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特別対談 中国発世界連鎖不況 ~危機のリスクシナリオ~

みずほ総合研究所株式会社
調査本部 本部長代理 兼 市場調査部長 長谷川 克之 氏
 

日本経済は、雇用や所得情勢が上向いており個人消費も底を打ちつつあるものの、年初からの急速な円高が足かせとなっている状況が続いています。世界経済に目を向けると、中国を中心とした新興国市場からの資本逃避が加速しており、先進国へのリスクの波及が懸念されるなど、先行きに不透明感が漂っています。今回は、みずほ総合研究所の調査本部本部長代理 兼 市場調査部長である長谷川克之氏をお迎えし、中国経済を中心に、そこから波及する世界経済及び日本経済におけるリスクシナリオについてお話をお聞きしました。

 

 

中国経済をどう見るべきか
 

平田 2000年代に入り発展目覚ましかった中国ですが、昨年の中国経済はGDP成長率が6.9%と25年ぶりの低水準となりました。中国経済の成長鈍化が現実のものとなり、経営に与える影響について当社でも注視しています。中国経済の現状についてお聞かせいただけますか。
長谷川 主要な経済指標であるGDP(国内総生産)を見ると中国は2016年の目標値として実質GDP成長率6.5~7%を掲げています。しかし、共産党による一党制を敷き、政府が経済統制を行っていることから、今後発表される結果についても目標を大きく外れるような値が結果として出てくる可能性は低いと考えられます。これが中国の実体経済を把握することが難しいゆえんとなっています。
GDP成長率というと通常、実質GDP成長率を指しますが、注目すべきは名目GDP成長率です。名目GDP成長率とは国内で生み出された物やサービスなどの付加価値を総和したものの伸び率で、企業に置き換えると売上高に相当します。中国の名目GDP成長率は2012年から激減しており、産業別では製造業を示す第2次産業がすでにゼロ成長に近い状況にあるなど、中国経済の落ち込みぶりを示しています(図1)。
平田 GDP以外の指標はいかがでしょうか。日本は長らくデフレが続いていますが、中国もデフレ圧力が強いように感じています。
長谷川 物価上昇率のうち、生産者物価指数(PPI)が2012年以降マイナスとなっており、製造業を中心とした企業の物価はデフレ状態が続いています。実際、固定資産への投資の伸び率は製造業を中心に鈍化しています。政治主導によるインフラや不動産への投資により何とか持ちこたえているものの、民間設備投資の落ち込みは顕著になっています。
生産や設備投資が落ち込んでいる背景には、深刻な過剰設備が挙げられます。2008年のリーマンショックの際、中国は4兆元(約57兆円)という超大型の景気刺激策を講じて内需拡大を図り、世界経済を下支えしましたが、それが過剰設備を抱える結果となりました。北京や上海などの大都市では住宅バブルが懸念されるため投資を抑制する動きがありますが、過剰感は住宅にも見られ、地方都市は住宅在庫の積み上がりに苦しんでいます。設備や住宅の過剰感が中国経済の重しとなっています。
一方、個人消費の底堅さから、消費者物価指数(CPI)は3.0%前後で堅調に推移しており、中国経済の二面性がうかがえます。
平田 銀行融資残高、電力消費量、鉄道貨物輸送量の3つの伸び率から出される「李克強指数」も悪化しているようです。
長谷川 李克強指数によると、昨年の後半から年初にかけては成長率はゼロ成長に落ち込んだことが示唆されます。重要なことは、銀行融資残高とGDPとの間に大きなかい離が見られることです。仮に実体経済を表すGDPを上回る貸出を過剰貸出と捉えると、GDPのトレンドを上回る過剰貸出残高は25兆元に及び、これは銀行貸出残高の3割に上ります。
不良債権については、バブル期の日本で40兆円と言われたものがバブル崩壊後には100兆円を超えていたように、当初は過小評価されやすいものとなっています。不良債権比率をはじめ、様々な経済指標の信頼性が問われており、中国経済の構造的な問題の根深さを物語っています。
4兆元の景気対策を講じて以降、過剰な設備投資の裏側で債務が大幅に拡大しています。とりわけ、非金融の民間企業で顕著となっています。企業の債務とは言い換えれば銀行の不良債権です。不良債権比率は2%弱ですが、灰色債権と呼ばれる要注意先の債権を加えると、不良債権比率は6%程度にまで拡大しています。
平田 中国政府の政策について注目するべき点はどこですか。
長谷川 中国では、国家運営の基本となる「第13次5カ年計画」の中でイノベーションを成長戦略の柱に据えています。「中国製造2025」という経済計画を打ち出し、2025年までに製造業を先進国と同レベルに高めるべく、財政及び金融支援策などを積極的に講じています。
実は、中国の製造業の技術力は一部では既に格段に向上しているという見方もあり、過剰設備、過剰債務を抱えているのは主に国有企業なのが実態です。政府は国有企業の改革に乗り出そうとしていますが、1党体制のビジネスモデルそのものを否定することになりかねず、バランスが重要となっています。
また、中国でも日本と同様、高齢化問題を抱えつつあります。生産年齢人口のピークは2015年で減少に転じています。これまでは農村部から都市部へ人口が移動することで成長が持続できましたが、農村部の人口減少に伴い農村の余剰労働力も低下しています。今後、生産年齢人口の減少をいかに補うかが重要な課題です。

