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新春特別座談会 木材利用拡大に向けた生産・建築・流通の役割

 新年の幕が明けました。昨年は新国立競技場の新デザイン案の決定という大きな話題からスタートし、公共建築物等の木造化率が初めて10%を超えるなど、建築物の木造化や木質化の機運が一気に高まりました。2017年の年頭に当たり、木材利用の更なる拡大に向けた展望について、ナイス㈱の平田潤一郎専務取締役をモデレーターとして、(一社)全国木材組合連合会の吉条良明会長、(公社)日本建築士会連合会の三井所清典会長、すてきナイスグループ㈱の平田恒一郎会長による新春特別座談会をお送りします。

 

2016年を振り返って
 

平田(潤) 新年おめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。
昨年は世界中で驚くべき内容の政治的な出来事が数々起こり、変化に向けた時代のうねりを感じる一年となりました。2016年を振り返っていかがでしょうか。
平田(恒) 6月にイギリスがEU離脱を選択し、11月にはアメリカ次期大統領選挙で共和党のドナルド・トランプ氏が勝利して想定外の出来事が現実化するなど、世界中に衝撃が走りました。しかし、アメリカは事前の評判とは裏腹にトランプ次期大統領の決定以降、株価・ドル・金利の全てが上昇して「トランプ相場」の様相を呈し、12月15日には米連邦準備理事会(FRB)が1年ぶりに利上げに踏み切るなど、アメリカ経済の堅調さが伺い知れます。
日本においてもアベノミクスによりデフレ脱却と経済成長に向けた政策が着実に実行されており、2017年の日本経済は明るくなると期待しています。
平田(潤) 木材業界並びに建設業界に目を向けると、年初より新国立競技場の新たなデザイン案の決定という大きなニュースが舞い込み、木は最先端の素材であるという機運が一気に高まりましたね。
吉条 昨年は、木材利用に対する国民の理解が浸透し、これからさらに大きなうねりとなっていくことを強く予感させる一年となりました。
木材の歴史を振り返ると、終戦後、基礎的資材である木材の旺盛な需要を受け、1955年に「木材資源利用合理化法策」が閣議決定されました。これは、木を節約しようという国土保全の意味合いが強く、当時はCC2削減といった環境貢献の観点はなかったものの、日本の国土は森林が豊かに守られていなければならないという思想が根底にあったと思います。
しかし、半世紀以上経った現在、植林した木が大きく育ち、森林を守るために木材を利用する時代へと変わってきています。変革期にある今、木の重要さや環境貢献度に対する認知度の一層の向上を図り、木材の需要を拡大させることが重要です。また、木は使うだけでなく、その先の植えて育てることも大切です。そのためには木材が適正価格で評価され、森林を循環利用できるサイクルを構築していくことが重要だと考えています。
三井所 木造建築物については、戦後の都市の不燃化への動きに加え、火災や風水害の防止の観点から1959年に日本建築学会により「木造禁止」が提起されたことで、ブランクの時代が長く続きました。それから50年後となる2010年に、衆参両院にて反対票ゼロで成立した、国民合意の法律とも言える「公共建築物等木材利用促進法」が施行されました。以降、木の中で暮らす素晴らしさを実感できる時代を早く迎えなければならないとの強い思いで私自身も取組を進めています。
その取組の最中、昨年7月に新国立競技場の整備計画の見直しが発表されました。当連合会ではすぐにスタジアムの屋根架構の木造化の検討を始め、諸性能や工期、コストの面で条件を満たせることが検証されたことから、8月25日に遠藤利明東京オリンピックパラリンピック担当大臣(当時)に提言書をお渡ししました。
隈研吾さんによる新たなデザインは、屋根架構だけでなく、伝統建築の特徴である軒庇をスタジアムの外周に設けるという木材を多用したものです。日本らしい競技場が誕生することを大変うれしく思うと共に、この新国立競技場が公共建築物のシンボルとなり、各地で木材利用の機運が高まっていくことを期待しています。
吉条 新国立競技場のインパクトは今のところ木材業界や建設業界といった関連業界にとどまっていますが、今後、竣工を迎えた際には消費者の皆さんにも木材を用いた空間の素晴らしさが広く伝わっていくものと思います。そうして新国立競技場への関心が高まることで、木材への関心も高まっていくことを大いに期待しています。
平田(潤) 吉条会長には木材の生産のお立場から都市利用の重要性を訴求し続けていただいています。また、三井所会長には森林・木材の世界を建築へとつなげていただき、新国立競技場における木造の屋根架構は三井所会長の働きかけなくして実現し得なかったと言われています。まさに、現在の木材利用が追い風にある状況は、お二方が節目をつくっていただいたからだと大変感謝しています。

 

