現在位置:
HOME > 木材・建材販売について > 情報誌「ナイスビジネスレポート」 > 2018年(平成30年) > 2/15号 > 新春経済講演会【基調講演】「並存」の時代とリーダーシップ
ナイスビジネスレポート

新春経済講演会【基調講演】
(1月26日・グランドプリンスホテル新高輪 国際館パミール)
「並存」の時代とリーダーシップ

ボストンコンサルティンググループ シニア・アドバイザー 御立 尚資 氏

「G0」時代のリスクと「テクノ冷戦」

 今は大きな変化の起きる時代です。しかし、時代を考える時、意思決定をする際のヒントになる見方がもっと必要であり、単に「『変化』の時代」だとしたら、「変わり身」 を早くするしかありません。なぜ大きな変化が起きていて、それに対してどのような手を打っていけば生き残れるのだろうかと考えることが重要です。そう考えると、今は「変化」の時代であると同時に、「並存」の時代であると見るべきでしょう。
 アメリカ一極集中を「G1」の時代、そして先進7カ国の枠組みを「G7」の時代とするなら、現在は「G0(ゼロ)」の時代、つまり誰もリーダーシップをとらない、リーダー不在の時代です。私と一緒に『ジオエコノミクスの世紀』を書いたイアン・ブレマー氏が代表を務めるユーラシア・グループでは、毎年1月に、国際政治を中心としたその年のリスク要因トップ10を発表しています。ここでは2018年版のうち、心にとどめておくべき3つをご紹介します。
 まず「リーダー国不在の間隙(かんげき)を突く中国」。中国では、アメリカが中心となってつくってきた秩序をもっと自分たちに有利なルールに変えていきたい、リーダーシップをとりたいといった動きが始まっています。ここには、紛争など様々な要因によって国際関係を揺るがす最大のリスクがあるように見えます。ひょっとすると、今年は1945年以降、最もリスクの高い年と言えるかもしれません。
 2つ目は「突発的事故」です。例えば北朝鮮とアメリカの場合、本格的な軍事行動は双方にとってプラスになりませんが、偶発的に起こっても不思議ではありません。
 3つ目が「テクノ冷戦の世界的広がり」で、国家権力がテクノロジーとデータをコントロールしようとする動きが始まったということです。
 アメリカの政府機関は、自分たちのデータを中国に把握される恐れのないよう、中国製の通信機器は絶対に使用しません。国内企業に対しても、強力になりすぎたAmazonやGoogleは分割すべきではないかなどと、政治の場で真面目に議論されています。
 一方、中国でも、習近平総書記は最新鋭の人工知能(AI)で世界一になると明言しています。全国人民代表大会で行われた3時間半の演説でもAIという言葉を繰り返し、「世界の強国になるためにはAIで一番になることが必要だ」と述べています。
 中国では、決済サービスのアリペイの子会社アント・フィナンシャル社が運営するセサミ・クレジット(芝麻信用)が普及しています。セサミ・クレジットは、全中国人を対象にスコア化を進めつつあります。国にとって好ましい行動をしているかどうかによって得点を付け、スコアが高いほど行政サービスなどで得をするようになっています。国中に張り巡らされた画像認識システムによって、誰が何をしているのかを把握できる時代がもうすぐ来ることも考え合わせると、ユートピアに対する「ディストピア」です。
 アメリカの国防総省にあるWar Room(戦争指令室)は、現在も稼働しています。サイバー空間においてはアメリカとロシアは戦争していることになっているのです。サイバーの世界で最も軍事力が強いのは、ロシア、イスラエル、北朝鮮だとも言われます。ひょっとすると、この3カ国はアメリカの覇権を揺るがす力を持っているかもしれません。「変化」の時代は不安定さそのものでもあるのです。
 これ以外にも不安定さは様々な形で現れています。1970年ごろから自然災害による被害額はどんどん増えています。理由の一つは気候変動が少しずつ始まり、豪雨や洪水、干ばつなど、水の流れが変わってきたことが考えられます。もう一つは経済活動における人間の行動が変化したことが挙げられます。
 2011年にタイで起きた洪水も、40年前であればあのような被害はありませんでした。なぜならバンコクの市街地が広がり、皆が都市に住むようになったのは、ここ数十年のことだからです。
 私はかつて日本航空鰍ノ勤めていましたが、入社した当時は、ハイジャックのような10年に一度起こる大きなリスクに備えよと言われました。それが今や3〜4年に1回です。実はほとんどの航空会社は、格安航空会社(LCC)との競争や原油高だけでなく、パンデミックやテロ、自然災害を主な原因として、1回は潰れています。アメリカやヨーロッパの主だった会社も、盤石だったはずのシンガポール航空まで苦しくなっています。今や、競争相手のことを考えていれば変化を乗り切れるという時代ではなくなったのです。変化を捉え、しっかりと適応していくしかありません。
 日本航空鰍ヘ現在、世界のトップ3に数えられるほど非常に好調です。その理由は変化に強い体質に変わったからです。大きな飛行機を全部売り払い、売り上げに波のある路線は全て縮少、座席もマイレージのお客様と上顧客で常にほぼ埋まる状況にしました。大切なのは、変化が見えた瞬間に方向を一気に変えることのできるサイズにするということなのかもしれません。
 こうした変化の本質を捉え、様々な問題の根っこがどこにあるのかを考えるために必要なもう一つのコンセプト、それが「並存」の時代です。

