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特別対談 国策としての木材利用とこれからの木造建築

京都大学 生存圏研究所 生活圏構造機能分野 教授 五十田 博 氏 

 

日本の国土の約3分の2を占める森林は、豊かな水の供給や生物多様性の保全、地球温暖化防止など様々な恩恵を国民にもたらしています。先人の努力により育てられた人工林の半数以上は、利用期となる10齢級以上(林齢46~50年生)に成長し、再造成すべき大きな転換期を迎えています。持続可能な循環型社会や地方創生の実現に向けた林業成長産業化の柱の一つとして、様々な場面で期待高まるCLTの活用について、京都大学生存圏研究所生活圏構造機能分野の五十田博教授にお話を伺いました。

 

 

「負けない木造」で適材適所を探る
 

平田 日本は国土の68%を森林が占める「森林大国」であり、戦後に植林した木が伐採期を迎えています。五十田教授も木材利用の促進に向けて積極的に取り組まれていますね。
五十田 最近、「負けない木造」と題したシンポジウムを企画し、開催しました。これは、火災や地震、高さ制限、腐食、法令などの課題を克服した木質構造の未来について語ろうというものです。最近では、木造による高層建築物の実現に向けた動きが見られます。木造の可能性を示すことは大事ですが、無理に何でも木造化するのではなく、木材を適材適所に使った「負けない木造」とすることが最も重要であると考えています。
平田  木材需要の拡大により林業の成長産業化を図る施策が国や行政により行われています。
瀬戸 今、木材業界関係者の一番の話題は国産材をどう利用していくかということです。国策としては、これまでの住宅分野における木材利用に加えてCLT(直交集成板)の普及など新しい材料や構造を利用していくことが挙げられます。2010年には「公共建築物等木材利用促進法」が施行され、2014年には林野庁と国土交通省が「CLTの普及に向けたロードマップ」を策定するなど、CLTの普及・促進のための取組が進められています。また、木材利用を通じて地方創生を図る「CLTで地方創生を実現する首長連合」と「CLTで地方創生を実現する議員連盟」が相次いで設立されています。
これらの背景には戦後に植林した木が伐採期を迎えており、資源としての木が潤沢にある状況があります。林野庁によると日本の森林面積の約4割が人工林であり、人工林の齢級別面積は10齢級以上が5割を超えるようになり利用期の木を使わなければ高齢化して資源として有効に使われなくなってしまう可能性があります。一方で、4齢級以下の若い人工林の面積は少なく、このままだと国産材が枯渇する可能性もあります。
1955年には木材資源利用合理化方策のなかで、国・地方自治体が率先垂範して建築物の不燃化を促進し、木材消費の抑制や森林資源開発の推進を方針として打ち出しました。その後、(一社)日本建築学会では伊勢湾台風の被害を鑑み、木造禁止の決議が1959年になされました。高度経済成長を迎えた日本では木造住宅が次々と建設され、それを補うために輸入材が住宅用の建材として多用されるようになりました。
1955年当時の木材自給率は94.5%でしたが、2000年には18.2%まで落ち込みました。2013年の木材の需給構造をみると製材用材としての国産材の比率は42%、合板の国産材比率は29%しかなく、国産材の利用を促進するためには新たなテコ入れが必要です。ただ、住宅だけではなかなか難しい面もあるということで、新たな木材利用の機運が高まりました。
平田 そこで、木がたくさん使え、耐震性や断熱性、施工性などに優れ、人にも環境にも経済にも優しいCLTの注目が一気に高まっています。
五十田 そうです。しかし、CLTの強度や設計法などを定めた建築基準がなかったために、CLTを用いて建てるには国土交通大臣の特別な認定が必要で、認定を得るのに非常に手間がかかっていました。そこで昨年4月1日にはCLTを構造部材として用いるCLTパネル工法の建築が広く行われるよう、「CLTの普及に向けたロードマップ」に基づき、CLTを用いた一般的な設計法に関する告示が国土交通省から公布、施行されました。この告示に基づいて構造計算などを行えば、大臣認定を受けなくてもCLTで建物を建てられるようになりました。今後、日本でも3階程度のCLT建築は次第に増えていくと期待しています。

