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ナイスビジネスレポート

「木と住まいの大博覧会」講演より
木造建築物の普及・拡大に向けた取り組み

 木材新時代の到来に伴い、多様な建築物において木造化が求められるようになりました。今回は、木造建築物の普及・拡大を目指す上での課題や考え方などについて、先日、東京ビッグサイトで開催された「木と住まいの大博覧会」において2月16日に行われた潟Vェルターの常務取締役である安達広幸氏、及び2月17日に行われた隈研吾建築都市設計事務所の代表取締役である横尾実氏による2つの講演の要旨をまとめました。

木造建築物の未来
〜なぜ木材を使って高層ビルを建てるべきなのか〜
潟Vェルター 常務取締役 安達広幸 氏

最新技術で木材の可能性を追求

 大規模木造建築を考える際のポイントは3つあります。@技術と法律の解決、A実績の積み重ね、B資金をどのように調達するかというファイナンスです。今回は特に、A実績とBファイナンスについてお話ししたいと思います。
 現在、世界で一番高い木造建築と言われるのが、カナダ・バンクーバーにあるブリティッシュコロンビア大学の学生寮「ブロック・コモンズ」です。18階建て、高さ58mの平面混構造で、特に工期の早さが印象に残っています。
 日本では、2020年度の開庁を目指し、5階建ての山口県長門市新庁舎が建設中です。木造建築としては国内最高の階数で、国土交通省の「サステナブル建築物等先導事業」に採択されています。内部は5層の吹き抜けから成る、地域産木材を使った木質感たっぷりのプランで、木造及び鉄筋コンクリート造のハイブリッド構造と、免震構造を合わせて進めています。
 最先端技術により木の良さが引き出された大規模建築物としては、「静岡県富士山世界遺産センター」があります。建物を覆う、逆さ富士をかたどった美しい木格子は、曲線やひねりのある一つひとつ異なる8,000ピースの部材を、日本的な合じゃくり(部材同士を小口面で接合する手法の一つ)によって組み合わせて構成されています。ポイントは、日本初の3D−CADマシンと制御ソフトを導入して木材を削り出し、デザイナーによる意匠をそのままプレカットに反映した点です。このような大きな建物で強いインパクトを与えることができるのは、木造の醸し出す印象ならではと思います。

木造15階建て以上に需要はあるか

 日本で高層ビルを建てる場合、耐火時間によって階数制限があります。そこで、当社では木質耐火部材「COOL WOOD」を開発し、日本で初めて3時間耐火での国土交通大臣認定を取得しました。構造材を石こうボードで囲み、更に木材で被覆した特許技術により、樹種ではなく比重で管理しています。そのため、ほとんどの国産材に対応が可能で、無垢材も使えます。また、丸柱も製作できるので、やむを得ず鉄骨造で建て替えていたお寺などにも需要が広がるのではないかと考えています。
 3時間耐火部材の開発により、木造による15階建て以上の高層建築に新たな可能性が生まれました。ところで、そもそも現在の日本において、15階建て以上の建築物にはどれだけの市場があるのでしょうか。国土交通省の建築着工統計調査によると、木造は年間着工戸数の46%となっています。残り半分の中には、耐火構造に制限があったため木造をあきらめた建築物もあるかもしれません。また、棟数で見ると、3時間はおろか1時間耐火で済む程度の建築物でしか木造化されていないのが現状です。しかし、耐火構造をクリアすることで、法律上、木造建築物を建てられるエリアは一気に増えます。統計上では、今まで木造で建てられなかった面積が6,700万u、4階建て以上は9,000棟、2,800万uあります。つまり、この部分を木造化できるチャンスが生まれたと捉えられます。
 需要を拡大するためには、あとは適材適所の提案ができるかどうかが鍵になると思います。土地を有効活用できる高層木造建築として、特に需要があるのは都市部の賃貸住宅です。加えて、今後10年程度は幼稚園や保育園、オフィスなどのニーズもあるでしょう。一方、地方に高層ビルは必要ないのかもしれません。

