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ナイスビジネスレポート

特別講演
健康な住宅をつくりましょう

 6月8日に東京で開催されたナイスパートナー会連合会総会にて、首都大学東京名誉教授の星旦二氏による特別講演が行われました。講演では、寝たきりで長生きする「ネンネンコロリ」の提唱者で、「ピンピンコロリ」に連動する健康住宅に精通する星氏により、健康的な暮らしのあり方が紹介されました。今回は、同講演の内容を抜粋してまとめました。


暖かい住宅が「ゼロ次予防」になる

 「ゼロ次予防」という言葉を耳にしたことはありますか。「ゼロ次予防」とは、これまでの予防医療の中心であった早期発見、早期治療よりも、日々の生活を重視した根源的予防を行うという考え方です。例えば、健康を害する最大の要因は喫煙です。しかし、たばこを原因として肺がんになって亡くなったとすれば、それは果たして個人の責任なのでしょうか。必ずしもそうではありません。アイスランドでは、たばこの自動販売機そのものを撤去し、平均寿命世界一を達成しています。これが「ゼロ次予防」です。
 健康のため、住環境を整備することも「ゼロ次予防」です。ヒートショックに代表されるように、温度較差の少ない暖かい家に住むことはとても大切です(図1)。イギリスでは冬期に室温を18℃に保てない賃貸住宅には改善命令が出され、従わない場合には住宅の解体命令が出されます。これも「ゼロ次予防」です。
 WHO(世界保健機関)は、健康で長生きするためのファクターとして、第1に「平和」、そして第2に「住宅」をあげています。こうした背景には、長野県の佐久総合病院の若月俊一病院長らの活動があります。昔の家は母屋の外にトイレや風呂がありました。これを室内に入れようと健康住宅を推進されたのが若月先生です。これにより、寒い屋外に行かずに済むようになり、脳血管障害で亡くなる方が減少しました。この活動をWHOが評価したのです。

「NNK」から「PPK」へ

 亡くなる直前まで元気に活動する「ピンピンコロリ=PPK」は少しずつ広まってきましたが、日本は「NNK」です。「NNK」とはネンネンコロリ、つまり寝たきりで長生きすることを意味します。
 日本で、「PPK」が多い県の一つが長野県です。反対に「NNK」が多いのは沖縄県です(図2)。実は、標高が高くて、医師が少ない地域ほど健康長寿の傾向にあるということに気がつきました。医療や投薬に依存しないことで獲得できる健康もあり得るということです(図3)。標高の高い山間部は、水や空気がきれいで自然環境に恵まれています。熊本県に長生きする方が多いのは、地下水を水源にできる唯一の県だからです。年齢を重ねても畑や田を耕し、生涯現役である人も多いと言えるでしょう。長野県は1人当たりの老人医療費が、新潟県に次いで少ない県です。これこそ健康長寿の証です。地域医療の先進地域でもあり、保健師の方たちの活躍もあり、自分たちの健康は自分たちで守るという積極的な姿勢が見られるのです。
 ところで、病院が本当に安全だと思われますか。「EU患者安全報告(Patient Safety in the EU 2014)」によれば、病院の事故で亡くなった方はEU内で年間15万人に上り、EU市民の53%は病院が危険な場所だと認識しています。日本ではどうでしょうか。風邪を引いて抗生物質を処方するのは、実は日本だけです。抗生物質には、免疫を司る腸内細菌を死滅させるマイナス効果があります。健康維持に大切なことは腸内細菌を豊富に持つことです。体温が下がると免疫力は低下します。身体を温めるためにとても大切なのは腸内細菌がつくり出す水素であり、この水素燃料が体温を上げてくれる役割を持っています。
 また、寝たきりの高齢者を病院がつくることもあると考えています。要介護割合が少ない山梨県と千葉県は人口当たりで見た病院病床数が少ない地域、反対に寝たきりが多い福岡県と沖縄県は特別養護老人ホームが多い地域です。「安静」が人間を衰えさせるのです。
 湿度と要介護との関係も調査しています。調査によれば、湿度が低い乾燥した施設に入所している方が、寒さ以上に寝たきりになる確率が高かったのです(図4)。口の中にもたくさんの菌が生きていますが、死期が近づいた人間の口は渇いているものです。逆に、口の中がみずみずしければ細菌が活性化し、美味しく食事ができて、誤嚥(ごえん)もないということが、データで証明されてきています。ですから、特に冬期は、調湿機能のしっかりした家に住むことが大切と言えます。



