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ナイスビジネスレポート

木と住まいの大博覧会「建築物への木材活用シンポジウム」基調講演
林業の成長産業化と森林資源の適切な管理に向けて

近畿中国森林管理局長 燒 浩文 氏

 京都パルスプラザで8月25日に開催された「建築物への木材活用シンポジウム」では、林業施策の最重要課題である林業の成長産業化と森林資源の適切な管理をテーマに、林野庁近畿中国森林管理局長の燒浩文氏が講演されました。今回はその講演をまとめました。


森林・林業をめぐる情勢

 現在、日本の森林資源はかつてないほどに充実し、本格的な利用期を迎えています。第2次安倍内閣の発足以来、「農林水産業の成長産業化」が経済政策の柱の一つに掲げられています。林業についても、成長産業化と森林資源の適切な管理の両立が目指され、林野庁としても、川上から川中、川下に至る各段階と、流通全体での改革を進めています。
 川上については、意欲と能力のある林業経営者を育成し、森林経営を集積・集約させることで原木生産の拡大を図るとともに、国有林についても国が民間事業者に長期・大ロットで伐採・販売を行わせることを可能とする法制度の整備を進めています。川中については、工場の大規模化・効率化を進め、コストの大幅削減を目指しているほか、木材製品を実際に利用する川下では、ウッドデザイン賞などにより需要拡大を図っています。

森林資源の適切な管理に向けて

 川上への施策として、「新たな森林管理システム」が2019年度にスタートします。日本の私有人工林は大きく分けて、以下の3つに分類されます。@すでに集積・集約化されていて、適切に経営管理されている森林、A林業経営に適しているが手入れがなされていない森林、B自然条件などの要因で経済ベースにのらず、林業経営に適さない森林の3つです。この新たな管理システムでは、Aについては意欲と能力のある経営者に集積・集約し、Bについては、市町村による管理を進めることとしています。
 林業経営に適さない森林については、市町村が経営管理を行いますが、その財源として、新たな目的税として「森林環境税(仮称)」と、それを財源として自治体に譲与される「森林環境譲与税(仮称)」を設けます。森林環境税は、国民全員で森林を支える仕組みとなり、国はそれを森林環境譲与税として自治体に譲与します。自治体はこれを財源として、間伐や人材育成・担い手の確保、木材利用の促進などを進めることとなります。
 森林環境譲与税は、最終的には、全体の9割を市町村に、市町村を支援・補完する役割を果たす都道府県に残りの1割を譲与します。譲与基準は、私有人工林面積が5割、林業就業者数が2割、人口が3割となります。人口による譲与が3割を占めることから、森林がない都市部の市町村にもかなりの金額が譲与され、そうした市町村では森林整備の促進につながるよう、公共建築物の木造化や内装の木質化、民間の木造建築に対する助成などが想定されています。

