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特別対談 木材産業を別の視点から ~すぐ側にある巨大産業~

国立研究開発法人 森林総合研究所 元理事 鈴木 信哉

 

世界中で木材や木造建築物への注目が高まっており、 まさに 「木材新時代」 が到来しています。 日本においては2020年の東京オリンピック・パラリンピックのメーンスタジアムとなる新国立競技場について国産材を多用したデザインが採用されるなど、 木材業界はまさに大きな転換点を迎えていると言えます。 今回は国立研究開発法人 森林総合研究所の鈴木信哉元理事をお迎えし、 木材産業の現状や課題についてお聞きしました。

 

 

「柱角林業」で住宅に依存する木材業界
 

平田 日本はいよいよ 「木材新時代」 に突入したと感じています。 日本の森林蓄積は増加し、 木材は日本が世界に誇る豊潤な資源となっています。 本日はこれまでの木材業界の歩みから今後の課題まで幅広くお話しいただければと思います。
鈴木 外国の方は日本を 「緑の列島」 「木の文化の国」 と言いますが、 実は一人当たりの木材消費量を主要国と比較すると、 日本は0.62m3でカナダ (2.35m3) の約4分の1、 アメリカ (1.28m3) の約半分で、 フランス (1.02m3) よりも少なくなっています。 エネルギー燃料としての薪炭材がほとんど使われていないことを考慮してもかなり低水準となっています。
木材消費量は1955年の6,000万m3程度から、 戦後の経済成長に伴って1969年頃には1億m3を超え、 その後徐々に減少に転じて8,000万m3程度となっています (図1)。

 

 

 それ以前の消費量を見てみると、 1924年には1億強という大量の木材を消費していたわけですが、 そのうち約8割が薪炭材でした。 つまり燃料材として家庭用も含めてあらゆる産業に薪が使われており、 いわば現在の石油ガス産業を一手に木材産業で担っていたわけです。
薪炭材以外の2割に当たる用材の用途は、 メーンである建築のほか、 鉱山、 パルプ、 包装箱、 桶樽、 船舶、 電柱、 鉄道枕木など多岐に渡っており、 日本はやはり木の文化であったと言えます。
平田 日本の山が木材を供給できなくなったのは戦時体制下における緊急伐採によるものだと言われますが、 戦前から薪炭材を含めた大きな需要に応じるべく伐採が進んでいたということですね。
鈴木 その通りです。 戦後、 復興用木材が不足し、 大きな建物や電柱、 鉄道の枕木、 日用品など、 あらゆるものが木材から他の資材へと移行していきました。 しかし、 それでもひっ迫する木材需給に応じるために外材の輸入が進められていったわけです。
平田 日本の木材業界は戦後多くの需要を手放すことになりましたが、 それを支えたのが住宅需要の拡大ですね。
鈴木 1973年には200万戸近い住宅が着工しており、 これら住宅着工戸数の大幅な拡大に日本の木材業界は大きく依存していました。 しかしながら、 住宅着工戸数が減少に転じてくると、 木材業界に及ぶ影響は大変なものとなりました。
住宅における木材使用量を都市型と地方型で比較すると、 地方型住宅の方が20%強多くなっています。 そのため、 高齢化に伴って過疎化が進み、 地方で住宅が建たなくなると新設木造住宅の平均床面積は減少傾向となり、 木材利用量も併せて減少していきます。 新設住宅着工戸数が100万戸だとして、 地方で建つのと都市部で建つのとでは木材使用量は大きく異なることになります。
平田 着工戸数の減少だけでなく、 住宅の国産材比率が減少したことによる影響も大きいですね。
鈴木 在来軸組工法における部材別の木材使用量の割合を見ると、 構造材では梁・桁が28%、 柱が16%、 土台が7%となっています。 このうち梁・桁の国産材シェアはわずか5%とほとんどが外材で、 製材はベイマツ、 集成材はホワイトウッドやレッドウッドが主体となっています (表1)。 土台も国産材シェアは28%と低くベイツガに取って代わられています。 唯一国産材が外材を上回っているのがスギやヒノキを主体とした柱です。 しかし、 全体における部材別シェアはわずか16%であり、 日本の木材産業はこの木造住宅における柱材に多くを依存している 「柱角(はしらかく)林業」 となっています。 一方で、 柱でも集成材が急速に伸びており、 ホワイトウッドやレッドウッドの台頭により、 大きな問題となっているのが現状です。

