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ナイスビジネスレポート
新春賀詞交歓会【基調講演】 (1月23日・ヒルトン福岡シーホーク)
夢みる力が「気」をつくる
〜JR九州のデザイン&ストーリー〜
九州旅客鉄道 代表取締役会長 唐池 恒二 氏



「夢みる力」が原動力に

 私は、各界のトップと呼ばれる方々の素晴らしさを見習い、「夢みる力」「気を高める力」「伝える力」の3つの力を身に着けることを目標としてきました。これらは、人や組織をその気にさせる力とも言えます。
 1つ目の「夢みる力」で思い出すのがソフトバンクグループの創業者、孫正義さんのエピソードです。孫さんは前身となる会社を創立した時、ミカン箱の上に立ち、社員を前にして「5年以内に100億円、10年で500億円の会社になる。30年後には、売り上げを1兆、2兆と、豆腐(丁)のように数えたい」と檄を飛ばしたそうです。その時の社員は何をいい加減なことを言ってるんだとすぐに辞めてしまったそうですが、30年後の2011年には当初の目標をはるかに上回る売上高3兆円を達成しています。これは、類いまれなる経営手腕と行動力、人脈、時には運にも恵まれながら、それらを駆使して孫さんが夢を語り、社員とともに夢に向かって邁進した結果です。
 また、本田技研工業鰍フ創業者、本田宗一郎さんもまた、創業間もないころミカン箱の上に立って「我が社は世界一になるんだ」と社員に夢を説いたそうです。やはり夢を抱き、夢を語ることから始まっているのです。
 JR九州は1987年に福岡の地で誕生し、間もなく31年となります。私たちも発足当時に夢を抱きました。株式上場を実現させたい、九州に新幹線を走らせたい。この2つの大きな夢に向かって社員が一丸となって汗を流した結果、2011年には九州新幹線が開業し、2016年には30年目にして株式上場を果たすことができました。
 しかし、ここに至るまでの道は決して順風満帆ではありませんでした。分割民営化以前の国鉄は毎年2兆円の赤字を計上しており、JR九州は赤字の線区を引き継いでのスタートでした。また、職場の規律や労使関係も乱れていました。しかし、社員1万5千人にとっては、「このままでは潰れてしまう!」という逆境からスタートしたことが、むしろ一人ひとりの能力を120%発揮させる原動力となりました。
 鉄道事業だけに頼っていてはダメだと考え、新規事業の立ち上げに当たり「百貨店で勉強してくる者はいるか」と声をかけると、大勢の若い社員が手を上げました。博多と韓国・釜山を結ぶ高速船「ビートル」の運営を始める際にも社内から船員になりたい者を募ると、やはりたくさんの応募がありました。船員になるには、等級によっては東京大学に合格するより難しいとも言われる国家試験に合格しなければなりません。乗船経験も必要で、短くても10年はかかるとされています。自社で船乗りを養成するなど途方もないことでしたが、それでも選んだ11名全員が、10年後には試験をパスしました。この時は私も涙が出るほどうれしかったことを覚えています。
 私がJR九州の社長に就任したのは2009年6月のことです。諸先輩方の大きな努力が実り、2年後の2011年には夢だった九州新幹線の開業に立ち会うことができました。また、当時はマンション、流通、外食、駅ビル、ホテルと、鉄道以外の事業が飛躍的に成長した時期でもあります。これらの分野は社員が本気で取り組んだお陰で、将来に向かってまだまだ大きな夢が広がっていました。一方、鉄道部隊はと言えば、新幹線という夢が実現したことで夢が夢でなくなってしまったのです。次の夢をつくらないと組織の人間は行く先を見失ってしまいます。次の夢は何にしようか、そう考えた時に思い付いたのが「世界一の寝台列車を走らせる」という夢でした。それが2013年に運行を開始した「ななつ星 in 九州(以下、ななつ星)」です。
 夢の舞台となった「ななつ星」は、博多駅を出発して3泊4日で九州7県を一周します。機関車1両、客車は7両。客室は14室で定員は最大30名です。予約の倍率は20倍から30倍に上り、当選したお客様に電話を差し上げると、皆さん飛び上がって喜ばれます。
 この世界的に注目を集めたプロジェクトの始まりは、社長に就任してわずか1週間後のことでした。主立った部長を集め、「豪華な寝台列車を走らせたい。物理的、技術的、営業的に成り立つのか検証してほしい」と注文を出しました。九州新幹線開業に向けて大わらわという時期でもあり、その反応はとても鈍いものでした。中でも鉄道事業の要となる運輸部長が反対したのですが、私は逆に、彼をプロジェクトリーダーに据えようと決めました。すると、元来気骨のある人間ですから、強力なリーダーシップを発揮してくれました。彼は現在、常務取締役に就任しています。



