1. TOP
  2. ナイスビジネスレポート
  3. CLT ナイス㈱仙台事務所棟落成記念パネルディスカッション 木造建築物の普及へ向けた課題と対策

CLT ナイス㈱仙台事務所棟落成記念パネルディスカッション 木造建築物の普及へ向けた課題と対策

ナイス㈱は、東日本大震災の大津波により壊滅的な被害を受けた仙台物流センター事務所棟について、日本初のCLT(直交集成板)と鉄筋コンクリート造による平面混構造で建設しました。今回は、落成記念イベントの一つとして4月11日に宮城県仙台市の夢メッセみやぎにおいて約300人が参加して開催された、「木造建築物の普及へ向けた課題と対策」と題したパネルディスカッションの内容を収録してお送りします。

 

 

広がるCLTの可能性
 

平田 国は、成長戦略の一つに林業の成長産業化を掲げ、新たな木材需要の創出などを図るべく施策を講じています。その一つが国産材によるCLT建築物の本格的普及です。今後、CLT建築物の普及促進に当たり、どのような点が課題だとお考えでしょうか。
腰原 CLTは現在、試行錯誤の時期に当たり、まずは活用の方法についてアイデアを出し合うことが重要だと考えています。使い方についても、外壁と床といった「箱」としてだけでなく、CLTによる内壁と床で構造を支えて外壁をガラス張りにしたり、壁として用いたCLTを切り抜いて使ったり、折り紙のような折板構造にしたりと、様々な使い方が考えられます。また、CLTパネルを解体して移設することも考えられ、可能性は多岐に広がっています。
活用に当たっては必ずしも大規模建築物でなくて良く、まずは小規模で試行し、それを大規模に適応させていくといったアプローチが大切だと考えています。
平田 前田先生は鉄筋コンクリート造がご専門ですが、CLTによる木造に興味を持たれたきっかけは何だったのでしょうか。
前田 木造に興味を持ったのは、まさにCLTという新素材の誕生がきっかけです。鉄筋コンクリート造が様々な形状の建物を実現できる一方、従来の木造では細長い部材(線材)を組み合わせてつくるため、でき上がる架構にはある一定の制約がありました。しかし、面材であるCLTを活用すれば、木造で実現できる建物の架構の可能性が大きく広がり、今までできなかった新しい木造建築が実現するのではないかと感じました。
2016年に、(一社)日本CLT協会が開催したヨーロッパのCLT建築物の視察ツアーに参加し、実際に大規模建築物や高層建築物がCLTを用いて建てられている状況を見てきました。ドイツのある教会では、付属した集会所の屋根と天井に大型のCLTパネルを用い、従来の木造では考えられないような非常にすっきりとしたデザインをつくり出していました。また、スイスのチューリヒ動物園の象舎では、直径80mのドーム状の建築物を実現しているなど、デザイン的にも大変優れた建築物が木造で実現されており、CLTの大きな可能性を感じました。
平田 宮城県では「宮城県CLT等普及推進協議会」を設立され、CLTの普及による県産材の利用促進に取り組んでいらっしゃいます。
永井 日本の森林は現在、9齢級以上(41年生以上)の木が7割を占めており、人口構成よりも森林の方が高齢化は進んでいる状況にあります。利用期にある木の活用が課題であり、県産材の利用拡大が行政の責任となっています。
