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特別対談 世界の経済・外交戦略と日本

 自動車の自動運転やドローンの産業活用など、人工知能技術が急速に進化しています。政府は新成長戦略「未来投資戦略2017」において、第四次産業革命によって進む社会を「Society5.0」とし、大きな時代の転換期になるとしています。今回は、衆議院議員の甘利明氏をお招きし、第四次産業革命において日本がどのように世界をリードすることができるのか、今後の進むべき方向性や取組などをお聞きしました。

 

 

第四次産業革命を迎え大変革の時
 

平田 急速に進むデジタル化により、現在、第四次産業革命の波が世界に押し寄せています。第四次産業革命がもたらす社会環境の変化についてお聞かせいただけますか。
甘利 第四時産業革命におけるキーワードは、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、AI(人工知能)、ロボットです。現在、ありとあらゆるものがインターネットとつながり、膨大な量のビッグデータが蓄積されてきています。これらビッグデータはただ集めただけではガラクタに過ぎませんが、AIを用いて解析することで新たなソリューションを生み出すことにつながります。現在、世界中でビッグデータの解析結果をもとに、ロボットの社会実装に向けた取組が進められています。
これらの取組が進むと、私たちの生活も大きく変わることになります。例えば、冷蔵庫に取り付けたセンサーが庫内の食料の在庫状況や賞味期限を把握します。それがスマートフォンとつながることで、買い物に出かける前に冷蔵庫内をいちいち確認する必要はなく、出先でスマートフォンをタップすればすぐに必要なものが分かるようになります。
また、トイレで用を足す度に、便器に設置されたセンサーが健康状況をチェックします。集積されたデータは主治医へと自動的に送信され、このデータをもとに主治医から受診を促す連絡が入る、こういった生活が日常となる世の中に変化していきます。
平田 これまでの3度の産業革命では、その度に産業構造が大きく変化してきました。それまで優位にあった産業が急速に衰退し、全く異なる産業がイニシアチブを握っており、そういう点で産業革命はチャンスとピンチが表裏一体と言えますね。
甘利 産業革命においては、社会やビジネスの基盤となるプラットフォームをどの国やどの企業が握るかの競争となります。身近な例としてゲーム産業を挙げると、日本はゲーム専用機とソフトをセットで販売することで、これまで長い間イニシアチブを握ってきました。しかし、今ではゲーム専用機に代わってスマートフォンやタブレットが汎用機となり、ゲームアプリをダウンロードすることで遊べるようになりました。
現在、お店や行き方など、何か調べ物をする際にはインターネット検索エンジンを使い、買い物も品数の多さや自宅配送などの理由から、実店舗ではなくインターネットショッピングサイトを利用するなど、インターネットが生活になくてはならないものになっています。
アメリカでは新聞の購読者数は激減し、テレビの視聴者数も減少傾向にあるなど、国民が世の中の情報を得る手段としてソーシャルメディアがマジョリティーとなり、社会のインフラになりつつあります。

 