地球温暖化防止に向けた木材の役割
 

平田(潤) 昨年11月4日には2020年以降の地球温暖化対策の新たな国際的枠組み「パリ協定」が発効しました。これに先立ち、日本は2030年度までに2013年度比で温室効果ガス排出量を26%削減し、うち2%相当の約2,780万二酸化炭素トンについて、森林吸収源対策によって確保することを目標に掲げていますね。
平田(恒) 日本は、戦後の植林木が伐採期を迎え、森林資源がここ50年で約2.5倍の49億m3に増加するなど、世界でもトップクラスの森林資源国となっています。しかし、年間で約1億m3が増加する中、使用量は約2,000万m3のみにとどまっているのが現状です。環境貢献の観点から見ても、木は成長期に最もCO2を多く固定することから、木を伐って使い、新たに植えていくことが大切だと言えますね。
吉条 成熟利用期にある森林資源の利用拡大と、森林・林業の活性化は両輪の関係にあります。私ども全木連では、大局的見地から森林・林業に関する各団体がそれぞれの利害を超えて、課題の解決に向けて取り組んでいくべく、2014年に全国森林組合連合会と共同して行動宣言を打ち出しました。
2015年には(一社)日本林業協会と(一社)日本林業経営者協会が、更に昨年11月には全国素材生産業協同組合連合会が加わり、5団体で新たに「持続可能な森林経営の基盤確立に向けた行動宣言」を表明し、「伐って、使って、植えて、育てる」という木材資源の循環利用の仕組みをつくり上げるために連携を深めながら、戦後続いてきた街づくりにおける非木材の流れを変え、木材を優先して活用する社会、「ウッドファースト社会」の実現を目指した取組を進めているところです。
三井所 新国立競技場の建設に関しては、木材調達における合法性の確認や森林認証制度にも注目が集まりましたね。適切に森林経営がなされている森林から生産された木材や木材製品にラベルをつけて流通させ、持続可能性に配慮した木材について消費者の選択的な購買を促すものであり、伐って使った後は植えて育てなければならないことを消費者が認識するためにも、これらの制度は有効だと思います。また、これらを通じて消費者の関心が高まれば、木材の価値も高まっていくのではないかと思います。
平田(恒) 地球温暖化対策に向けては、日本でも流れが大きく変わってきたと感じられるものの、一般にまではなかなか浸透していない状況です。ナイスグループでは、昨年より「住まいの耐震博覧会」の木材コーナーを発展的に独立させ、林野庁や(公社)国土緑化推進機構、自治体にもご後援いただき、「木と住まいの大博覧会」として全国で同時開催しています。今年は(一社)全国木材組合連合会や全国森林組合連合会、(一社)日本木材学会、(公社)日本建築士会連合会などにもご後援いただき、2月3~5日に東京ビッグサイトで開催します。ここでは、最新の木造住宅や建築物、木製の家具や小物などを通じた木のある暮らしの情報を発信しているほか、木育コーナーを設置するなど、木材利用の拡大に向けた活動を行っています。

 

