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「木と住まいの大博覧会」開催記念 「木材の建築新時代」を語る特別対談を開催

 林野庁の後援により開かれた「木と住まいの大博覧会2016・東京」(1月29~31日、東京ビッグサイト)では、開催を記念して林野庁長官の今井敏氏と東京大学名誉教授の有馬孝禮氏による「『木材の建築新時代』を語る」と題した特別対談が1月29日に行われました。会場では建築家の隅研吾氏から寄せられたビデオメッセージも上映され、300名を超える来場者で会場が埋め尽くされるなど盛況を博しました。今回は、すてきナイスグループ㈱取締役の平田潤一郎の進行のもとで行われた対談の内容をお送りします。

 

 

各地に広がる木造建築物
 

平田 2010年10月の公共建築物等木材利用促進法の施行により、様々な用途の建築物が木造で建てられるなど木材の利用が拡大しています。
今井 同法の施行から5年が経ち、日本各地で公共建築物をはじめ幅広い建築物において、木造や木質化への取り組みが広がりを見せており、大変うれしく思っています。
施行当初は地方の庁舎や学校などが中心でしたが、現在は都市部でも商業施設などで構造躯体や内装に木材を多用した建築物が多く建てられています。木を建築物に使用するには建築基準法や消防法など様々な規制がありますので、法律面の整備と併せて耐火性に優れた部材などの開発も重要となります。技術開発により更に多くの建築物に木材が使用されていくことを期待しています。 

 

有馬 建築物の不燃化の促進と木材消費の抑制に向けて1955年に閣議決定された「木材資源利用合理化方策」や建築学会による火災・風水害防止のための木造の禁止決議(1959年)など、木造建築には言わば「暗黒の時代」がありました。
その頃は木造建築の中心は住宅でしたが、大断面集成材の開発などにより、1974年以降は住宅以外の建築物が意識されるよう変化しました。抜本的な変化の起点となったのが2000年の建築基準法における性能規定化です。これにより、鉄骨造や鉄筋コンクリート造とほぼ対等に木造でも建てられるようになりました。
木造を取り巻く環境が大きく変化し、木造が建築物にまで拡大したことに伴い、木材に要求される内容がこれまでとは違ってきています。様々な分野との連携のもとで山側と都市とをつなげていくことが大切だと思います。

 

オリンピックで高まる国産材機運
 

平田 2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技大会のメーンスタジアムである新国立競技場にも国産材の使用が決定し、国産材利用の機運が一層高まることが期待されます。
今井 「木と緑のスタジアム」として新国立競技場の設計デザインが決定したことは大変うれしいニュースとなりました。2020年は日本が木の文化であることを世界中に発信する絶好の機会であり、国産材を多用したスタジアムでオリンピック・パラリンピックを開催することが最高のおもてなしになると考えています。新国立競技場はただ木を多く使うだけでなく、木を「感じて」もらう空間であり、木の良さを改めて見つめ直す機会になればと思います。
オリンピック・パラリンピックでは多くの施設の建設が予定されており、主伐の時期を迎えた豊富な森林資源を有効活用することで、日本を元気にするきっかけにしたいと思います。そのためにも、国産材を安定供給できる体制を構築する取り組みが重要だと考えています。
有馬 木構造に関する国際会議が2008年に宮崎県で開催された際、38カ国から来日した300人を超える外国人の方々にとって宮崎のスギはとても印象的に映ったようで、大変感激されていました。
木材は利用する方に感激を与えるものであるべきであり、デザインにおける知恵や具象化するための方法、産地の情報、調達ルートなど、様々な側面からの協力が必要だと考えています。技術的な発展だけでなく、木を「感じる」ための取り組みが木造建築物には必要であり、人がふれることで感動が生まれるのだと思っています。そういう点においても、東京におけるオリンピック・パラリンピックを通じて、様々な用途の建築物が日本各地に建てられることを期待しています。

 

「木材新時代」に向けて
 

平田 日本をはじめ世界はまさに「木材新時代」にあると言えます。更なる国産材の普及促進に向けたメッセージをお聞かせください。
今井 国は林業及び木材産業の成長産業化を重要な政策の一つに位置付けています。木材の需要先を拡大するべく、中高層建築を可能とするCLTや耐火性の高い部材などの技術開発を進めるとともに、国産材の安定供給に向けた体制の構築を図り、需要面と供給面の両方の体制を整えることで成長産業化を図っていきます。
また、地方創生の観点からも林業及び木材産業は大きく貢献できる産業です。国民全員が木の良さを理解し、国産材を使用することで日本を元気にしていくよう、林野庁をはじめ行政が一体となって取り組んでいきます。

有馬 国産材の使用により、地球温暖化の防止や資源の持続性、国土の保全など森林の有する多面的機能の発揮、そして地域経済に資するという意識を国民全員が持たなければいけません。そうすることが次世代に資源をつなげていくことになるのです。
戦争を経験している私としては、木造建築物の普及・拡大はまさしく平和の象徴なのだと強く実感しています。平和の祭典であるオリンピック・パラリンピックが東京で開催され、新国立競技場に国産材が使用されることは大変意義深いことだと思います。日本に存在する素晴らしい資源である木が一層利用されることで、これからの世代に平和もつながることを祈念しています。