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新春経済対談 2017年以降の日本経済の展望と成長戦略

日本銀行横浜支店長 播本 慶子氏
 

今年は、トランプ次期アメリカ大統領の主張する大型減税や財政拡大策などを受けて、年初から円安・株高の状況が続き、日経平均株価は大発会で1万9,594円と昨年来の高値を更新するスタートを切りました。今回は、新春経済対談として日本銀行横浜支店の播本慶子支店長をお迎えし、2017年以降の日本経済の展望と成長戦略について伺いました。

 

 

2016年を振り返って
 

平田 新年おめでとうございます。昨年は、実質GDP成長率が3四半期連続でプラスとなったほか、企業収益が上昇し、雇用・所得環境も改善するなど、経済再生・デフレ脱却に向けて緩やかな回復を遂げました。昨年の日本経済を振り返ってどのような1年でしたか。
播本 年始から中国をはじめとする新興国経済の減速や石油価格の一段の下落を背景として世界的に株価が下落し、6月にはEU離脱問題を巡るイギリスの国民投票の結果を受けて円が急伸するなど、特に年前半の日本経済は国際金融市場の混乱の影響を大きく受けました。こうした中、生産や輸出が鈍化し、大企業製造業を中心に円高の影響から収益が下振れるなど、企業経営にとって厳しい1年だった、という印象を持たれている方も多いのではないでしょうか。
他方で、全体感としては、日本経済は緩やかな回復基調にあったとは言えると思います。企業収益が過去との対比でみれば高水準で推移する中、設備投資は増加が続きました。また、労働需給も確実に改善しており、有効求人倍率が47都道府県で1.0を超えるなど、統計の公表開始以来最も高い水準に達しました。また、輸出や生産についても、最近では新興国の需要の回復もあって、明るい動きが見られます。日本銀行(以下、日銀)が実施している全国企業短期経済観測調査においても、12月は大企業製造業で2015年6月調査以来1年半振りに改善しました。
平田 熊本地震や夏後半の悪天候で北海道や東北地方が大きな被害を受けるなど、不測の事態に見舞われ、個人消費にも影を落としました。
播本 個人消費も、特に年前半は株価の下落に伴うマイナスの資産効果や消費者マインドへの影響から一部に弱さが見られ、天候不順なども含めた自然災害の影響も受けました。もっとも、このところは持ち直しを示唆する指標が増えてきており、株価の上昇もあってか、消費者マインドにも改善の兆しが見られます。
景気の回復には、企業、家計それぞれにおいて収益・所得が増え、投資・消費に向かうという前向きな循環メカニズムが欠かせません。今の企業収益、設備投資、雇用や家計所得の状況など見ても、そうした前向きの循環が続いていると思います。個人消費についても、日本銀行の金融緩和や政府の大型経済対策なども相まって、今の明るい動きがよりしっかりとしたものとなることを期待しています。
平田 昨年1月にはマイナス金利政策が導入され、低金利の住宅ローンに下支えられて住宅着工戸数が堅調に推移す・驍ネど、景気回復への期待感が高まりました。
播本 雇用・所得環境がしっかりしている中で、金利低下もあって住宅投資が増加していることも、経済の前向きな循環の一環と捉えられると思います。
マイナス金利政策は、年初の国際金融市場の不安定化が日本経済に及ぼすリスクへの対応のために導入したものです。大規模な国債の買い入れとマイナス金利政策との組み合わせによって、特に長めの年限の金利が大幅に低下しました。企業や家計の資金調達金利も下がり、企業の長期資金需要や家計の住宅ローン資金需要の刺激につながりました。
日銀では、2013年4月から2%の「物価安定の目標」のもとで量的・質的金融緩和を続けてきましたが、その達成にはまだ距離があります。マイナス金利政策の導入には、貸出金利の低下を通じた金融機関収益の圧縮や、保険や年金などの運用利回りの低下といった影響もあり、日銀では昨年9月に、それまでの金融緩和策についての「総括的な検証」を行い、その結果を踏まえて、金融政策の新たな枠組みである「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入しました。例えば、11月以降、アメリカの長期金利が大幅に上昇し、それが多くの国に波及していますが、日本の長期金利は新たな政策枠組みの下で引続き安定しています。日銀としては、今後もこれを適切に運営することで、現在の景気回復の動きがより力強いものとなるようサポートしていきたいと考えています。