 

CLTが林業再生の切り札に
 

平田 2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメイン会場となる新国立競技場の内装などでもCLTが採用される見通しのようで、各地でCLT物件が増えており注目は増すばかりですね。改めてCLTの特長や魅力について教えていただけますか。
五十田 従来の木造建物では基本的に、柱や梁などに使われる線材が建築物を支えていましたが、CLTは壁や床などに利用され、面で支える構造になります。木材は繊維方向に割れやすいデメリットがありますが、CLTは木の繊維方向を互い違いにして貼り合わせることで、建築用材としての強度が増すばかりではなく、ねじれや割れを防ぐことができます。また、木材が直交しているので伸縮を拘束し、均一化されるため寸法も安定します。
更に、小さな木材から大きな製材をつくれることと、内側の層には低質材を利用できることが特長です。ヨーロッパでは幅3m×長さ16.5m×厚さ0.5mのパネルがつくられているほどです。日本のスギはほかの樹種と比較して柔らかいことから、建物が大規模化または高層化してくると、構造材料として強度が不足する場合もでてきてしまいます。しかし、CLTにすることで有効に活用することができます。ヨーロッパでは3階建てまでの低層は2×4材が利用されますが、それ以上の中高層の場合には、短工期によるコストメリットからCLTに優位性が出てくると言われています。また、直交積層のため高い寸法安定性が得られることと、大きな板として床に利用した時に両方向で支持できる点が大きなメリットと考えています。
平田 CLTの素材である木材や木造について腐食や耐震性、耐火性に対してネガティブなイメージを持たれている方もいます。
五十田 木材は環境が悪ければすぐに腐りますが、「栄養素」「酸素」「水」「温度」という4つの条件がすべて揃わないと腐りません。酸素が供給されなければ木材は腐らないため、水中で杭として利用されますし、温度としては20℃を超えないと腐らないと言われています。環境さえ整えば腐らないのが木材の特長でもあります。例えばカナダのバンクーバーの気候は、冬は多湿、夏は乾燥と腐る4要素がそろわないため木造の耐久性を気にしていません。現に1階とエレベーター部分は鉄筋コンクリート造で床にCLTを活用した18階建ての学生向け宿舎が2017年秋の完成を迎える予定です(図1)。
新耐震基準の木造住宅でも耐震補強が必要な住宅もありますが、耐震性が不足している一因に木材や仕上げ材の劣化があります。また、熊本地震や過去の震災で木造は地震に対して弱いという認識を持たれている方もいるかもしれませんが、地震に対して一番強い建物をつくれるのも、一番弱くつくれるのも木造であると私は考えています。つまり設計次第ということです。
木造以外の構造では耐震等級3を超えるものをつくることは難しいかもしれませんが、木造であれば例えば耐震等級3を大きく上回る建物をつくることも可能です。
建築基準法で求める耐震等級1相当の耐震性能は、倒壊した建物の下敷きになって死亡しないレベルです。今後首都直下地震や南海トラフ地震のような極大地震が発生したとしても一部損壊程度で留まり、余震にも安心して生活できる木造住宅をつくることも、あるいは無損傷建物をつくることもできる時代になっていますが、この実現には技術者の皆さんの協力が欠かせません。
また、CLTは何層も重ね合わせているため燃えにくいという特長がありますが、木である以上燃えないわけではないため耐火のために皮膜材を厚くする必要があります。
2000年の建築基準法改正から木造でも耐火建築物の建設が可能となり、耐火性能を備えた柱や梁の耐火部材、耐火集成材なども開発され、耐火木造建築物が実現できるようになってきました。

 

 