 

 

 国産材使用量を増やすには、 在来軸組工法における梁・桁などの木材使用量の大きい部材について国産材比率を伸ばすことが必要です。 そういう点では、 下地材の部材別シェアは42%と大きく、 現在、 構造用合板を中心に合板素材が外材から国産材へと切り替えが進められていますが、 その意味の大きさが分かるかと思います。
 
 
木材業界を取り巻く環境の変化
 

平田 非戸建ての国産材需要についてはいかがでしょうか。 日本の木造建築物においては 「暗黒の時代」 とも言える期間が長くありましたね。
鈴木 1950年には都市建築物の不燃化の促進に関する決議がなされ、 新たに建設する公共建築物は木造としないことが打ち出されています。 更に1955年には木材資源利用合理化方策が閣議決定され、 森林の過伐傾向が国土の保全を危うくすると同時に木材資源の枯渇を招くとして、 国及び地方公共団体は率先垂範して耐火建築の普及奨励を推進するとともに、 用途規模により建築物の木造禁止の範囲を拡大する方針が出されました。 つまり、 都市計画法において木造禁止の範囲を拡大することが定められたことになります。
これに拍車をかけたのが1959年の伊勢湾台風です。 これまでの耐火の側面だけでなく風水害の面からも 「防火、 耐風水害のための木造禁止」 を盛り込んだ 「建築防災に関する決議」 が建築学会大会の緊急集会において可決されたのです。
一方で将来の木材不足に備えて講じられたのが 「拡大造林政策」 です。 これは、 主に広葉樹からなる天然林を伐採した跡地や原野などを針葉樹中心の人工林 (育成林) に置き換えるものです。 つまり、 木造禁止の方針と木を育てるという2つの方針が同時に進められてきたことになります。 そして、 造林してきた木材資源が今まさに伐採期を迎えています。
平田 加えて、 世界規模の動きとして地球温暖化防止の側面から幅広い木材利用や木造化・木質化の促進が図られるようになりましたね。
鈴木 2009年12月に建築関連17団体が起草した 「建築関連分野の地球温暖化対策ビジョン2050」 がまとめられました。 森林はCO2吸収源であり、 木材の最大需要者である建築産業は、 木材が吸収した炭素を貯蔵する効果が地球環境に貢献することを定めたものです。 このビジョンは森林・木材関連団体ではなく建築関連団体が発信した点がポイントで、 国産材振興に向けた流れの大きな転換点となりました。
平田 その結果、 2010年10月に公共建築物等木材利用促進法が施行されるわけですね。 これにより住宅・建築業界は木造化・木質化へと大きく舵を切ることになりました。
鈴木 公共建築物等木材利用促進法では 「木材の自給率の向上に寄与する」 という文言が目的に記載されました。 これは木材史上初めての画期的なことです。
同法のポイントは大きく3つあげられます。 1つ目は、 公共建築物以外も対象となる点です。 学校は私立学校を含み、 老人ホームは社会福祉法人が主体で運営するものも全て対象となります。 また、 民間の施設であっても駅や飛行場、 高速道路のサービスエリアやパーキングエリアなど公共性の高いものについては対象となっています。
2つ目は、 木材利用の範囲について構造材だけでなく内装材やその他の建材に至るまでが対象となっており、 更に土木利用や外構、 オフィス家具、 学校の机などの備品までが全て含まれる点です。 構造上は木造でなくても、 対象範囲から関連する業界は極めて広くなっています。
3つ目は、 諸外国の規制の状況などを踏まえて検討を行い、 規制の撤廃や緩和のため必要な措置を講じると明示された点です。 これにより木造3階建ての学校の実大火災実験が行われ、 その結果、 3階建ての学校建築が準耐火構造で建てられるようになりました。 このほか、 老人ホームは2階部分に居室を設けられなかったのが、 規制が緩和され設置可能となっています。
平田 施行当初は公共建築物を中心に木造化が進められましたが、 施行より5年が経過した現在では、 民間建築物の木造化・木質化が都市部を中心として全国で進められるようになっていますね。
鈴木 最大のポイントは、 同法の基本方針は農林水産大臣と国土交通大臣が定めると明記されている点です。 これは何を意味しているかというと、 木材利用のために森林・林業業界が木造化を進めているのではなく、 住宅・建築業界と木材業界の両輪が主管官庁として進めていくということです。 都道府県においても林務部と土木部が共同で実行することとなります。

