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特別対談 木材・建築を主体とした地方創生

 人口減少という構造的な課題に直面する中、国は経済社会の活力を維持・向上させていくため、経済や雇用情勢の格差を解消する地方創生の実現を目指しています。今回は、衆議院議員の石破茂氏をお迎えし、地方創生の意義や取り組みなどについてお聞きしました。

 

 

人口減少がもたらす危機的状況
 

平田 日本は、団塊世代が75歳を迎える「2025年問題」が迫っており、世界に先駆けて少子高齢化による人口減少という課題に直面しています。活力ある経済の実現に向けて、この構造的課題についていかがお考えでしょうか。
石破 日本の人口は、現在の1億2,700万人から83年後の2100年には5,200万人へと半減し、200年後には1,391万人、300年後には423万人にまで減少すると推測されています。ジェットコースターに例えると先頭車両が頂点に差し掛かったところで、今後、人類の誰もが経験したことがないほどのスピードで人口が減っていくことになります。
人口の上昇局面において、5,000万人を超えたのは1912年、明治時代のことです。当時と2100年の人口推計値は同じ5,000万人ですが、若い人が多く高齢者が少なかった1912年に対し、2100年は若い人が少なく高齢者が多い状況にあり、その意味するものは全く異なります。
人口減少の原因の一つには、結婚する人口の減少が挙げられます。現在の生涯未婚率は男性が23.37%、女性が14.06%に及んでいます。平均初婚年齢は男性が31.1歳、女性が29.4歳と晩婚化しており、これに伴って第一子出生時の母親の平均年齢は30.4歳と上昇傾向が続いています。また、1人の女性が生涯に産む子供の数を推計した合計特殊出生率は、沖縄県がトップで、2番目が島根県、3番目が宮崎県となり、鳥取県、熊本県、長崎県、佐賀県、鹿児島県と南西方面で続いています。出生率が一番低いのはご存知の通り東京都で、次いで京都府、北海道、宮城県となっています。
食料を生産し、エネルギーを創出し、子供が多く産まれる地方から、食料もエネルギーもつくらず、出生率が最も低い東京都に人口が流入しているのですから、人口減少は当たり前のことと言えます。今、この東京一極集中の動きに歯止めをかけないと、日本は滅びてしまいます。
平田 東京は首都機能を有し、ヒトだけでなくモノやカネの全てが集中する中、一方で首都直下地震などの災害リスクが高まっていますね。
石破 世界主要都市における災害時の危険度では、2位を大きく引き離して東京がトップにランキングされています。今後30年以内の首都直下地震の発生確率は70%以上と見られています。また、富士山は人間で例えると20歳前後と若く活動期にあり、いつ噴火してもおかしくない状況にあります。富士山が最後に爆発した1707年には江戸の街にも18日間にわたって火山灰が降り積もり、壊滅状態に陥ったとの記録が残されています。もし今、富士山が噴火した場合は、飛行機や電車はおろか自動車も1台も走れない状況となり、首都機能は完全に麻痺します。
更に、1955年から1970年の間に、500万人という人類史上例を見ない規模の人が東京都に流入しています。これらの方々が高齢化してきており、今後も東京における高齢化はもの凄いスピードで進んでいきます。つまり、災害リスクと超高齢社会という大きな2つの問題をはらんだ東京は、地方に遅れる形で疲弊衰退することは明らかで、日本はまさに危機的状況を迎えているのです。

 

