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ナイスビジネスレポート

特別対談
激動の北東アジア政局をどう生き抜くか
〜中国・北朝鮮・ロシアと日米同盟〜

外交ジャーナリスト・作家 手嶋 龍一氏・すてきナイスグループ株式会社 代表取締役会長 平田 恒一郎

 アメリカ、ロシア、中国、北朝鮮を中心に、北東アジア情勢が混迷するなか、早くから日米同盟の空洞化を予見して警告を発してきた手嶋龍一氏に、インテリジェンス感覚を武器に複雑な様相を分析し、未来を生き抜く知恵についてうかがいました。

冷戦時代を経て 今、米中貿易戦争へ


平田 アメリカではトランプ旋風が吹き荒れ、北東アジアでは中国の台頭が進むなど、日本周辺は現在、緊張感に満ちています。今後、日本はいかに世界と向き合うべきでしょうか。
手嶋 トランプ旋風は、とりあえず身を潜めていればやり過ごせると考える方も多いようです。しかし、超大国アメリカに重大な地殻変動が起きていると考えるべきでしょう。トランプ大統領が辞めても、アメリカ社会が変容しているなら、元には戻らないかもしれません。
 第2次世界大戦の終結後、45年間にわたり米ソ両陣営は冷たい戦争を繰り広げました。西側の最前線にいたのは、ヨーロッパでは西ドイツ(当時)、東アジアでは日本でした。超大国アメリカは冷戦に打ち勝つためにも、その二つの要石をどうしても抱えておきたかった。そのため、日本が中立化したり東側陣営に傾いたりしないよう、安全保障上のコストを支払ったのです。当時、広く開放されていたアメリカ市場には、日本製品が洪水のように流入し、繊維製品の牙城であった南部諸州でもアメリカの工場は潰れていきました。アメリカの国内にはむろん反発がありましたが、西側陣営の要石として日本を引き留めておく必要経費だったのです。これが冷戦の現実でした。ところが、1990年代のはじめ、ソビエト連邦が崩壊し、東西ドイツが統一され、冷たい戦争が幕をおろすと、要石としての日本の価値は失われていきました。
 冷戦が終わると、アメリカは、国防総省が抱えていた「インターネット」と「GPS(全地球測位システム)」という二大テクノロジーを、基本的には無料で、世界に開放しました。大きな決断でした。冷戦の時代、核戦争を勝ち抜くための欠かせない軍事技術でした。この二つの技術の周辺に膨大な新産業が誕生し、アメリカは冷戦後も超大国であり続けたのです。繊維産業や鉄鋼業といった古いモノづくり産業は、日本や中国の勢いに押されていきましたが、IT産業こそアメリカの成長を支えたのです。しかし、衰退した「ラストベルト(Rust Belt)〜錆びついたものづくり地帯」では、競争に負けた産業が現状に不満を募らせていきました。そんな人々の心を鷲掴みにして当選したのがトランプ大統領です。中国や日本、ヨーロッパを懲らしめてやると声高に叫び、ホワイトハウスに入ったのです。
 その象徴が「米中貿易戦争」です。中国からアメリカへの輸入品に25%という高関税をかければ、世界の貿易市場が一時的に縮み、日本にも直接・間接に影響が出始めます。むろん、中国だけがアメリカの標的ではありません。トランプ大統領は日本市場にも更なる開放を求め、安倍総理との蜜月にも変化の兆しが見え始めています。

北方領土は返還されないのか


平田 9月にはプーチン大統領から驚きの発言がありましたが、今後の日ロ関係についてはどのように見ればよいのでしょうか。
手嶋 今年9月の東方経済フォーラムでは、安倍総理の渾身のスピーチ中に、新たな提案をしたいとプーチン大統領が手を挙げました。何十年にもわたり進展がなかった、日ロ平和条約を2018年中にも締結しよう、と提案しました。これには安倍総理も戸惑ったことでしょう。しかし、プーチン大統領ほどの人は、思いつきでモノを言いません。綿密に考え抜いた曲球(くせだま)と言ってよいでしょう。
 しかし、日ロ平和条約を締結して、懸案の北方領土問題はどうなるのか。歴史的な経緯として北方四島は日本固有の領土です。ただ、外交ジャーナリストの立場から現下の情勢を分析すると、プーチン政権がいますぐ四島全てを日本に引き渡すことはないでしょう。現在のロシアにとって国後(くなしり)・択捉(えとろふ)は重要な軍事拠点です。一方、歯舞(はぼまい)・色丹(しこたん)は、1956年の「日ソ共同宣言」で、平和条約を締結後に日本に引き渡すと明記されています。北方領土問題が進展すれば、日ロの喉元に突き刺さったトゲを抜くことができます。「海洋強国」を呼号する中国は、周辺の海域に競り出そうとしています。その中国は、ロシアと極東で合同演習を行い、中ロは接近の兆しを見せています。こうした中で、領土問題を前進させれば、中国とロシアに楔(くさび)を打ち込むことができるでしょう。日本政府は、先のプーチン提案を逆手にとって新たな外交攻勢に出るべきではないでしょうか。なにも四島返還という原則をないがしろにしていいと言っているのではありません。日本の主張を貫きながら、現実的な解決策を真剣に模索していくべきです。政治家も、メディアも、地元も、今こそ現実的な打開策を論議すべきでしょう。