宮城県では、2011年から「県産材利用エコ住宅普及促進事業」をスタートし、県産材を使った住宅の新築に対して1棟当たり上限50万円を補助しています。支援した住宅の数は約2,900件に上りますが、更なる県産材の利用拡大に向けては住宅以外の建築物にまで利用先を広げる必要があり、それにはCLTが有効であると考えました。
そのためには産官学が連携し、行政や素材供給、設計、施工のそれぞれの立場が共通認識を持ち、CLT工法の普及に取り組むことが重要です。東北大学の前田先生の研究室にもご協力をいただき、2015年より勉強会をスタートして、昨年2月に「宮城県CLT等普及推進協議会」を設立しました。
宮城県は、住宅以外の建築物の着工数が東北では一番多く、CLT工法が普及すれば木造建築物が立ち並ぶ街並みが形成できるのではないかと期待しています。
平田 中島会長はCLTの普及に向けていち早く取り組み、(一社)日本CLT協会を設立されました。様々な形でCLTの有用性を事業者に浸透させるべくご尽力されています。
中島 当協会では毎年視察ツアーを開催しており、今年はイギリスを視察する予定です。イギリスは最近、木造のトップランナーと言われるほど、CLTを含めた木造建築物がたくさん建っています。
イギリスは産業革命により木が全て伐採されましたが、フィンランドなどから木材を輸入して木造文化を醸成してきました。イギリスでは現在、CLTにより従来の木造とは違った価値を見いだしている建築がたくさん出てきています。私も大変驚いたのが、ロンドン近郊の3,000棟の住宅をCLTで建てるというプロジェクトです。CLTパネルはオーストリアから輸入しますが、加工などは全てイギリスで行われるようです。
CLTの歴史は始まったばかりです。1990年くらいから研究が始められ、1棟目が試行的に建築されたのは1994~1995年の話です。現在私たちが見ているCLT建築物は2004年以降のものがほとんどです。それが来年、再来年には世界のCLT生産量が100万m3を超えるとも聞いています。CLTによる7階建て以上の木造建築物の数は世界中で20棟を超えています。
昨年、カナダのバンクーバーにあるブリティッシュ・コロンビア大学では18階建ての学生寮の建設がスタートしており、今秋にも完成する予定です。また、イギリス・ロンドンでは、ケンブリッジ大学らにより80階建てのCLTによる超高層建築物「オークウッドタワー」の計画が発表されました。建設許可が降りれば世界最高の木造建築物となり、CLTの使用材積は1棟で6万5,000m3にも及びます。
平田 CLTは木造建築物の可能性を広げ、かつ木材を多用することから国産材利用の促進に資する素晴らしい製品です。弊社でも今回、CLT建築物の普及に貢献するべく、CLTと鉄筋コンクリート造の混構造に取り組みました。
今泉 仙台物流センターの事務所棟をCLT建築物として計画するに当たっては、今後の普及に貢献することを第一に考えました。木造の特長として、圧縮強度が高く、それでいて比重が軽い点が挙げられます。圧縮強度はコンクリートと同程度、比重は6分の1程度です。一方、CLTはコストが高いというイメージがあり、従来の木造で実現できるものをCLTにしても普及しにくいと考えました。
CLTの優位性を発揮できるのは高層建築物であり、今回建設した事務所棟は低層ではありますが、今後の木造の高層化に貢献するべく、階段室であるコア部分を鉄筋コンクリート造とした平面混構造を採用しました。木造の高層化に向けて、今後は木造と鉄筋コンクリート造との両方が分かる技術者が必要となってくることから、良い経験になったと感じています。

