1. TOP
  2. ナイスビジネスレポート
  3. 2018年 新春特別対談 加速するアベノミクスの成長戦略 ~生産性革命・人づくり革命・地方創生・国土強靭化~

2018年 新春特別対談 加速するアベノミクスの成長戦略 ~生産性革命・人づくり革命・地方創生・国土強靭化~

 2018年の幕が開けました。昨年は、雇用・所得環境の改善や好調な企業業績などを背景として景況感は総じて良好となり、景気拡大への期待が膨らむ中での年明けとなりました。少子高齢化という構造的課題に直面する中、日本は今まさに大きな変革の時を迎えています。今回は新春特別対談として、第2次安倍政権発足後は内閣総理大臣補佐官を務められる和泉洋人氏に、加速するアベノミクスの成長戦略についてお聞きしました。

 

 

 

科学技術イノベーションに注力
 

平田 新年おめでとうございます。昨年の日本は内需、外需ともに堅調に推移し、景気回復局面が高度経済成長期の「いざなぎ景気」を超え、戦後2番目の長さとなるなど、更なる景気拡大への期待が膨らむ中での年明けとなりました。これまでのアベノミクスの効果がまさに現れてきていますね。
和泉 第2次安倍政権が2012年12月に発足してから丸5年が経過し、アベノミクスの効果は様々な指標にもはっきりと現れています。発足時、為替レートは1ドル85.15円、日経平均株価は10,230.4円でしたが、現在は為替が1ドル110~115円、日経平均株価が23,000円程度で推移しており、明らかな大幅改善となっています。また、企業収益は2016年度に75.0兆円と過去最高を記録しました。有効求人倍率は史上初めて47都道府県の全てで1倍を超え、正社員の有効求人倍率は1.01倍と統計開始以来最高水準にまで上昇するなど、雇用環境も大きく好転しています。
所得環境としては、4年連続して2%程度の賃上げが実現し、多くの企業でベースアップが実施されています。しかし、消費に力強さを取り戻すためにはこの勢いを一層強める必要があり、経済界に更なる賃上げを要請しているところです。物価についてはいまだ低水準ではありますが、日本銀行が「物価上昇率2%」の目標を掲げて大規模な金融緩和を講じています。消費に力強さが出ることで物価も上昇し、全体として好循環が生まれると思います。
政策というのは、継続的に講じていくことが最も大切であり、安定政権の重要性を心から実感しています。現政権の今年の最大の目標は、日本経済を完全なる好循環に乗せることだと言えます。
平田 昨年末には「新しい経済政策パッケージ」が閣議決定されましたね。
和泉 「新しい経済政策パッケージ」は、持続的な経済成長を成し遂げるべく、構造的課題である少子高齢化への対応として2020年度までに取り組んでいく政策を示したものです。この政策パッケージの柱となるのは、人生100年時代を見据えた「人づくり革命」、そして「生産性革命」です。
世界では今、不連続な科学技術のイノベーションが起きています。日本でも、完全自動運転車など、人工知能(AI)を用いて技術革新が進められています。例えば、昨年には政府が日本版GPSとも呼ばれる準天頂衛星※1を3基打ち上げ、4基体制を構築しました。アメリカのGPSの水平誤差は10m程度ですが、常に日本の上空にある準天頂衛星を組み合わせるとその誤差は数㎝にまで縮まります。2023年度にはアメリカのGPSに依存することのない7基体制とする計画です。この準天頂衛星から受信する高精度の位置情報を用いることで、完全自動運転車の走行技術などが急速に進んでくると思われます。
日本は世界のどの国よりも安全で、他の先進国と比べて物価も安く、素晴らしい国です。しかし、今後も世界をリードする先進国として成長し続けるためには、科学技術のイノベーションに一層注力していくことが必要となります。そのためにも、最大の資源である人材を育てる「人づくり革命」と、科学技術のイノベーションにより生産性を革命的に押し上げる「生産性革命」を車の両輪として取り組み、それにより日本経済の好循環を確かなものとしていきます。

 