 

今後の世界経済の見通しは
 

平田 昨年末にFRB(アメリカ連邦準備制度)による利上げが決定するなど、米国経済は依然として堅調であり、その影響で日本経済も良くなるのではないかと考えています。
播本 米国経済については、大統領選挙の結果を見て成長率見通しが上方修正されたりしていますが、実はそれ以前から、家計支出の堅調さに支えられた回復が着実に続いていました。そこにドナルド・トランプ新政権の政策として減税や財政支出拡大の方向性が示されていることから、ある種の期待感をもって市場が好感している面はあるのでしょう。主な政策が打ち出されると言われる1月20日の就任から最初の100日を通じて、新大統領の下での具体的な政策の輪郭が徐々に明らかになり、改めて市場の評価を受ける、そうした展開が予想されます。TPPの成立が難しくなるなど、日本にとっての懸念材料はありますが、トランプ氏が標榜する「アメリカ・ファースト」の経済政策が、世界の経済成長にもプラスになるよう適切に運営されることを期待しています。
平田 グローバル化の流れへの反動として、イギリスのEU離脱をはじめとしてヨーロッパを中心にポピュリズムの動きが見られています。今後のヨーロッパについてはどのように考えていらっしゃいますか。
播本 イギリスでは、今年3月にも正式なEUに対する離脱の通告を行い、いよいよ2年間を期限に交渉が始まることになります。国民投票の際の離脱派の勢いは相当なものでしたが、実際の交渉の場に移り、イギリスにとっても自国の利益に叶い、EU側にとっても納得のいくような関係をつくる作業は、そう簡単に進むものではないでしょう。ヨーロッパには金融セクターを巡る問題もあり、不透明感が高い状態が続くと思います。5月にフランスの大統領選挙、9月にドイツの連邦議会選挙など国政レベルの選挙があり、昨年見られたポピュリズムの動き、自由貿易に対する反動的な動きがどうなっていくのか、こうした動きが国際金融市場、ひいては日本経済に影響することがないか、引き続き注視していく必要があると思います。
平田 一方で、中国経済の動向についても影響は無視できなくなっています。中国経済の不良債権は、日本経済にも影響を及ぼすのではないかと心配ですね。
播本 リーマンショック前の世界経済の繁栄は、中国経済の世界経済への参入に支えられていた面がありましたが、リーマンショック後は、その中国における過剰生産業種の調整の遅れが世界経済にデフレ圧力を与えてきたほか、それまで先進国から輸入していた中間財を中国国内で生産するようになったことなど、構造的な要因が世界貿易量の減少につながっていると指摘されてきました。もっとも、最近の新興国経済の輸入動向を見ると、中国やASEAN諸国において持ち直してきています。中国は、経済の減速に伴う不良債権処理などの課・閧熾?ヲているものの、政府が公共投資など景気下支えに積極的に取り組むもとで、GDP成長率は6%を維持しています。中国の輸入の回復は、先進国の製造業にプラスの誘発効果をもたらすと考えられることもあり、今後の日本経済に好影響を及ぼすことを期待したいと思います。
平田 中国のインバウンドによる「爆買い」がなくなり消費が頭打ちになっていくのではという懸念もありましたが、昨年の世界中からの訪日外国人観光客は2,400万人を突破し過去最高を更新しましたね。
播本 2020年に東京オリンピック・パラリンピックを控える中、日本を訪問する外国人観光客数は近年増え続けています。人口減少という構造的課題に直面する日本にとって、そうした国際的な大イベントも生かして観光を振興し、交流人口を増やすことは、経済が将来にわたって成長していく上で重要な課題になっています。
10月に日銀が公表した地域経済報告(さくらレポート)では、国内各地のインバウンド観光の状況について紹介しています。昨年の全般的な特徴としては、円高に加え、中国人旅行者の帰国時にかかる関税率の引き上げもあって、ブランド物など高額品の購入が沈静化する一方、化粧品や菓子類など比較的安価な日用品の売れ行きは良いといったことがみられました。また、リピーターの増加や「東京―京都―大阪」のいわゆるゴールデンルート以外の地方を訪れる外国人が増加したり、各地の自然や伝統文化の体験や、サイクリングなどの活動を楽しむ旅行者が増えたりする傾向が見られています。
インバウンド観光の需要喚起については、ときに各地の観光資源が従来大切にしてきた固有の趣きとの両立が課題になりますが、多様性の受容、観光客のニーズの変化への柔軟性という基本姿勢は、日本人旅行者の需要喚起にもつながる面があります。
外国人観光客の受け入れ体制の強化に向けて、コミュニケーション・ツールの多言語化、インターネットなどの通信環境や外国人にも利用しやすい決済手段の提供、交通手段の整備などの様々な課題への取り組みが進んでいます。まずは日本という国を知ってもらい、その様々な魅力に触れるために度々日本を訪れてもらえるよう、2017年も着実に取組が進むことを期待したいですね。
平田 海外経済の・ョきも見据えて、今後の日本経済の見通しはどのようにお考えですか。
播本 昨年は、世界経済の先行きについて厳しい見方が広がった一年という印象がありますが、先進国については、堅調な米国経済を中心に、最近、成長率を高めてきていますし、中国をはじめとする新興国・資源国の経済も上向きつつあります。こうした海外経済の回復に加えて、極めて緩和的な金融環境や政府の大型経済対策の効果もあって、今年の日本経済は緩やかな拡大が予想されています。その動力となるのは、先ほど申し上げた企業・家計の両部門における所得からの支出への前向きな循環です。企業や家計は足もとの収入増だけでなく、持続的な所得の拡大や物価の上昇が見通せてはじめて、足もとの支出を積極化できる面があります。その意味で、内需の成長にしっかりとつながるような構造改革の推進が果たす役割も大きいと言えます。
最近の円安・株高を受けて、世の中のムードが少し良くなっているようにも見えます。今年は東京オリンピック・パラリンピックなどを展望した開発案件の本格化も見込まれることもあり、回復の歩みがより確かなものとなり、更に明るい方向に向かうことを期待しています。

