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特別講演 これからの住生活政策と住宅業界 ~新たなビジネスチャンスの創造に向けて~

株式会社創樹社 代表取締役社長 ハウジング・トリビューン編集局長 中山 紀文 氏
 

11月2日に東京で開催されたナイスパートナー会連合会理事会にて、㈱創樹社代表取締役社長の中山紀文氏による特別講演が行われました。同氏は、昨年新たに策定された「住生活基本計画(全国計画)」の目標項目に基づき、住宅業界を取り巻く環境や今後の住生活関連施策の動向について述べられました。今回は、同講演の内容を抜粋してまとめました。

 

 

住宅業界における環境変化
 

住宅業界の置かれている環境を把握するため、まずは住宅着工戸数と職人数に着目してみたいと思います。
住宅着工戸数はリーマンショックの影響により2009年に大きく減少しました。その後回復したものの、2014年の消費増税で再び減少し、また少しずつ回復してきている状況です。一戸建住宅については、持ち家が2009年のリーマンショック時から回復傾向にあったものの、2015年には2009年よりも戸数を減らし、その後は低水準で推移しています。一方、分譲一戸建住宅については堅調で、この1年間はほぼ前月比プラスで推移しています。その要因としては低金利のほか、大都市圏における分譲マンションの供給数の減少によりマンション価格が高騰し、若い世代が分譲一戸建住宅の購入に動いていることが挙げられます。
2019年10月1日には消費税10%への引き上げが予定されており、今後の着工戸数に影響を与えることは必至です。
着工戸数の減少よりも深刻な問題と言えるのが、大工をはじめとする職人不足で、その減少スピードは着工戸数よりも大きくなっています。今後は、受注しても職人を確保できずに建てられないという状況が発生するかもしれません。裏を返せば、施工力を持った事業者は、着工戸数が減ったとしてもシェアを伸ばす可能性があると考えられます。

 

 

子育て世帯の住宅取得を促進
 

今後の住生活政策について、「住生活基本計画」に基づいて見ていきたいと思います。住生活基本計画とは今後10年の住宅政策の指針を示したものです。現行の計画は昨年策定されたもので、8つの目標が掲げられています(図2)。
1つ目には、「結婚・出産を希望する若年世帯・子育て世帯が安心して暮らせる住生活の実現」が掲げられています。この背景には、20歳代や30歳代の所得水準の低下と、建築費の上昇が挙げられます。建築費の上昇は大手ハウスメーカーによるプレハブ工法で顕著ですが、木造軸組工法でも1㎡当たりの平均単価が、2010年の16万842円から2015年には17万2,319円と1万円以上も上昇しています(独)住宅金融支援機構調べ)。つまり、住宅の購入意欲はあっても、実際には買うことができない若年世帯や子育て世帯が増えているということです。
一方で、「パワーカップル」という夫婦ともに高年収の共働き世帯が増えてきています。㈱ニッセイ基礎研究所の調査によると、世帯年収が1,000万円前後の共働き世帯は全世帯の14.5%を占め、その中でも夫婦ともに年収700万円超の世帯が2016年は25万世帯に上るなど、年々増加傾向にあります(図3)。世帯構成を見ると、「夫婦と子」に次いで「夫婦のみ」の世帯が多くを占めており、今後はこれら高所得水準のパワーカップルがどういう住宅投資をするか、注視することが重要だと思います。
このような中、国は若年世帯や子育て世帯の住宅取得支援策として、今年度予算において(独)住宅金融支援機構の「フラット35」について子育て支援型をスタートさせました。これは、子育て支援の取り組みを行う地方公共団体と同機構が連携し、地方公共団体による財政的支援と合わせて、当初5年間の借入金利を0.25%引き下げるというものです。同制度を利用できるかどうかは地方公共団体に確認が必要となります。

 

 

 

高齢者を核としたコミュニティーに注目
 

「高齢者が自立して暮らすことができる住生活の実現」について、国はサービス付き高齢者向け住宅(サ高住)の供給促進を図っており、サ高住の戸数は順調に増えてきています。一方、利便性の悪さや占有面積の狭さなどの課題も出てきており、国は今後の方針として、都市部におけるサ高住の整備や占有面積の拡大などを打ち出しています。
最近、地方創生の一環として注目されているのが「CCRC(Continuing Care Retirement Community)」という、アメリカ発祥の新たなコミュニティー形態です。これは、高齢者が健康な時から介護や医療が必要となる時期まで、継続的なケアや生活支援サービスなどを受けながら生涯学習や社会活動などに参加するというものです。日本では、2014年策定「まち・ひと・しごと創生総合戦略」に日本版CCRC「生涯活躍のまち」構想の推進が盛り込まれています。民間による取り組みが既に進んでおり、石川県金沢市の「シェア金沢」という事例では、サ高住や学生向け住宅、子育て施設などが整備され、様々な世代がともに暮らせる街づくりがなされています。
今後、自治体と民間との連携により各地で同様の取り組みが進んでいくものと思われます。住宅事業者も様々な関連事業者と連携を図りながら、いかに関わっていくかが重要になってきます。

