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ナイスビジネスレポート

特別対談
未来へ託す日本の森林・林業

 全国森林組合連合会 顧問 佐藤 重芳 氏・すてきナイスグループ株式会社 代表取締役会長 平田 恒一郎

 6月1日に公表された「平成29年度森林・林業白書」では、新たな森林管理システムの構築が大きなテーマとなっています。今回はこうした動向に詳しい全国森林組合連合会の前代表理事会長で顧問の佐藤重芳氏に日本の森林・林業の現状と課題について伺いました。

齢級構成の平準化に向けて


平田 「森林・林業白書」によれば木材自給率は上昇したものの、森林管理を取り巻く状況にはまだまだ課題があります。日本の森林や林業の現状についていかがお考えでしょうか。
佐藤 山林は歴史が始まって以来の厳しい状況にあります。私は秋田で専業林家を45年営んできましたが、現在、生業としては全く成り立っていません。立木価格も低水準で、所有者の山林離れがどんどん加速しています。そのことによって様々な問題が生じてきています。
 育てた木を主伐して収入を得て、その収入から植林をし、下刈り、間伐、そして、また主伐をして植える。これが林業の一つのサイクルです。しかし、現在は主伐により得られる収入で、植えて育てるための費用が賄えません。1ha(ヘクタール)のスギの人工林を50年間かけて育成する費用は、地域差はありますが全国平均で231万円であり、これに対し50年生(10齢級)を主伐して得られる収入はわずか87万円しかありません。植林をして10年生にするまでに156万円もかかります。下刈り、間伐については68%の補助がありますが、林業の最終目標である主伐には全く補助が出ません。結果として、トータルでは大きく赤字になってしまいます。
 農林水産省が発表している「農林業センサス」では、全国に林家(1ha以上の森林所有者)は83万戸あるとされていますが、その9割が10ha未満の小規模所有となっています。更に、相続などの問題もあり、所有面積が1ha以下の所有者が大多数を占めています。こうした状況もあり、所有者側も山の資産価値が下がってしまったといった程度の認識しかないようです。私はこれまで「皆伐・再造林」と言い続けてきました。しかし、5年前の調査によれば再造林率は30%に過ぎず、残念ながら、苗木の生産者も意欲が減退している状況です。
平田 昔から孫の世代のために植林をすると言われてきましたが、これでは、逆に負債を残すことになってしまいますね。
佐藤 戦後に植林が進められたスギをはじめとした針葉樹は、そのうち約35%が主伐期となる11齢級(51〜55年生)を迎えています(図1)。2020年度末には人工林の約半数が11齢級以上に達し、まさしく「高齢化」の状況となっています。なお、破線部分は5年単位に年間6万300haの植林が行われていた場合の樹齢構成です。大径材の活用法は限られており、循環利用のためには、今、手を打たないと大変なことになります。森林所有者に負担をかけず、植林を拡大していかなければいけません。私はまず5年かけて6万haを造林地に乗せる努力をしましょう、そのために何をすれば良いのか議論しましょうと呼びかけています。そうすれば林業経営に将来の展望が見えてくるし、国土の保全も可能になります。

