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ナイスビジネスレポート

特別講演
改めて、木材、木造を考える

 木材新時代の到来に伴い、木材利用の更なる拡大が求められ、多様な建築物の木造化が進められています。今回は、建築物での木材利用について、東京大学の有馬孝禮名誉教授に、木材利用のあり方や木造建築への関わり方、連携の大切さなどを伺いました。

ダイナミックな時代の木材利用

 時代は20年ごとに動と静を繰り返すように私は思っています。今、世の中がかなり大きく動きつつあることを実感しています。たとえば、約40年前の1973年にはオイルショックが起き、為替が自由化、1974年には2×4の技術がオープン化され日本に広く伝わり、木材や木造建築物にとって大きな変化、すなわち「動」が起きました。それにならえば、2013年から、日本はダイナミックな時代に突入していると言えるかもしれません。こうした時代に、木材にかかわる私たちが取り組むべきことは何でしょうか。
 環境問題という点から時代を振り返ると、「省資源・省エネルギー」という言葉が1973年ごろから一般化しました。1990年前後には「地球温暖化、気候変動」が言われ始め、近年では二酸化炭素に注目した「低炭素社会」というワードが飛び交っています。しかし、私たちのような木材・木造建築にかかわる者にとって、この「低炭素社会」という言葉には少し違和感を感じます。なぜなら、木材をはじめとした生物資源は、太陽エネルギーによる光合成を行って二酸化炭素を吸収し固定化した高炭素貯蔵資源であり、「低二酸化炭素社会」と呼ぶのがより相応しいように思います。
 最近では、サステナブル、SDGs、レジリエンスという言葉もよく聞かれるようになり、炭素を貯蔵しよう、資源を持続可能、再生可能な状態にしようという動きが活発化しています。こうした時代に、森林・木材が重要な役割を担っていることは疑いありません。森林資源を引き継いだ木造建築を健全な姿で維持すれば、それは都市部での「炭素貯蔵庫」にほかなりません。この炭素をストックするという木材ならではの機能が、大きく見直されています。森林を大切にすることは当然として、エネルギー問題や資源問題に取り組んでいくことが、現在、私たち木にかかわる者に課せられていることなのです。

木でできることは木で

 森林・木材利用には、「大きな循環」と「小さな循環」の両輪があります。大きな循環とは、太陽エネルギーを使って森林を成長させ、木材を使用していくことであり、小さな循環とは、丈夫で長持ちする家を建て、資源をリサイクルしていくことです。木材以外の資材については、資源を成長させることができないため、小さな循環しかありません。しかも、木材は、他の資材より製造するためのエネルギーが圧倒的に少ないのです。だからこそ、「木でできることは木で」と訴え続けています。
 更に、木材は「都市の資源」として位置づけられます。伐採した木材は、丈夫で長持ちする木造耐火建築物として都市にストックされ、最終的に壊したときには、エネルギーとして、あるいは、ボードの原料としての利用が可能です。木材は最後まで資源であり、木質系廃棄物という呼称は本来使うべきではありません。小さくなるまで余すことなくエネルギーとして使えるからこそ、カスケード利用が可能なのです。
 公共建築物等木材利用促進法にも、こうした内容がうたわれています。地球温暖化の防止、循環型社会の形成、森林の有する国土の保全、水源のかん養をはじめとした多面的機能の発揮、山村やそのほかの地域の経済の活性化に、木材の利用促進が貢献するため、公共建築物などに積極的に木材を使いましょう、森林の適正な整備および木材の自給率の向上に寄与していきましょう、というのが同法の趣旨です。私たちは、これに向かって努力を重ねていく必要があります。