 

非戸建や非木造建物の木造化を
 

平田 今後の国産材需要の拡大に向けて、 住宅・建築業界は何に取り組むべきとお考えですか。
鈴木 住宅以外の建築物について木造化を促進していくことが重要です。 用途別の建築着工棟数を見ると、 住宅の着工が80%以上を占め、 建築物に対して住宅の着工が圧倒的に多くなっています。 これが木材業界の 「柱角林業」 につながっているわけです。 しかし、 住宅と比較して棟数は少ないものの建築物の床面積は約50%を占めており、 住宅以外の建築物の木造化を進めることが木材使用量に与える影響は大きいと言えます。
階数別に見ても、 3階建て以下の棟数が大きく、 4階建て以上はわずかとなっています。 3階建て以下の建築物は共用住宅も学校も木造が可能であり、 この部分の木造化を推進していくことが重要です。
しかし、 平屋建てについて構造別に建築着工の床面積を見ると、 木造の面積が鉄骨造の約半分に留まっています。 工場や倉庫、 コンビニエンスストアといった平屋建ての建築物は木造ではなく鉄骨造で建てられているのが現状であり、 この部分の木造化が重要なターゲットになります。
平田 住宅に関してはいかがでしょうか。 新設住宅着工戸数は減少傾向にある中、 一般消費者の住宅に対する意向としては、 木造住宅を選好する人が85%を占めているという調査結果もあります。
鈴木 木造住宅における国産材使用の拡大と、 木造以外の鉄筋コンクリート造や鉄骨造による住宅についての木造化が必要となります。
しかし、 新設住宅着工戸数の減少に伴い、 一戸建住宅については大手プレハブ住宅メーカーが工場などの固定費削減のためプレカット加工を外注化できる木造軸組工法に進出しており、 木造化率は全国的に90%程度まで上昇しています。 そのため、 一戸建住宅における国産材使用量の拡大の余地はあまり大きくありません。
平田 非戸建てでは木造の新たなターゲットとして賃貸アパートに注目が集まっています。
鈴木 現状として木造の比率が小さいのが賃貸アパートなどの貸家です。 貸家においては、 鉄骨造や木造でもツーバイフォー工法の比率が高く、 このボリュームゾーンをいかにして木造軸組工法に取り込んでいくかが重要となります。

 

国産材需要の拡大へ向けた木材業界の課題
 

平田 最後に、 木材業界全体を俯瞰して国産材需要の拡大に向けた課題をお聞かせください。
鈴木 戦後に手放した需要をもう一度取り戻すことが必要だと考えています。 よく木材業界では川上、 川中、 川下の連携が重要だと言われます。 川上とは素材生産事業者を、 川中とは原木市場を示しています。 では川下とは何かというと、 木材業界では製材工場が川下と認識されています。 しかし、 本当は製材工場の次には木材問屋様や材木店様、 工務店様のほか、 家具事業者や建具事業者などが並んでおり、 私はこれらを 「河口」 と呼んでいます。 現在の木材業界は、 住宅に依存した形から抜け出せていませんが、 河口の中で外材に需要を奪われていった様々なものや業界について、 木材産業の範ちゅうにどう取り込んでいくかを真剣に考えなければいけません。
私は、 木材市場規模は実際には1億から大きく変化していないと見ています。 家具や建具が外材に取って替わり、 完成品として輸入されることから需給統計の消費量に換算されていないからです。 これらを考慮すれば、 市場規模はまだ拡大の余地があるものとして、 早期に 「柱角林業」 から脱却し、 需要のありかをもう一度見直していくことが重要だと考えています。 すぐ側に巨大産業があるのです。
平田 本日は貴重なお話しをいただき、 誠にありがとうございました。