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木と住まいの大博覧会「総合シンポジウム」 健康に暮らせる住まいと木の魅力

 6月24・25日に名古屋、7月8・9日に仙台で開催された「木と住まいの大博覧会」において、(一社)木と住まい研究協会主催による「健康に暮らせる住まいと木の魅力」と題した総合シンポジウムが開催されました。今回は、両会場における総合シンポジウムの内容をまとめてお届けします。

 

 

 

 

木の良さを解明する研究が進む
 

宮代このシンポジウムでは「健康に暮らせる住まいと木の暮らし」と題して、健康と住まいや木材利用との関係について考えていきたいと思います。まずは、杉山先生、伊香賀先生、有馬先生に研究内容などについてお聞かせいただきたいと思います。
杉山 木材の利用が人間にどのような良い影響を与えるかについて、現在、科学的根拠を裏付けるべく、データの蓄積に向けた研究が進められています。
かつて1960年代には、木材の物理的性質を解明する研究が進められ、これにより木材が生活環境に適した硬さや衝撃吸収性、遮音性、断熱性、調湿性などを有することが明らかになりました。しかし、これは理屈上の解釈であり、実際に人間の生理・心理との因果関係については確認ができていませんでした。
そこで、1990年代からは、木材利用による人間の生理・心理への影響を明らかにするべく、アンケート調査や被験者の行動分析などを中心に研究が進められました。これらの研究結果として、木造と鉄筋コンクリート造による校舎を比較した時に、木造の方が教師のストレスが小さく、児童生徒の学習効率が高いことや、老人ホームでは木質化が多く図られた施設の方がインフルエンザの罹患率が低いといった報告がなされています。しかし、アンケート調査や被験者調査は設定条件などにより結果が大きく変わってしまいます。そのため、人間の生理的変化を定量的に図ることが望まれましたが、当時は医学系の研究機関でしか行うことができませんでした。
測定技術が急速に発展したことにより、2000年頃から木材関連の研究においても、木材利用が人間に与える生理特性を定量的に測定することが可能となりました。特に、木材の匂いによる人間への影響に関する研究が進んでおり、スギの匂いが血圧を下げる効果を有することや、木材に含まれるα-ピネンやリモネンという成分が、脳の活動が沈静化する効果を有することなどが明らかになっています。また、α-ピネンを乳児に嗅がせると、心拍数が下がるという報告も出ています。
森林総合研究所では、木材の見た目(視覚)や手触り(触覚)、匂い(嗅覚刺激)が人間に与える生理特性についての測定手法を確立させ、木材利用による人間への影響の科学的根拠となるデータを蓄積して社会に情報発信するべく、京都大学と共同で研究を進めています。研究結果については、来年2月に報告する予定となっています。
伊香賀 住まいと健康に関する調査として、最近では複数の幼稚園にご協力をいただき、幼稚園の園舎の床が園児の活動量に与える影響について調査を実施しました。無垢材で二重床とした園舎と、コンクリートの直張りに複合フローリングの園舎とで比較しています。その結果、冬季の足元の室温が、コンクリート直張りで複合フローリングの園舎では平均9℃となり、園児の平均活動量が少なかったのに対し、無垢材で二重床の園舎は平均17℃と暖かく、平均活動量も多い結果となり、更には欠席率も小さいという傾向が見られました。