「気」に満ち溢れた人は勝利をモノにする

 2つ目の目標として「気を高める力」を挙げました。言い換えれば「気を満ち溢れさせる力」です。「ななつ星」は「気」の塊のような列車です。「気」に満ち溢れているのです。
 そもそも「気」とは、中国の思想から来る考え方です。広辞苑には「天地間を満たし、宇宙を構成する基本と考えられるもの。万物が生ずる根元。生命の原動力となる勢い。活力の源」とあります。「気」を職場に満ち溢れさせれば、その会社は業績が良くなります。「気」に満ち溢れたお店は繁盛し、「気」に満ち溢れた人は勝利をモノにすると私は信じています。「気」はオーラと言い換えてもいいでしょう。空港や街でたまに芸能人を見かけることがありますが、人気の絶頂にある人は目が輝いていて、表情も自信に満ちているものです。
 では、どうすれば職場に、店に、あるいは一人ひとりに「気」を満ち溢れさせることができるのでしょうか。私は以下の5つの法則が大事だと考えています。
 


   このうち、3番目の「明るく元気な声」について、かつて私は営業部長の時に「サービスの基本39カ条訓」という、接客サービスを行う際に必ず守るべき行動規範をまとめたことがあります。その中に何度も出てくるのが「声」です。声が大きい、声の明るい人が良いということをずっと言い続けました。電話の場合も同様で、ハキハキと電話に出るようにと言ってます。電話に出る時の声のトーンは、音階で言うと「ド」ではなく「ソ」の音で出ましょうと細かく指示しています。「ソ」の高い音で話すと、元気な職場の雰囲気が伝わり、好感を持ってもらえるのです。エネルギーは使いますが、疲れるくらいまで声を出すのは仕事だから当然のことです。
 4番目の「スキを見せない緊張感」で言えば、「ななつ星」に乗り込んで、乗客にできたての寿司を提供していただいている「やま中」はまさにスキを見せないお店です。食材の詰まった段ボールが店内に積まれている所、店内に塵が落ちている所、あるいは仲居さんや職人さんが私語をしている所など一度も見たことがありません。「やま中」に常にあるものといえば緊張感です。お客様にスキを感じさせないのです。以前、中学生にこの5つの法則を話した時に「一つだけに絞ったらどれが一番大事ですか」と思わぬ質問をされました。私は少し考えてこの「スキを見せない緊張感」を選びました。お客様にスキを見せないということを一人ひとりが念頭に置けば、いろいろなことができるはずだからです。




