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ナイスビジネスレポート

特別講演
乱気流の中の内外経済
―2019年への視界を開く―

 緊張の高まる米中関係が及ぼす日本への影響をどう読み解くべきか。日本経済新聞社編集委員で、テレビ東京「ワールドビジネスサテライト」の解説キャスターも務める滝田洋一氏に、現在の世界情勢から2019年の経済見通しを紐解いていただきました。


ペンス副大統領演説の重要性

 米中関係は貿易摩擦という表現で止まらない広がりを持ちつつあります。11月6〜7日に開催された日経フォーラム「世界経営者会議」において、中国を代表する通信機器メーカーの一つである華為技術(ファーウェイ)の会長が、講演の中で話題にしたのは、第5世代技術やスマートフォンもさることながら、米中の経済摩擦でした。
 現在では、中国からアメリカに輸出する品物については、500億ドル分の製品には25%の輸入関税が、2,000億ドル相当には10%の制裁関税が課せられており、更に、来年の1月から25%に引き上げられます。しかし、実はそうした貿易取引に対してだけではなく、企業の買収をはじめ、様々な経済的取引に対し規制が入る状況になりつつあります。これは2019年の世界経済、ないしは日本の内外情勢を見る上でのポイントとして、留意しておく必要があります。
 こうした中、アメリカのペンス副大統領が10月4日、ワシントンにあるハドソン研究所で中国に関する重要な演説を行いました。この演説でアメリカは、中国に対する政策スタンスを一変させることを表明しており、その内容は以下の4つのポイントに集約できます。


 このうち、最も重要なのが@です。アメリカは従来、時間が経てば中国は自由化し、民主化していくだろうと予測していたのですが、それがどうやら間違いであったと認めています。中国の台頭は、ある意味ではビジネスチャンスになることから、対立しているようで手を握るというのが、これまでの基本的な政策スタンスだったわけですが、ペンス副大統領はこの演説でそれを否定しました。
 この演説は、イギリスのチャーチル元首相が1946年に行ったフルトン演説の再来ではないかと言われています。フルトン演説では、「鉄のカーテン」という有名な言葉が使われました。つまり、米ソの冷戦に際し東ヨーロッパの共産化は認めないと、当時のトルーマン大統領とチャーチルの間でスタンスを固めたわけです。思い起こしていただきたいのですが、1989年の11月にベルリンの壁が崩壊して、1990年にドイツが再統一、1991年にソ連の共産党の体制が崩壊して冷戦が終了するまで、時に緊張と緩和がありながらも、冷戦が終わるまでに実に40年もかかりました。重要な歴史的転換点にあるときは、渦中にいると気づけませんが、アメリカというグローバルな覇権国の指導者が、その方針を演説という形を取って、誰にでも分かるように示すことがあります。ペンス副大統領の演説は、あたかもボディーブローのように、来年にかけて効いてくるとても重要なメッセージであり、ターニングポイントとして受け止め、評価していく必要があります。