 

ハードとソフト両面でのサービス提供を
 

「住宅の確保に特に配慮を要する者の居住の安定の確保」という目標については、10月25日より「新たなセーフティネット制度」がスタートしています。これは、民間の一戸建住宅の空き家や共同住宅の空き室などを高齢者や子育て世帯、低額所得者などの専用賃貸住宅として活用しようというものです。改修費用の補助制度も併せて始まっており、住宅事業者にとっては新たなビジネスチャンスとなっています(11月1日発行号で既報)。
「住宅すごろくを超える新たな住宅循環システムの構築」という目標は、賃貸アパートから賃貸マンションに移り、そして分譲マンションを購入して、最後には庭付き一戸建住宅を購入するという、かつての住宅すごろくが崩れてきていることから、新たな住宅の循環システムを構築しようというものです。
住まい手のニーズとしては、住み続けるパターンと、住み替えていくパターンの2つが考えられます。住み続ける場合には、ハードとして長期優良住宅を供給し、その後、ソフトとして定期的なメンテナンスや生活支援サービス、リフォームなどを提供していくことが考えられます。住宅を住み替えていく場合には、既存住宅の住み替え、売却といった提案が必要です。住宅事業者は異業種の事業者と連携を図ることで、今後、住生活サービスの窓口となって生涯にわたってサービスを提案する重要な役割を担うことができ、それがビジネスチャンスを増やすことにつながります。

 

改修とインスペクションの費用が対象
 

補助の対象となる工事は、1981年以前の旧耐震基準による住宅の耐震性能を向上させる耐震改修工事や、間取り変更工事、共同居住用住居への用途変更に伴い法令適合のために必要となる改修工事のほか、手すりの設置や段差解消、廊下幅の拡張といったバリアフリー改修工事が挙げられています。
また、居住支援協議会などが入居者の居住の安定確保のために必要と認める工事も対象です。居住支援協議会とは、住宅確保要配慮者の民間賃貸住宅への円滑な入居を促進するべく、地方公共団体や不動産関係団体、居住支援団体などで組織されるもので、7月末現在、全都道府県と22区市町で設立されています。  同協議会などが必要と認める改修工事とは、車いす対応の台所の設置などの入居者の身体の状況などに応じて必要となる工事や、クッション床への改修など安全性能の向上工事、断熱材や断熱サッシの設置などのヒートショック対策工事などとなっています。一方、太陽光パネルや貯湯式給湯器、床暖房、エアコンなどの設置工事は対象外とされています。
更に、国土交通省の「既存住宅インスペクション・ガイドライン」に基づき専門家がインスペクションを実施するなど、調査設計計画を実施する場合はその費用も補助されます。ただし、従前賃貸住宅は除き、かつ3カ月以上空き家であったものが対象で、インスペクションの結果、構造や防水などについて居住のために補修や改修が必要であると指摘された場合に限られます。この際、調査設計計画と改修工事それぞれの補助額の合計が補助上限額以内となります。

 

既存住宅の価値向上で流通を促進
 

「建て替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新」については、国はリフォーム市場規模を2013年の7兆円から2025年には12兆円に、既存住宅流通市場を同じく4兆円から8兆円に拡大するという目標値を掲げています。その達成に向けて、国は減税や補助制度、融資など様々な支援措置を講じています。
リフォーム市場の担い手として、現在、圧倒的に多いのは地域の工務店様です。しかし、一方でホームセンターや家電量販店、インターネット事業者によるリフォーム事業が拡大しています。今後は、これらの事業者との差別化として、性能向上リフォームや大規模リフォームなどにしっかりと取り組むことが重要です。
性能向上リフォームに関連した制度として、国は昨年4月に既存住宅の長期優良住宅認定制度をスタートしています。これは、インスペクション後に性能向上リフォームを行い、その結果、認定基準を満たした既存住宅を長期優良住宅として認定するというものです。今年度予算では、長期優良住宅化リフォーム推進事業として最大300万円が補助されます。
既存住宅流通市場に関しては、12月1日より「安心R住宅」制度がスタートします。これは、耐震性能などの基礎的な品質の確保やリフォーム工事の実施、適切な情報提供により、「安心・きれい・分かりやすい」を実現した既存住宅に「安心R住宅」というブランドを付与することで、良質な既存住宅の流通促進を図るものです(図4)。スキームとしては、国が事業者団体を審査・登録し、事業者団体は国が定める既存住宅の要件に加え、リフォーム基準など各事業者が守るべきルールを設定します。事業者はこれらの要件や基準に適合した既存住宅について、広告時に「安心R住宅」としてロゴマークを使用する形となります。
同制度が動き出すことで、売り手は建物評価が向上して販売価格が上がり、買い手は品質などの安心感を得ることができるといった、双方でのメリット創出が期待され、既存住宅の価値が高まっていくと考えられます。