工業化社会からデジタル化社会へ

 世の中は、前のパラダイムから次のパラダイムへと、ある日突然変わるわけではありません。昔から続いてきた状況が終わりかけたところに、新しいことが始まり、「並存」しているものです。
 では現在、何が「並存」しているかと言えば、20世紀を象徴する工業化社会と、デジタル化社会です。ここを整理すれば、世の中がもう少しよく見えてくると思います。
 今起こっている大きなこととしては、3つ挙げられます。1つには工業化社会の終焉(しゅうえん)、もう1つがデジタル化社会が始まりつつあるということで、この2つによって変化が起こりやすくなっています。そして、3つ目として工業化社会の終焉に合わせてそれを支える金融資本市場のボラティリティー、つまりブレが高まっているということです。カネ余りの時代にあって、ありとあらゆるものが収益機会を求めてバブルをつくっては時々弾ける中で、リーマンショックのようなことが起こりやすい状況になっているとも言えます。
 では、工業化社会の終焉から何が起きているかと言うと、まず人口が挙げられます。意外にも世界の人口が驚異的に増えたのは19世紀の後半から20世紀のことです。紀元1年の2億2,600万人から倍になるのに1,500年以上かかっています。ところが、1950年の25億人からたった50年で2000年には約60億人にまで増えています。ものすごいスピードで人口が増えてきたのは、ごくごく近年のことです。
 この人口の伸びとそっくりなのが世界の一人当たりGDPです。やはり急激に増えているのが19世紀の最後から20世紀なのです。これらの原因は全て工業化にあります。
 経済協力開発機構(OECD)の首席エコノミストでもあった人口経済学者のアンガス・マディソン氏によると、農業革命時代の一人当たりGDPは世界中どこも400ドル台だったそうです。しかし、工業化社会が形成されると、25倍の1万ドルを超えてしまうのです。そして面白いことに、一人当たりGDPが3,000ドルを超えると衛生状態が向上し、乳幼児死亡率も劇的に下がります。現在、BRICs及びASEAN各国が全て3,000ドルを超えてきたので、子供が死ななくなりました。現在の世界の人口構成は非常に若者が多いピラミッドになっており、これはひとえに工業化社会をつくり上げることができたからにほかなりません。
 しかし、この15年ほど世界の経済成長を引っ張ってきた新興国の伸びも限界にきています。つまり、単純に工業化社会をつくるだけでは伸びなくなってきたと言えます。
 もう一つの問題として、人口が増えた国は皆、中流階級を守るために軍事力を強化してエネルギーと食糧の安全保障をするようになります。
 中進国となった中国は昨年、軍事強国を目指すと初めて公言しました。これは世界中のバランスを崩すことになると思われます。つまり、アメリカ一極集中からアメリカ、中国、インドという三極、もしくはEUを加えた四極時代の到来が予測されます。今はまだ収まりが悪いものの、いずれは世界秩序をつくり直し、四極で落ち着いた状況になると思いますが、そこまでには20〜30年かかるでしょう。そういう意味では不安定な時代に突入したと言えます。
 地政学リスクとはまた別のリスクもあります。分配の仕組みができていなければ、格差に不満を持つ人たちの反乱が起きます。イギリスの国民投票を通じたEU離脱にしても、トランプ氏が大統領に選ばれたことにしても、偶然ではありません。マグマは十分にたまっており、それが結果的にあのタイミングで吹き出したのです。工業化がどんどん進んでいる時は、モノを買えば豊かになった気がしていました。工業化を通じた豊かさが成熟化したことによって格差が生まれ、資本主義、民主主義はおかしいのではないかと言う人まで出てくる状態にまでなっています。