 


 

世界経済の概略とリスク
 

平田 今年は、中国株と人民元の連鎖安やアメリカの利上げによるドル高期待などにより、原油価格が下落し、これを受けて世界的に株価が下落しました。また、北朝鮮の水爆実験や、ヨーロッパやアジアでも相次いでテロが起きるなど、様々なリスク要因が顕在化し、世界経済は波乱の幕開けとなりました。
長谷川 世界経済はかつて新興国が7%、先進国が3%成長し、世界経済全体で5%成長というバランスが保たれていました。それが現在は新興国が5%、先進国が1%、全体が3%程度の成長にとどまっている状況にあります。
世界の実質GDP成長率に対する国や地域別の寄与度を見ると、世界の実質GDP成長率の寄与度の3分の1を中国が担っており、成長のけん引役となっていることが分かります(図2)。2009年には世界のGDPが△0.3%まで落ち込む中、中国は前年比プラス9.2%もの成長率を維持し、中国1国だけで世界の実質GDP成長率を1.1ポイントも引き上げました。また、中期的な伸び代という点ではGDP成長率が4位、人口増加人数が3位ではあるものの、世界経済を見渡して中国ほどの経済規模を持つ国は他になく、今後も世界経済の成長の一翼を中国が担うと考えるべきでしょう。
当研究所では、中国は6%台の後半から半ば程度と緩やかな成長にとどまり、世界経済は緩やかながらも回復していくというメインシナリオを描いています。しかし、中国経済が予期せぬ失速に見舞われた場合、世界経済及び日本経済が損失を受ける可能性は無視し得ないものだと考えています。ひいては、中国経済の動向が企業経営において大変重要な要素となります。
平田 中国経済の減速は、世界経済にどのように影響するとお考えでしょうか。
長谷川 世界経済に及ぶグローバルリスクには、第1局面として2007~2008年にかけてアメリカのサブプライム問題に代表される先進国の債務問題があり、2009~2012年には第2局面としてヨーロッパを中心とした先進国の財政問題がありました。2015年ごろからは第3局面に入っており、中国をはじめとする新興国の債務問題という新たな時限爆弾を抱えています。そして2016年以降、第4局面として新興国の債務問題がある中、先進国の長期停滞により世界的レベルで危機が波及することが考えられます。
中国経済の減速は、今後のグローバルリスクの最たるものとして挙げられます。世界経済に波及する経路には、大きく貿易、資源、金融の3つのチャネルに分けられます。
貿易については、世界各国が中国向けの輸出に依存していますが、日本における中国向けの輸出は名目GDPの3.5%を占めています。更にASEAN(東アジア諸国連合)やNIES(新興工業経済地域)に輸出し、そこから間接的に中国に輸出している構造となっています。中国経済が減速すると、日本は中国向けだけでなくアジア向けの輸出にも大きく影響を受けてしまうことになり、実質、輸出への影響度で一番影響を受ける国は日本です。
2つ目のリスク要因である資源については、中国は世界における資源の大需要国であることがポイントで、鉄鋼や銅、アルミなど主要資源の世界マーケットにおける中国のシェアは4~5割に及びます。当然、中国経済が減速すれば資源価格が下落し、結果として原油安になっていきます。様々な形で世界経済へのデメリットになり得る可能性があります。
3つ目のリスク要因である金融については、アメリカの利上げ観測が高まり、資金がアメリカに向かいやすくなると、中国は資本逃避に陥りやすくなります。そうなると人民元安に向かい、アジアの通貨も弱くなります。結果、中国をはじめ、新興国やアジアから資本が逃避するリスクが強まります。
日本経済は、中国経済の減速による影響を大きく受けやすいことに注意が必要です。中国経済の成長率が1%弱減速した場合、日本経済は実質GDPで0.7%程度の影響を受けると計算されます。
平田 世界経済のリスクとして、中国経済以外ではどのようなものを想定していますか。
長谷川 グローバルリスクの2つ目としては、ヨーロッパの政治・金融リスクが挙げられます。イギリスのEU離脱が決まってから3カ月ほど経ち、マーケットは落ち着きを取り戻していますが、安心できる問題ではありません。フランスでもEUに反発する国民感情が強まる中、来年は大統領選挙が予定されています。大統領選挙で反EUを掲げる政党が善戦すれば、来年にかけてヨーロッパで大きな混乱を生じるリスクが高まります。また、オランダやドイツでも選挙が予定されており、引き続きヨーロッパが台風の目となり得る状況にあります。
平田 アメリカで11月に行われる大統領選挙もとても気になるところです。
長谷川 3つ目のグローバルリスクはアメリカの政治・経済リスクです。アメリカ経済は成熟局面になりつつあり、アメリカ経済が世界経済をけん引するのは今後も続くかというと難しいとの意見もあります。また、大統領選挙の行方によって、万が一共和党が勝利すればドル安円高になることは間違いありません。民主党が勝利したとしても円高を免れるという確証は持てず、日本の経済や金融に大きく影響してくることは間違いありません。
このほか、グローバルリスクとして原油価格の動向が挙げられます。原油価格が大きく持ち直すことは考えづらく、原油安が続く中で世界経済における様々な影響が想定されます。また、地政学リスクも無視できません。アメリカの大統領選挙の結果で自国第一主義が高まれば、世界が不安定化してくることも考えられます。

