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特別対談 どうなる今後の日本経済

株式会社双日総合研究所 チーフエコノミスト 吉崎 達彦氏
 

年明け以降、円高・株安が進行し、4月には国際通貨基金(IMF)が2016年の日本の実質国内総生産(GDP)成長率の見通しを下方修正するなど、日本経済に不透明感が漂っています。そのような中、今回は㈱双日総合研究所のチーフエコノミストである吉崎達彦氏をお迎えし、今後の日本経済の見通しについてお聞きしました。

 

 

キーワードは3つの「中」
 

平田 2016年に入り、日本銀行によるマイナス金利が導入されたものの円高・株安の進行に歯止めがかからず、さらに消費が伸び悩むなど日本経済は不透明な状況となっています。
今年の世界経済及び日本経済についての見通しをお聞かせいただけますか。
吉崎 世界経済については、国際通貨基金(IMF)が4月に発表した見通しによると、2016年の世界全体の成長率は3.2%、先進国全体では2%を切っています。日本は0.5%で、来年は消費増税を見込んでマイナス成長へと下方修正されました。数年前までは6%成長を遂げていた新興国も4.1%と低水準になっています。この理由は新興国の減速で、中国の経済成長率が7%を割り込んだことに加え、ブラジルとロシアに至ってはマイナス成長の上にインフレ率も高くなっています。更に貿易量の見通しも10%超だった2005~2007年と比較して3.1%と低水準にあります。
世界経済及び日本経済を見通すにあたってキーワードとなるのは3つの「中」です。1つ目の「中」は「中東」、つまり原油価格の下落です。2つ目は「中央銀行」で米連邦準備制度(FRB)による利上げ、3つ目は「中国」における経済の減速です。

平田 原油価格については、今年2月に1バレル26ドル台まで急落しましたが、それが底値となり持ち直してきていますね。
吉崎 原油価格の下落により中東諸国をはじめとした産油国が大変な打撃を受けています。今は少し値を戻していますが、どの水準まで戻るかが注目されます。一方、アメリカはシェールオイルについて価格が上昇するのを待って生産調整を行っています。生産調整を解除した場合、原油価格は再度頭打ちになります。ベネズエラではデフォルト(債務不履行)が懸念されており、産油国は深刻な状況にあります。
資源の専門家の間では、2011~2014年の原油価格が高すぎたという意見が有力です。石炭や鉄鉱石といった他の資源価格は同時期からすでに下落傾向にありました。石油については、2011年に中東各地で起きた非暴力の民主化運動「アラブの春」で政学的リスクが高まったために価格が高止まっていたものがいよいよ崩れてきたと考えられています。
平田 ここ最近は一人勝ちとも言えるアメリカ経済は依然として好調ですね。また、11月の大統領選挙の動向が大変気になるところです。
吉崎 アメリカ経済は、リーマンショック直後に10%を超えていた失業率が直近の4月で5.0%まで下がっており、好調であるとされています。一方、大統領選の予備選挙で共和党ではドナルド・トランプ氏の候補者指名がほぼ確実となるなど、想像し得なかった事態が現実となっています。その理由を探るべく私が注目しているのは、ギャラップ社の「Good Job Rate」です。成年人口のうち週30時間以上の労働(Good Job)に従事する雇用者の割合を示すデータで、2010年の統計開始から現在まで横ばいの40%台前半で推移しています(図1)。つまり、失業率は下がっているのに「Good Job」は増えていないことになります。「Good Job」に就けない人が増え、その不満が蓄積されたことで、過激な発言が目立つトランプ氏の支持者の増加という現象に繋がっていると考えられます。
また、世代論による解釈も有力です。1940~1960年の「ベビーブーマー世代」、その下に「ジェネレーションX」世代、そして2000年前後に成人した「ミレニアル世代」がありますが、このうちミレニアル世代である若者層の価値観が大きく変化しています。例えば同性婚の合法化は若者にとって極めて自然なことと捉えられていますが、ベビーブーマーより上の世代では決してそうではありません。そこで、トランプ氏の女性蔑視とも取れる時代遅れの発言を聞いて胸がすく思いを感じ、支持が増えているという解釈です。しかし、長い目で見れば上の世代は敗れていく側にあるでしょう。現在のアメリカは数字上の景気は良いものの、国民がそれを実感できておらず、FRBによる利上げのリスクは遠のいた感じがしています。
平田 中国経済については、悲観論と楽観論が交錯していますね。
吉崎 確かなのは昨年の中国におけるGDPが10兆ドルを超えているということです。日本の倍以上です。一人当たりGDPに換算すると8,000ドルで、マレーシアが1万ドル、タイが6,000ドルであることから相当良くなっています。CCTVという国営放送局においても観光に関するCMが増えています。他国と同様、市場の成熟に従って「モノ消費」から「コト消費」に移行しており、私は中国経済の消費ブームは当分続くと見ています。
一方で、企業部門は明らかに生産、設備、雇用が過剰となっており、環境汚染も深刻です。3月の全国人民代表大会で発表された「第13次5カ年計画」では、イノベーションによる経済発展を目指すことが示されています。確かに、労働量や資本の大量投入による成長が期待できない中では技術革新しか道はないのですが、言論が規制され知的財産権も守られない国でどう技術革新を進めていくのか疑問符が付きます。
また、中国は現在、新たなシルクロードとなる「一帯一路」構想を打ち出しています。これは中国西部から陸路でヨーロッパにつながる「シルクロード経済ベルト」(一帯)と、中国沿岸部から海上で各国沿岸部を結ぶ「海上シルクロード」(一路)の2つで交通インフラの整備や貿易などを促進していくものです。これにより国内で過剰となっている設備や雇用を解消していく構想です。中国経済については今後、規模の拡大と質の改善の2つがバランスを保って進められることを期待しています。

