を使うことで坪60万円以下を実現したJA西印旛農産物直売所などがあります。また、最近ではシザーストラスアーチという手法によって木を編んだようなデザインが可能となり、東急電鉄「戸越銀座」駅のホームリニューアルに使われています。
佐川 協和木材㈱の生産量は、原木換算で40万m3です。昨年度は主伐が500ヘクタール、間伐が250ヘクタール、そこから約20万m3の素材生産をしています。自社伐採が半分を占めているため、前日にこういう木材を伐出してほしいとの注文があれば、翌日には素材を確保できる体制となっています。人工造林した針葉樹林の木材は、寿命を迎える前に伐り出す必要があります。現状で伐採量が少なすぎるため、拡大していく必要があります。そこで、効率的に素材が生産できるよう、職人をとりまとめて組織化し、安定的な収穫を確保しています。
一方、私が会長を務める国産材製材協会ではA材をいかに使ってもらうかが課題となっています。そのために、輸入材と競争できる製材品の供給と無垢材のJAS製材品の普及に務めています。JAS製材品には常時生産材と、注文に応じて生産する特殊材の2つがありますが、常時供給できる一般流通材を利用して、福島県において既に「道の駅あいづ 湯川・会津坂下」、特別養護老人ホーム「国見の里」などが建設されています。
また、当社では「WOOD.ALC」の利用も進めています。これは軽量コンクリートのALCパネルと互換性のある1時間準耐火の木製パネルです。壁面として使いやすい材料で、復興公営住宅「関船団地」(福島県いわき市)や準防火地域での狭小地住宅「堂前の家」(福島県郡山市)などで活用されています。
平田 ナイスグループでは現在、国産材を活用し、素材生産から住宅供給までの一気通貫での取り組みを目指しています。木材流通業として創業した弊社グループは、既に木材と流通のプラットフォームを整備しています。韓国・釜山にも物流センター及びプレカット工場を設置したことで、日本海物流を活用した対応も可能となり、ジャスト・イン・タイムで全国に届けることができます。また、設計・調達・加工・施工までトータルに対応できる「木造ゼネコン®」として様々な構法を積極的に取り入れるなど、中・大規模木造建築への取り組みを強化しています。これまでに「さんさん商店街」(宮城県南三陸町)、JR「銚子」駅本屋(千葉県銚子市)、「変なホテル ラグーナテンボス」(愛知県蒲郡市)をはじめ、様々な用途の建物に携わっています。
今後はもっとA材ニーズを開拓したいと考えています。そのためにJAS無垢材の取り扱い拡大を進めるほか、47の全都道府県の高品質かつ付加価値のある木材を調達する仕組みをプロデュースしています。いろいろな補助金が活用できるため、工務店様やお施主様にとっても大変魅力ある仕組みだと思います。
これからは、脱炭素に取り組んでいない企業は生き残れない時代となってきています。「健康に良いから使う」という観点から更に一歩踏み込み、「環境への寄与」という視点から非戸建及び中・大規模建築物の木造に取り組むことが必要です。
森田 パナソニック㈱は1998年から介護事業に取り組み、現在では介護機器、介護用品から、介護サービス、施設まで幅広く事業を展開しています。このうちサービス付き高齢者住宅(サ高住)「エイジフリーハウス」は、地域の方々と一緒になって介護福祉を考えていく地域密着型の施設で、現在、東京、名古屋、大阪の三大都市圏を中心に55拠点を展開しています。
75歳以上の後期高齢者の急増は2030年ごろまで続きます。つまり、介護や施設、あるいは自宅のリフォームが必要となる方々は確実に増えていきます。高齢者施設の中でも多く求められるのは、特別養護老人ホームです。理由は数が足りないからではなく、地域包括ケアで医療と介護の連携が求められるため、特別養護老人ホームや介護付き老人ホームの需要が拡大してくるのです。更に、住宅地や利便性の高い場所に建設する市場も伸びてくると考えています。
当社では、サ高住の75%を木造で建築しています。その理由は、1つ目は建築コストが安いこと、2つ目は住宅地に違和感がない建物であること、そして3つ目として介護保険は3年に1回改正があるため、リフォームしやすい建物を目指すことが挙げられます。今後は幼稚園、保育園を含めた木造建築が増えてくると同時に、こうしたリフォームのしやすい建物が強く求められてくると思われます。
また、当社では介護施設に、本物の木の心地よさを再現した内装建材「ベリティス」を導入していますが、建材を含め、木の良さを生かした住宅に近い形の施設が増えてくることが予想されます。ナイスさんの施工によって直近で完成した「エイジフリーハウス横浜十日市場町」もテクノストラクチャー工法を活用し、住宅に近い環境を実現しています。
有馬 省エネに向けた大きな流れを振り返ってみると、1973年ごろオイルショックに見舞われたころから省資源・省エネが言われるようになり、木造が見直されてきました。その次が地球温暖化の抑制に向けたCO2排出量の削減、それから低炭素(低二酸化炭素)社会、最近では脱炭素という流れになっています。サステナブル、レジリエンスという言葉も出てきました。木材は高炭素化合物であり、持続可能、再生可能です。つまり、これからの社会において森林・木材の役割は非常に重要であり、「都市にもう一つの森林をつくろう」という姿勢が木造建築物を推進するということです。他の素材よりエネルギーを使わないのだから、木でできることは木でやろう、これが省エネ効果です。木材を扱うことは炭素を貯蔵する産業に関わるということであり、丈夫で長持ちする家は炭素を貯蔵する役割を担うということです。
そして忘れてはならないのは、木を積極的に使うと同時に、次の世代につなげることが必要な時代でもあるということです。他の材料のような「消費のための消費」から、木材の「生産を生む消費」への転換が求められます。つくるだけでなく、今後はつくられた建物の価値が問われるようになります。木材はエコロジーであるとともにエコノミーでもあり、木材を使うことで生活が変わります。いずれにしても、今はまさに次のステップに向かっていると言えるでしょう。

