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経営講座 「ビジョナリー・カンパニー② 飛躍の法則」に学ぶ 経営戦略の チェックポイント

ニチハ株式会社 代表取締役社長 山中 龍夫 氏

 

 

データから見る偉大な企業の法則
 

経営トップとして会社を率いる中で、参考にしている書籍があります。それは、世界で最も影響力のあるビジネス・シンカーのジェームズ・C・コリンズが著した「ビジョナリー・カンパニー② 飛躍の法則」(2001年、日経BP社)です。「ビジョナリー・カンパニー 時代を超える生存の原則」(1995年、同)に続く書籍で、前作では、時代を超えて際立った存在であり続ける企業18社の調査から、企業永続の源泉は基本理念にあると解き明かしています。
では、著者はなぜ同著を書いたのか。それは前作に対する一つの疑問から始まっています。その疑問とは、偉大な企業は初めから偉大だったのではないか、そうだとすると普通の会社には役に立たないのではないかというものです。これを解決するため、著者はアメリカ企業のうち、そこそこ良い企業から偉大な企業へと飛躍し、少なくとも15年以上にわたって偉大な業績を維持した企業を11社選出し、5年をかけて調査を行っています。同著では、これらを競合企業と比較し、調査で得られた事実に基づく膨大なデータから、「良い企業は偉大な企業になれるのか」の問いに対する答えとして導き出した7つの概念を紹介しています。
先にお断りしておきますと、私はこの7つの概念を厳密にそのまま実践しようとしているのではありません。自社の実情に合わせ、適宜できるところから取り入れていくという姿勢で考えています。

 

謙虚さと偉大な企業への野心
 

同著では、良い企業から偉大さが永続する卓越した企業へと飛躍するための過程において、全体を「規律ある人材」「規律ある考え」「規律ある行動」の3段階に分けてそれぞれに2つの概念を挙げ、更に枠組み全体を包括する「弾み車と悪循環」を含み、7つの概念を示しています(図1)。

 

 

その1つ目の概念が「第五水準のリーダーシップ」です。同著では、経営者の能力を5つの水準に分けています。第一水準は有能な個人、第二水準は組織に寄与する個人、第三水準は有能な管理者としています。第四水準は、明確で説得力のあるビジョンを持って組織に刺激を与える有能な経営者としていますが、この更に上位のものとして第五水準のリーダーシップを位置付けています。

 
 
 
 
 謙虚さは日本の国民性とも言えるものであり、この側面だけを見れば、日本は第五水準を満たす経営者が多いのではないかと思います。一方、個性が強く、野心溢れる人が激烈な競争を勝ち抜くアメリカ文化においては正反対の経営者像と言えます。しかし、飛躍した11社全てがこの第五水準を満たした経営者に恵まれていたとのことで、この部分が特にアメリカではインパクトが強かったのではないでしょうか。
 また、同著では謙虚であるだけではなく、職業人としての意思の強さを持ち、大きな野心を抱きつつも、その矛先が偉大な企業をつくることに向いていることが重要だとしています。
では、それらを併せ持つ人とはどういう人か。同著では、成功を収めた時にはそれをもたらした自分以外の要因を見つけ出し、結果が悪かった時には自分に責任があると考える人と表しています。
しかし、現実にはこの実践は非常に難しいことだと思います。例えば、同著で「『最大の犬』症候群」と比喩されているように、組織内で自分の偉大さを顕示したいという欲は誰にでもあるのではないでしょうか。私は凡人ですので、厳密にこの概念を実践するというより、第五水準のリーダーシップの概念を頭に置きつつも、まずはこれ以外の6つの概念をしっかりと実行に移していくことで、結果として第五水準のリーダーシップに近付くことができればと考えています。   
 
 
適切な人材の確保が最大のミッション
 

2つ目の概念は「最初に人を選び、その後に目標を選ぶ」です。

 

 

同著では人材こそが最も重要な資産だという格言は間違っており、適切な人材こそが最も重要な資産であると言い切っています。適切な人材とは、知識や技能ではなく、労働観や目標達成の熱意、価値観を共有できる人です。適切な人材は、最高の実績を生み出すべく積極的に動きに加わろうとする意欲を持ち、進むべき方向が明らかになった時には自ら適切な行動をとります。つまり、適切な人材で経営の布陣を固めることが会社にとって良い状況を生むということです。そのためにも、適切な人材を確保し、維持していくことが経営者の最も重要なミッションなのだと思います。
また、私が興味を引いたのは、偉大な業績を持続できなかった比較対象企業では、経営者の統率力により社員が動いている企業があったという点です。このような企業は意外と多いのではないかと思います。なぜなら、直接の利害に関係する上司と部下など、上下関係には情報が流れますが、部門間や部署間など横方向には情報が流れにくいからです。そのため、当社もそうですが、経営トップが自ら、情報の連携をはじめ、全体の統率を図っている企業は多いと感じています。
しかしながら、更に良い企業へと飛躍するためには、横にも情報が的確に流れる組織をつくることが重要だと思います。余談ですが、私は有能であることの基準として、ある情報が重要かどうかを判断できるか、また、その情報を知らなければいけない人は誰か、という情報コントロールができるかを判断基準としています。

 

逆境において必要な二面性
 

3つ目は「厳しい現実を直視する(だが、勝利への確信を失わない)」という概念です。これは大変重要であり、むしろできないと企業が生き抜いていくことはできません。

 

 