 

貿易赤字の解消が円高要因に
 

平田 内閣府が5月18日に公表したGDPの速報値では、2016年1-3月期の実質GDPは前期比0.4%増、年率換算では前期比1.7%増となりました。日本経済の現状についてはどのようにお考えですか。
吉崎 2016年1-3月期のGDPについては、うるう年で例年より1日多いことから1%程度上振れすることを考慮すると、かなりの低水準と言えます。このような状況下で10%への消費増税の行方が議論されていますが、私は更なる2%の引き上げを受け入れるような余力が今の日本経済には残っていないと思います。プラスの要素としては、名目GDPと実質GDPとの差が縮小していることです。名目GDPから物価上昇分を差し引いたものが実質GDPですから、本来の姿に少しずつ近づいていると言えるかと思います。
現在、エコノミストの間でGDPを基に日本経済の指標とすること自体を今一度見直そうという動きが出ています。GDPとは年間で生み出される付加価値の総量で、今年の年末には内閣府がGDPの新たな算出方法を導入する予定です。驚くべきことに、現状では企業の研究開発投資は付加価値として認められていません。水素自動車を例に挙げると、自動車が製品化されるまでの研究開発への投資は反映されず、水素自動車を販売した売上高だけが付加価値として算出の対象となっています。このほかにも、ソフトウェアやクラウドなどの情報化資産、特許技術やブランドなどの無形資産への投資は反映されません。これがGDPの実態であり、この統計を基に日本経済が長期停滞にあると言うのは正しい議論なのかを問題視しています。
平田 4月に発生した平成28年熊本地震による日本経済への影響はどのように見ていらっしゃいますか。
吉崎 過去のデータを見ると、2014年、2015年と連続して1月に生産のピークを迎え、2月に崩れています。今年も同様で、2月にトヨタ自動車㈱の生産ラインが6日間に渡ってストップしたことを受けて生産が落ち込み、3月に戻したところで4月に震災が起こって再び同社の生産ラインが一時止まりました。これらの経験からも、これまで日本経済をけん引してきた製造業の足腰の弱さを認めざるを得ない状況にあります。また、生産と在庫のぶれが拡大しており、企業は国内能力増強の投資に消極的となっています。
一方、日本の貿易収支は東日本大震災が起こった2011年3月より月次で赤字に転じ、1兆円超の赤字となる状況にもありました(図2)。これが昨年11月から季節調整値で一転して黒字となり、その後も継続しています。年度で見ると、2013年度は10兆円を超える赤字でしたが2015年度には赤字幅が大きく縮小しており、2016年度は黒字に転じると見られています。これはひとえに原油価格の下落によるものです。1バレル100ドルだった時代と比べると、購入費だけで6兆円ほど削減されます。天然ガスや石炭など、ほかの化石燃料の購入費も含めると10兆円の減税と同程度の効果があり、大変メリットの大きい話です。
平田 円高・株安の基調が続いています。この状況についてはどうお考えでしょうか。
吉崎 日本が赤字から黒字に動いたことで実需の円買いが起き、その結果円高になっているのであり、円高基調はごく自然な動きではないかと考えています。アベノミクスにより2013年に円安となった際、企業における生産の現地化が進んだことから輸出量については増えなかったものの、企業業績には大変プラスとなり、株価も上昇しました。ところが、輸入浸透度が上がることで物価が上昇し、消費はマイナスとなりました。政府・日銀はデフレ脱却に向けて円安による物価上昇を図っていますが、これが消費の伸び悩みにつながっているのが現状であり、現在の円高基調が進んだ場合には企業業績はマイナス、消費は若干のプラスとなっていくと見られます。
株価については、私は東証一部の時価総額を指標としています。経験則として、名目GDPよりも時価総額が低いと株価が安く、時価総額が名目GDPを超えると株価が高い状態と言えます。これによると、2009~2011年には名目GDPと時価総額の差が200兆円超もあり、日本の株価は安過ぎる状況にあったと言えます(図3)。名目GDPと時価総額の比率は、安倍内閣が発足した2012年の年末で62%、これが日銀の異次元緩和策の導入を受けて2014年11月に100%を超えました。現在は100%前後の適量で推移しています。