デジタル化時代のメンタリティー

 そうした社会における私たちの希望はデジタル化です。コンピューターやインターネットの誕生だけではデジタル化とは言えません。移動やエネルギーなど、社会システムの全てにITが入るようになった時、GDPは急伸すると思います。2000年には世界の情報貯蔵量のうち75%が紙やフィルム、テープなどのアナログデータで、デジタルデータは25%でした。しかし、最新の統計によると99.9%がデジタルデータと、大きく逆転しています。情報を処理する、ためておく、やりとりするといったコストも、インターネットによって大変安くなりました。ビッグデータ、AI、そしてこれらを使ったロボットが価値を生むのはこれからです。デジタルの最大の特徴は「最適化」です。間もなくスマートの時代が到来し、空調、照明がセンサーベースで最適化されるようになるでしょう。
 工業化社会の時代ではモノをつくることが目的でしたが、デジタルの時代に大事なのは無駄なく使うことです。モノをつくればよかった工業化社会においては、実はつくったモノの稼働率は意外な程低いことも多いのです。自動車配車サービス「Uber(ウーバー)」は、使用頻度の低い自家用車の稼働率を上げることによって富を生んでいます。民泊サイト「Airbnb(エアビーアンドビー)」も同様に、使っていない部屋を貸すことで利益を上げています。社会を取り巻く様々な情報を集め、そしてつなぐことによって人々の働き方も最適化することができます。まさに、真の意味での働き方改革と言えます。
 現在の企業のメンタリティーは、工業化の中でいかに上手に経営するか、いかにモノをつくってGDPを効率よく増やしていくかにありました。しかし、今後はモノを使う、つくったものは無駄にならないように変化させていく、そもそもいらないモノはつくらないといったデジタル時代のメンタリティーへと変わる必要があります。
 建築を例にとれば、これからは「消える建築」がキーワードになると思います。つまり需要が減ったら壊しやすい、建て替えて貸しやすい建築にしておくことが重要です。長持ちさせるだけでなく、もっとフレキシブルに伸びたり縮んだりすることが必要な時代になってきます。その時にデジタル「も」使えばいいのです。AIは決して怖いものでも難しいものでもありません。既に、上手に使い始めている人はたくさんいます。「将来すごいAIが出てきたら使おう」と考えるのではなく、今あるデジタルを使えばいいのです。
 医療現場では、最適な抗がん剤を選ぶ際にIBMの意思決定支援システム「ワトソン」が活躍しているそうです。時間と能力に限界がある人間の判断を手助けしてくれるのです。また、テスラ社のハイテク電気自動車は、前を走る複数の車の動きから衝突事故を予測し、自らの衝突を回避します。これは、様々な情報を使える形で組み合わせただけであり、今ある技術を組み合わせれば、夢のようなことを実現できるのです。デジタル化そのものが目的なのではなく、生産性を上げるための目的を設定し、その実現のためにデジタルが必要であれば使っていくという時代にきているのです。
 耐震改修工事を専門に行うある建設会社は、工程管理の標準化を図ったところ、決定的に生産性を落としているある問題が浮き彫りになったそうです。改修工事のため、オフィスビル等では騒音を理由に日中の工事ができず、夜間作業となっていたことが一番生産性を疎外していることが分かったのです。そこで同社では、その解決法として消音のインパクトドライバーをつくりました。また、モルタルを静かに撤去する機械もつくってしまいました。この結果、圧倒的に工期は削減され、工事費も減ったそうです。大事なのは、工事が止まることが生産性に大きく影響するという点に気付けるかどうかであり、その上でそこにどんなテクノロジーを利用するのかということです。
 今、たいていの技術は手に入ります。大切なのは、生産性が劇的に変わるような「目のつけどころ」を探すことができるかどうかです。その上で、どんなテクノロジーが使えるかを考えるのです。カギは、どこに生産性のボトルネックがあり、何を変えれば全然違う商売が可能になるかという考え方ができるかどうかだと思います。
 これまでは、リスク量に対してリターンを増やすというのが企業の競争優位でした。経営者の皆さんは、リスクをたくさんとれば、その分儲(もう)けも大きいと考えてきたはずです。しかし、「変化」の時代、「並存」の時代においては、デジタルを活用することで同じリターンに対して他社より少ないリスク量で取り組むことも可能なのです。
 建築だけでなくエンジニアリングまでを含めた業界をリスク量とリターンで分析してみたところ、世界一の企業は日本の日揮鰍ナした。海外にはもっとリターンの大きい会社はありますが、ブレがすごく大きいのが実態です。一方、日揮鰍ヘ、例えばアルジェリアで同国政府が契約を翻したことで他社が1千億円単位の損を被った時でも、大きな損害を出していません。50年前からの新興国でのビジネス経験で培った、リスクに備える契約技術が全く違うのです。
 「変化」の時代には、様々なことが起こります。しかも「並存」の時代です。工業化時代の終焉を迎えてリスク量が増える一方で、デジタルのメリットを選択することも可能となり始める時代です。デジタルを使いながら生産性を上げ、リスク量に対してリターンを上げる方法を狙うのか、あるいは同じ仕事でもリターンはそのままにリスクを減らす方法を選択するのか、どちらを狙って経営していくのかを考える価値がある時代になってきたと思います。このどちらかの方法、もしくはその組み合わせによって、皆様がますます勝ち組となっていただくことをお祈りしております。