1. TOP
  2. ナイスビジネスレポート
  3. 特別講演 木造住宅の耐震性能

特別講演 木造住宅の耐震性能

東京都市大学 工学部 建築学科 教授 大橋 好光 氏
 

今年4月に発生した熊本地震では、最大震度7を観測した揺れが史上初めて2回観測されるなど、住宅をはじめ多くの建築物に甚大な被害をもたらしました。首都直下地震や東海地震、東南海地震など大規模な地震の発生が懸念される中、一般消費者における住宅の耐震性への関心は高まっており、地震から命を守るだけでなく、その後も住宅に住み続けられることが求められてきています。今回は、木造住宅の耐震設計の第一人者である東京都市大学工学部建築学科教授の大橋好光氏によるご講演の内容を紹介します。

 

 

基準法改正で性能が格段に向上
 

今年4月の熊本地震では、震度7を観測した地震が史上初めて2回繰り返して発生しました。残念ながら被災地では多くの建築物が被害を受け、木造住宅についても倒壊や損壊など甚大な被害に見舞われました。
現在の木造住宅の基準は2000年の建築基準法の改正によるものです。この改正は、1995年の阪神・淡路大震災において多くの住宅が倒壊するなど甚大な被害がもたらされたことを受けて行われました。そもそも、建築基準法において想定されている大地震とは「建物が建っている期間中に一度あるかないかの稀な地震」であり、地震動の加速度で示すと概ね300~400ガル程度とされていました。しかし、実際に阪神・淡路大震災を引き起こした兵庫県南部地震においては、神戸海洋気象台で最大加速度となる818ガルを観測しています。これは、建築基準法の想定の2倍以上となります。
一方で、兵庫県南部地震による地震波は、木造建築物の固有周期である1~2秒周期、いわゆる「キラーパルス」と呼ばれる地震波であったにも関わらず、神戸海洋気象台の周辺では倒壊を免れた木造住宅が見受けられました。震災後、住宅業界を挙げてこの現象を解明するべく、実物大振動台実験などの取組が進められるようになりました。
世界で初めての実物大振動台実験は、阪神淡路大震災と同年の1995年12月に香川県にある当時世界最大の振動台で、実際に神戸海洋気象台波(JMA神戸)を入力して行われました(図1)。この実験では2棟を揺らし、そのうち1棟を私が担当しました。この実物大振動台実験の結果から、地震時に土台から柱を引き抜く力が大変大きいこと、また、耐力壁ではない壁や垂れ壁、腰壁などのいわゆる「雑壁」が耐力の余力として効いていることが分かりました。つまり、阪神・淡路大震災でも雑壁の量が確保されていた住宅は、それにより倒壊を免れたものが多くあったということです。
その後、新たな設計法の構築に向けた様々な実験が行われ、木造住宅の研究は一気に進みました。私も様々な実験に携わっていますが、私が知る限り日本ではこれまで50棟以上の木造住宅の実物大振動台実験が行われています。そのような国は世界中のどこにも存在しません。実物の建物を実際に観測された地震動で揺らして実験するわけで、これ以上の検証方法はなく、今や木造住宅は他の構造と比べて大変精度の高い設計法になりつつあると思います。
これらの実験の結果を受けて、2000年の建築基準法の改正が行われたわけです。これにより阪神・淡路大震災により浮き彫りとなった課題の多くが改善され、現在の木造住宅の性能は以前と比べて格段に向上しています。実際、2011年の東日本大震災で大津波に見舞われたある住宅では、津波と一緒に瓦礫などが押し寄せ1階部分が大きくえぐられているものの、それでも倒壊せず、その後の余震にも耐えています。これは驚くべきことであり、構造性能だけを見てもかつての住宅とは別次元の建物になっていると言えます。今年4月に発生した熊本地震における建物被害の調査結果を見ても、1981年以前(旧耐震基準)と1981~2000年まで、2000年以降の建物では被害率に違いが出ており、2000年以降の建物の構造性能の高さを表す結果となっています(図2)。

 

震度階の改定前後で「震度7」に違い
 

では、現在の木造住宅における高い構造性能があれば、震度7の揺れでも倒壊しないのかと言うと少し話が違ってきます。震度とは地震の揺れの大きさを示す指標であり、当時の震度7を観測した阪神・淡路大震災の翌年となる1996年に改定されました。
それまでは、気象台の職員などの観測員が自身の体感や建物の被害状況などを階級表に当てはめて震度を決定する「体感震度」が採用されていました。また、震度階は震度0から震度7までの8階級に分かれており、震度は加速度だけで決まるものではありませんが、改定前の震度6は約250~400ガル、震度7は約400ガル以上の地震動が想定されていました。しかし、「体感震度」は客観的ではなく、発表までに時間もかかることから、機械による「計測震度」に改められました。
重要なのは改定時に震度階も併せて変更された点です。同じ「震度7」でも、阪神・淡路大震災と熊本地震では想定される地震動の大きさが違うという事実が理解されていないことが問題だと考えています。
この改定により、震度階のうち震度5と震度6がそれぞれ5弱と5強、6弱と6強に分けられ、10階級となりました。参考値とされる加速度は震度6弱相当が250~450ガル、震度6強相当が450~800ガル、震度7相当が800ガル以上とされており、阪神・淡路大震災は現在の震度階によると多くのエリアで震度6強に相当することになります(図3)。阪神・淡路大震災における地震動は建築基準法で想定する「大地震」の1.5~2倍だったにも関わらず、現在の震度階では震度7ではなく震度6強なのです。
更に、建築基準法で想定されている大地震(300~400ガル程度)は現在の震度階で見ると6弱から6強で、震度7は想定外となっています。つまり、建築基準法に準拠しているだけでは震度7で倒壊しない程度の建築物とは言えないのです。