実績を形にして次につなげる

 2010年に公共建築物等木材利用促進法が施行され、木造による大型公共物が建てられるようになりました。しかし、実績をしっかりと評価しなければ、一過性に終わってしまうのではないかと懸念しています。
 山形県の「シェルターなんようホール(南陽市文化会館)」は、ギネス世界記録に認定された、世界最大の木造コンサートホールです。年間の利用者数は当初予想の3倍に当たる26万7,000人、光熱費は従来の3分の1となる1,440万円でした。音響の素晴らしさがアーティストの間で噂となり、ミュージシャンの山下達郎さんをはじめ、一流のアーティストが人口3万人の街でコンサートを開いています。
 データは非常に説得力を持ちます。「シェルターなんようホール」では、ホールの良さを左右する湿度や温度について、年間を通じて測定しています。15,000m3を超える体積を持つ木造建築物のデータは、日本でも例がありません。地元のスギ材を中心に調達した丸太の材積は12,000m3であり、それと同程度の炭素を固定する訳ですから、環境にも大きく貢献しています。本プロジェクトでは、地元の建設業者に施工をお願いすることで、人口3万人の市において870人分の雇用を生み出しました。経済的波及効果を試算したところ、約66億円の投資に対し100億円の効果がありました。来場者は2年4カ月で50万人を達成、人が集まったことによって南陽市の歳入は1年間で約10億円増えています。
 建築コストの問題も大切ですが、木造を評価する際には、むしろ建てた後にどのような使われ方をして、どんな効果を生んでいるのかについてしっかり検証し、発信すべきです。木造で建築したいと思ってもらうためには、イニシャルコストが少し高くても十分に回収できるということを、実績としてデータ提供するのが最も効果的だと思います。

木造の価値をお金に換えていく

 不動産信託(REIT)の実例として、「Gビル 自由が丘01 B館」(地下2階・地上3階建て)は、投資した人に対して、店子が払った賃料から生じた利益を還元する仕組みを採用しています。魅力ある建物は借りたいと感じる人も多く、リーシング上、非常に有利です。これからは「木造は良い」といった感覚的な話ではなく、サステナブルに貢献する唯一の建築素材であり、金利面などメリットも多いことをしっかりアピールしていくことが求められます。
 融資の際、木造に対して厳しい評価を下す金融機関はまだまだ多いのが実情です。しかし、会計上の利益は多少圧迫されても、税制面では有利で手元のキャッシュフローは厚くなるため、返済に回す余地も高くなります。国産木材を使った木造建築物を増やしていくためには、金融機関や投資家に商品としての価値をきちんと理解してもらうことがますます大切となります。経験値の元に、「木造だから投資したい」という環境をつくっていく必要があると思います。
 今後、木造は公共建築物から民間建築物へとシフトしていきます。民間となれば建物の価値が重要となりますが、その際には建物全体での評価をしていただきたいと思います。特に、工期短縮は重要であり、住宅分野で培ってきた技術を投入すれば他工法との競争は十分に可能です。ファイナンスをしっかりと組み立て、木造ならではの魅力ある商品をつくれば、投資する人や建主は自ずと木造を選択するようになるはずです。木の使い方をアピールし、世の中が木を欲するような環境をしっかりつくり上げていきたいと思います。

木を多用した「森の建築」
隈研吾建築都市設計事務所 代表取締役 横尾 実 氏

  木は、自然と建物を緩やかにつなぎ、境界をあいまいにしてくれます。このような建築を「森の建築」と呼んでみました。木という素材が「森の建築」を構成する重要な要素であるということを念頭に置き、担当してきた建築をご紹介します。

山裾の森と溶け合う「森舞台」
1996年 宮城県登米市(旧:登米町)

 230年の歴史がある登米(とよま)能の舞台で、1997年の建築学会作品賞を受賞しました。外に開かれた舞台を目指し、自然に溶け込ませるためそれぞれの建物を分散させ、山裾に開くように配置しました。スギをルーバー状にしてパネル化し、ルーバー越しに舞台が見えるようにすることで、街と森と舞台が緩やかにつながるようにしました。
 予算が厳しい中でも地元の素材をという要望から、木材は地場スギを使っています。一等材で色のばらつきが激しく、節も大きいことでかえって自然な木の量感を得ることができました。
 舞台は青森ヒバを使用した純木造です。当初、木造は建築基準法上難しいだろうと思い、木を巻きつけた鉄骨造で提案しました。しかし、「壊れても木造に」という当時の町長の強い思いから、住宅で使われている壁量計算を独自に行い、苦心して安全性を証明することで実現することができました。東日本大震災にも耐えました。
 なお、現在は同じ登米市において、森舞台の設計に通じる、スギを多用した博物館を建設しています。