失敗が許されない地方創生
 

平田 石破議員は、地方創生担当大臣を務められ、その後も地方創生の実現に向けて精力的に取り組まれています。
石破 自民党の歴代政権はこれまでも、田中角栄総理の「日本列島改造論」、大平正芳総理の「田園都市国家構想」、竹下登総理の「ふるさと創生」と、都市と地方の経済格差の解消に向けた政策を展開してきました。いずれも素晴らしい政策でしたが、現在の地方創生と異なるのは、どれも高度経済成長期にあったため「失敗したら国が潰れる」というほどの切迫感はありませんでした。
1960年代後半から1980年代前半にかけて、どの地方においても人口が増加し、にぎわいのあった10年間が存在しています。そこには、やはり高度経済成長期という時代背景がベースにありました。道路、下水道、空港、港湾などの公共事業が全国で進められ、内需に沸きました。「同じモノを安く大勢の人に」というビジネスモデルが日本で展開されたのもこの時代です。1960年代半ばには車、クーラー、カラーテレビの「3C」が新・三種の神器と呼ばれ、一気に普及しました。経済成長の最中で、つくればつくるほど売れ、規格品を大量生産する工場が各地に誘致されました。これにより地方に多くの雇用と所得がもたらされたのです。
この経済モデルは人口が増加し、生活水準が低かった時代にジャストフィットしたものであり、人口が減少し、生活水準も高いレベルにある現在においては全く成り立ちません。だからこそ、今回の地方創生は絶対に成功させなければならない政策であり、相当の危機感を持って取り組んでいます。
では、どうすれば良いのか。現在の日本が勝負すべきは、農林水産業と観光業の成長産業化です。農業について言えば、土と光と水と温度の産業であり、日本ほどこれらに恵まれた国はありません。しかし、アジアで一番富んでおり、食料のほとんどを輸入に頼るシンガポールで流通しているイチゴは、その5割がアメリカ産、3割が韓国産で、日本産は1%も存在していません。日本の農産物は世界一安全で美味しく、世界中にもっと流通できるはずであり、その方法を模索すべきです。
漁業についても、水産資源を独占できる排他的経済水域の面積は日本が世界第6位で、体積で見ると世界第4位です。漁業は世界的に成長産業となっている一方、日本は漁獲量も漁獲高もピーク時の半分以下に落ち込んでいます。その理由は、たくさん獲ってたくさん売るというビジネスモデルが続いている点にあります。これを続ける限り、資源の枯渇は止まらず、値段も下がる一方です。色々なビジネスの方法がありますが、付加価値を付けて1匹の値段を高めることが重要だと考えています。

 

林業の成長産業化が鍵に
 

平田 林業については、日本は豊富な森林資源を有する世界有数の森林大国であり、戦後の植林木が利用期を迎えています。その一方で、森林の所有者に利益が還元されず、各地で林業が疲弊している状況にあります。林業の成長産業化に向けてはどのようにお考えですか。
石破 日本の森林面積は2,512万ヘクタールで、ドイツの1,110万ヘクタールの倍以上であるにも関わらず、木材生産量は1,562万m3とドイツの4,000万m3の半分以下となっています。と言うのも、日本の過半の山林が手入れされないまま放置されている状況にあるからです。林業経営の実態として、20ヘクタール以上の山林を有する林業経営体の平均所得が178万円であるのに対し、林業経営に要する費用は168万円で、利益はたったの10万円となっています。森林は日本の国土の約7割を占めており、まずは森林所有者に利益が還元されるシステムを構築しないことには、サステナブルな森林経営も、ましてや地方創生は望めません。
所有者に適正な利益が還元されるようにするためには、日本産木材の利用拡大が必要であり、それを見据えるに当たっては、CLTの普及と発展が重要になると思います。CLTは1980年代にヨーロッパで開発され、この技術が普及したことで、ドイツやオーストリアなどを中心に建築用材への木材利用が進みました。日本で同様にCLTを普及させるためには、関係省庁の横断的な取り組みと、公共建築物における活用を民間に先駆けて行っていくことが必要で、行政の担う役割は大変重要だと考えています。また、実際にCLTを用いて建築しようとしても、その技術を有する事業者が少ないのが実状です。各地域の建築事業者の方々に対し、技術の伝播が図られることが重要です。
平田 林業の成長産業化に向けた施策として、来年の税制改正で「森林環境税(仮称)」の創設が検討されていますね。
石破 森林環境税(仮称)は今回の税制改正における最大の目玉と言えます。これは、管理されずに放置されているスギやヒノキの人工林を自治体が借り上げて集約し、公的に管理する「新たな森林管理システム」の財源となるものです。現在、個人住民税への上乗せという、国民の皆様にご負担いただく形で検討が進められています。この税制を成立させるためには、実際に自治体でどのように財源が使われていくのかを詳細にシミュレーションし、国民の理解を得ることが重要だと考えています。