また、横浜市とナイスグループ、慶應義塾大学の産官学連携により2015年にオープンした、健康と環境に優しい家づくりについて学びと体感ができる「スマートウェルネス体感パビリオン」においても、木材が人間に与える影響について実証実験を行っています。内装を木質化した空間と非木質化の空間とを比較した際、木質化した空間の方が睡眠効率が高く、タイピングなどの知的生産性も向上するという結果が出ています。これらの調査結果からも、木材が人間の健康な暮らしに良い影響を与えることが分かっています。
宮代 伊香賀先生は、住宅の断熱性能が健康に与える影響についての実証実験もされています。
伊香賀 健康と住まいの関係性については、断熱性能も大きく影響してきます。
在宅介護を受けている要介護認定者の方々を対象に、一般的な古い一戸建住宅とそれよりも断熱性能が高い一戸建住宅とで比較した調査では、脱衣所の冬季平均室温が古い住宅は約12℃だったのに対し、断熱性に優れた住宅は約14℃となり、更に、自立生活できる人が50%を割る年齢がそれぞれ76歳と80歳と、健康寿命で4歳の差が出るという結果になりました。
また、同パビリオンには、外気温5℃の真冬の環境を再現し、そこに、それぞれ室温21℃に設定した高断熱の空間と無断熱の空間をつくり、身体に与える影響を比較できる「くらべルーム」という施設があります。ここで、それぞれ入室して60分が経過した後の血圧を測定する調査を実施した結果、高断熱の空間のほうが無断熱よりも5㎜Hg低下しました。更に、両空間ともに床材として無垢材と塩ビシートの2種類を施工しており、高断熱空間における床材の比較では、無垢材の方が更に5㎜Hg低下するという結果が出ています。
これらの調査結果から、木材利用や断熱性能の向上が人に良い影響を与えることがデータとして分かりますが、消費者にとっては、いくらデータで示されても、自分の問題として実感が沸かないと行動は変わらないのが実際だと思います。だからこそ、研究する立場として、データ蓄積を進め、社会に情報発信していくことはもちろんですが、それとともに、データが示す結果を消費者に体感していただくことが重要だと考えています。
有馬 私が静岡大学に勤務していた約30年前に、木材(ヒノキ)、コンクリート、鉄板の箱でマウスを飼育し、その中で産まれた子マウスの成長や行動を観察する実験を行いました。20日後に何匹生き残るかという生存率について見ると、初夏の外気温に近い25~26℃の状況下では、木の箱が85%、鉄板は41%、コンクリートは7%と大きな差が生じました。一方、真夏の外気温30℃前後となると、生存率はどれもほぼ同じ結果となりましたが、体重の増加や内臓の発達などで木の方が勝りました。これは、熱が奪われやすい鉄やコンクリートでは内臓の発達が遅れるからです。ただし、注意したいのは、この結果をもって単純に「木が良い」とは言えないということです。
例えば、母マウスは床に横ばいになって子マウスに乳を与えますが、その際、断熱性が高い木だと落ち着いて授乳ができます。しかし、鉄やコンクリートの場合、熱が奪われ体が冷えてしまうため、すぐに移動してしまい、授乳時間が短くなってしまいます。また、散らばった子マウスも体が冷え、床に触れている部分が汗で濡れるため、母マウスが子マウスを授乳のためにかき集めることを嫌がりました。つまり、周辺環境の温度が同じであっても、接する部分の熱伝導や吸収効果が大きな影響を持っており、生存率の低下や内臓の発達の遅れは、子マウスへの直接的な影響によるものではなく、「木を使うことによって母マウスの行動が変わった」ことによるものと考えられます。
人については、作業場で使用した床材料が実際の作業に影響するかを調べた事例があり、低温の環境下では、コンクリートの床よりも木の床の方が作業の失敗率が少ないことが示されています。