 

技術者の育成など今後の課題
 

平田 今後は、設計や施工など、CLT建築物を手がける技術者の育成が課題になってきます。この点に関してはどのようにお考えでしょうか。
前田 「宮城県CLT等普及推進協議会」での活動を通じて実感したことは、学生をはじめ、県内の建築関係事業者の方々も、木造は難しいから分からないという反応がほとんどであるという点です。日本の大学においては鉄筋コンクリート造や鉄骨造の講義が多く、木構造の授業が少ないことも問題だと感じています。日本人の気質として、木造は馴染みやすく、その魅力は伝わりやすいと思います。学生や事業者の方々へ向け、木造への取組を普及させていきたいと考えています。
同協議会では、まずは実際にCLTを用いて建築してみようと、東北大学の敷地内に80㎡程度の小規模なセミナールームを建てることを企画しています。県産材によりCLTパネルを製造し、県内の事業者が設計・施工を行います。6月に着工し、随時、見学会を実施する予定です。
また、同協議会で様々なCLT建築物の試設計を行い、一般の方や施主に提案していこうと取組を進めています。試設計するのは、庁舎や美術館など地域のシンボルとなるような建築物と、一戸建住宅や集合住宅などの一般的な建築物の2つです。「杜の都」仙台が、文字通り、実際に多くの木造建築物で形成する都市となるよう取り組んでいきたいと思います。
腰原 教育という観点で見た時、我々が持つ木造のイメージと若い学生が抱くイメージとでは乖離がある点を認識しなければいけないと感じています。例えば、伝統的な日本の木造家屋による町並みと新建材による最近の木造住宅の町並みとで、どちらが良いかを学生に問うと、こちらの意図に反して最近の方が良いと答えるわけです。つまり、最近の若い学生にとって木造のイメージとは新建材による木造住宅なのです。この状況の良し悪しではなく、日本人が本当に木造を好きなのかを考える時にきていると思います。
木造は、他の構造と違って面倒な部分が多くあります。これを楽しめるかどうかが重要だと考えています。新建材の住宅が新築時の状態を維持し続けることを目指している一方、伝統的な木造住宅は時と共に変化することを楽しもうというものです。しかし、そのためには適切なメンテナンスが必要となります。このことを認識し、価値観を変えていかないと木造の未来は厳しいものになると思います。これまで、木造も合理性や効率性を求めてきましたが、私は、教育においてはそれらを求めないのが一つの方法だと考えています。そのため、学生に対しては、手がかかるけれども手入れすれば味わいが増す木造を楽しめる社会にしようと話しています。
CLTにより広がる木造の可能性のうち、一般設計法の告示の範囲でやれることは単なる一部に過ぎません。ですから、今は面倒なことも楽しんで、一般設計法の範囲外のこともどんどん提案していくことが重要だと思います。そのためにも、木造に携わる技術者を育成していくことが大切だと考えています。
永井 宮城県では、CLT等普及推進協議会を通じて、CLTに関する研修や見学会、シンポジウムなどを企画し、地元の設計事務所や建設会社の方々などが参加いただけるよう、取組を進めていきたいと考えています。これにより、木造技術者の育成に取り組んでいければと思います。また、今年度は、市町村や民間事業者がCLTを使った建築物をつくる際、モデル的な取組の施工に対する補助を予算化しています。1件あたり5,000万円が上限で、公募により事業を実施していく予定です。
平田 中島会長はいかがでしょうか。技術者の育成を含め、CLTの普及に向けた今後の課題についてお聞かせください。
中島 日本CLT協会の会員は、3年前に3社だったのが、現在は320社を超え、12のワーキンググループを設置して活発に活動しています。今後は、CLTの需要拡大に向けて、イベントや海外視察、セミナーといった取組を進めていきます。
また、技術者がCLTを利用しやすいよう技術やシステムの開発を行う必要があります。例えば、設計手順書の作成や構造解析ソフトの開発、CAD/CAMソフトの統一などがそれに当たります。
CLTというと高層建築物に利用されるイメージがありますが、CLT先進国であるヨーロッパのボリュームゾーンは低層建築物です。低層住宅の構造基準を検討し、仕様規定を考えていくことも一つのテーマにしています。CLTの更なる普及に向けて、取組は非常に多岐にわたりますが、協会が果たすべき役割は大きいと考えています。皆さんのご協力をお願いします。
今泉 私は以前は鉄筋コンクリート造の設計を担当していました。木造を設計する際に苦労した点は、規準書を参考に設計して、いざ材料を手配しようとした時にその材料が手に入らない状況にあることです。材料の調達や選定の難しさが木造にはあると感じています。弊社には木材事業部があり、調達や防腐処理などの面で連携でき、加工についてもグループ内で実施できます。
また、公共工事や補助金を活用した案件などでは、工事の出来高をしっかりと記録していくことが求められます。しかし、一戸建住宅をメインで取り組まれている方々は記録に残すことが習慣化されていない部分があるかと思います。今後は、現場をしっかりと監理できる技術者の育成が必要になると思います。
平田 本日、会場には東京大学の有馬孝禮名誉教授がいらっしゃいます。最後に一言、お話しいただきたいと思います。
有馬 私が当時の建設省建築研究所で木造を担当していた40年ほど前の状況から考えると、今日、こんなに多くの方々が木造建築物の未来に向けて関心を持ち、シンポジウムに参加されていることに驚くと共に嬉しい気持ちでいっぱいです。
木造は、森林と製材、加工、流通、施工における事業者、そして消費者とをつなぐほか、時の流れと共に変化をしつつ建築物を後世につなげ、森林における木材資源を更新する役割も担っています。駆動力としての木造の役割は大変重要であり、木造建築物の普及に向けては、各々が知恵を出し合うことが大切になります。まずは木材を使おうという気持ちが大事で、それが様々な可能性につながります。積極的に取り組んでいただければと思います。
平田 CLTをはじめとした木造建築物の普及に向け、微力ながら当社グループも取り組んでいきたいと思います。本日は誠にありがとうございました。