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ナイスビジネスレポート

特別対談
YKK APの経営方針
YKK AP株式会社 代表取締役社長 堀 秀充 氏・すてきナイスグループ株式会社 代表取締役会長 平田 恒一郎

 「生活空間から都市空間まで、時代に応え、未来を拓くYKK AP」をビジョンに、窓や窓周りをはじめ、建材の分野で常に業界をリードするYKK AP株式会社。今回は、住まいの将来を見据えた同社の新たな取り組みと挑戦について、堀秀充社長にうかがいました。


高付加価値で次の時代を生き抜く


平田 YKKグループと言えば、世界トップを誇る「ファスナー」をイメージする方も多いとは思いますが、建材分野においても大きな存在感を放っていらっしゃいます。
 当社のAP事業(建材事業)では、開口部の更なる可能性を目指し、快適な住空間を創造する「窓やドア」、美しい都市景観を創造する「ビルのファサード」など、さまざまな製品を供給しています。同事業の売上高は、2012年度の約3,400億円から、2017年度には約4,000億円まで伸張し、本年度は4,480億円を計画しています。AP事業における最高売上高は、消費税駆け込み前の1996年の4,349億円で、当時の新設住宅着工戸数は163万戸でした。当時と比べて新設住宅着工戸数は減少していますが、私が社長を務める間にこの最高売上高を更新したいのです。ファスニング事業(ファスナー事業)もこれまでの路線を踏襲することにこだわらず、新たな事業展開や大幅なコストダウンを図ったことで、この5年間で売上高を1,000億円近く伸ばしています。AP事業についても売上高にこだわり、事業を成長させていきたいと考えています。
 新設住宅着工戸数が減少すれば、当社が納入する窓の数も当然ですが減っていきます。ですから、これからは新築だけにこだわるのではなく、高付加価値化と需要創造により、AP事業の持続的な成長を図っていこうと計画しており、窓の高断熱化もその一つです。
 当社では寒冷な地域であるドイツや、温暖地域である日本の富山県に加え、蒸し暑い地域であるインドネシアにも研究開発拠点であるR&Dセンターを開設し、情報を蓄積・共有しながらそれぞれの気候に適した商品開発を進めています。
 また、富山県黒部市には、お子さまから高齢者、更にはハンディキャップをお持ちの方まで、様々なモニターに使い勝手を確かめていただく「価値検証センター(VVC)」も設置しています。技術者のひとりよがりにならないよう、エンドユーザーの方からチェックを受け、高品質なものづくりに取り組むことを心がけています。
 このVVCの隣地には、商品・技術・施工などをプロユーザーに向けて提案する、「パートナーズサポートスタジオ」を来春にオープンする予定です。窓は材質一つとっても多様化しています。開け方も複雑になり、ZEHや防火対策など、取り組まなければならないことがいくつもあります。この施設は、皆さんの意見に耳を傾けながら一緒にモノづくりをしていく場となっていますので、ぜひご利用いただければと思います。
 また、同県では、自然エネルギーを活用した「まちづくり・住まいづくり」を提案する「パッシブタウン」も展開しています。そのうちの第3街区K棟は昨年10月にアメリカの省エネ認証「LEED for Homes」で最高ランクにあたるプラチナ認証を取得しました。富山県にお越しの際は、ぜひご覧いただければと思います。

省エネ時代の急務、樹脂窓の普及


平田 2015年より横浜市と慶応義塾大学、当社グループの産官学連携で運営している「スマートウェルネス体感パビリオン」は、窓の効果についても体感でき、アルミサッシと比べた樹脂窓の省エネ効果などが体験できます。貴社は樹脂窓への取り組みを強化されており、今後、日本での樹脂窓の普及が急速に進んでいきそうですね。
 樹脂窓を強化している背景には、建築物・住宅の省エネ基準が2020年に義務化される予定であることや、2030年までにはすべての新築住宅でZEH化が求められるといったことにより、省エネ性能の高い窓が求められているということが挙げられます。
 断熱材の厚さにたとえると、グラスウールの壁を100o(U値0.50)とするならば、アルミ窓(単板ガラス)は、0.2o相当しかありません。これでは、まるで壁に大きな穴が開いているようなものですが、日本の既存住宅の93%はいまだこのアルミ窓です。それに対し、樹脂窓(Low-Eガラス)では35o、トリプルガラスであれば55o相当を実現します。また、来春には、高性能トリプルガラス樹脂窓「APW430」の引き違い窓を発売予定です。これは、世界トップクラスの断熱性能と先進の機能、高いデザイン性をもち合せた窓となっています。
 断熱性能に優れ、加工しやすい樹脂窓は、1954年から世界で使用されています。その採用率は、イギリスは76%、ドイツ、アメリカ、フランスも60%以上におよび、韓国では80%を占めます。一方で、日本では17%に過ぎません。そこで、私たちは日本の窓の30%を樹脂窓にしようと呼びかけ続けています。当社が製造する窓は、現在23%が樹脂窓となっており、いずれ全体の40%を占めるようにできればと思って取り組んでいます。また、更に40%は樹脂とアルミの複合窓が占めるようにしていこうと考えています。
 本当に良い日本の窓をつくりたいとの思いから、先代社長の吉田忠裕の時代から、当社では樹脂窓の商品強化に取り組んできました。祖業であるファスナーには金属製と樹脂製との2種類があることから、樹脂は当社にとってなじみのある素材でもあります。樹脂窓は、世界では安くて性能が良いと評価されており、今後シェールガス由来のエチレンによって塩化ビニル樹脂(PVC)を製造すれば、原油に比べて、約20%のコストダウンできるのではないかと期待しています。耐久性を心配される方が中にはいらっしゃるかもしれませんが、先日の北海道胆振東部地震でも大きな被害は確認されていません。

