1. TOP
  2. ナイスビジネスレポート
  3. 特別対談 世界の衛生問題解決に向けて我々がすべきこと

特別対談 世界の衛生問題解決に向けて我々がすべきこと

株式会社LIXILグループ 取締役代表執行役社長兼CEO 瀬戸 欣哉 氏 

 

日本及び海外の約300社からなる企業で構成され、建材や住宅設備機器と幅広く住関連サービスを提供するグローバル企業のLIXILグループ。今回は、昨年から同グループの指揮を執られる㈱LIXILグループの瀬戸欣哉社長をお招きし、目指している会社の姿やCR(コーポレート・レスポンシビリティ)の取組などについてお聞きしました。

 

 

スピードの速い企業へ
 

平田 工具などのインターネット通信販売会社の㈱MonotaROを飛躍的なスピードで高収益企業へと成長させ、国内外で多くを起業した経験をお持ちの瀬戸さんが㈱LIXILの社長に就任されると聞いた時は大変驚きました。世界にまたがる巨大企業の舵を取るに当たって大切にされていることは何でしょうか。
瀬戸 ㈱LIXILの社長への就任において、最大の挑戦は8万人超の従業員を抱える巨大組織をベンチャーのような会社に変革できるかだと考えています。つまり、決断と行動のスピードが速く、一人ひとりが会社への愛情を持てる会社にできるかです。
なぜスピードが重要かと言えば、より速く正解に到達できるからで、企業はスピードが速いほど勝つ可能性が高くなります。例えば、1日議論して成功に至る可能性が60%、1週間で90%、1カ月だと99%とします。その時、多くの企業は成功率を上げるために1カ月かけて議論しますが、起業家は1日議論してすぐに試します。その時、失敗する可能性は40%で、2日続けて失敗する確率は40×40で16%、3日だと6.4%となります。つまり、毎日トライした方が早く成功に至り、その確率も高くなるわけです。しかし、トライするにはコストがかかり、企業の規模が大きくなるほどそれは巨大化します。一方でデジタライゼーションが進み、同業他社だけでなく世界中のIT企業などが競合相手となる中、私たち経営者は判断のスピードが速い企業へとトランスフォームしていく必要に迫られています。
私は企業経営において、議論を通じて解決に導く「アート」から、仮説に基づき試行して正解を導き出す「サイエンス」へと変えていくことが必要だと考えています。
平田 企業経営におけるスピードアップの手段としてよく見られるのがトップダウンですね。
瀬戸 トップダウンは、創業者など企業のメカニズムを熟知している人間が経営を担っている場合に効果的ですが、そうでないとリスクが高くなります。その理由は、トップが現場に精通していないため間違った判断を下し、現場が行動に移すことで失敗の可能性が高まるからです。また、トップダウンに慣れてしまった企業は、現場が失敗の可能性について報告する体制ができていなく、是正に時間がかかり、企業の傷はどんどん深くなってしまいます。
スピードを上げるために、私はボトムアップの文化と従業員の会社に対する帰属意識の2点が重要だと考えています。ボトムアップの文化とは、例えば現場がトップからの指示に応えるだけでなく、想定される状況やリスクをフィードバックしたり関係者で共有したりするなど、コミュニケーションが自発的に上下左右に動いていく文化です。これらのネットワークが構築されると、企業全体のスピードは速まり、失敗の可能性も低くなります。
一方、ボトムアップのデメリットは、それぞれの意見を尊重し過ぎてコンセンサスを得るのに時間がかかり、判断は正しくても機会を逃すリスクがある点です。そのため、意見が対立したら恐れずに試してみることが大切です。もし仮説をもとに失敗したならば、それは失敗ではなく未来への「投資」と捉え、ビジネスモデルを変えていく努力が必要です。

 