技術覇権をめぐる米中の争い

 それでは、米中がなぜ冷戦状態のようになっているのでしょうか。一つの要因は、中国の南シナ海における人工島の建設や、九段線という9つの島を結ぶ領海の主張など、このまま放置しては歯止めが効かなくなると、アメリカが判断しているということです。そのほか、国内の情報統制を非常に厳しく行っている可能性があることや、新興国に多額の融資を行い、港湾施設をはじめ重要な施設を実質的な管理下に置いているのではないか。更には、アメリカの世論に影響を与えるために、企業や映画会社、大学にエージェントを送り込んでいるのではないか、そういったリスクにまでペンス副大統領の演説では踏み込んでいます。トランプ政権は、トランプ大統領のエキセントリックな性格にばかり注目が集まり、思いつきで発言していると誤解している方が中にはいるかもしれません。しかし、このペンス副大統領の発言は、アメリカの国防総省や国務省をはじめとした政策決定者による、練りに練ったものと言えそうです。少なくともトランプ政権が続く限り、このスタンスが米中関係を決定する枠組みになるということです。
 米中の摩擦は、とりわけハイテク・先端技術分野において激しさを増しています。米通商代表部(USTR)のライトハイザー代表は、「より重要なのは、中国による技術移転の強制であり、サイバー窃盗であり、イノベーションの保護に関する諸問題だ」「米国の技術を保護するためのあらゆる法的手段の活用を視野に入れている」とコメントしています。アメリカは、この分野においてこれまで、圧倒的なパワーを誇ってきました。こうした先端技術の裏には、安全保障ないしは軍事技術の問題があります。AI(人工知能)の技術は軍事技術の基本中の基本であり、そこに中国が追い上げてきたことに対し、警戒感を強めているのです。もう一つは、今の軍事技術にはサイバー攻撃による「システムダウン」というリスクがあり、その点にアメリカは注意を払っています。
 こうした状況に陥った大きな節目は、恐らく昨年の中国共産党大会だったのではないかと思います。つまり、習近平氏が終身国家主席を務める可能性が出てきたということです。そこに、アメリカの指導者として歯に衣着せず、ストレートな発言が持ち味でもあるトランプ大統領という要素が加わったことで、米中関係は新たな冷戦の様相を呈しているというわけです。
 そのような中、中国は11月5〜10日に上海で「第1回中国国際輸入博覧会」を開催しました。これには、ナイスグループも日本品質の住宅を出展されたということですが、初日には、出席した各国首脳や名だたる経営者たちの前で習近平国家主席が演説し、今後15年間でものとサービスを合わせ、日本円で約4,500兆円(40兆ドル)を輸入すると宣言しました。これは、日本のGDPの約8倍にも相当する額です。現在では、中国のダメージがアメリカよりも大きく、今後、外需・貿易取引額が大きく落ち込む恐れがあると中国は考えており、正面衝突を避けるため、アメリカに対して爪を隠す局面に入っているのではないかと思われます。そうは言っても、事態は劇的に変化するわけではありません。10月2日に、米イージス艦と中国の駆逐艦が南シナ海でわずか40mの距離まで接近したという事件も報道されており、事態は予断を許しません。
 今後、11月30日・12月1日にアルゼンチンで行われるG20ブエノスアイレス・サミットに注目して下さい。サミットには、トランプ大統領も習近平国家主席も出席し、そこで首脳会談を行う予定とされています。このままでは完全に正面衝突する両国が、どのようにクールダウンを図っていくのか、この点に主眼を置いて発言を注視していただければと思います。

米中摩擦 日本への影響

 この米中摩擦は、日本にはどういう影響が出てくるのでしょうか。先端技術の分野で、中国からアメリカへの企業買収は大変敷居が高くなっています。AIやロボット技術に優れた企業を買収することについて、アメリカは対米投資審査委員会の権限を非常に強化しています。もう一点、不動産の対米投資についても、中国企業に対して非常に厳格になっています。アメリカの軍事施設、政府機関の周辺の建物に入っている中国系の企業に対し、退去を求めるような動きも出始めています。
 日本は、現時点ではこの対米投資審査委員会のターゲットになっていません。しかし、子会社・関係会社を中国やアメリカで展開している日本の企業グループは少なくないと思います。アメリカにある子会社・関係会社で得た情報が、グループ内の情報ネットワークを通じ、中国にある子会社・関係会社へ漏えいしないような対策を取ることが、今後、大変重要なポイントになってくるだろうと思っています。
 アメリカから技術や部品を輸入している日本のメーカーは多いと思います。たとえば、アメリカの医薬特許技術などを導入した医薬品会社が、その技術を利用した医薬品を製造して中国に輸出した場合に、今後、アメリカから制裁を受ける可能性すらあるということです。日米の首脳同士が関係性を強化することで、リスクを最小化できる可能性はあると思います。来年にかけては、こうした米中の関係を見定めた上で、日本の立ち位置を決めなければなりません。
 しかし、一方で、日中関係は劇的に好転していると感じています。2012年の安倍政権発足時は尖閣問題などもあり、非常に厳しい対日感情がありました。しかし、現在では中国が日本にしきりに秋波、つまりラブコールを送っています。10月の安倍首相の訪中の際、李克強国務院総理のみならず、習近平国家主席が昼だけでなく夜の会食にも参加しました。来年、大阪で開かれるG20サミットに際し、習近平国家主席は来日する予定であり、2020年の東京オリンピック・パラリンピック競技会に向けて、首脳同士の相互訪問が進んでいる状況にあります。私自身は、こうした米中関係の中で、安倍首相は高いバランス感覚を発揮していると見ています。日中の友好関係を演出しつつ、アメリカとも緊密な情報の共有化を図っています。米中との間合いを適切に取ることは、日本企業が米中摩擦に巻き込まれることを未然に防ぐ上で、とても大切と言えます。
 ただし、優先順位は重要です。米中関係がこれだけ悪化している中、まるでコウモリのようにどっちつかずの対応を取り続けることは、恐らく不可能です。中国もそれを理解した上で、日本に対して働きかけを強めているというのが現状でしょう。