木材利用の拡大に向けた課題
 

平田(潤) 「公共建築物等木材利用促進法」の施行以降、昨年は公共建築物の木造率が初めて10%を超えました。公共建築物をはじめ、非住宅分野での木材利用に向けて、官民を上げて取組が進んでいますね。
三井所 新国立競技場の話題の裏で、文部科学省が木造校舎の構造設計標準「JIS A 3301」の改定と技術資料の作成を行うと共に、昨年、木造3階建て校舎を設計できる「木の学校づくり」と題した手引き書を作成しています。「JIS A 3301」とは1956年に木造校舎の普及に向けて制定されたものですが、不燃化の問題や伊勢湾台風による風水害の問題で、これまで使われずにきてしまいました。しかし、「公共建築物等木材利用促進法」の施行により流れが変わったことで、60年振りに現在の建築技術や材料などを考慮した内容へと抜本的に改正されました。文部科学省が木造校舎の普及促進の方針を打ち出したことは、公共建築物の木造化を促進させる新たなきっかけになったと思います。
一方で、学校施設などの大規模な木造建築物の設計経験がある技術者が少なく、木造校舎を建設したくても地域で設計者を確保できないといった課題が生じているのが現状です。
平田(恒) 木造建築物の設計を担える技術者がいないというのは大きな課題だと感じています。当社グループでは、中・大規模建築物の意匠設計・構造設計から木材調達、加工、施工までを一貫して行う「木造ゼネコン」の役割を担う組織として木構造事業部を設置しています。これまで、鉄骨造や鉄筋コンクリート造から木造に変更したいという設計事務所さんやゼネコンさんからの多数のご依頼に応じてきましたが、木構造に関する知識や技術が不足しているため、そのまま木造化しようとすると梁幅や梁背が非常に大きくなってしまうなどの状況が起こり得てしまいます。
三井所 鉄骨造や鉄筋コンクリート造の場合、図面に合わせて部材をつくり建設するというのが設計と施工の基本的な考え方になっています。しかし、木造で設計しようとすると、木材は自然の木から伐り出して生産されるものであり思った通りの材料が揃えられるわけではありません。途端に木材の調達や流通の面を考慮することが必要となり、それができないと適切な時期に建設ができない状況が起こってしまいます。
このような状況をなくすため、当連合会では中・大規模建築物の木造化に関する設計講習会を全国で開催し、木構造の知識及び技術力の向上をサポートしています。
平田(恒) 建築物を木造とする場合には、105㎜角や120㎜角などの一般流通材で設計することにより、コスト面において初めて鉄骨造や鉄筋コンクリート造との競争力が出てきます。当社グループでは、必要な部分に限って特注品を使用し、それ以外の部分は一般流通材で設計することを提案しています。
三井所 中・大規模建築物を木造で設計する際、必要となる木材のボリュームは膨大になります。一般流通材を使う利点は大量の木材を調達する点にもあります。とくに公共建築物の場合には原則、入札契約方式が採られるため、入札に参加できる事業者は地域のゼネコンが中心となってきます。しかし、そのゼネコンには必要なボリュームの木材を調達する能力がないわけです。
私が携わった埼玉県の幼保一体施設では、全木連さんの会員である埼玉県木材協会さんが製材事業者さんを取りまとめ、必要な量が集まる状況をつくっていただきました。この時、適切な品質の木材をタイムリーに調整するためには、設計の段階から地域の製材事業者の方々と連携を図ることの重要性を強く感じました。
平田(潤) 流通の役割として、今後は各生産地から全国に材料を適切に供給すると共に、ゼネコンや設計事務所といった、これまで木造に携わってこなかった方々に木材利用の知識や技術を伝えていくことが大切だと考えています。そのためにも、業界を超えた密な交流が求められる時代が来ていると感じています。
吉条 日本の木材業界には、これから拡大する木材需要に対応できるだけの地力がしっかりと備わっており、流通に関してもその基盤は整ってきています。今後は設計と生産、つまり建設業界と木材業界とがコラボレーションすることで、更なる木材利用の拡大につながっていくことを期待しています。
私は、都市の建築物で木材がもっと使われなければ木材需要は伸びていかないと考えています。しかし、木材は適正な使われ方ができていないと、今後の利用拡大にマイナスの効果をもたらしかねません。例えば、木は腐るというイメージがありますが、実際には腐朽菌は酸素と水分、養分がないと生存できません。
私が理事長を務めていた東京木材問屋協同組合の木材会館(東京都江東区)では、外装パネルにヒノキを使用しています。板目に沿って縦使いにしているため、雨に濡れても水分が滞留することがなく、腐ることはありません。しかし、木材を外装材として水分が滞留する状態で用いた場合には話は全く異なってしまうのです。ですから、設計士の方々には木の魅力や価値が消費者にしっかりと伝わるよう、適切な使い方をしていただきたいと強く思います。
平田(恒) 施工の段階においても注意が必要ですね。当社グループが携わった大規模木造建築物の現場で、納材時に構造躯体が雨ざらしとなっている状況を見て、社員が急いでブルーシートを張って養生したことがありました。当社グループでは、流通の立場として納材するだけでなく建築物が完成するまで材料に責任を持つことが大切だとの思いから、2015年1月に(一財)木構造建築研究所を設立しました。木造建築物の普及に向けて、木構造に関する設計や施工段階における情報を蓄積するべく取り組んでいきます。
平田(潤) 人々の暮らしと木との関わり合いは、建築物の木造化に加えて内装の木質化も拡大の余地が大きいと考えられます。その点についてはいかがでしょうか。
三井所 内装の木質化は、そこを利用する方々の心地良さにつながります。30㎜厚のスギの床材を用いた保育園を訪れたとき、木に体温が移って温かく、とても居心地が良い空間で、床に座っているとそこから離れたくなくなるほどでした。木材は熱伝導率が小さいため断熱性が高く、吸湿効果もあり、子どもが素足で長時間過ごすような空間には最適だと思います。
平田(恒) 当社グループでは、健康寿命の延伸に寄与し、環境にも貢献するスマートウェルネス住宅について学べる体験型施設「スマートウェルネス体感パビリオン」を横浜市と慶應義塾大学との産官学連携で2015年にオープンしました。そこでは、同大学理工学部の伊香賀俊治研究室と一緒になって内装の木質化による効果についてエビデンスを取得しています。
吉条 現在はフロア材の多くにシート系複合フローリングが用いられています。この表面は木目を印刷したプリントシートです。なぜ木目なのかと言えば、消費者がそれを求めているからであり、その点においては内装における木材利用の拡大は消費者ニーズの観点からも、大変大きな可能性を秘めていると思います。
木材会館の7階ホールのフローリングにはブナ材が使われています。実は竣工後、最初に女性の方々が入られた時、ピンヒールの跡が床材に付いてしまいました。これには肝を冷やしましたが、1週間もすると跡形もなく戻っていました。これは木の復元力によるものです。その後は全体的に圧縮されたこともあり、今ではヒールの跡がつくことはありません。これら木の素晴らしい性質が一般消費者に広く浸透し、様々な場面で利用されるようになっていくと良いと思います。
平田(潤) 木材会館では大変多くの一般流通材が様々な形で用いられ、デザイン面から見たフィールドの広さを含め、今後の木材利用の可能性を大いに示していただいています。建築家や学生の方々にとって、木材利用のインスピレーションを受ける聖地のような場となっており、流通事業者など木材に携わる事業者の方々にも是非一度訪れて、体感していただきたいですね。