三橋一島地帯 日本海の新たな胎動


平田 北東アジアでは日本海を挟んだ国々で多くのせめぎ合いが生じている状況にありますね。
手嶋 日本海の向こう側のユーラシア大陸で始まった新たな胎動を、中国側は「三橋一島」と象徴的に呼んでいます。これは、中ロ国境で建設中の「ブラゴベシチェンスク・黒河間の道路橋」「ポルタフカ・東寧間の道路橋」「ニジネレニンスコエ・同江間の鉄道橋」の3橋と、ハバロフスクの西にあるアムール川の島、大ウスリー島の1島を指したものです。中国とロシアは、アムール川とウスリー江で隔てられており、かつてこの一帯は、中ソの衝突の舞台となり、その後は「国際政治の空白地帯」となってきました。1980年代に私が西側のジャーナリストとして初めてこの場所を訪れた当時も、中ロ両国は依然として厳しい緊張状態にありました。しかし時代は巡り、いまやこの一帯が「三橋一島」で結ばれ、新たな交易が始まろうとしています。
 ウラジオストクから南に下った対北国境にトロイツァ港があります。安全保障の分野でも、ビジネスでも、ホットゾーンです。ロ朝の国境なのですが、約15qの背後に中国の国境も迫っています。ザルビノ市にあるトロイツァ港の向かい側は、日本の新潟港、伏木富山港、金沢港が位置しています。いまも日本製の自動車などがトロイツァ港から陸路でシベリア鉄道を経て、ロシアのヨーロッパ地域へと輸出されています。
 同時にこのトロイツァ港はアメリカの情報衛星が監視を強めている地域でもあります。国連の制裁の対象になっている北朝鮮に秘かに航空燃料などが横流しされていないか監視しているのです。日本海は、日本、中国、北朝鮮、韓国にとって、まさしく戦略の海なのです。にもかかわらず、中国は日本海に出口を持っていません。しかし、この距離であれば、掘削などの手段で人工の港を持つこともできるでしょう。そうなれば、地政学的に中国は圧倒的に有利となるはずです。
 このように今、極東アジアの戦略関係は大きく様変わりしようとしています。北京、平壌、モスクワが緩やかな枢軸関係を結べば、日本はその風圧をもろに受けるでしょう。日米同盟がこれまでのように盤石なら心配いりませんが、米国第一主義のトランプ大統領がどう動くか分かりません。大陸からの風圧に対し、果たして日本が単独で耐えられるのか。日本を取り巻く情勢は大きく変わってきています。
平田 日本海を巡る北東アジア情勢は待ったなしということですね。そのような中、アメリカと北朝鮮との間で歴史的な会談が行われました。この影響はどう読み解けばよいのでしょうか。
手嶋 米朝会談では、北朝鮮は非核化をしますと約束しました。しかし、米朝交渉は依然として進展していません。それが、両首脳を2回目の会談に駆り立てているのです。トランプ大統領にとっては、中間選挙を控えて何としても非核化の成果がほしい。一方の金正恩委員長も、朝鮮戦争の終結宣言をアメリカから取り付けたい。朝鮮戦争は停戦したまま、正式には終結していません。つまり休戦協定の段階にとどまっています。従って、アメリカとしては、いつでも攻撃を再開することが可能なのです。北朝鮮としてはどうしても終戦の保証がほしいのでしょう。アメリカ大統領が同じテーブルについて署名をすれば、北朝鮮の強権体制を事実上裏書きすることにつながります。それゆえ北は終戦にこだわっているのです。
 一方、アメリカと韓国の間には米韓安全保障条約があり、それを通じて北朝鮮の頭上に傘をかけて押さえ込んできました。最近の戦争はインターネット・テクノロジーが大きな役割を果たしています。日ごろから軍事演習を繰り返し、日々のデータを更新しておくことが重要です。しかし、トランプ大統領は軍事演習を中止する約束をしてしまいました。これ一つとっても、アメリカの抑止力が「破れ傘」になっていると言えるでしょう。その上、トランプ大統領は、自分はビタ一文出さないのに、韓国と日本から北朝鮮に経済援助させると事実上の約束をしています。北朝鮮が全体として攻勢に出ている背景には、隣国、中国の存在があり、北朝鮮にもっと強硬な姿勢に出ろとそそのかしています。アメリカの抑止力が弱まれば、習近平国家主席の中国にとって戦略環境は好ましいものになるからです。