景気減速をどう捉えるか

 今後の世界経済を見通すと、米中が摩擦を起こしているこの局面が、経済に好影響を与えることは残念ながら考えにくいと言わざるを得ません。米中摩擦の影響は、じわりと景気に響いてくると思います。米中間の貿易取引が頭うちとなり、対米輸出の落ち込みにより中国の景気も減速局面に陥るという可能性は、考えておくべきです。
 一方で、アメリカはGDP実質成長率が4〜6月期4.2%、7〜9月期3.5%と、米中貿易摩擦と関係なく大変な好景気の中にあります。その理由の一つは、いわゆるトランプ減税と呼ばれる大型減税が効果を発揮しているからです。企業の法人税率の引き下げに加え、日本において青色申告と言われる個人事業主にも法人税を認めた点が大きく影響しています。個人事業主の場合、所得税で35%だった税率が法人税(減税後)の適用で25%まで下がり、それにより生じた資金が設備投資や消費に回ったのです。また、タックス・ヘイブンと呼ばれる海外の租税の安い国に資金を置いていた企業に対し、1年間の猶予を認めた上で、アメリカへ資金を戻せば税率を下げると呼びかけており、こちらも高い効果を出しています。FRB連邦準備理事会が金融を引き締めているにもかかわらず、株価が上昇局面にあるのはその影響です。ただし、来年になればこの効果が一巡し、ゲタを履かせていた分の成長率は剥落するということになると思います。
 日本の景気もまた減速すると思っています。大きな要因はやはり、来年10月に予定されている消費増税です。日本経済における個人消費の金額(年換算額)は、前回の増税時の駆け込み需要があった2014年1〜3月期に350兆円で、今年4〜6月では301兆円です。つまり、増税から4年半が経過したにもかかわらず、個人消費の水準はいまだ回復にいたっていません。駆け込み前の2013年の10〜12月期で約300兆円であり、5年経っても横ばいという状況です。
 この理由は色々あります。アベノミクスの功績として、デフレ時に比べて賃上げが進み、失業率も有効求人倍率も改善したことが挙げられます。しかし、当然ながらリタイアした人にはこれは関係ありません。つまり、高齢化の問題が徐々に効いてきています。アベノミクスを始めるのがもう5年、10年早ければ、もっと日本経済にポジティブな影響を発揮したかもしれません。
 私自身は、安倍首相は内心では消費増税に慎重と見ています。景気への影響を考え、子育てや教育に対する無償措置や、住宅や自動車への取得支援措置、食料品などへの軽減税率など様々な措置が議論されていますが、家計を預かる主婦の心にどの程度響くかという点が来年の景気を見る上でのポイントだと思います。こうした措置を踏まえても、来年10月の消費税の増税は、日本の経済全体には重しになると思わざるを得ません。
 一方で、プラス要因を探すと、来年5月1日の新しい元号への改元は、お祝いムードによる一定の需要創出効果はあると見ています。また、現在は企業業績が上がっており、来年にかけて、賃上げによる景気押し上げ効果が一定程度は期待できるかもしれません。また、外国人労働者の受け入れの影響も無視できません。人手不足に陥れば成長率は下がり、働き手の増加は経済の地力をつける動きにつながります。国会での法案審議でも一番重要なことは、外国人労働者が日本で働く期間の延長と、長期にわたって働くことで定住に道を開くということです。非常に皮肉なことですが、アメリカもEU諸国も国内の分断化が進む中、難民に門戸を閉ざしていた日本は分断摩擦を経験せずに済んでいます。しかし、労働現場で人が足りないというのは否めない事実であり、保守政権である安倍政権がその門戸を開こうとしているというのは、非常にユニークな現象と言えるかもしれません。
 長期的な視点で見ると、やはりAIやロボット技術が道を拓くと考えています。身の回りで使い勝手の良いモノをつくり出すことにかけては、日本は超一流ですから、日本の成長戦略として考えたとき、今後、「家」がその主戦場の一つになることは間違いありません。今後、AI、ロボット技術、そしてスマートフォンを含めた情報端末といったIoT(モノのインターネット)を、いかに住まいと連動させ、展開させていけるかに注目しています。
 もう一つは「自動車」です。トヨタ自動車鰍フ豊田章男社長とソフトバンクグループ鰍フ孫正義社長が、IoTの一形態であるコネクテッドカーの領域での事業拡大を加速させると発表しましたが、キーワードとなるのが「Uber」です。トヨタ自動車鰍ェ持つコネクテッドカーの情報基盤と、ソフトバンクグループ鰍フIoTプラットフォームを連携させ、車や人の移動に関するデータを活用したモビリティサービス(MaaS=Mobility as a Service)を開発していくということです。つまり、車の「所有」から、ライドシェアや配車といった「サービス」へという流れがあります。自動車もあらゆるものが情報系とつながりはじめ、今後、自動運転と電動化が急速に進んでいきます。こうした動きは、「Connected(つながるクルマ)」「Autonomous(自動運転)」「Shared(配車サービスなど)」「Eelectric(電気自動車)」の頭文字で、「CASE」と呼ばれています。車自体が、壮大な走る情報端末となる時代が到来しつつあります。
 その上で、住まいの情報を車とどう結びつけるかを考える必要があります。米中の主戦場は先端技術だとお伝えしましたが、先端技術の話はまさに、日本の今日から明日への成長戦略に直結するということになってくると思います。

