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ナイスビジネスレポート

木と住まいの大博覧会「建築物への木材活用シンポジウム」基調講演
東北の地方創生に向けた木材活用について

林野庁東北森林管理局長 小島 孝文 氏

 夢メッセみやぎで7月7日に開催されたシンポジウム「建築物への木材活用シンポジウム」では、基調講演として、東北地方の潤沢な森林資源を活用した地方創生という観点から、林野庁東北森林管理局長の小島孝文氏が講演されました。今回はその講演をまとめました。


新たな局面を迎えた木材活用

 新国立競技場のような、これだけ大きな木造建築物が東京の中心部に建築されることを、10年前に想像していた方はいなかったと思います。しかも、外周には、ナイスグループにより47都道府県の森林認証材が調達されています。わが国のスポーツの聖地に、日本全国の認証材が大量に、しかも目に見える場所で使用されること、とりわけ、復興の象徴として東北の被災地の木材がふんだんに使われることは大変意義深いことと考えています。
 全国で非住宅の木造化の波が広がっています。2010年の公共建築物等木材利用促進法を契機に、公共建築物を中心に建築物の木造化・木質化が進められてきました。現在では、全国各地で駅舎や教育施設、商業施設などにおいて木材利用が進んでいます。
 現在、日本が抱えている課題には、環境問題、とりわけ地球温暖化防止と、地方創生があります。地球温暖化は、人類の生存を脅かす問題として世界的な課題でもあり、その対策として、CO2の排出の抑制とともに、吸収・固定化する取り組みも重要です。そして、地方創生については、全国的に人口減少が進む中で日本が今後も発展を遂げていくためには、大都市だけでなく、地方が活性化することが重要だという認識です。20世紀のビジネスモデルは、地方に工業団地を誘致して雇用を生み出し、原材料を海外から輸入し、付加価値の高い製品を生み出す産業を育成することでした。しかし、グローバル化が進み、生産施設が海外へと移転する中で、地方を元気にするための解決策として考えられているのが、地域資源を活用した循環型社会の構築であり、持続可能な資源による地域内経済の構築です。
 この地方経済圏において、木材を活用する意義とは何でしょうか。環境の点では、まず第一に、木材はカーボンニュートラルな素材ということです。木はCO2を吸収・固定化しており、たとえ燃やしても、これまでに大気中から固定化したものを放出しているだけです。次に、建物や家具で使用すると炭素を固定化し続けるという炭素貯蔵効果があります。また、加工に要するエネルギーが少なく、鉄骨などの材料と比べて省エネ効果が高い素材です。更には、木質バイオマスの使用により、化石燃料の使用量を削減する化石燃料代替効果が挙げられます。もちろん、地域環境の保全効果として、森林資源の循環サイクルの構築により森林整備が進み、水源のかん養、国土の保全、生物多様性の確保などにつながるといった点も挙げられます。
 地方創生の観点では、林業は山で木を伐り、それを運搬して加工し、更にその木材を使用して建築物を建てるなど、川上・川中・川下をつなぐ裾野が広い産業であり、雇用効果が高く、経済循環効果が高い産業と言えます。
 こうしたことから、林業・林産業の成長産業化は、21世紀の日本の課題を解決するという観点からも、大きな期待が寄せられています。

地方創生の新たな展開へ向けて

 日本では、戦後造成された人工林が約1,000万ヘクタールにおよび、現在、本格的な利用期を迎えています。地方創生における政府の基本戦略「まち・ひと・しごと創生総合戦略」では、地域資源を活用した「しごと」づくりが、地方創生につながるとされており、地域資源である森林を生かす林業への期待が高まっています。また、木材需要については、人口減少にともない将来的にも減少が見込まれるものの、木材自給率は34.8%という水準で、まだまだ国産材需要を伸ばすことは可能と考えています。
 現在、木材利用が広がってきていますが、それは、木材産業界の技術革新に支えられているという側面もあります。CLT(直交集成板)や木質系耐火部材、一般流通材を活用したトラスといった、新たな工法も開発されてきています。更に日本社会が成熟していく中で、木の温もりのある空間やテクスチャーといったものが、改めて評価されてきています。ラグジュアリーで高品質なもの、あるいは、ゆとりある空間の創出に寄与するとして、高付加価値化された木材の利用が注目されています。
 また、これまでは木材を利用する際に、根元に近い通直な部分のみが使用されていましたが、小曲・小径なところを合板や集成材として、先端の枝条や曲がり部分がバイオマスなどに使用されるようになり、立木利用の最大化が図られています。歩留まりの向上やカスケード利用を推進し、森林所有者への利益還元や林業従事者の賃金向上につなげることが重要です。

東北地方にとっての森林利用の意義

 東北森林管理局管内5県の森林率は70%以上であり、日本の平均67%を上回っています。つまり、東北の地方創生を成し遂げるためには、いかに森林を活用していくかが重要なポイントです。
 2018年度の東北5県の新設住宅の木造率は82%です。一方で、首都圏では木造率は45%程度にとどまっています。東北地方の住宅はほぼ木造であるため、住宅以外の建築物に木材を使っていくか、木造率の低い首都圏に木材を供給していくといった戦略が考えられます。非住宅については現在、林野庁では、品質・性能が確かなJAS製材品の普及・拡大を推進しています。非住宅を木造で建築するためには構造計算が必須であり、そのためには品質・性能が確かなJAS製材品の供給の拡大が重要です。今年度は、「JAS構造材利用拡大事業」を通じ、JAS製材品を利用して建築する事業者への実証的な支援や、設計者の育成に注力しています。
 一方で、木材価格の低下により、森林所有者の林業離れが起こっているという現実があります。所有者の高齢化や相続などにより、「所有者不明森林」や「境界不明森林」といった問題が生じています。そうした問題の解決のため、林野庁では新たな森林管理システムの構築に向けた準備を進めています。更に、安定的な財源を確保するための森林環境税が創設され、2019年度からは森林環境贈与税が交付されます。各地方自治体へ交付されることで、市町村が中心となって森林管理を進め、採算が取れる森林については意欲と能力のある林業経営者に委託することで、眠っていた森林が息を吹き返すことができます。

経済界から進む木材利用

 経済界からも後押しをいただいています。日本商工会議所の三村明夫会頭も林業に注目され、出口となる木材利用を経済界で応援するとして、「林業復活・地域創生を推進する国民会議」を立ち上げています。ここでは、各地の商工会議所の木造化といった木材活用の提言や、産業界からみた林業・木材産業への技術革新への提言がなされています。経済同友会からも同様の提言が出されており、需要者サイドからも木材を使っていこうという動きが出ています。
 かつては、木造建築と言えば歴史的な伝統建築物的なものがイメージされていました。しかし、技術革新が進み、新しい部材の開発でコンクリートや鉄と同じように木材が使いやすくなったことで、木造建築物のイメージも変化しています。「三方良し」という言葉があります。売り方良し、買い方良し、世間良しというものです。木造建築物は、人(施主や利用者)に良いし、環境にも良く、地方経済に良いという三方良しです。様々な製品や技術を組み合わせ、更により良い木造建築物ができればと思っています。
 20世紀の都会は「コンクリートジャングル」と呼ばれていました。しかし、21世紀に入り、いつしか木と緑があふれたやさしい街に変化した。それは思い返せば、2020年の東京オリンピック・パラリンピックからだったと言われるようになればと思っています。木材利用について、かつてない追い風が吹いています。ぜひ、皆さんで連携して「帆」を広げることでより大きな推進力とし、木材産業界全体の発展につなげていただければと願っています。