都市が駆動力となり、 山と連携する

 現在、日本の人工林の蓄積量は増加を続けています。しかし、山林は少子高齢化が進み、再植林が進んでいないということが問題です。次の世代に資源を残すためにも、木を伐って使って植林し、再度森林を育てることが現在では求められています。
 これまでの日本の豊かな暮らしは、資源をただ消費するための消費に支えられてきました。しかし、木材を使うことは、山に資源を再生産することにつながります。寿命がある生物資源にとって、最も大切なことは世代交代であり、そのためには、山と都市が連携することが不可欠です。地域の活性化や、地方創生の原点・視点とは、持てる資源を生かし、次の世代に送るということです。そのために都市がなすべきことは、都市が駆動力となって木材を使い、地域に資金を戻す、あるいは、次の仕事を生むということになります。
 具体的には、資源を使って、丈夫で長持ちする家を建てる。そして、壊した時にはエネルギーとして使うことです。たとえば、1ha(ヘクタール)の住宅地に、約40坪相当の木造2階建て住宅を20棟建てたとします。1棟当たり約20m³の木材使用量と仮定すると、400m³の木材を保管している計算となります。これは、年間成長量が5m³/haの森林を、80年間にわたり育てた量に相当します。まして、木造密集地であれば大きな森林と同じであり、その役割は重要だと思われます。
 しかし、国産材の利用は容易には進んでいません。2000年に建築基準法で性能規定化され、木造にかかわる規制も大きく取り除かれました。ところが、自由度が増したはずが、規制が大きいのではないかといった声を耳にします。あるいは、木造の需要拡大と資金循環は本当に対応しているのか、金融政策は国産材に影響を及ぼすのかといった問題に対して答えていくのは、経営者の方たちの役目なのかもしれません。材料の供給者、施工者、設計者、実際に使う方たちまで、実は全てつながっており、しかもそれぞれが専門家です。この連携こそが何より重要であり、相互に理解して謙虚な気持ちで大いに専門性を発揮していただきたいと思います。もちろん一口に連携といっても、簡単なことではありません。どうやって同じテーブルにつくのか、そこが最大の課題となると思います。

連携に役立つ様々な規格

 ここで、「決める」と「決まる」の違いについて考えてみます。「決める」は先のことが分からない時に使われるのに対し、「決まる」というのは、何かをした結果であり、動かしがたい事実を意味します。たとえば、「許容応力度基準強度」は、木材の強度を推定して「決めて」います。ところが「ヤング係数」については決める必要はありません。どれくらいたわむのかは、測定すれば分かり、「決まる」からです。JAS規格に対する反発はあるかもしれませんが、規格は連携に必要な共通事項です。トラブル防止のためにも、使う側と供給する側が共通の認識を持ち、一定のルールを設けることが必要です。
 目視等級区分において、ベイマツとスギについて基準強度を比較してみます(図1)。たとえば甲種1級では、ベイマツが27.0N/mm²でスギが21.6N/mm²と、ベイマツのほうが高くなりますが、甲種2級になるとスギは20.4N/mm²、ベイマツは18.0N/mm²と強度が逆転します。実は、ベイマツは1級と2級の間に大きな強度の開きがあるのです。これぐらいは専門家ならば知っていて当然というのが前提です。にもかかわらず、甲種2級では数値が大幅に落ちて損だから、代わりに無等級材を使おうというのであれば、使う側の倫理観が問われます。逆に言えば、設計士として失格と言えます。
 現在主流となっている機械等級区分による基準強度の比較では、ヤング係数E110のベイマツの基準強度のFc(圧縮)は24.6N/mm²で、E70のスギの23.4N/mm²とほぼ同じです(図2)。同じヤング係数で比較した場合、スギの方が強度は強くなります。構造計算の際はヤング係数の値を入力するため、スギが必ずしも有利とはなりませんが、実際に建築された建物の安全率という点では極めて高くなると言えます。
 ヤング係数を測れば、丸太からだいたいどの程度の強さの梁や柱が製材できるのかが分かります。実は、ヤング係数が低い木は、乾燥する時に割れにくくなっています。そうであるならば、数値で区分することにより、乾燥スケジュールなどが変わるはずですが、残念ながらそこまで実践している森林組合や製材工場はほとんどありません。
 集成材のラミナや、CLT(直交集成板)のラミナなどは、工場で強度等級区分を測ります。丸太から製材した板は、芯の部分から外側に向かって強度は強くなります。ラミナを製材する時には外側が一番強くなるのですが、丸太によってはほとんど同じになることもあります。つまり、丸太で区分すれば、少なくともある程度、想定する強さの材を得られるということです。更に、製材のルールをきちんと考えれば4区分ぐらいは簡単にできるでしょう。そして、区分すれば、その分だけ付加価値が得られるはずです。
 ラミナしかないヨーロッパやアメリカでは、板類を中心とした製材です。板で区分した方が簡単ですから、丸太区分はあまり必要ありません。しかし、日本の場合は、丸太から柱や梁まで製材するため、こうした対応、手間が必要になってきます。そして、外国産材と戦うためにはここまでやらないと勝てないと、私は感じています。
 また、干割れ率と曲げヤング係数の関係をみると、実は、干割れ率が高い方が強い材となります。もし、お施主さんから「割れたのは材が弱かったからで、取り替えてほしい」と言われれば、「取り替えるのは構いませんが、割れない材の方が弱いので、弱い材に替わる可能性がありますよ」ときちんと伝えなければいけません。
 このように木材の知識、規格の意味は正確に伝える必要があります。設計者が木のことを知らないと嘆いても仕方がありません。専門家である皆さんが教えてあげることで、良い建物が建つのです。連携とは、各々の専門を生かしながら進むということです。
 いずれにしても、私たちはまだまだ木材の特性を生かしきれていないのかもしれません。木を使おうとすることが、木材の可能性を広げます。設計者の方々は、まず木で建てることを考えてください。また、これまで建築物は供給する側の発想が強い傾向にありましたが、これからは量を満たす時代とは異なり、建てた後の建築物を利用する方たちの要望にいかに応えていくかという視点が大切になってきます。