インバウンドによる地方創生も
 

平田 安倍政権の発足以降、景気としてはずっと良い流れできていると感じています。特に肌で実感するのがインバウンドのすごさです。一時は落ち着いた感もありましたが、中国をはじめとする各国からの訪日者のビザ発給要件が緩和されたことを受け、今年もインバウンドの一層の拡大が見込まれますね。
和泉 2017年の外国人観光客数は2,800万人に達する見通しです。2012年は835万8,105人でしたから3倍以上です。政権発足当初は2020年に外国人観光客数2,000万人を目標としていましたが、これを圧倒的にしのぐペースで実現しています。現在、外国人観光客数の新たな目標として2020年に4,000万人、2030年には6,000万人を掲げています。世界で最も外国人観光客数が多いのはフランスで、年間8,200万人となっています。しかし、フランスは隣国と陸続きであり、国境検査をしないで国境を越えることを許可するシェンゲン協定※2への参加国間ではパスポートなしで自由に移動ができます。その点を考慮すると、日本が2030年に6,000万人という目標を達成した際には、海を渡って入国する観光客数としては恐らく世界1位になると思います。
訪日外国人観光客による消費は、日本製品を爆買いする「モノ消費」から変化し、里山の風景や田舎での暮らしなどへの関心の高さから「コト消費」へと移っています。今は、SNSなどを利用して日本全国どこからでも世界に情報を発信できますので、地方にインバウンドを呼び込み、それにより地方が自信を持つことが、これからの地方創生の変革につながると期待しています。
また、昨年には住宅の空き部屋を有料で旅行者に貸し出す民泊のルールを定めた通称「民泊新法」が成立し、今年6月から施行されます。これからは、外国人観光客のニーズに応える受け皿として、一戸建住宅をはじめ、空き家や空き室の活用が急速に進むことが考えられます。

 

外国人とシニア人材の活用を
 

平田 失業率が2.8%と23年ぶりの低水準となる中、どの産業も総じて人手不足感が高まってきています。建設や物流の現場でも人材確保が難しい状況で、人件費が高騰しています。
和泉 人手不足への対応としては、ICT(情報通信技術)の活用による効率化に加え、海外からの人材の受け入れが必要です。現在、新興国への技能移転を目的に外国人を受け入れる「外国人技能実習制度」を実施しており、同制度を活用して、全国に約25万人の外国人が在留しています。建設業においては、東京オリンピック・パラリンピック関連の建設需要をにらんで、2015年より外国人技能実習制度の修了生に特定活動という在留資格を与え、受け入れ期間を2年延長して最長5年にする拡大措置を講じています。昨年11月には「外国人技能実習適正化法」が施行され、技能実習制度の対象となる全職種について受け入れ期間が最長5年に延長されたほか、対象職種に介護職が追加されました。また、先の「新たな経済政策パッケージ」においては、超高齢社会における介護需要の担い手となるべく、外国人技能実習制度の修了生が介護福祉士の国家試験に合格した場合には在留資格を認めるなど、介護分野での人材受け入れに向けた環境整備を図ることが盛り込まれています。
その一方で、実習生による犯罪や実習修了後の不法滞在者の増加、受け入れ先における労働基準法違反などの不正行為が課題に挙げられています。こうした課題解決のためにも、実習生を送り出す国と受け入れる日本との間で協力覚書を締結し、相手政府の認定機関からのみ受け入れるなど、不正が起こらない体制づくりを進めています。これらが定着すれば、人材の受け入れがよりスムーズになり、送り出す側の国々とも「WIN‐WIN」の関係が構築できると思います。
平田 人材の確保の点では、シニア人材の活用も考えられますね。現在は、高齢者も元気で、労働意欲にも溢れています。
和泉 日本老年学会の発表によると、1998年の65歳から70歳の身体能力と、2018年の75歳から80歳の身体能力がほぼ同じで、この20年で身体能力が10歳も若返っていることが分かりました。こういった元気な高齢者がもっと社会参画できるようにするためには、健康寿命の延伸が重要となります。平均寿命と健康寿命との差は、現在、男性で7~8年、女性で12年となっており、これをいかに縮めるかが政府の健康政策の最大の柱です。
日本の医療保険制度は、国民全てが何らかの公的医療保険に加入している国民皆保険制度となっています。そのため、様々な健康・医療関係のデータを収集することが可能です。既に、どういった薬が処方されたか、どこの医療機関でどのような医療措置が講じられたかといったレセプトデータは100%収集されています。そういった点では、世界に先駆けて超高齢社会に突入しており、健康・医療・介護のビッグデータを保有しているのは日本しかありません。「新たな経済政策パッケージ」においては、健康・医療・介護のビッグデータを連結して分析するための「保険医療データプラットフォーム」について、2018年度より詳細なシステム設計に着手し、2020年度からのデータ利活用基盤の本格稼動を目指すことを盛り込んでいます。これにより、ビッグデータを分析・活用することで、健康寿命を引き上げていくことはまだまだ可能だと思います。健康寿命の延伸に向けた社会システムは、ピラミッドに例えると、頂上が治療であり、次が予防、その下がヘルスケア産業、そしてこれらのベースとなっているのが住まいづくりや街づくりとなります。この社会システムの全体を俯瞰して、いかに健康寿命を引き上げていくかが重要だと言えます。
また、内閣府では現在、日本が有する健康・医療・介護の分野における技術やシステムを、急速に高齢化が進むアジア地域に輸出し、持続可能な経済成長を可能とするアジアを創ることを目的として、官民連携のプロジェクト「アジア健康構想」にも注力しています。
平田 住宅に携わる者として、当社グループも住まわれる方の健康のためにスマートウェルネス住宅の普及に取り組んでいます。現在、ヒートショックに起因する死亡者数は年間2万人を超えるとも言われています。交通事故による死亡者数は年間5,000人を割り込んでおり、ヒートショックによる死亡者数がはるかに多い状況です。
ヒートショック防止の根本的な対策として、住宅そのものの断熱性能を向上させて家全体の熱を逃がさないことが大切です。弊社グループでは、住宅の断熱性能や省エネ性能を向上させることの重要性を訴求するべく、2015年から横浜市と慶應義塾大学と産官学共同で健康と住まいの関係を体感できる「スマートウェルネス体感パビリオン」(横浜市鶴見区)を運営し、オープンから約2年間で累計1万人超にご来場いただいています。ここでは、断熱性の違う部屋における体温や血圧の変化を体感することもできます。引き続き、同パビリオンを活用しながら、健康寿命の延伸に寄与するスマートウェルネス住宅の普及に努めていきます。