多くの「気」が込められた「ななつ星」

 「ななつ星」に関わった人たちは「世界一」という言葉にプレッシャーを与えられました。
 JR九州のデザイン全般を担当していただいているデザイナーの水戸岡鋭治さんは「世界一の列車をつくりましょう」との相談に目を輝かせつつも、世界一の列車、世界一の鉄道の旅とはなんだろうとすごく悩まれていました。ようやく3千枚ぐらいの図面を書いたのですが、ヨーロッパを走るオリエント・エクスプレスにはかなわないのではないかというプレッシャーに苛まれていました。
 そこで、壁の装飾や置き物などに注目し、有田焼の陶芸家で、人間国宝でもある十四代酒井田柿右衛門先生にお願いしようと柿右衛門窯に赴きました。応接室に通されて、普段は口数の少ない水戸岡さんが世界一になるためにはどうしても作品を置かせてほしいと熱弁を振るいました。すると、腕組みをして目を閉じて耳を傾けていた十四代柿右衛門先生が、身体を起こし「世界一を目指す『ななつ星』の仕事は、私がやるべき仕事でしょう」と引き受けて下さったのです。しかも「焼き物は飾ったり、置くだけではだめです。使われてこそ魂が宿るのです。洗面鉢をつくりましょう」と十四代柿右衛門先生からご提案をいただきました。「ななつ星」には、お部屋ごとに総ヒノキ張りのシャワールームとお手洗い、洗面台があります。そこには一つとして同じデザイン、模様、形の洗面鉢はありません。私はつい不安になって、揺れる列車では割れてしまわないかと尋ねましたが、「割れたらまたつくりますよ」とあっけらかんとおっしゃるのです。さすが名人は違うと感銘を受けました。
 その十四代柿右衛門先生は末期がんに冒されていました。作品は依頼から8カ月後、「ななつ星」運行4カ月前の6月に納品していただいたのですが、その1週間後に先生はお亡くなりになりました。結果として、この洗面鉢が十四代柿右衛門先生の最期の作品となったのです。「ななつ星」には、こうした400年の歴史を持つ有田焼の中でも最高峰と言われる十四代柿右衛門先生の「気」も込められています。
 柿右衛門先生だけではありません。社員も職人も同じように、自分たちの手で世界一を生み出すことに燃えました。木をふんだんに使ったラウンジ「Blue Moon」、アルミ板を磨きに磨いて何重にも塗装した鏡のような車両の外観、あるいは客室やラウンジカーに配した小さな木片を組み合わせた組子(くみこ)など、家具や調度品に至るまで、最高の技術が投入されています。
 乗務員のサービスも同様です。一般公募した400名の応募者の中には、大手航空会社のCA、一流のホテルスタッフやコンシェルジュなど様々なプロがいました。そのうち13名を採用し、更に優秀な社員を合わせて編成した25名のチームに、「『ななつ星』オリジナルのサービスとは何か、皆で考えてつくり出してほしい」と私は宿題を出しました。旅館などに出向き、布団の上げ下げから初心に戻ってみっちりと訓練を積む中で、彼らが導き出した答えは「サービスする側とされる側という対立した図式ではなく、お客様の家族、友人、パートナーの一人として寄り添うようなサービスをします」ということでした。そうして誕生した「ななつ星」の乗務員は、洗練さには欠けているかもしれませんが、けなげなサービスという点では、世界一だと私は思っています。
 こうした職人の「気」、乗務員の「気」、社員の「気」、水戸岡さんの「気」、十四代柿右衛門先生の「気」、社長の「気」といったものがぎっしり込められているのが「ななつ星」なのです。