エクステリアから始まる快適な住まい


平田 大阪府北部地震での痛ましい事故を受けて、ブロック塀の見直しが進んでいる中、当社でも国産材を使用した木のフェンスを提案しています。貴社でもエクステリアの分野で、様々な商品を積極的に提案されるなど力を入れていらっしゃいますね。
 ブロック塀への不安から、アルミフェンスやスクリーンへの取り替えといった新たな需要が生まれており、当社でも注力しています。門扉・フェンスによって家全体の表情が変わりますし、家1棟のコーディネートという面から、ハウスメーカー様にも非常にご好評をいただいています。当社の玄関ドアのシェアは40%以上ありますので、ドアとマッチングした門扉・フェンスを提案していくことで、更なるシェアの拡大を図っていきたいと思っています。
 エクステリアは、新築から5年、15年、20年後と長期にわたってお客様とおつき合いができる分野でもあり、多くの可能性を感じています。現在、高級な「エクスティアラ」、鋳物の「シャローネ」、中級ゾーンの「ルシアス」、普及ゾーンの「シンプレオ」と、意匠性やグレードに応じて4つのラインアップで展開しています。今年の秋には、住宅とエクステリアを一体化する軽快なデザインを目指し、住宅のアプローチ空間を美しく多目的に活用できる大型屋根で、浮遊感と上質感を表現した木調大屋根や、梁と一体化したスマートな柱形状を特長とするガーデンルーフ「エクスティアラ ルーフ」を販売しました。これは、雨の日にも濡れずにカーポートから玄関に行けるよう、庭に屋根をつけるという発想から誕生した商品で、2018年度のグッドデザイン賞を受賞しています。
 エクステリアではありませんが、窓にはリモコンシャッターの設置をお勧めしています。東京以西は比較的普及しているのですが、それでも2階に設置されているケースはまだ少ないという状況です。現在、北海道や東北などの寒冷地での実績を積んでいるところです。最近のシャッターは、窓を開けたまま通風・採光ができるなど、防犯だけでなく、防災、防音対策という点でも、非常に大きな役割を果たすようになってきています。今年9月に発売した「かんたんマドリモシャッター」は、土間や片入隅、軒天にも取り付けられる簡単工事で風速57メートルの台風にも耐えられ、防犯に役立つとして、日本経済新聞社の2018年第3四半期新製品ランキングで5位に選ばれています。
 そのほか、ドアについては、壁を壊さないカバー工法により、断熱性やデザイン性がアップするほか、リモコン、カードキーなどのカギも使えるスマートドア「かんたんドアリモ」や、窓については、防火地区で使用されている網目の入った見通しの悪い窓を改善しようと、網のない耐熱強化複層ガラスを開発しています。これに視界も良好で埃がつきづらい網目の細いクリアネット網戸を合わせ、「Wクリア」とし提案しています。
 また、窓の安心という面では、戸締まり安心システム「mimott(ミモット)」を来年1月に発売予定です。ドアや窓の開閉を感知するシステムはたくさんありますが、これは「玄関ドアスマートコントロールキー」「引違い窓用クレセントセンサー」「勝手口ドア用サムターンセンサー」と、Wi-Fi機能付きブロードバンドルータと接続する受信機から構成されるIoTシステムで、玄関ドアや窓に取り付けられたセンサーが受信機につながり、ドア・窓の鍵の締め忘れをスマートフォンに通知する仕組みとなっています。クレセント錠の操作で発電・通信するため、電源も電気工事も不要です。