社会貢献で帰属意識を醸成
 

平田 従業員の会社への帰属意識や仲間に対する愛情の醸成は、経営者が担うべき大きな役割であり、企業経営にとって重要なことですね。
瀬戸 経営者にとって個人と会社の利害の相違が大きな課題ですが、一番の解決策は従業員が愛情を持てる会社にすることです。人は自分が属している社会に少なからず愛情を持っているものです。例えば、オリンピックやパラリンピックで日本人がメダルを取ると嬉しくなるのが自然な感情です。これと同じで、経営者は従業員の愛社精神を大きく育て、それぞれがオーナーシップを持てるよう努めることが重要です。
例えば、中古車販売会社の経営者が買い手と売り手を一人ずつ雇い、それぞれ利益に対してボーナスの支給を約束したとします。すると、買い手は多くを仕入れるために市場価格より高い値段で買い付け、売り手は多くを売るために市場価格より安く販売します。結果、会社は「高く買って安く売る」ために倒産してしまいます。もし、それぞれがオーナーシップを持って仕事をしていたら、このような間違った判断や行動はしないはずです。オーナーシップを芽生えさせるものが会社への愛情であり、この愛情を深めることができれば、正しい情報がスピードをもってトップに伝わるようになります。
平田 会社への愛着や帰属意識は、社員が自らの仕事に自信と誇りを持つことで強くなりますね。我々の仕事はお客様の生活を安全で快適、そして健康的なものとすることにつながり、社会への貢献を実感できる素晴らしい仕事です。
瀬戸 私の目標は、社員一人ひとりが毎日明るい気持ちで出社でき、仕事に誇りを感じられる会社にすることです。一方で、会社としては、利益の追求による株主への貢献はもっともですが、人と同じで生きる価値があるかどうかが何より大切だと考えています。企業は消費者から愛される存在となることが重要で、住宅産業はその価値を見出しやすい業界であると思います。
現在、世界中の企業はコモディティ化(商品化)という問題に直面しています。これは、デジタライゼーションが進み、様々なことが便利になる一方、商品の特徴が薄れ、極端に言えば誰から買っても同じ状況を言います。消費者の商品選択の基準は市場価格のみとなり、メーカーは価格競争を余儀なくされてしまいます。企業にとって、品質やブランド力の向上はコモディティ化を抜け出す一つの方法ですが、根本は「この会社から購入したい」という消費者の感情を生み出すことができるかであり、そこを今問われているのだと思います。

 