「一帯一路構想」にビジネスチャンス


平田 中国の台頭が進み米中の貿易戦争が苛烈を極める中、日本としては今後どこに活路を見出していけばよいのでしょうか。
手嶋 安倍総理とトランプ大統領は昨年、「自由で開かれたインド・太平洋戦略」で一致しました。しかし、四半世紀を越えてこの地域を見てきたジャーナリストの眼から見ると、この戦略には中身が乏しい。一方の中国は、新たに雄大な戦略構想を明らかにしています。それをよく表しているのが「真珠の首飾り」戦略です。
 アメリカはシェールオイルの開発が進み、エネルギーの輸出国となりました。ヨーロッパには北海やロシアの油田があるほか、2040年にガソリン車の製造を禁止し、石油に依存しない経済を目指しています。一方、日本や中国は依然、中東の石油に依存したままです。両国には、南シナ海〜マラッカ海峡〜インド洋〜ペルシャ湾を結ぶシーレーンは重要なのです。このシーレーンに沿って、光輝く真珠の首飾りのような港湾を中国は建設しています。そのうち、スリランカの最南端の港であるハンバントタ港は、中国による多額の融資で建設されましたが、スリランカはその融資を返却できなかった。いまや中国は、港湾運営会社の株式の70%を取得し、実質的に中国のものとしました。今後、中国軍空母の基地となることも十分あり得ます。このように中国にとって真珠のような港が次々に出現しています。
 「真珠の首飾り」をはるかに超える重要な戦略が、「一帯一路構想」です。習近平国家主席は、従来の陸と海のシルクロードに加え、北極海を通る「氷上のシルクロード」を整備する構想まで示しています。これは単なるインフラ投資の枠組みを超えた新たな戦略構想としてとらえるべきでしょう。
 中国は、基本的に同盟国や植民地を持たない従来の方針を転換し、経済協力の枠組みを装いながらも、「一帯一路」の関係国に影響力を強めようとしています。その影響力はやがて軍事力の装いをまとうことになるでしょう。
 この「一帯一路」構想が、軍事強国の戦略なら分かりやすいのですが、経済と軍事がないまぜになって立ち現れているところが誠に分かりにくいのです。ですから、日本企業にとっては、国内市場の需要を喚起する巨大なビジネスチャンスにもなり得ます。「一帯一路」という巨大なインフラ開発へ参画していかなければ、生き抜いていけない企業も出てくるでしょう。
 新興のスーパーパワー、中国は、日々、その形を変えながら、成長を遂げています。今後、新しい中国はどこに行くのか、自らの眼で確かめ、時に協力し、時に毅然とした姿勢を示して、日本という国家と企業の舵を定めていくことが求められています。

インテリジェンスとインフォメーション


平田 現在は高度情報社会とされ、様々な情報が日々飛び交っています。複雑な国際情勢を読み解く視点から、日本の経営者に向けたアドバイスをいただけないでしょうか。
手嶋 経営者の皆さんのもとには、日々膨大で雑多な情報が届けられているはずです。こうした膨大で雑多なインフォメーションの海から、経営者としての経験に照らし合わせ、経営を取り巻く環境の本質がどこにあるのかを探し出す。そのために情報という名のダイヤモンドの原石を選り抜き、真贋を確かめ、精緻な分析を加えて、事態の本質をつむぎ出す。そのエッセンス、最後の一滴こそが、「インテリジェンス」と呼ばれるものです。しかし、日本語にはこれに相当する訳語がありません。
 アメリカでは、大統領も経営者も、単なるインフォメーションである新聞記事の切り抜きなど絶対に受け取りません。彼らの部下は、国益や会社の視点から膨大な情報をふるいにかけて、トップの決断に資するような情報だけを選り抜いて届けます。
 優れた国家組織や良い会社は、インテリジェンスの心臓となる「インテリジェンス・サイクル」が粛々と回っています。たとえば、同業他社を買収するかどうかの決断に際しては、徹底してインフォメーションが集められ、社長のスタッフがこれを精緻に分析し、簡潔な報告にまとめてトップに提出します。決断を委ねられた者は、さらに知りたい点があればスタッフに更なる情報をリクエストします。こうして「インテリジェンス・サイクル」はもう一回りし、情報の精度は更に上がっていきます。
 先に、中国が一帯一路構想を掲げて海洋に進出しているとお伝えしました。中国は長距離核ミサイルも空母も持っています。つまり、国家として鋭い牙を持っている。しかし日本は今、そのような牙を持っていません。ならば、ウサギのように、長い耳をかざして遥か彼方の異変を察知し、インテリジェンス感覚を働かせることで危機を回避すべきです。
 G7の中で日本は唯一、CIAやMI6のような対外情報機関を持っていません。海外に独自の情報要員を配して情報を収集する機関を国家としても持ちません。戦後の日本は、この点でもアメリカの傘の下でひっそりと過ごしてきたのです。軍事だけでなくインテリジェンスの分野でもアメリカの庇護のもとにあったわけです。しかし、トランプ大統領のような人物が現れ、アメリカの国益を優先する時代には、荒海に自ら出ていかなければなりません。日本という国が今後も世界から尊敬される存在であり続けるため、ぜひ在野におられる皆さんのお力で日本を誤りなきように導いていただくようお願いしたいと思います。
平田 本日はお忙しい中ありがとうございました。