 

 
建築物の木造化を推進するために
 

遠藤 資源循環型社会の構築につながる建築物への木材活用について、推進すべき課題や役割についてお聞かせ下さい。
稲山 中・大規模木造建築に関する情報提供が、十分になされていないと感じます。国産材を使いたくてもJAS材はどこで手に入るのか、それぞれの地域でどういう等級の材が流通しているのかといったことが分からないのです。この点を解消するためには、まず自治体ごとに情報提供を行い、設計者が木材を使いやすい環境の整備をすることが大切です。逆に、発注者側に木造に対する理解が足りないことも多く、設計者が木造を勧めても、メンテナンスにお金がかかるのではないかなどと難色を示されるケースが多々あります。耐久性に問題がないことや、防耐火なども技術開発がされて性能値が上がっていることなど、木造に関する正しい情報を伝えていく努力が必要だと感じます。
佐川 木材業界としても、木材という素材の正確な情報をしっかりと提供していくべきだと考えます。これまでは、常時供給できる一般流通材という製品について積極的に公表してきたわけではなかったため、特殊な材の受注生産品の生産で、発注者様にとっては価格が高くなり、当社としても特殊材の生産加工に苦労する場合が少なくありません。木造の建築コストが高くなるのは、一般流通材ではない、特殊な材を要求される場合です。一般流通材をうまく活用することで、価格的にも鉄骨造や鉄筋コンクリート造と競争できる国産材の中・大規模建築物が可能になります。
また、JAS製材の普及が一般木材は12%と聞き、忸怩(じくじ)たる思いです。単に供給していないのと、供給できないというのでは大きく異なります。非常に残念なことに、供給できるのに供給していない工場も多いのが現状です。また、ハウスメーカーにJASの柱を提案しても、JAS材でなくてよいとおっしゃる場合があります。JAS製材について、利用者の皆さんも、もっと理解を深めていただけたらと思います。
平田 弊社グループでは、木材が持つ様々な効能について一般の方々に広く啓発するべく、木材が健康にどのような影響を与えるかを調べるための施設「スマートウェルネス体感パビリオン」を、横浜市や慶應義塾大学とともに横浜市に開設しました。ここでは、木材が睡眠や知的生産性に及ぼす影響を測定しています。実証実験により、内装を木質化することで熟睡する時間が20分増え、知的生産性も向上することが数字にも表れています。
これからは初期段階から木造で検討することが求められると思います。設計事務所様、建築会社様は木造の依頼があったら、中・大規模建築であってもぜひ引き受けていただきたいと思います。地球のために何ができるのか、一緒になって取り組んでいきたいと思います。
日本の宝は「木材」と「人材」だと考えています。皆様とともに大切な資源である木材をフルに活用し、社会に貢献していきたいと思います。
森田 建築会社様にぜひお願いしたいのは、耐火構造への取り組みです。介護事業者が木造で建てたいと考えても、建築会社様のほうから「難しい」とか「コストが上がる」などと二の足を踏まれるケースがあります。当社ではこれまで、複数の耐火構造による施設建設を手掛けてきましたが、設計者様、施工者様、納材業者様などとの連携によって、希望価格や木の柔らかさを含め、鉄骨造と遜色のない建設が可能になっています。建築会社様にとっても、2軒目の現場となればスムーズに作業できるようになります。ぜひ恐れずに耐火木造に挑戦していただきたいと思います。
井口 林野庁では、間伐対策の一環として、これまでB材対策を進めてきましたが、最近はB材需要が旺盛となり、A材であってもB材並みの価格で取引される例が散見されます。これでは山元への利益還元が十分に行われないため、今後はA材対策にも力を入れる必要があります。
また、鉄骨造や鉄筋コンクリート造に対抗するためには、品質・性能の確かなJAS製材品が必要となりますが、同じJAS製品であっても、A材由来の無垢製材を使っていただきたいと思います。そのことが、サステナブルにつながります。来年度予算では、JAS無垢製材品に対する大型の支援策も用意しています。
それから、同じ木材を使うなら無垢材、しかも国産材を使ってほしいと思います。無垢国産材というと乾燥が不十分とのイメージがあり、敬遠されていますが、最近の製品は品質・性能が大幅に向上しています。
有馬 木材の普及に向け、プロの連携は十分できているのでしょうか。連携にも2つあり、林業、木材産業、建築事業、施主といった同世代での「空間的な広がり」、そしてもう一つ重要なのが、次の世代に何を手渡すかという「時間的な広がり」です。この両面を備えているのが木材、木造建築の特徴です。
更に、プロの相互理解と専門性を発揮するためには、お互いに謙虚さがなければなりません。木材の利活用は、高い目的意識を持ったクライアントに支えられています。それぞれの専門分野において、こうした方々に対する理解の醸成に向けた努力は決して失ってはいけないと考えています。
プロである私たちにとって重要なことは、木材の可能性を更に追求し続けることではないでしょうか。木材の存在意義を今一度意識し、次の時代に向けてトライアルすることが大切だと思います。
遠藤 建築物への木材利用がサステナブルな社会の実現に大きく貢献することを感じました。そして、そのためには設計、生産、施工、流通の機能がしっかりと横連携してかつ謙虚に前向きに取り組む大切さを痛感しました。本日はありがとうございました。