空気の質が問われる時代に

 かつて沖縄県は最も長寿とされる県でした。しかし、2015年の調査で女性は都道府県別順位が7位、男性に至っては36位になってしまいました。そして、閉塞性肺疾患死亡率が全国で最も高いのです。
 この疾患の原因は、主に喫煙とカビです。こうした背景には、戦後の沖縄県で、風通しの良い平屋の木造住宅がどんどん鉄筋コンクリート造の家に建て替えられてしまった状況があるのではないかと推定しています。あくまでも仮説ですが、これにより黒カビにとって好都合な環境が生まれてしまったというわけです。この仮説が正しければ、恐らく沖縄では今後、自然素材を使った木造一戸建住宅のニーズが高まっていくはずです。
 このように温度や湿度とともに屋内外の空気の質も、健康にとって重要です。家のエアコンに全くカビが見当たらないと胸を張って言いきれる方は、恐らくいないと思います。エアコンも高性能化が進みましたが、最新の機種でもほこりは別としてカビの除去までしてくれる機種はほとんどありません。加えて、冬期の睡眠時にエアコンを使用すると、風が当たったり乾燥することで睡眠深度が浅くなってしまいます。
 住宅の断熱・気密性能が向上すると、住む人が健康になるということは、数字で実証されつつあります。気密性の高い北海道の家が、暖かい家の見本であることはよく知られているでしょう。しかし、そこにはデメリットもあります。北海道は肺がん死亡率が有意に高い地域です。その理由の一つに、長らく開放型の石油ストーブを使い続けてきた状況があると考えています。更に女性の喫煙率も高くなっています。気密性の高い室内でタバコを吸うことには悪影響しかありません。自然も食材も豊かで、住宅の断熱・気密性の点でも素晴らしい北海道ですが、これからは本気になって空気の質にもこだわっていただきたいと思います。
 一般的に、壁のクロス張りを珪藻土(けいそうど)や土壁に変えればホルムアルデヒドなどの害がなくなり、自然に湿度も保たれ、睡眠の質が高まります。また、有機溶剤を使用した家具を使うと、部屋の中の化学物質濃度が上がることは実験で分かっています。規制のない国で製造された安価な家具を買わずに、健康のためには100年、200年にわたり使える無垢材の家具を使っていただきたいと思います。無垢の木を使い、自然素材を使った家にしましょう。以下の日常生活質問10項目が全て○になるようにしていただきたいと思います。


夢と住まいを支え、 地域創生を

 約5万人の高齢者を対象に3年ごとに調査し、約10年近く追跡し、誰が寝たきりになったか死亡したのかを調査してきました。その結果、分かったことは生活習慣が好ましいから長生きできるのではなく、好ましくなれるような収入・学歴があり、身体的、社会的、精神的健康を有する方が長生きということでした(図5)。かつて私は、東京大学医学部で「生活習慣が好ましいと健康になる」として博士号をいただきましたが、それは間違いでした。
 健康長寿のキーワードは、「きょういく」と「きょうよう」です。「今日、行く」所がある、「今日、用」がある。そんな人生を死ぬまで続け、そしてしっかり年金を使うことです。年金を年間300万円受け取るとすれば、寿命が4年違うと1,200万円も差額が生じます。
 東京都足立区は都内でも平均寿命が最も短い区でしたが、最下位から脱出しました。私は地域保健福祉計画の委員ないし委員長として約25年間にわたり協働してきましたが、当初から、年金をもらえず損をしないためにも長生きしましょうと呼びかけました。保健師さんや住民の方が中心になり、体操などをする様々な自主グループを350近くつくっただけですが、結果として、人と会って楽しいことをするという小さな蓄積が実を結んでいったものと、私は信じています。そのためには、地域の環境を整備しながら、空き家をリノベーションして高齢者向け住宅にしたりする取り組みを進める必要があります。
 環境や収入は大事ですが、高収入・高学歴だから即刻、健康長寿になるわけではありません。最も大切なことは「夢を持って生きる」ということです。本気でプロサッカー選手を夢見る女子高生は、決してタバコを吸いません。従業員のことを思い、しっかり会社を運営しようとする経営者は、決して毎日深酒をしないでしょう。社会とつながりを持って前向きに生きているからこそ、収入や学歴もついてくるし、周囲も応援してくれるのです。