 

 

女性活躍とインバウンドが経済にプラス
 

平田 今後の日本経済を見通すに当たって、注目すべき点はどこでしょうか。
吉崎 現在の雇用情勢は、失業率が直近で3.2%まで下がり、有効求人倍率はバブル期に匹敵する1.3倍となっています。これにより今後の賃金上昇も予想されます。雇用者数は5,700万人弱と大変な右肩上がりの状況で、これは労働力だけでなく消費にもプラスに働きます。注目すべきは男女の比率の変化です。2007年11月には男性が3,236万人、女性が2,329万人だったのに対し、2016年3月には男性が3,178万人、女性が2,515万人と、男性が減少しているのに対し女性が増加しています。今後も1学年に260万人もいた団塊世代が定年退職していくとともに男性の数は減少し、現在の出生者数が100万人程度であることから、全体としては減少傾向にあると言えます。しかしながら、女性の雇用者数が年間100万人でも増加すれば、それは純増となります。つまり、女性が活躍できる社会を実現していかなければ今後の日本企業に未来はないということです。
そのような中で日本経済に与えるインバウンド(訪日外国人数)の効果は非常に大きくなっています。昨年のインバウンドは2,000万人、アウトバウンド(出国した日本人数)は1,600万人と初めて逆転しました。政府は2020年の訪日外国人数4,000万人という目標を打ち出しており、これに対応するインフラ整備が急務となっています。日本経済において個人消費を支えているのは間違いなくインバウンドであり、円高基調ではあるものの訪日中国人による爆買いは当面続くと考えられます。
今後の日本経済においては、人口減少や高齢化などに伴うドラスティックな変化やインバウンドといった明るい要素を含め、成長戦略を考えていくことが大変重要となっています。また、住宅業界においては団塊世代が退職期を迎えるに当たり、これらの需要をいかに汲み取っていくかが最重要課題となると思います。
平田 本日は大変貴重なお話しをありがとうございました。