 

国土強靭化の更なる強化へ
 

平田 昨年7月に九州北部で豪雨災害が起こるなど、日本は地震や台風、豪雨などの自然災害の脅威にさらされています。国土強靭化に向け、一層の取り組み強化が求められていますね。
和泉 国土強靭化は、国民の命と財産を守るために最も重要であり、国家のリスクマネジメントです。議員立法により2013年に制定された「国土強靭化基本法」に基づき、2014年に国土強靭化基本計画が閣議決定されました。これに則って、地方公共団体において国土強靭化地域計画の策定が進められており、昨年12月1日現在、全都道府県で計画策定済み、または策定中となっています。更に、市町村レベルでも国土強靭化地域計画の策定が進められています。
国土強靭化地域計画と従来の地域防災計画との違いは、地域防災計画が地震や洪水など特定したリスクへの対応をまとめたものであるのに対し、国土強靭化地域計画は、あらゆるリスクを見据えつつ、どんな事象が起ころうとも最悪な事態に陥ることを避けることができるよう、強靭な行政機能や地域社会、地域経済を事前につくり上げていこうというものです。12の政策分野と3つの横断的な分野に分けて整理し、国全体で取り組んでいます。
日本は、首都直下地震や南海トラフ巨大地震、そして富士山噴火と、東日本大震災をしのぐ規模の大災害が想定され、災害リスクは常に目前にあります。これに対しては、準備に準備を重ねても、それでも足りないくらいの準備が必要です。また、これだけの自然災害リスクを抱える日本は、海外から見ると非常にぜい弱であり、国際競争においてもこのままでは勝ち得ないわけです。そのためにも産業競争力を強化し、カバーするのが国土強靭化なのです。
その一方、東日本大震災では復興の力やスピード、そして被災された方々の落ち着いた対応など、まさに日本人の絆や強さ、しなやかさが世界中から賞賛されました。これは、国土強靭化というハードだけでなく、日本の社会全体のソーシャル・キャピタルとして大事にすべき部分だと思います。今後も、ハードとソフトの両面から、官民連携の下で最重要課題として取り組んでいきます。

 