 

今後の企業経営に向けて
 

平田 日本は少子高齢化という構造的課題を抱え、事業環境が大きく変化しています。その中で生き残っていくためにも、企業は改革を進めていく必要に迫られていると感じています。
播本 政府では、構造改革に向けた政策的な取組が行われていますが、そうした構造変化を最も肌身に感じ、改革の必要性を意識されているのは、経済の実際の担い手である企業経営者の方々だと思います。例えば、全体として労働需給が改善しているのは良いことではありますが、業種によって人手不足感が強まっており、個々の企業として、将来的な人口減少や高齢化といった長期的な視点も持ちながら、生産性の向上に取り組んでいかないといけない時代になっています。
その一つが働き方改革です。例えば、社会全体で仕事と出産・育児との両立のサポートや、介護との両立のサポート、高齢者の活躍の支援など、様々な課題への取り組みが進んでいますが、その全てに共通する処方箋として、いつ働くか(時間帯)、どれだけ働くか(長さ)、どこで働くか(場所)など、働き方のバリエーションを増やして、誰もがその能力を最大限発揮できるような環境づくりが重要です。企業としても、人材を確保していく上で、働くスタイルについてできるだけ柔軟な発想で臨むとともに、一層の仕事の効率化・省力化に取り組むことが求められていると言えるでしょう。
平田 企業経営においては、構造的変化を現実的なものとして捉え、単なる技術革新にとどまらないイノベーションを起こしていくことが必要ですね。
播本 個人消費の伸び悩みが指摘されてきましたが、例えば自動運転機能付きの乗用車の販売が好調だったり、環境に配慮した商品、IoTなどで利便性を高めた商品などは、売れ行きが良かったりします。企業の側で、社会構造の変化を背景とした消費者のニーズの変化を捉えた商品やサービスを研究開発し、投入していくことで、消費もより活性化していく余地があるように思います。
日本の企業の強みを生かしながら、構造的課題への対応といった長期的な視点ももちつつ、景気回復への歩みをより確かなものとする一年となることを期待しています。
平田 本日は、大変貴重なお話をありがとうございました。