 

 

基準法と住宅性能表示の壁量計算の違い
 

阪神・淡路大震災をきっかけに、一般消費者における耐震性能への関心が高まり、より安全・安心で高性能な住宅を求めるようになりました。そして2000年には住宅の品質確保の促進等に関する法律(品確法)が制定され、これに基づいて同年には住宅性能表示制度がスタートしました。これは、住宅の基本的な性能に関する共通ルールを策定し、それに従って第三者が確認を行い、戸別の住宅の性能を表示するものです。これにより建築基準法レベルを等級1として、それ以上の性能を上位の等級で表示することで、一般消費者が住宅を取得する際の判断基準として性能値を一つの指標とすることが可能となりました。
木造住宅は建築基準法上の「4号建築物」に該当し、特例として構造計算が義務付けられておらず、建築確認申請時にも構造関係の書類の提出が省略可能とされています。では、どのように構造設計をしているかと言うと、建築基準法施行令第46条第4項で規定される「壁量計算」に基づき必要壁量を備えることで耐震性能を確保しています。
住宅性能表示制度においても「必要壁量」を規定することで耐震性能を等級分けしていますが、ここで理解すべきは、建築基準法では求められていない許容応力度計算を実施した場合と同程度になるように必要壁量が定められている点です。そのため、建築基準法に基づく壁量設計をした場合よりも必要壁量は多くなり、高い耐震性能を確保しています。
例えば、建築基準法の壁量計算による必要壁量と、住宅性能表示制度における建築基準法レベルの「耐震等級1」の必要壁量の数値を比較してみます。住宅性能表示制度では「耐震等級1」は建築基準法を満たせばよく壁量が数値で規定されていないため、建築基準法の耐力の1.25倍である「耐震等級2」に規定される必要壁量を1.25で割って算出します。すると、同じ建築基準法レベルであるにも関わらず、建築基準法の壁量計算による数値は結果として住宅性能表示制度の「耐震等級1」相当の数値より2割ほど小さくなります。つまり、建築基準法の壁量設計で実現できる耐力は、構造計算で必要とされる耐力を満たしていないことになります(図4)。
なぜこういう現象が起こり得るかというと、木造住宅がほかの構造と比べて建物の重さが軽いことに起因しています。建物の重さは地震力に直結しており、重いほうが地震の揺れは大きくなります。そのため、建物重量が軽い木造住宅は、必要壁量が実際に構造計算を実施した場合よりも少なくて良いということになっているのです。

 

 

更なる上位の耐震等級の設定を
 

建築基準法における耐震性能の大前提は「倒壊を防いで命を守る」ことです。これは、1950年に建築基準法が制定された際、戦後の住宅不足を補うために性能値を考慮しないで木造建築物が建てられていた現状から、最低限の性能を確保するべく設定されたものです。しかし、今や木造住宅の性能は格段に向上しています。また、一般消費者のニーズも「命を守る」だけでなく、長期優良住宅の普及などにより、「長く住み続けられる」もの、「大地震後も住み続けられる」ものへと大きく変化してきています。
既に、住宅の性能は自分で決める時代になっています。耐震性能について言えば、建築基準法に準拠しているだけでは今や低すぎるレベルなのです。では、耐震性能を向上させるためにはどうしたら良いか。実は、木造住宅において耐震性能を高めることは、そう難しいことではありません。
一つの例として、構造用合板による耐力壁の釘のピッチを半分にすると、それだけで壁の耐力は1.8倍になります。壁の耐力が上がれば、基礎と柱を緊結するホールダウン金物の設置が必要となります。しかし、それらを考慮しても手間やコストが大してかかるわけではなく、地震後にも住み続けられるようになるのであれば、その価値は大変大きいものだと思います。よく、耐震性能を上げるには耐力壁の量を増やさなければいけないから大変だという声を聞きますが、2階建てまでであればそうとは限りません。壁を増やさなくても耐力壁の釘のピッチを小さくするだけで耐震性能を上げることは可能なのです。
現在、建築基準法レベル以上の耐震性能を示す指標は住宅性能表示制度の耐震等級しかなく、建築基準法の1.5倍相当である「耐震等級3」が最高等級となっています。
しかし、大地震が頻発している現在の日本においては、もっと高い耐震性能のニーズがあります。更なる上位の耐震等級の設定が可能なのは、建物重量が軽い木造建築物だけです。木造住宅において建築基準法の耐力の1.75倍となる「耐震性能4」や2倍となる「耐震性能5」といった更に上位の等級を設定することで、耐震性能の高い木造住宅の普及促進につながり、今後発生する大地震時において住宅の倒壊による被害がなくなっていくことを望んでいます。