世界の衛生課題の解決に向けて
 

平田 LIXILグループはCR(コーポレート・レスポンシビリティ)に積極的に取り組まれていますね。
瀬戸 就任後、私がまず取り組んだのが新興国向けのトイレです。以前から取組は行われていたもののグループ全体の動きになっていませんでした。私は最初の100日間をかけて約600人に及ぶ幹部社員と1対1で話を聞き、その中で途上国向けの簡易式トイレについて知りました。これはグループ全体で取り組むべき内容だと思い、すぐ実行に移しました。
世界では、全人口の約3分の1に当たる24億人が安全で衛生的なトイレを利用できない環境で暮らしています。野生動物の危険性や女性であれば性的被害の危険性など、トイレに行くことが命がけの状況にあるのです。また、不衛生な水や排泄環境に起因する下痢性疾患で、毎日800人もの5歳未満の乳幼児が命を落としています。衛生的なトイレの不足による世界の経済損失は、2015年で推定22兆円にも及び、2010年から22%も増加しています。
こうした誰の目にも明白に解決しなければならない問題に取り組むことは、当社グループにとって大変重要なプロジェクトです。なぜなら、水周り事業を世界で展開してきた実績と、これまで培ってきた技術やノウハウを生かすことで可能となる取組であり、社員が社会貢献していることを実感でき、誇りを持つチャンスとなるからです。これにより、自らの会社への愛情を深めることにつながると思っています。
平田 瀬戸社長も自ら、様々な場で衛生課題の解決への理解を深める活動をされていますね。
瀬戸 LIXILグループでは、CR戦略の重要課題に「グローバルな衛生課題の解決」を位置付け、2020年までに1億人の衛生環境を改善することを目標に掲げています。この課題は、単純にトイレを設置すればよいものではなく、技術力はもちろん、その国の社会的な背景や文化を理解しなければできません。そのため、昨年10月には途上国向けの衛生ソリューションの開発を担当する専任組織「ソーシャルトイレット部」を創設し、本格的に取り組んでいます。
平田 途上国向けの衛生ソリューションとは、具体的にどのようなものがあるのでしょうか。
瀬戸 現在、ケニアやフィリピンのマニラなどで、地域に暮らす人々のニーズや生活様式、インフラに対応できるようソリューションの実証実験を進めています。例えば、ケニアでは非常に貧しい人々が家賃とほぼ同額を水に支払っている状況にあります。そのため、1リットルの水で流すことができる超節水型「マイクロフラッシュトイレ」を開発し、都市部の集合住宅などにおける水資源管理に貢献することを目指しています。一方、下水道の整備が遅れている農村部では、水を使わずに排泄物を肥料化する循環型無水トイレ「グリーントイレシステム」の普及に取り組んでいます。また、フィリピン・マニラのスラムでは、自宅で排泄できるよう水道局と連携し、運搬が可能で、定期的に回収して洗浄処理する「ポータブルトイレシステム」の実証実験を進めています。
当社グループが提供する衛生ソリューションの中で、最も成功しているのが簡易式トイレ「SATO(safe toilet)」で、通称「サトー」と呼んでいます。これは、排水口に取り付けられた開閉式の弁が排泄物の重みで開き、落ちると閉まるというシンプルな構造で、2~5ドルで提供しています。排水口が閉まることが重要で、悪臭やハエを媒介とする伝染病の防止につながります。これは非常に革新的で、「SATO」は米国特許商標庁による「Patents for Humanity Award」を受賞しています。
「SATO」は2013年よりバングラディシュで販売を開始し、現在では世界14カ国で100万台以上を供給しています。このビジネスは、当社グループが提供地域に合わせた製品開発を行い、現地のパートナー企業に製造・販売・施工・保守を担っていただいています。現地の雇用創出にも貢献しており、現在の製造拠点はバングラディシュとウガンダの2つですが、今年度中にインドとケニアにも設ける予定です。

 

途上国に簡易トイレを無償提供
 

平田 このたびスタートされた「みんなにトイレをプロジェクト」についてお聞かせください。
瀬戸 「世界の衛生環境を改善しよう!みんなにトイレをプロジェクト」は、4月から9月までの半年間、当社グループが国内で提供する全ての一体型シャワートイレ1台につき、インドやアフリカの劣悪な衛生環境の中で暮らす人々に「SATO」1台を無償で提供するものです。およそ20万台を寄付し、約100万人の衛生課題を改善することを目標に掲げています。
同プロジェクトは、世界の難民の保護と支援を行う国連機関「UNHCR」や、水と衛生環境の改善に取り組む国際NGO「Water Aid」などの国際機関にもご協力をいただいて進めています。これにより世界的な衛生課題に対する理解を高めると共に、衛生的なトイレが不足する地域の人々にトイレの価値を伝え、適切な衛生習慣を普及させていくことを目指しています。
平田 世界の衛生課題の解決は、住宅業界をはじめ日本全体がその重要性を理解し、取り組んでいかなければいけませんね。
瀬戸 トイレ先進国の日本では、どのトイレも快適な環境が整備されています。しかし、世界の衛生環境を考えると、日本は非常に恵まれた特殊な状況であり、同プロジェクトを通じて日本中の方々にトイレの大切さを伝え、世界の衛生課題の解決に向けて理解を深めていただき、一人ひとりのアクションが広がっていくきっかけになればと考えています。
そのためには、販売店様や工務店様をはじめとするパートナーの方々のご理解とご協力が必要です。当社グループは、1967年に日本で初めてシャワートイレの生産を開始してから50年の間、技術革新により快適・エコ・キレイなトイレの実現に貢献してきました。私たちの商品はお客様に必ず満足していただけるものであり、このプロジェクトはパートナーの皆様方にとっても社会貢献につながる一つの機会でもあります。ぜひ、一体感を持ってプロジェクトを推進させていただきたいと思います。
平田 本日はご多用のところ、誠にありがとうございました。