 

 

省エネ効果を分かりやすく訴求
 

同じく「建て替えやリフォームによる安全で質の高い住宅ストックへの更新」では、省エネ基準を満たす住宅ストックの割合を2013年度の6%から2025年度に20%に引き上げるという目標が掲げられています。住宅の省エネ基準への適合義務化が2020年に迫る中、10月に公表された2015年度に新築された住宅の省エネ基準適合率を見てみると、住宅全体では46%、一戸建住宅では53%となっています。
国による省エネ性能の基準としては、建築物省エネ法、認定低炭素建築物の基準、ZEH基準の3つがあります。昨年4月からは、省エネ性能を星の数で分かりやすく表示する「BELS」という制度が開始しています。このほか、「2020年を見据えた住宅の高断熱化技術開発委員会(HEAT20)」では、一定の暖房方式での住宅において非暖房室での体感温度が10℃を下回らない断熱水準(G1グレード)、13℃を下回らない断熱水準(G2グレード)が提唱されています。
省エネ性能の基準が様々存在する中、まずは自社がどの水準を目指していくのかを定め、それを消費者にどう示していくかが重要となります。省エネ化による効果については、「一次エネルギー消費量が○○小さくなります」と言ってもお施主様にはなかなか伝わりません。そういう点では、「HEAT20」のように室温でその効果を訴求するというのは一つの有効な提案方法ではないかと思います。冬場でも一定の室温を保つことでヒートショックによる循環器系の疾患を防ぐなど、省エネ化による健康への影響といった間接的な効果について、お施主様がイメージしやすいよう工夫して訴求していくことが大切です。

 

 

 

民泊がリフォームの需要を創出
 

「急増する空き家の活用・除却の推進」について現在、空き家の活用方法として注目が高まっているのが民泊です。来年6月に施行される住宅宿泊事業法(民泊新法)では、従来の旅館業法で定める営業形態や国家戦略特別区域における民泊にあてはまらない、新たな営業形態として住宅を宿泊施設とする民泊について規定しています。
これにより、民泊施設の整備が進むと考えられ、それに伴うリフォーム需要が見込めます。既にリフォーム工事に加え、宿泊客のあっせんや管理までを手掛ける事業者も出てきているなど、今後、空き家活用の一つとして民泊が大きなニーズを生むことが期待されます。

 

IoT住宅が及ぼす影響
 

「強い経済の実現に貢献する住生活産業の成長」の観点においては、住宅の中のあらゆるものがインターネットにつながることで新たな住生活サービスを構築する「IoT住宅」が注目されています。その中でも、話題の中心になっているのが「AIスピーカー」の分野です。アメリカでは既に普及し始めているもので、日本でも販売が開始されています。
具体的には、人工知能を搭載したスピーカーがインターネットとつながることで、話しかけるとその回答を瞬時に探し出して音声で応えてくれるというものです。これが進化していくと、住宅の中の設備機器や家電とつながっていくと考えられます。つまり、AIスピーカーにより集約された情報を基に、家族構成の変化に合わせたリフォーム提案や、設備機器の取り換え提案などができるようになるということです。
ここで脅威になるのが、大手IT企業が居住者の情報を一手に掌握するようになることです。住宅業界の最大の強みは、地域に密着した事業展開により居住者とリアルに結び付いている点と言えますが、その強みが薄まっていく可能性も考えられます。

 

コンパクトシティ化の促進
 

最後に「住宅地の魅力の維持・向上」について、国は現在「コンパクトシティ・プラス・ネットワーク」を進めています。これは、急激な人口減少と高齢化が進む中、地方都市において地域の活力を維持するとともに、医療や福祉、商業などの生活機能を確保し、高齢者が安心して暮らせるよう地域公共交通と連携してコンパクトな街づくりを進めるものです。
そのために国が自治体に策定を促しているのが「立地適正化計画」です。これは、現行の都市計画区域全体を「立地適正化計画区域」とし、その中に「居住誘導区域」「都市機能誘導区域」などを定めるものです。法的な拘束力はないものの、国は新規の住宅供給については居住誘導区域内で行うよう指導することを自治体に勧めています。
7月末現在、全国112都市が計画を公表しており、今後こうした規制を加えていく自治体が増えていくことが予測されます。国によるこの取り組みは、各地域における住宅供給のあり方を左右するものであり、注視する必要があります。また、コンパクトシティの開発に住宅業界が果たす役割は大きく、自治体や医療施設、金融機関などとの連携によって新たなマーケットが生まれてくることが期待されます。