木はいいよね、 という気分の重み

 「木ってなんだかいいね」「木造は空気が違うね」という声がよく聞かれます。ファストフード店をはじめ、事務所、幼稚園、マンションなど、多くのところで木が使われるようになりました。しかし、トライアルには必ずフォローが必要です。木造としたことで、お客様がどの程度増えたのか、電気使用量は変化したのか、そういった「決まる」こと、つまり結果をきちんと検証していくことが大切です。
 沖縄でコンクリート造の建物を木造に変えると、窓を開ければ浜風が入り、夕方から空調を使わずに済むようになったことで、電気代が格段に下がったそうです。コンクリート造と木造の熱容量の違いが原因だと学者は考えますが、その意見が全ての人に通用するかどうかは分かりません。ただ、木造にすることで、生活が変わる可能性があるということです。
 また、壊される木造校舎を調査すると、「ありがとう木造校舎」「思い出いっぱいの木造校舎」といった落書きがたくさん見つかります。しかし、コンクリート造では、「校舎」という言葉すら見つかりませんでした。何が子どもたちに「校舎」と言わせたのか。私たちはその、価値、理由を重く受け止めるべきだろうと思います。
 自社の建物に木造を検討したかどうかを尋ねた経済同友会のアンケートがあります。「環境に良い、企業イメージが向上する、従業員の心身に良いので検討した」という声がある一方で、検討しなかった理由として、半数近くが「耐震、耐火、耐久性に不安がある」と答えています。このようなイメージを日本のステークホルダーたちが持っているとすれば、これまで一生懸命に取り組んできた関係者の1人として情けない限りです。「前例がなく不安である、面倒だ」という意見もありました。こうした不安に対して、木造建築に携わる方たちが応えていく必要があります。
 内装木質化についての調査もあります。内装に木を使った理由で興味深いことは、5人に1人程度は設計・施工業者の勧めがあったから、ということです。一方、使わなかった理由の13%は勧めがなかったからで、この結果にはショックを受けています。また「使えると思っていなかった、前例がない」という回答もありました。いずれにせよ、我々がやるべき事はまだまだたくさんありそうです。
 最近、CLTが普及し始めています。製材を乾燥させて接着しますが、木材の加工で一番難しい技術でもあります。鉄筋コンクリート造や鉄骨造と同じように、規模の大きい共同住宅やいろいろな用途の建築物も建設できるようになりました。また、施工体系がまったく違うため、工期の大幅な短縮が可能です。寸法に限度がなく、強度設計もでき、他構造との併用もできるなど、CLTは木材であって木材ではありません。しかし、熱容量や調湿機能といった性質は木材です。一見、鉄筋コンクリート造のようで、見えない部分は木材なのです。それが住環境にどのような効能を持つのか、あるいはどの程度気分が変わってくるのか、今後注目していきたいと思います。
 こうしたCLTと集成材、製材との組み合わせなどにより、木造の可能性は大きく広がっています。先ほどのアンケートにもあったように、木は燃えやすいと言われますが、法律も緩和されてきました。住宅の内装であれば、床面から高さ1.2m以下ならば木質化ができます。内装制限を受けるような建物であっても、天井を不燃材料とすれば木材が使えます。ダイナミックな時代を迎え、木造・木質化も、多様に、また専門化しています。

高い目的意識のクライアントと連携する

 最近の木材をとりまく問題のキーワードは、「再生可能」「資源持続性」「空間的・時間的連携」です。空間的というのは同業者、材木店、工務店、お施主という同世代間の連携のことで、時間的とは、建築物には親から子へ孫へという連携があるということを意味します。この2つの連携を私たちは考えていかなければいけません。
 カナダで設計士と話をした時に、「Highly Motivated Client」という単語を出されました。つまり、高い目的意識を持ったクライアントと連携することが大事であろうと思います。先人の努力を生かし次の世代へつなげるために、皆さんに頑張っていただけることを信じて、「TheNext One〜さて、この次は」という言葉で締めくくらせていただきます。