 


 

真の成長戦略は今こそ
 

平田 今後の世界経済・日本経済の行方から、企業経営に当たってどのようなことを心掛けていくべきとお考えでしょうか。
長谷川 アベノミクスは、昨年秋より第2ステージに入りました。今求められているのは更なる金融緩和ではなく、財政支出の拡大、そして成長戦略の推進をもって、いかに持続的な経済成長に結び付けるかです。成長戦略は一朝一夕にできるものではありません。そして、その成長戦略は民間投資を喚起するものでなくてはなりません。成長戦略の主役は、政府ではなく企業です。企業それぞれのレベルで成長戦略をつくることが求められていると考えています。
1990年代前半に米国の軍事用語として生まれた「VUCA」という言葉があります。VUCAとは、Volatility(変動)、Uncertainty(不確実性)、Complexity(複雑さ)、Ambiguity(曖昧)の頭文字です。今は世界の政治・経済において先行きに対する不確実性が常態化しており、環境の変化に対応できるようにすることが大切で、今日の世界の姿を言い当てている言葉です。世界経済・金融市場が変動しやすく、想定外のEU離脱や中国の先行きなど不確実性が常態化しており、中国の経済が減速した場合、日本経済にどう影響が出るのか波及経路は複雑です。
世界経済はまさにVUCAの様相を呈していますが、企業の積極的な投資、勇猛果敢な経営姿勢がイノベーションにつながり、日本経済を強くすることになります。そのためにも、世界経済に降り注ぐリスクを見極めつつ、リスクをいかにして果敢に取っていくかが求められており、それらを踏まえて経営の舵取りをしていただくことが大切です。
平田 企業経営において中国は様々な影響を及ぼすものであり、引き続き動向を注視しながらリスクを見極めていきたいと思います。
本日は貴重なお話をありがとうございました。