 同著の中で、11社はこの概念を満たしており、どのような深刻な危機に直面しても、経営陣は二面性を持った強力な姿勢で対応していると紹介しています。その二面性とは、一方で決して目をそらすことなく厳しい現実を受け入れていること、他方で最後には必ず勝利するとの確信を持ち続け、厳しい中でも偉大な会社になるという目標を追求していることです。
これを同著では「ストックデールの逆説」と名付けています。その由来であるジム・ストックデール将軍は、ベトナム戦争の最盛期に捕虜収容所で最高位にあった軍人です。20回以上の拷問を受けながらも、8年間に及ぶ捕虜生活を生き抜き、アメリカへ帰国後は哲学研究に従事しました。捕虜生活では、責任者として捕虜同士の連絡手段をつくり孤立感を和らげ、拷問を受けた際には一定の時間が経過したら敵に話してもよい内容を決めておくなど、将兵が生き抜く目標を持てるような仕組みをつくりました。
同氏は後に、著者からの「苦境に対してどう対処したか」という問いに「結末について確信を失うことはなかった」と答え、「苦境に耐えられなかった人はどういう人か」という問いには「楽観主義者だ」と答えています。楽観主義者は、楽観視したことが現実にならない度に失望し、失望が重なって死んでいったというのです。
同著では、企業を飛躍に導いた経営者は皆、逆境の中で「ストックデールの逆説」の二面性を発揮しており、逆境を通り抜けた後、それらの企業は更に強くなっているとしています。つまり、経営者は逆境にぶつかった際、悲観的なほどに実体の状況を厳しく捉え、かつ徹底的に勝利を追求して対策を打つことが重要だということです。私自身、経営者としてこの概念を貫き通すことが必須だと考えています。 
 
 
単純化した概念で理解を深める
 

4つ目の概念は「針鼠の概念」です。著者はこの概念を古代ギリシャの寓話「狐はたくさんのことを知っているが、針鼠はたったひとつ、肝心要のことを知っている」に基づいたものとして紹介しています。

 

 

同著では、飛躍した11社の企業は、自社が世界一になれる部分、経済的原動力になるもの、情熱をもって取り組めるものという3つの円が重なる部分に関する深い理解に基づき、目標と戦略を設定していると紹介しています(図2)。
飛躍した企業の例として、ウォルグリーンズ(薬局チェーン)は、世界一になれる部分として利便性の高さを位置付け、経済的原動力として来客一人当たりの利益の最大化を図っています。アボット・ラボラトリー(製薬会社)は、医薬品では世界一になれない現実を直視し、医療コストを引き下げる製品の開発に焦点を当て、製品ライン当たりではなく従業員一人当たりの利益の追求に変更し、飛躍を遂げています。
経営者とは、月も出ていない闇夜に提灯一つで道を歩くようなものだと感じることがあります。数メートル先までしか見えないものの、道が3つに分かれているような状況で経営者はどの道を行くか悩みながら決断し、前に進まなければなりません。その際、この概念を持っていれば、問題を単純化でき、戦略や戦術で悩むことも少なくなると思います。

 

 
規律の文化を醸成する
 

5つ目の概念は「規律の文化」です。同著では、飛躍した企業は制約のある一貫したシステムを構築しているが、同時にシステムの枠組みの中で、従業員に自由と責任を与えているとしています。

 

 

規律とは、行為を制限する規則とは異なり、成文化されていない暗黙の決まりです。規律が最も重要であることは確かですが、多くの企業は、成長して事業が複雑化してくる中で、規律を守らない人に対処するべく階層構造や官僚的な規則がつくられます。同著では、こうした階層構造や官僚制度は、それまで規律を守りつつ、その中で自由に動いてきた創造性の高い社員が愛想を尽かして辞めていくことにつながり、結果として不適切な人間を増やすことになると分析しています。
これらの悪循環はどのような企業でも起こり得ることであり、規律の文化を醸成し、規則との兼ね合いをどうつけていくかが経営者にとって大事であると考えています。

 

促進剤としての技術
 

6つ目の概念が「促進剤としての技術」です。同著は、飛躍した企業は技術に振りまわされていないと分析しています。

 

 

しかし、飛躍した企業が技術を無視しているかと言うとそうではなく、針鼠の概念に適合している場合に限って適切に利用しており、いずれも業績が飛躍した後に技術の利用で先駆者になっていると紹介しています。
ウォルグリーンズは、インターネット創成期からウェブサイトの実験を開始し、徹底した議論を重ね、処方をオンライン入力してどの店舗でも薬を受け取れるシステムを構築しました。そして、精巧に設計されたインターネットサイトを開設して成長の勢いを強め、飛躍を遂げています。
技術が大きく変化する中で、時代に取り残されるという恐怖から受け身になるのではなく、自社の針鼠の概念に適合するかどうかを見極め、それらの技術をしっかりと使いこなすことが重要なのだと思います。

 

一歩一歩の積み重ねが偉大な企業に
 

最後の概念が「弾み車と悪循環」です。ここでは、偉大な企業に飛躍する魔法のような瞬間は存在せず、むしろ社員は飛躍という意識はなく、一歩一歩の積み重ねの過程としか感じていないと示しています。

 

 

興味深いのは、偉大な企業の指導者は、社員への動機付けといった試みにはほとんど力を入れていないという点です。つまり、これまでの6つの概念に基づき条件が整えば、社員は勝利に向けて進んでいるチームの一員であることに自分の存在意義を感じ、意欲付けは必要なくなるのです。そして、弾み車を一貫した方向に押し続け、一歩ずつでも勢いを蓄積していけば、いつかは突破段階に達するとしています。

 

客観的な分析の指標に活用
 

同著で示されている7つの概念について自社を顧みた時、全てをクリアしようとすると非常に難しい部分があります。しかし、経営者として理想の形に一歩でも近付けるよう、これらの概念を指標として、自社の経営姿勢や戦略、置かれている状況を客観的に分析することが重要です。
そして、針鼠の概念に基づき、会社全体として理解を深め、地道に執念深く取り組んでいくことが、より良い企業に飛躍するための最適の道であると考えています。