山林よ蘇れ。動き出した国、経済界


平田 現在建設中の新国立競技場は隈研吾氏デザインの木をふんだんに使った建築で、当社はそこに47都道府県の森林認証材を供給しています。2010年に「公共建築物等木材利用促進法」が施行され、最近では「森林環境税(仮称)」の導入も予定されているなど、急速に風向きが変わってきたことを感じます。それだけフォローの風が吹いても、なかなか山林の状況は変化していないということですね。
佐藤 齢級構成の平準化を実現するためには、最終的に国の姿勢や政策に依るところが大きいと考えています。2001年にそれまでの林業基本法が森林林業基本法に変わりました。つまり、木材生産という経済的な観点だけではなく、環境面から山をとらえる方向に視点が大きく変化したわけです。その時点から、個人の所有林でありながら、国で管理していくという方向性に転換したととらえています。国も「森林環境税(仮称)」と、2019年度からスタートする新たな「森林管理システム」とを連携させ、山を蘇らせるために真剣に取り組んでいこうとしています。
 冒頭で少し悲観的な話をしましたが、おっしゃられたように「公共建築物等木材利用促進法」の施行から、経済界が山に向ける意識も変化し、日本商工会議所の三村明夫会長などにより組織された「林業復活・地域創生を推進する国民会議」を中心に、林業・木材産業を支える底辺が広がってきた状況があります。この延長線上から生まれたのが、2017年の「農林漁業と商工業の連携を通じた地方創生の推進に関する協定」です。
 更に、農林中央金庫の寄付によって東京大学に「木材利用システム学寄付研究部門」が新設されました。併せて設立された「ウッドソリューション・ネットワーク(WSN)」も大きな下支えになっています。また、土木木材関係の学会では、土木工事で年間400万m³の木を使っていこうという動きもあります。こうしたいろいろな動きが相乗効果を発揮し、国を動かす力になると期待しています。

連携して大径材の需要を開拓


佐藤 国の施策を進めるのと並行して、ナイスさんのような、木のファンを増やし、需要拡大に働きかける活動が大きな役割を果たしています。このたび開発された表層圧密テクノロジー「Gywood®」(ギュッド)の技術力の高さには驚きました(4月15日号にて既報)。無垢材ならば割れや反りが当たり前だという概念を覆しています。ぜひ、本物をエンドユーザーに提供していこうというコンセプトを全面に出し、今後の展開を進めていただきたいと思います。
平田 ありがとうございます。私も消費者は常に本物をほしがっていると感じています。玩具にしても家具にしても、誰もが木製品は高いと錯覚しています。しかし、それは広葉樹を使ったり、匠の技を用いるからであり、木を身近に感じてもらうにはもっと誰でも手に取ることができる商品をつくっていくことが必要です。「Gywood®」の開発の背景には、日本固有の種であるスギを生かしたいとの思いもありました。無垢材の表層部を高密度化することで、軟らかく傷つきやすいという針葉樹の無垢材の弱点を克服し、針葉樹と広葉樹の物理的な長所を兼ね備えています。更に、一般的な無垢材と比較して、形状安定性が高くなっています。
佐藤 無垢材、大径材を上手に利用して製品化している点もありがたいと感じます。ご存知のように、昔は飛ぶように売れた大径材や、製材用のA材が苦戦しています。今では、大径材をチップにしてバイオマス燃料にしてしまうといった、以前ではとても考えられない状況もあります。その状況を打開するためには、「Gywood®」のように付加価値をつけることで、立木の価格を上げていく必要があります。特に私の住む秋田県は大径材で成り立ってきた地域でもあり、御社の取り組みが、大径材を生かす一つの証になると期待を寄せています。
平田 1977年に福岡県に木材市場をオープンした際、秋田県産の大径材のスギには大変お世話になりました。九州ではヒノキよりもスギ、そして樹心部を避けた芯去(しんさ)り材が好まれます。大径木を製材する芯去り材は、割れにくく柾目(まさめ)が美しい材となるため、構造材だけでなく化粧材や内装材としても生かされます。日本の森林の現状を踏まえ、針葉樹の大径材を内装材として活用していくことは必須となりますので、今後もこの分野には力を入れていきたいと思っています。その際には、川上から川下までが一体となって商品開発を進めていくべきと考えています。消費者はもちろん、工務店様にも喜んでいただけるような仕組みを構築していくことが当社の使命と考えています。
佐藤 どのような需要に応えて山林をつくるのか。私たちも山林を育てるだけではなく、そうしたコンセプトをしっかり持つ必要があります。
 川上、川下という話で言いますと、やはり原点は山林にあります。実は30数年前に、森林環境税の前身として水源税を創設しようという構想がありました。私も関わっていたのですが、当初は川下の方々から税金をいただいて、川上に活用していこうとする発想でした。結果として、国民の皆さんからいただくことになりましたが、やはり川下の方々には、より一層、山林のあり方について理解していただくことが必要だと思います。