 

2017年の展望
 

平田(潤) 木材利用における生産、建築、流通という各々のお立場から、2017年の展望についてお聞かせいただければと思います。
吉条 公共建築物等木材利用促進法の施行をはじめ、国による様々な施策もあり、木材の活用に対して国民の理解が進んでいることを実感しています。木材業界においては、木材を売るだけでなく、社会全体に目を向けて、日本の森林を守り、地球温暖化防止や地方創生への貢献も考えながら行動していくことが必要だと思います。
全木連の今年の課題としては、「ウッドファースト社会」の実現に向けて、公共建築物で始まった木材利用拡大への動きを民間に広めていくため、法制度の改正も含めた抜本的対策を実現すべく国や行政に働きかけていくことだと考えています。そのためにも、現在の木材業界に吹く追い風を生かし、地方からも木材活用への取組を盛り上げ、国民運動へと押し上げていくことが必要と考えています。
今年は木材利用の動きが一層加速すると期待していますし、実際にそうなると確信しています。日本の森林・林業・木材産業の将来のため、建設業界をはじめとする各種業界の方々と一緒になって、日本の森林の再生に取り組んでいきます。
三井所 私が木造公共建築物等技術支援委員長を務める(一社)木を活かす建築推進協議会では、木造公共建築物の整備に係る設計段階からの技術支援を行っており、今年で6年目に入ります。これは、木造化や内装木質化における企画構想や設計者選定、木材調達及び設計段階での技術的問題、更に工事監理や工事発注、工事中の課題解決に向けて地方公共団体を支援するものです。次第に地方公共団体において木材を利用することの良さが理解されてきており、今年は更にその理解が深まって動きが加速すると感じています。鉄筋コンクリート造の校舎と比べて木造校舎の方が生徒や先生にとって心地良いなど、公共建築物をきっかけとして消費者の木造建築物に対する目が変わってくることで、木材利用の可能性は大きく広がります。その点で公共建築物の木造化・木質化は大変意義があると考えています。
また、昨年の熊本地震においては、被災された方々の生活復興や住宅再建に向け、ナイスさんの働きかけで県内の製材事業者や建材流通事業者の方々に連携してご尽力いただきました。大規模災害が日常化している日本において、全国的な流通を担うナイスさんには、被災対応が常態化された体制を維持していただきたいと思います。災害時の対応力にも大いに期待しています。
平田(恒) 本日、木材業界と建設業界を代表されるお二方に揃ってお話しをいただいたことは大変意義高く素晴らしいことであり、心よりお礼申し上げます。木材生産と建築のそれぞれをつなぐのが我々流通の重要な役割であると、改めて強く実感しています。
皆さんがおっしゃる通り、今年は公共建築物だけでなく民間においても木材利用が一層加速してくると考えています。そこには、我々が未だ想像していないような新たな課題に直面することが考えられます。生産、建設、流通それぞれが連携し、共通の課題として認識した上で、解決していくことが重要です。
木材利用の更なる拡大と持続可能な森林経営に向けて、一緒になって取り組ませていただければと思います。今年もご支援・ご協力をよろしくお願いいたします。
平田(潤) 今年は木材の生産や建築、流通が更に密に連携していくことで、新たな需要が創出されて木材利用の拡大が一層進むと共に、これまで木材を利用してこなかった方々が木造や木質化に取り組むに当たり、磐石なプラットフォームを実感し、次の木材利用につなげていただける、素晴らしい一年になると確信しています。木材利用の促進に向けて、皆様方と一緒になって取り組んでいければと思います。
本日は誠にありがとうございました。今年も一年よろしくお願いいたします。