海と木が溶け合う「海/フィルター」
2001年 山口県山陽小野田市

 日本の夕陽百選にも選ばれた、美しい夕景と海を一望できるレストランです。2つに分かれたレストラン棟とバル棟の間を「TJIジョイスト」と呼ばれる輸入材でつくった屋根でつないでいます。海側は全てガラス張りにし、その上に浮遊するような水平屋根をデザインしました。
 適材適所でつくっていくことを基本姿勢としており、厨房は水平力を負担する鉄筋コンクリートとし、柱には75oの細い角パイプを使用しました。「TJIジョイスト」を使った部分は仕上げをせずに現しとすることで、空間全体の温かみを表現しました。約20mの「TJIジョイスト」が並んで海に向かって伸びていく構成は、壮観なつくりになったと思っています。

樹木の上に表出する「One表参道」
2003年 東京都港区北青山

 都市的スケールの中で、表参道のケヤキ並木と調和した、木の温かみを感じるビルを目指しました。一見ルーバーのように見える部分は、ガラスカーテンウォールのマリオン(ガラスの耐風圧を受ける方立(ほうだて))として取り付けたもので、軽やかな表情の木のファサードをつくりました。奥行き450oの信州カラマツ集成材を60pピッチで並べ、屋内からも外装材の木の温かみが感じられるつくりにこだわりました。
 このマリオンは、外壁ではないということは認められたものの、ボリュームがあるため、なかなか建築確認がおりませんでした。最終的には、上階延焼を防ぐ対策としてドレンチャー設備(散水ノズルから放水することで建物外部を水幕で覆う防火設備)を木と木の間に取り付けることで、実現することができました。

山の緑へと誘う京王「高尾山口駅」
2013年 東京都八王子市

 高尾山への玄関口となる駅舎の改修プロジェクトです。山並みの流れをイメージさせる大きな庇をかけ、その下は軒下の広場として使えるスペースとしています。鉄骨の柱で支えることで、動線に支障が出ないようにしたほか、庇も軽やかに浮いて見えるようにしました。屋根は150oの部材を間にはさんだサンドイッチ構造の床版でできており、その床版のたわみを抑える材としてジョイスト(小梁)を取り付けています。これにより、外から駅へと向かう「流れ」を表現することができました。
 コンコースにはスギ材を多用しています。素材感や部材同士の陰影を積極的に出していきたいとの思いから、天井は大和張りとしました。柱もスギの小端(こば)を見せる張り方にすることで、柔らかい陰影のある質感を実現しました。
 隣接する観光案内所には多摩産のスギを用い、本棚やディススプレイなどの家具什器をつくりました。また、新たにできた温浴施設に向かう通路には竹のルーバーを施し、柔らかな光を落とす構成にしています。

谷筋の緑と溶け合う「獺祭ストア 本社蔵」
2016年 山口県岩国市

 民家の佇まいを生かしながら、木のルーバーで建物を覆うデザインにしました。壁と屋根には、耐朽性と寸法安定性を向上させるためにアセチル化処理をした「アコヤ」というラジアータパインを使いました。既存の屋根より跳ね出すようにすることで、木1枚で屋根がつくられた印象を打ち出しています。夜間は、月の光で谷筋にふわっと木が浮かび上がるような印象をつくりました。
 店舗なので、できるだけオープンな空間とするため、可能な限り壁は取り去りましたが、軸組みの存在感が強いので、柱や梁に和紙を貼り合わせる仕上げとしています。これにより空間全体が抽象化され、透明感が醸し出されました。この和紙は、日本酒「獺祭(だっさい)」の原料になるお米の山田錦を混入してつくりました。



 いずれの建築でも大切にしているのは、純粋な木造でなくても、できるだけ木の持つ温かみを感じてもらえるようなつくりにしている点です。20世紀は「ないものからあるものをつくる」時代でしたが、21世紀は「あるものを使う」時代です。山にある老齢木のような資源を使うことは環境の持続、ひいては木材産業の振興にもつながります。木材は可能性を秘めた材料です。「森の建築」をつくることで、こうした連鎖に引き続き取り組んでいきたいと考えています。