木を使うことの必要性をPRする


平田 木は成長期に最もCO2を固定化するため、しっかりと使って循環利用を促進するべきですが、環境のために木を伐ってはいけないとの間違った情報を信じている方が未だにいらっしゃいます。どのように正しい認識を浸透させていくのかも課題です。
佐藤 1人の人間が1年間呼吸することで生じるCO2を吸収するためには、胸高で直径24〜30p、つまり8寸から1尺のスギが23本必要です。車1台だと160本、1世帯5人家族が生活するには460本必要です。460本のスギを育てるには6,000〜7,000uの森林が必要となります。つまり、極端なことを言えば、世帯ごとにこの規模の森林を所有していただかなければ、生きていくだけでCO2の収支が、マイナスとなってしまいます。
 生活するためには森林が不可欠です。そして、森林を健全に育成するためには木を使わなければいけません。ですから、少し高くても木を選んで使おうという文化的志向が生まれれば、自ずと変わってくると思います。多くの方々は森林の大切さは理解していらっしゃいます。ただ、木を使うことと山を育てることが意識の上で結びついていません。ですから一所懸命、森林のあり方について訴え続けていくことが必要でしょう。
平田 これからの企業にとって、脱炭素への取り組みやSDGs(エスディージーズ)※への貢献は不可欠です。弊社でも、未来を見据え、建築・改築から解体に至るまで発生する全てのCO2収支がマイナスとなる「LCCM(ライフサイクルカーボンマイナス)住宅」をパワーホームをベースとして2012年に建設するなど、取り組みを進めています。


※ Sustainable Development Goalsの略称で世界が2016年から2030年までに達成すべき17の環境や開発に関する目標

山林の集積による経営改善へ


平田 現在、幼稚園や保育園、老人ホームといった中・大規模建築物の分野で国産材を用いた木造・木質化が注目されています。今後は、A材を活用したJAS無垢材や「Gywood®」などにより、大径材の活用に積極的に取り組んでいきたいと考えています。更に、5年後、10年後には森林認証材が主流となってくる可能性は高いと考えています。そのために、未来を見据えて、国土のあり方をしっかり意識する必要があります。
佐藤 国民に還元する森林整備の一つとして、担い手がいない山を意欲ある持続的な経営者に集積していくことが必要だと思います。新たな森林管理システムでは、担い手が不在の山について、いったん市町村に管理を委託します。その中でどうしても経済的に成り立たないものは、将来的に森林環境税を使いながら市町村が管理していく。一方、経済ベースに乗せられる部分については、名乗りを上げた意欲と能力がある森林経営者が担っていく仕組みを整備しようとしています。
 私がイメージしているのは自伐林家です。家族の労力だけで働く人たちを育てるために、林地を集積すると良いのではないでしょうか。最低100ヘクタール以上を自伐林家で持つようにして、現在の除伐、間伐等の補助制度を利用すれば、家族が山に100%依存して生活が成り立つ形式ができるはずです。経営が成り立てば、山は生き返ってきます。これは私自身が自伐林家としてやってきた経験があるからこそ提案できることです。
 私の地域では、森林整備の国の補助金に市からの20%の嵩上げ補助をいただいています。加えて、森林組合が所有者に負担をかけずに管理を考えられる水準にすることが重要です。補助についても、雪国と温暖な地方では森林管理に求められることが同じではありませんから、地域によって変えるような柔軟な内容が求められると思います。
 齢級構成をいきなり平準化するのは難しいと思いますが、山林がある限り私たちの仕事は続いていきます。全てはこれからです。林業が成り立つよう、川上と川下とが同じ価値観を持って連携できるようにしたいと考えています。
平田 川上と川下をつなげるための仕組みづくりに連携して取り組めればと思います。本日はお忙しい中ありがとうございました。