Society5.0と住まい

 最近、「Society5.0」という言葉をよく耳にすると思います。これは、ネット社会や新しい先端技術をもって、住まいやすさの向上を図っていくというものです。「Society5.0」に代表される様々な技術が、住まいや車にどのように浸透していくのかに注目して、来年にかけての見通しを立てていくとよいのではないかと思います。実は安倍政権は、3〜4年前から未来投資会議や日本再興会議を開催してきましたが、あまり注目を集めてきませんでした。しかし、ここにきてようやく目指すべき全体像が見え始め、そこに関連する「スマートハウス」や、「CASE」といった広い意味でのハイテク、AIなどへ、企業投資が向き始めています。いずれ新しいネットワークのようなものが形成され、経済の循環が良くなれば、経済の地力を強める上でとても重要なポイントになるのではないかと思います。
 経済の動きは、政治に比べて比較的合理性があります。大枠で捉えれば、それほど手ひどいことにはならずに済むのではないかと思います。最後に一言付け加えるとすれば、本当に危険なのは米中が救いようのない真剣勝負に入った時です。国際通貨基金(IMF)は米中摩擦が激化した場合のリスクシナリオを公表しており、米中対立が金融危機を誘発するような事態ともなれば、日本はマイナス成長に陥る可能性も否定できないとの予測が出ています。米中にはあまり無茶をしないでほしいと願っています。