 

木の「ほどほどの良さ」を理解する
 

宮代 実際に木材を供給し、また使用する側として、倉野社長と高橋社長は住まいづくりや木の良さをどのようにお客様に説明されていますか。
倉野 当社がある岐阜県中津川市は古来より「伊勢神宮」などの神社仏閣へ奉納するような優良材を、匠の技とともに受け継いでいます。当社では、「広がる空間、家族の和」を合言葉に、「安心、丈夫、健康、快適な家づくり」を社員をはじめ協力業者様とも一丸となって取り組んでいます。長年「木」に携わってきた「材木屋」として、住宅における「木」の良さを生かす気持ちを大切にしています。多くの方が、初めて経験される家づくりにおいて、人生のパートナーとなるような気持ちを持って携わっています。
単に「木」を使ったからできる「木の家」ではなく、「木」の持つ良さを様々な機会を設けて見て触れていただき、ご自宅に使う「木」を選んでいただくなど、お客様が「木」が本当にいいのかを実際に感じていただくことが大事だと思っています。無垢のフローリング材に触れて踏んでみる実体験をしたり、「木と住まいの大博覧会」のような展示会へお連れしたり、実際のお施主様のご自宅を見学して生の声を聞いていただいたり実際の生活を見ていただき、その価値観を共有していただくようにしています。
高橋 当社では、宮城県仙台市で創業以来、「いつまでも強く・いつまでも快適に」をコンセプトに50年後も次の世代に引き継ぐ価値ある資産にしていく家づくりを基本としています。弊社が提供する外断熱・二重通気工法の住まいは、断熱性と通気性という、本来は相反する性能を両立させることによって、冷暖房機器に頼ることなく快適な住み心地が得られます。同時に、躯体の中の木材が常に空気に触れることで、木材の耐久性が確保されます。展示場では、建ててからでは見る事のできない小屋裏や床下の構造をオープンにして実際に肌で感じていただけるようにしています。
木の持つ調湿性能や温かみ、香りなど木の良さを生かし、心身ともに健康な暮らしをお過ごしいただくために、メリットだけでなくデメリットを正確にお客様に伝えています。木の性質をご理解いただき、木の経年変化を楽しめるような住まい方についてお話しすることが非常に大切だと感じています。木の良さもデメリットも使う方次第です。木はやはり生き物ですから、しっかり手入れとメンテナンスをすれば長くいい状態を保つことができます。木を理解することが大切だと考えています。
宮代 木をより多く取り入れることなど、人々が暮らしを一層豊かなものにしていくには、どのようなことが大切とお考えになりますか。
杉山 研究者サイドでは、木材の良さに関して科学的な裏付けのあるデータを蓄積し、これをわかりやすく社会に発信していくことが重要と考えています。木材は、ある性質が図抜けて良いのはなく、色々な性質のバランスが良いことが素材としての魅力です。消費者の方が木材の良さを正しく理解頂き、適材適所で木材を取り入れていただければと考えています。
伊香賀 同パビリオンで行った小学校の授業で、木の香りを「匂い」や「臭い」と表現するお子様が多いことに驚きました。自然の木を使った家が少なくなり、身近に木の香りを嗅ぐ機会が少ないのだと思われます。都市部の中や授業の中でも匂いを嗅ぐとか触り心地などを体験したり、住環境について学ぶ機会が必要だと感じています。
有馬 私は、木材は「ほどほどの良さ」があるとお伝えしています。木材は良さもある一方、欠点も多くあります。欠点を補うには、住む人とつくる人の知恵が必要です。木材との付き合い方は、簡単にいうと人間が心地いいことをやれば、木材にとってもだいたい心地がいいものです。今では、窓を閉め切ってエアコンで室内の調節をしています。天気がからっと晴れた日には窓を開けて寒いと感じたら閉めるとか、こうした感覚が徐々に失われつつあることを若干心配しています。ほどほどにというのは大変あいまいに聞こえますけれども、人間の感覚というのは一人ひとり違いますので、皆さん自身が自分のほどほどがどこなのかということを考えていただきたいというのが私の希望です。
宮代 (一社)木と住まい研究協会では、木材関連団体と連携し毎年5都市で「木と住まいの大博覧会」を開催し、木の魅力について一般消費者の方にお伝えしています。今年は、9月16・17日にマリンメッセ福岡で、9月30日・10月1日に京都パルスプラザで、来年2月には東京で開催予定となりますので、ぜひ足をお運びください。本日は、貴重なお話をありがとうございました。