木材利用の重要性

 一般に「木材は燃えやすい」と思われがちですが、太い木材はむしろ火に強い素材です。また、木材は断熱性や吸放湿作用に優れ、外部の暑さ・寒さによる室内の温度変化を緩やかにし、室内環境を快適に保ってくれます。独特のぬくもりがあり、リラックス効果があるとされ、人にやさしい素材です。更に、木材は再生可能なサステナブルな資源であり、森林を適切に整備・保全すれば永久に再生産が可能です。建材として使った後にも、ボードや紙などへの製品に加工でき、最終的には燃料として使うといった「カスケード利用」が可能で、環境にやさしい素材でもあります。
 木材は地球温暖化の防止にも貢献します。木質資材、鋼材、アルミニウムについて炭素放出量を比較すると、1u当たりの製造時では鋼材が約5,300kg、アルミニウムはその4倍の約2万2,000kgであるのに対し、木材は天然乾燥材だとわずか16キログラムと、鋼材のわずか0.3%という水準です。また、木造住宅、鉄筋コンクリート住宅、鉄骨プレハブ住宅1棟ごとに蓄えられている炭素量の比較では、木造住宅は鉄筋コンクリート住宅の約4倍となります。このようなことから、木造住宅は「第2の森林」とも言えるのです。
 2010年に施行された「公共建築物等木材利用促進法」は、国が率先して木材利用に取り組むとともに、地方公共団体や民間事業者にも国の方針に即して取り組むよう求めています。同法は、「木材の利用を促進することが地球温暖化の防止、循環型社会の形成、森林の有する国土の保全、水源のかん養その他の多面的機能の発揮及び山村その他の地域の経済の活性化に貢献すること等にかんがみ、公共建築物等における木材の利用を促進する」としており、「木材の利用の促進」が「地球温暖化の防止」につながることを明確に定めています。その上で、国が基本方針を策定し率先垂範して木材利用を行うと定め、全都道府県においてもこの方針が策定されています。一方、市町村レベルでは、全国1,741の市町村のうち約90%の1,566の市町村が方針を策定済みで、近畿地方では滋賀県、京都府、三重県、奈良県、和歌山県では全市町村で既に策定されています。森林環境譲与税の創設をきっかけとして、この利用方針の策定が進み、全体としての木材利用拡大の機運が更に高まることを期待しています。
 また、今年3月には経済同友会が、「日本の中高層ビルを木造建築に!」を副題とする提言を発表しています。この中では、企業、設計者・施工者、自治体や供給者、そして政府に対する提言がなされ、企業に対しては、「木の良さを理解し、木造建築を積極的に採用する」と提言しています。経済同友会の提言が端的に表しているように、国産材を利用する機運が高まり、国・自治体、そして民間企業の動きとしても拡大を見せています。これにより、森林資源を有効活用し、「植える・育てる・収穫する・使う」という、緑の循環をつなげていくことが極めて重要といえます。

近畿中国森林管理局の取り組み

 日本の国土面積の約66%が森林ですが、そのうち約3割、すなわち国土面積全体の約2割を国有林が占めています。近畿中国森林管理局は、近畿・中国地方に加えて、石川県と福井県を含んだ2府12県の国有林の管理経営を管轄しています。当局が管理する代表的な国有林には、京都の代表的な観光地である嵐山や、奈良県の大和三山などがあり、管理する国有林の面積は31万ヘクタールとなります。
 近畿・中国地方では6月から7月にかけて、大きな災害が発生しました。6月18日には大阪府北部を震源とする最大震度6弱の地震が発生し、また、7月上旬には、平成30年7月豪雨により、各地で甚大な被害が生じました。これらの災害により多くの方々が尊い命を落とされました。心よりご冥福をお祈り申し上げるとともに、被害を受けられた方々に対し、心よりお見舞いの言葉を申し上げます。
 平成30年7月豪雨における林野関係の被害状況は現在調査中ですが、特に広島県内で甚大な被害が生じています。8月9日時点で判明しているだけでも、国有林と民有林を合わせて、林地荒廃が329カ所で被害金額211億円、林道施設等が843カ所で被害金額31億円に上っています。災害発生直後から、関係地域の職員が国有林の状況確認を行うとともに、関係府県との合同調査を行っており、民有林において崩落が確認されています。
 大阪府北部の地震では、ブロック塀の倒壊により犠牲者が出ています。当局が管理しているブロック塀についても、高さや控え壁の状況について一斉点検を行っています。山口森林管理事務所の庁舎のブロック塀については、控え壁が設けられていなかったため、木製のフェンスへの切り替えを進めています。
 全国の森林管理局を見ても、大都市の市街地に庁舎を構えているのは当局だけです。立地条件を最大限に生かし、市民の皆さんへ森林・林業に関する情報を発信しています。庁舎1階のギャラリーでは森林・林業・木材に関する展示を行っているほか、庁舎内の食堂ではジビエメニューも提供しています。また、10月28日に「水都おおさか森林(もり)の市2018」を開催します。これは、森林の恵みや木に触れることで、森林と人とのつながりを実感し、森林・林業・木材産業の果たす役割や木材利用の意義、農山村の現状について理解を深め、豊かな森林資源を次世代に引き継いでいくことを目指して毎年10月に行っているイベントで、今回で32回目となります。ぜひ足を運んでいただければと思います。