CLTの一般化で木材利用を促進
 

平田 国土面積の約7割を森林が占める日本は、森林蓄積量が49億m3に上り、戦後植林した人工林が利用期を迎えています。まさに木材は、人材に次ぐ有効な資源と言えます。
和泉 木材は日本の大きな資源であり、国は現在、林業の成長産業化に向けて取り組んでいます。国の木材利用促進に向けた姿勢は、2010年の「公共建築物等木材利用促進法」の施行を契機に大きく転換がなされています。建築物への木材利用の観点で言えば、現在、内閣官房にCLT活用促進のための政府一元窓口を設置し、野上浩太郎内閣官房副長官を議長とするCLT活用促進に関する関係省庁連絡会議を開催するなど、CLTの普及促進に力を入れています。
平田 当社グループも、東日本大震災の大津波で被災した仙台物流センターの事務所棟を、日本初となるCLTと鉄筋コンクリート造との平面混構造で建設し、昨年3月に竣工しました。CLTは木造の可能性を大きく広げる素晴らしい製品ですが、現状として一般に流通することができず、受注生産となっています。ここに課題があると感じています。
和泉 国土交通省が2016年にCLTを用いた建築物の一般設計法の告示を施行しました。これにより、準耐火構造で建築が可能な3階建て以下の建築物について、CLTを現しで用いることが可能となっています。振り返ってみると、ツーバイフォー材が日本に入ってきた際も、一般告示がなされ、地域の工務店が利用できるようになったことにより一気に普及しました。CLTもツーバイフォー材の歴史にならうことが必要だと思います。
CLT活用促進に関する関係省庁連絡会議が昨年策定したロードマップでは、CLTの生産能力を高め、かつ施工性・汎用性の高いパネルサイズなど、標準規格の作成を進めていくことが示されています。CLTが中高層建築物のための製品としてだけでなく、標準規格化により一般材として流通し、住宅などの低層も含めて地域の施工業者が建築できるようになると、普及が一気に進んでいくと考えています。
平田 日本の木材自給率は6年連続で上昇し、34.8%に上っていますが、これを製材用材に限定すると50%弱まで自給率は上がっています。国が掲げる2025年までに木材自給率50%を達成するためには、木材利用の更なる促進が必要であり、国民全体の機運の醸成が重要だと思います。
当社グループでは、「ウッドデザイン賞2017」の林野庁長官賞を受賞した「木と住まいの大博覧会」を通じ、今後も木造住宅や中・大規模木造建築物から木製品、木育、学術研究まで、木に関する製品や技術、情報を、一般ユーザーからプロユーザーにまで幅広く発信することで、木材利用の促進に貢献できるよう努めていきます。

 

2020年以降の日本に期待
 

平田 東京オリンピック・パラリンピック競技大会が開催される2020年以降、人口減少により景気が落ち込むという論調が多く出ています。私はこれに懐疑的で、イノベーションにより、前回1964年の東京五輪開催以降の「いざなぎ景気」と同様、更に景気が上向いてほしいと期待しています。
和泉 2027年には品川と名古屋を結ぶリニア中央新幹線が開業します。その10年後の2037年には運行区間が東京と大阪にまで延び、この間を67分で結ぶ計画です。これにより、日本の三大都市圏が約1時間で結ばれ、世界から「ヒト」「モノ」「カネ」「情報」が集まる、世界を先導する「スーパー・メガリージョン」の形成が期待されます。ICT中心の東京、モノづくりの名古屋、医療都市である大阪が一体化すれば、人口は約7,500万人で、4つの国際空港と3つの国際港湾を保有し、そして多くの研究学園都市が存在する、人類史上初の大都市が誕生することになります(図1)。
これによるシナジーは、学問的な蓄積がありませんから誰にも分かりません。しかし、相当な規模となることは確かでしょう。この「スーパー・メガリージョン」は、新たなイノベーションのプラットフォームになると考えています。
リニア中央新幹線の開業だけでなく、大阪府が尽力している2025年国際博覧会の誘致といった話もありますし、インバウンドによる地方創生など、この先の日本の将来は期待できると思います。
平田 今年は、景気の見通しも明るく、国による力強い政策もあり、期待の持てる1年となりそうです。住宅・建設業界、木材業界にとっても、本日お話しいただいた科学技術イノベーションなどにより、大きな変革に向けたスタートの年になると思われます。
弊社グループでは2020年、そしてその先の更なる明るい未来に向けて、巻き起こる変革の波を捉え、パートナーである販売店様、工務店様、メーカー様と一体となって、安全で安心、そして住まう方の健康に寄与する住まいづくりに取り組んでいきたいと考えています。
本年も「お客様の素適な住まいづくりを心を込めて応援する企業を目指します」という企業理念のもと、皆様のお役に立てるよう役職員が衆知を集め、一丸となって邁進する所存です。引き続き、ご指導の程よろしくお願いいたします。本日は誠にありがとうございました。