窓から耐震を考える


平田 住宅は大開口が好まれる傾向にあり、大きな窓への需要はまだまだ増えていくと思います。一方で、大きな窓には、耐震性や断熱性での不安を感じている方もいらっしゃいます。
 寒冷で窓を小さくする傾向があったドイツでも、窓の断熱性能の高まりに伴い、大開口が選ばれるようになってきています。一方で、窓が大きくなると、断熱性能より耐震性能に不安が生じます。そこで、大型の窓を補強する耐震フレームを開発しました。外から耐震補強をするリフォーム向け「フレームプラスG2」と、断熱と耐震を両立させる「フレームII」です。
 当社は、あくまで窓と窓周りという視点から耐震化への対応を進めています。窓周りという弱いところを補強し、大型の窓でも地震の揺れに耐えられるという視点から、住まいの快適と安全・安心を実現していきたいと考えています。今後の家づくりは、耐震性能と省エネ性能に加え、大開口が柱になってくると思っています。大開口でありながら、「耐震等級3」と、省エネについては「HEAT 20・G2グレード」を実現するお手伝いができればと思っています。
 また、当社では住宅の性能向上リノベーションを進めています。先ごろ、東京で「ZEH改修の家」を手がけました。これは、不動産会社と組み、築30年の住まいを断熱と耐震の両面から改修し、住まいの価値を劇的に高めたものです。また、富山県でも同様に「空家再生×性能向上」をうたい、築38年の家を改修しました。スケルトンからの改修の場合、すべての窓が取り替えられるという当社にとっての利点もあります。「ZEH改修の家」は、リノベーション・オブ・ザ・イヤー2017の1,000万円以上部門で、「光、空気、気配、景色。すべてが一つにつながる−代沢の家」として最優秀受賞をいただいています。
 こうした実証プロジェクトは、北海道や神奈川県でも進行中です。また、神戸と福岡でも計画しています。今後、新築より高い住宅性能を持つ家が、安価で手に入るというビジネスモデルを築き上げていきたいと考えています。

「善の巡環」で業界に貢献


平田 来年10月には消費税増税が予定されています。その対策や、海外事業を含めた今後の展開についてはいかがお考えでしょうか。
 消費税の駆け込み需要は、前回ほどには期待できず、あったとしても小幅な動きになると思っています。その後は、市場の数字が落ちることを前提に、様々な備えをしていこうと考えています。たとえば、窓やドアだけでなく、治具(じぐ)を開発し、組立、配送、施工業務の省人化に取り組んでいます。サッシを組む方も高齢化が進んでいますので、力の弱い方や女性でも作業ができるよう、組み立てをサポートする機械の導入も進めています。荷卸しや組み立て、間配り、荷上げといった負担の軽減から配送まで、皆さんの声に耳を傾けながら進めていければと思います。
 また、工務店様が今以上に質の高い住まいづくりをしていただけるように、会員制の工務店ネットワーク「A-PLUG」を運営しています。有識者のノウハウ、断熱設計それから施工のポイント、施工管理の業務など有用な情報を発信しています。無料ですので、ぜひ登録して活用していただければと思います。
(https://aplug.ykkap.co.jp/)
 海外については、現在10カ国/地域で展開しています。アメリカは好調で、ビル用部門はほぼ全米に展開しており、一戸建住宅部門についてもこれから伸ばしていきたいと思っています。中国は、大連、蘇州、上海、深センに4つの会社があり、うち3カ所に工場があります。500社以上のデベロッパーに評価されるランキングにおいて、華東地域の門窓ブランドランキングで1位をいただくなど好調です。そのほか、インドネシアでは高級一戸建住宅市場から、ミドル層への拡大を計画しています。インドでも来年にかけてトライアル販売によるビジネスモデルの検証を進めています。
平田 最後に、販売店様や工務店様へ向けてメッセージをお願いします。
 社長に就任した際に、モノづくりにこだわり続け、メーカーに徹するという方針を立てました。当社は、YKKの創業者である吉田忠雄の言葉「善の巡環」を、企業精神として大切にしています。これは、「他人の利益を図らずして自らの繁栄はない」という考え方で、企業は社会の重要な構成員であり、共存してこそ存続でき、その利点を分かち合うことにより社会からその存在価値が認められるというものです。発明や創意工夫をこらし、常に新しい価値を創造することによって、事業の発展を図り、それがお得意様、取引先様の繁栄につながっていくことを目指しています。 
 「モノ」と「コト」では、「コト」の方が重要だと今は言われていますが、当社は「モノ」の部分をしっかりやっていきたいと考えています。その上で、メーカーと販売店様が同じ土俵で競い合うのではなく、当社はあくまでモノづくりに徹し、皆さんとしっかりとタッグを組むことで、住宅産業の繁栄に貢献していきたいと思います。
平田 一緒に手を取り合い、日本の住宅産業界をより良いものにしていければと思います。本日はありがとうございました。