 

サービスの意識改革で観光立国に
 

平田 農林水産業に加え、地方創生のもう一つの鍵となるのが観光業ですね。
石破 現在、日本の国内総生産(GDP)のうち7割をサービス業が占めています。日本人の意識として「サービスはタダ」と思いがちの部分がありますが、そうではありません。サービスにふさわしい対価をいかに求めるか、これには意識改革が必要であり、それが成されないことにはサステナブルな経済は実現しません。観光業において、かつてのビジネスモデルである「同じモノを安く大勢の人に」という発想からの転換を図るには、「今だけ、ここだけ、あなただけ」のサービスを提供し、その正当な対価を得ることが重要となります。
JR九州のクルーズトレイン「ななつ星in九州」を例に挙げると、同クルーズは旅行代金が2名1室利用の場合、1泊2日で1人当たり34万5,000円、3泊4日で72万5,000円(2018年3月出発)と高額であるにも関わらず大変な人気で、運行開始当初は当選倍率30倍以上、今でも10倍以上となっています。私もメディアの取材で2回ほど数時間ですが乗車しましたが、最高の車両で最高のサービスが提供され、九州で一番おいしい食事やお酒でもてなされるなど、素晴らしい空間と時間が用意されています。当選された方には、事前に食べ物の好みや見たい景色などの確認がなされ、リクエストした景色が見えるポイントでは、ダイヤの許す限り時速を落として走行するといった徹底ぶりです。クルーズ終了後、乗客の中には涙する方も多いそうで、最高のサービスを提供し、想像以上の感動を与えることで成立しています。
観光というのは、四季がはっきりしていて、自然が豊かで美しく、歴史・芸能・文化・芸術が奥深く、食べ物やお酒がおいしい、という4つが最も重要な要素となっています。よく治安の良さやおもてなしはどうかと言われますが、治安やおもてなしだけを楽しみに訪れる人はいません。では、日本全国の1,718市町村についてこれらの4つの要素が当てはまるかを見てみると、特長がないように思われるところも実はこれらの要素を満たしています。ですから、日本は全国どこでもそれぞれの特長を際立たせることで、観光により活性化を図ることが可能です。しかし、「今だけ、ここだけ、あなただけ」のサービスは、その地域を熟知した、その地域の産業に従事される方々にしか生み出すことはできません。それぞれの地域が独自に観光のあり方を模索していくことが大切だと考えています。

 

日本の将来の核となる住宅政策
 

平田 住宅産業はこれまで、内需の柱として日本の経済成長を支える基幹的な役割を担ってきています。これからの住宅政策についてはどのようにお考えでしょうか。
石破 日本の将来を考えるに当たっては、地方の潜在的な能力を最大限に引き出して地方創生を実現するとともに、国民一人ひとりが幸せを実感できる社会をつくり上げていくことが重要です。現在、国民が幸せを実感できない要因の一つに、住宅の資産価値の問題があります。日本の住宅は、建築してから35年で市場価格としての評価額はゼロになります。寿命が延伸し、「人生90年」という時代において、頑張って住宅ローンを払い終えた時には住宅が負の資産となってしまっているのが現状です。
住宅が耐久消費財として扱われるようになって久しいですが、住宅は資産であり、決して耐久消費財ではないはずです。この住宅の資産化を政策のメインに据えたのが福田康夫総理で、2007年に「200年住宅構想」として打ち出しました。ここから、住宅政策はストック重視へと転換が図られ、現在に至っています。
実は、東京在住者に今後の移住に関する意向を調査した結果、50歳代の男性では5割が、同じく女性では3割が移住を検討したいと考えています。第2の人生を地方でのんびりと暮らしたいという人は多くいる反面、何が障害になっているかと言うと、住宅が売れない、借り手がつかないといった問題です。この問題が解決していかなければ、地方への移住は進まず、東京一極集中に歯止めをかけ、地方創生を実現することも難しくなります。そういった点から、住宅政策は今後も日本の将来において重要な位置付けにあると考えています。
平田 本日はお忙しいところ貴重なお話をいただき、誠にありがとうございました。