「気」が感動のエネルギーに

 2013年10月15日、気に満ち溢れた「ななつ星」が博多駅を出発しました。私も同行し、驚いたことがあります。行く所、行く所、およそ10万人もの九州中の人たちが手を振ったりして、歓迎してくれたのです。とりわけ印象的だったのが、福岡県うきは市にある筑後川の鉄橋下に集まった177名の市民の皆さんです。たった15秒しか目にできない100メートル先を走る「ななつ星」に対して涙されたのです。しかも半数は号泣されたと聞き、「なぜ?」と最初はその理由が分かりませんでした。
 しかし、徐々にそれが解明できました。つまり、「ななつ星」の「気」が作用したのです。ご乗車されているお客様は5〜6回は涙されます。ここまで手間をかけて内装をつくっているのかという感動で涙、乗務員のけなげなサービスにも涙します。極め付きは、博多駅に着く1時間前に行うお別れパーティーです。ラウンジカーに集まっていただき、バイオリンの生演奏とともに4日間の様子を収めたスライドショーを上映するのですが、初めは楽しそうにご覧になっていたお客様が、最後には堰を切ったように涙されます。4日間の感動を思い出されて涙される姿に、私ももらい泣きすることがあります。また、ある証券会社の社長様を博多駅に停車中のほんの数分だけ車内をご案内したのですが、ホームで通勤のお客様、旅行のお客様も100人以上が一緒になって手を振る姿を見て、その社長様は涙されていました。
 「気」は英語で言うとエナジー(Energy)だそうです。欧米の人も、目に見えないエナジーが人間を動かしていると信じています。エナジーと言えば、中国の「気」という考え方も通じます。中学校で習うエネルギーの変化の法則、発電機を思い出して下さい。熱エネルギーが運動エネルギーに変わり、それが電気、光と、どんどん伝わるたびに変化していきます。このように、「ななつ星」に込められた「気」=エネルギーは「感動」というエネルギーに変化することに私は気付きました。「気」のエネルギーが「感動」というエネルギーに変わって、「ななつ星」から放射され、そのエネルギーに包み込まれるから皆さん涙されるのです。
 「気」が職人たちの思いとか手間、あるいはけなげなサービスとなります。そうして思いと手間をかけると新しい価値が生まれます。その価値が感動のエネルギーに変わっていくということではないかと、私は考えています。




伝わらなければ伝えたとは言えない

 身に着けたい力の3つ目「伝える力」ですが、結論を言えば、伝えたと思っていても、伝わらなければ伝えたとは言えません。一度話したから、資料を配ったから終わりではなく、行動につながって初めて伝えたと言えるのです。
 ではどうすれば伝わるか。いろいろありますが、一番は「興味を引く表現方法」を用いることです。伝えるには、どんな小さなことでも感動してもらわなければいけません。それから、たくさんの情報を一度に話そうとしても伝わりません。広告代理店の方はプレゼンテーションする時に、1ページに一つの情報しか入れてきません。情報を絞り込むということが重要です。また、そうした能力がないと思うなら、何度も繰り返し言えばよいのです。選挙の立候補者は終盤になると自分の名前を連呼しますが、確かに繰り返すとだんだん相手もその気になってきます。同じく政治で言えば、選挙上手な政治家は小集会を大切にします。車座になって話すと相手は必ず票を入れます。2メートル以内に近付いて話せば、最初は10人、20人でも、それが50人、100人になっていくのです。
 ネーミングも大切です。JR九州では、「ななつ星」を頂点に九州でしか乗ることのできない12本の楽しい列車が走っています。これらを私たちは観光列車、リゾート列車ではなく「デザイン&ストーリー列車」と呼んでいます。
 そのうちの一つ、宮崎を走る「海幸山幸(うみさちやまさち)」が停まる駅に飫肥(おび)があります。「海幸山幸」ではこの町の特産である飫肥杉をフローリング、背もたれ、ひじ置き、網棚とふんだんに使っています。飫肥杉は油分が多く、加工しやすく、水にも強い優れた木材だと聞いています。5年前にJR九州が農林水産大臣賞を受賞したのは私の自慢の一つですが、名目は"木づかい顕彰"でした。鉄道会社でありながら駅や車両にたくさんの木を使い、普及に努めてきたことを評価していただけたのです。
 飫肥は木材だけでなく、街づくりでも日本一だと私はことあるごとに言っています。かつての城下町の名残で武家屋敷などの風景が残されており、40年も前に電線を地中化している美しい街です。子供たちが見知らぬ人に例外なく挨拶する様子には感動しました。
 何ごとにおいても「夢」「気」「伝える力」は大切な要素です。人をその気にさせなければ成功などありません。この3つの力が働いた時にこそ、人をその気にさせ、仕事を成功に導くことができるのです。なお、ここでのお話は私の著書『新鉄客商売 本気になって何が悪い』にも書いていますので、こちらもぜひ手にとってみて下さい。