CLTの可能性
 

平田 海外では木造やCLTの活用が積極的に取り組まれています。
五十田 循環型資源である木材の有効活用と二酸化炭素の排出削減の手段として、木質構造の分野において、近年、建物の高層化に対する研究が世界中で行われており、イタリアやアメリカ、イギリス、フィンランド、オーストリアなどで中層木造建物が既に多く建築されています。2009年にイギリスで9階建ての集合住宅が建設され、2013年にオーストラリアで10階建ての集合住宅が、イタリアでは9階建ての公営住宅が建設されています。アメリカでは昨年秋、高層ビルのコンペティションが実施され、西海岸の都市ポートランドには12階建て、東海岸のニューヨークには10階建ての高層ビルの建設が実現に向けて検討されています。そして今春、イギリスのケンブリッジ大学建築学科の教授が、80階建ての超高層ビルを建てる構想を立案し、ロンドン市長に提出しました。
イタリアでは、「伐採→植林→伐採→植林」のサイクルによって樹木は資源として無限に供給され、建築用材として利用し二酸化炭素を内部に留めることで持続可能性があることから、木材は「環境に優しい」という認識があります。これは林野庁の施策も同じです(図2)。
サステナブルな素材である木材を積極的に活用しようという動きに加え、前述したように施工時間の短さによってCLTの優位性があること、更にエネルギーの資源効率も良く、耐震・安全性が高いということから、CLTの普及促進が積極的に進められています。
平田 当社でも宮城県でCLTのラミナ(挽き板)には宮城県産スギを使用し日本初となるCLTと鉄筋コンクリート造の平面混構造に取り組みました。国内でのCLTの普及促進に向けてどんなことをポイントに考えられていますか。
五十田 建物全てをCLT化するのもひとつの方法ですが、建材としての利用もあります。例えば、壁や床などをCLTに置き換えることです。特に積極的に推進しているのは非木質構造での部分的な置き換えです。鉄筋コンクリート造や鉄骨造の壁や床がそれにあたりますが、構造的な利点は軽さです。建物の重量が軽くなることで基礎構造を簡易化する、あるいは施工の合理化ということも考えられます。
私自身は、ほかの木材で置き換えられるようなCLTの使い方には積極的に取り組む必要性を感じていません。ほかの木材でできないCLT工法や、CLTパネルを普及させることのほうが普及促進につながると考えています。
平田 木造の課題や展望などについてお聞かせください。
五十田 中層大規模木造が普及していくには技術と法令の両輪が重要と考えています。まず、鉄筋コンクリート造や鉄骨造では(一社)日本建築学会に設計規準があり、これをもとにして建物を設計しますが、木造では規準書があるものの十分に生かされていません。また、住宅用の金物は普及していますが、中層大規模木造用はまだこれからです。その設計用データベース化を図り、設計例をつくって、技術的な担い手を育成していくことが肝心と考えています。
ヨーロッパでは法令などの見直しによって2020年にはほぼ全土で5階建て以上の木造建築が可能となる予定です。こうした状況の中で欧米では従来にはなかった高さの木造建築が建てられるようになっており、規制緩和と技術の進化が日本でも必要ではないかと考えています。日本では法令上「木造は○階まで」といった階数制限は存在しませんが、実質的には防耐火性能規定により制限されています。
柱や壁、床などに用いる部材として火災時の安全性が確認できれば、高層ビルに木材を利用することも可能で、14階まで利用可能な床材などの開発が進められています。これらは木材が耐火被覆されているものですが、これも木材利用の一つの側面と考えています。また、木材を見せて使うために遇数階と奇数階に分けて木造と鉄筋コンクリート造の床を交互にする建物や、準耐火構造の範囲拡大とか、新たな考え方を技術によって裏付けることによって規制緩和を図り、木材を見せたまま使えるような環境もつくれるのではないかと考えています。
国内ではまだCLTの生産量は少ないため、現状ではCLTを使うと建築コストが高くなり、コンクリートなどの他の材料からCLTに置き換えるメリットがまだ少ないとも言えます。しかし、CLTは「今後の技術の進展や規制緩和によって、さまざまな展開が期待できる材料」と考えています。無理をせず木材の使いどころである適材適所を考えていく中で、規制緩和と技術が進歩をすることで新たなビジネスチャンスは生まれ、木材の利用促進はまだまだ多くの可能性を秘めていると考えています。
平田 当社でも今後もCLTを活用した取組にチャレンジしていきたいと考えています。本日はご多用のところ貴重なお話を誠にありがとうございました。