医療分野で世界をリード
 

平田 第四次産業革命で日本がイニシアチブを発揮するにはどうあるべきとお考えですか。
甘利 第四次産業革命において、日本が世界をリードできるのは医療や介護、製造現場、工事現場などの精緻なデータです。中でも医療や介護のデータを活用したイノベーションが中心になると考えています。日本は、平均寿命、高齢者数、高齢化のスピードにおいて、世界各国がどこも経験したことのない高齢社会を歩んでいます。今後、中国やアメリカ、ヨーロッパ諸国でもタイムラグをおいて追随することになり、その際に日本がソリューションを提示できるかが重要です。
高齢社会におけるソリューションの鍵となるのは「健康寿命の延伸」です。2016年の日本の平均寿命は男性80.98歳、女性87.14歳ですが、それまでずっと健康というわけではありません。平均寿命から日常生活を自立して過ごせる健康寿命を引いた期間を介護寿命と呼んでおり、この期間が長くなると医療費や介護費が膨らむことになります。つまり、健康寿命が平均寿命に近づくことで、医療費と介護費の抑制につながるのです。
日本は国民皆保険のため、人口約1億3千万人が怪我をしたり病気をした際には医療機関を受診しています。医療機関から支払い機関への請求書といわれるレセプトはすべて電子化されており、間もなくカルテも電子化されます。つまり、1億3千万人分の医療データが存在しており、これらのデータの質が極めて高いことが特長です。また、介護についても介護保険が整備されているため、電子化されたデータを蓄積することが可能なのです。
これらの医療や介護のデータを電子化したビッグデータをAIが解析することで、特定した病気に対する最も効果的な治療方法や処方を見つけ出すことができます。そして、新たな治療方法や医療機器、医療薬の開発につながり、そこから更に技術革新が起きるのです。実際、膨大な医学論文を学習したAIが、それまで診断が困難だった患者の白血病を10分ほどで見抜き、適切な治療法を助言したことで、患者の回復に貢献したという事例が昨年発表されています。
平田 第四次産業革命に向けて新たに整備されたのが、昨年から運用が開始された「マイナンバー制度」ですね。
甘利 第四次産業革命は、ビッグデータ革命と言われるように、基盤となるのはあらゆるデータの電子化です。その共通ルールとなるのが「マイナンバー(個人番号)」です。個人を特定しないで機微な情報を集めて有効に活用することができるよう、今年5月に施行された「改正個人情報保護法」と併せて、昨年末には「官民データ活用推進基本法」が議員立法で成立しました。
マイナンバーの通知後、個人の任意による申請で交付される「マイナンバーカード(個人番号カード)」は、写真入りの身分証明書として利用できます。電子社会では、個人を証明できないと電子商取引ができないため、買い物もできず公共サービスも受けられなくなります。
中国では、偽札が横行し、銀行から引き出す現金にすら偽札が混入するなど現金の信用度が極めて低いために、政府主導で電子商取引最大手のアリババグループが展開する「アリペイ」に代表される電子決済システムが驚異的なスピードで広がっています。タクシーは現金支払いを極めて嫌がり、地方都市の小さな食堂ですら現金は受け付けないところが続出しています。また、IT技術が導入された新たな金融取引である「Fintech(フィンテック)」が進み、この世界ではアメリカですら中国に凌駕されるのではないかという観測が専門家の間でも広がっています。訪日外客数の約25%を中国が占めている中、日本でも中国からの観光客が訪れる店舗では「アリペイ」の電子決済システムを導入する必要が出てきており、このシステムが侵食してくると考えられます。
日本は、海外のシステムがスタンダードとならないよう、ビッグデータ革命の基盤となるデータの電子化を進めることが必須であり、そのためにも共通ツールであるマイナンバーを国民に広く普及させることが大切です。

 

イノベーション大国へ

平田 6月に閣議決定した新成長戦略「未来投資戦略2017」は、第四次産業革命によるイノベーションで社会課題を解決する「Society5.0」の実現に向けた改革が打ち出されています。
甘利 「未来投資戦略」では、狩猟、農耕、工業、情報社会に続く人類史上5番目の社会として「Society5.0」を打ち出しています。第四次産業革命がもたらす新たな社会において、高齢社会の先頭を行く日本がイノベーションによって持続的な成長を可能とし、世界に証明していくことを目指しています。
現在の日本における最大の課題は経済の再生です。アベノミクスにより、有効求人倍率が全都道府県で1倍を超え、正規雇用の有効求人倍率も1倍を超えるなど雇用環境は改善し、企業収益も史上最高値を更新しています。一方で、大手企業の賃上げは4年連続で2%超を記録しているものの、粗利益に占める従業員の人件費を示す労働分配率は7ポイント下がっているのが実情です。目標である物価上昇率2%超の実現に向けて賃上げ主導で消費者物価を押し上げないと、経済の好循環を自動化することはできず、デフレ脱却は厳しいと言えます。
そのために、回復傾向にある企業の設備投資を更に加速させることが必要です。日本は少子化により生産年齢人口が減少しており、生産の省力化に向けたIoTやビッグデータ、AI、ロボットの投入による設備投資は生産性の向上につながります。生産性が上がるということは持続的な賃金上昇を可能とし、好循環に結び付いていきます。このような環境をつくる鍵は、第四次産業革命のツールのフル活用とイノベーションの源泉である大学などの研究機関の意識改革と構造改革です。「グーグル」や「アマゾン」「フェイスブック」のようなメガプラットフォームを日本から生み出すこと、そして、基礎研究の分野から世界を変えるイノベーションを連続的に創出すること、そのためには研究機関にマネジメントの意識を持ち込むことが必要だと考えています。
私は、国際競争において日本が勝ち残っていくための道筋をつくるため、(国研)産業技術総合研究所や(国研)理化学研究所などに代表される研究機関を仲介役とし、大学や大学院における基礎研究成果と企業を結び付け、新たなイノベーションを創出する仕組みを構築したいと考えています。第四次産業革命は日本にとって大きなチャンスであり、イノベーションを通じて必ず世界のリーダーとして再び躍り出せると確信しています。
平田 本日はお忙しい中、貴重なお話をありがとうございました。